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15 嫉妬と後悔(ダニエル視点)
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私の瞳の色の宝石を身に着けたトリシアは、想像以上に魅力的だった。
ドレスを作るのを断られてしまった反動で、つい派手なアクセサリーを贈ってしまったが、大粒のタンザナイトに負けないくらい、トリシア自身が美しい。
普段は髪に隠れている、白い頸が官能的だ。
触れたくて堪らない欲求を、なんとか理性で抑え込む。
しかし、このドレスは少々背中が開き過ぎているんじゃ無いだろうか?
今日は他の男とは踊らせない様にしなければ。(今日もである)
会場には既に華やかに着飾った参加者が集まっており、それぞれに歓談している。
私達が入場すると、多くの視線がこちらに向けられ、寄り添うトリシアの動きが硬くなったのを感じた。
「大丈夫だよ。
皆んな、君が美しいから見ているだけなのだから」
「ご冗談を」
冗談などでは無い。
紛れも無い事実だ。
彼女は自分が地味であると思っているらしい。
こんなに可愛いのに、何故今まで男に口説かれる経験が少なかったのだろうか?
隙だらけで心配になる。
実際には、トリシアの様に可憐で楚々とした女性が好みの男は多いのだ。
出来るだけ目を離さない様にしているが、もっと自覚して自分でも気を付けて欲しい。
「相変わらず、夫人にだけは優しいんだなぁ」
ニヤニヤ笑いながら近付いてきたレジェスに若干イラッとした。
「当たり前だ。
それよりレジェス、あんまりトリシアを見るな。減る」
彼女を背に隠す様に、一歩前に出る。
「減らねーよ!!
っつーか、女嫌いの公爵様はどこに行った?
別人過ぎて怖いよ!!」
「失礼だな。
私は、トリシアに対しては元からこうだ」
普段は想いを隠しているが、社交の場では隠す必要が無いのだ。
『仲の良い夫婦を演じる』と言う契約なのだから、彼女も不審に思う事は無いだろう。
普段抑圧されている分、多少暴走している感は否めないが・・・。
ホール全体に響いていた騒めきが、急にピタリと静まる。
王族方の入場が始まったのだ。
全員が揃った所で、国王陛下の挨拶があり、その後は、他国からの来賓達が順番に祝辞を述べる。
欠伸を噛み殺しながら、適当に聞き流す。
楽団の演奏が開始され、王族方がファーストダンスを踊り終わると、参加者達も続々とダンスの輪に加わり始めた。
「じゃあ俺は、美しいご令嬢達と踊って来ようかな」
レジェスは浮き浮きとした様子で離れて行った。
「私達も踊ろうか」
「はい。喜んで」
トリシアの手を取って、ホールの中央へエスコートする。
ホールドの形を組むと、大きく開いた背中の素肌に手が触れる。
薄い手袋越しではあるが、彼女の体温が伝わって、ドクンと心臓が跳ねた。
やはり、今夜は他の男と踊らせる訳にはいかない。
絶対に。
トリシアはダンスもとても上手い。
滑らかなステップを踏む彼女を見ていると、ちょっとした悪戯心が湧いて来た。
アドリブで、彼女をクルリとターンさせると、栗色の瞳が驚いた様に見開かれた。
(可愛い過ぎる)
「トリシアと踊るのは楽しい」
「私も、ダンのリードは踊り易くて楽しいですよ。
急にアドリブを入れるところは、ちょっと困りますけど」
上目遣いで軽く睨まれてしまった。
「つい、驚かせたくなって」
気持ちを隠さなくて済む社交の場では、いつも少し浮かれてしまう。
結局、二曲続けて踊り、シャンパングラスを片手に壁際へ戻る。
その途中でトリシアが、ふと足を止めた。
彼女の視線の先を辿ると、セレスティナとエルミニオが、仲睦まじく寄り添っている。
───トリシアは、いつも直ぐに彼を見つける。
先程迄の浮かれた気持ちが、冷や水を掛けられたみたいに急激に萎む。
セレスティナがトリシアに気付いて、嬉しそうに手を振り、こちらに寄って来た。
トリシアの表情はあまり変わらないが、微かに緊張した空気を感じる。
「パティ、会えて嬉しいわ。
久し振りに会ったら、なんだか、とっても綺麗になったみたいね」
無邪気に語り掛ける姉に、彼女は少し困ったような微笑みを浮かべる。
「嫌ですわ、お姉様ったら・・・」
「本当よ。ねぇ、エル」
話を振られたエルミニオが、トリシアに向けて優しく微笑むのを見ると、なんだかムカムカしてきた。
報われぬトリシアの気持ちを考えてのことなのか、それとも醜い嫉妬心なのか、自分でも分からない。
或いは、その両方なのかもしれないが。
「ああ、本当に美しくなった。
出会った頃は小さかったのに、いつの間にか大人の女性になってしまったな。
そうだ、久し振りに僕ともダンスを踊ってくれないか?」
───嫌だ。
差し出された彼の手に、トリシアが反応する前に、やんわりとその手を押し戻す。
「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」
「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」
エルミニオは、楽しそうに私を揶揄った。
ああ、つい勝手に断ってしまった。
チラリとトリシアの顔色を窺うと、ほんの少し悲しそうな、傷付いたような表情に見えた。
胸がズキズキと痛んで、後悔が押し寄せてくる。
彼女は、やっぱり、彼と踊りたかったのだろうか・・・・・・。
ドレスを作るのを断られてしまった反動で、つい派手なアクセサリーを贈ってしまったが、大粒のタンザナイトに負けないくらい、トリシア自身が美しい。
普段は髪に隠れている、白い頸が官能的だ。
触れたくて堪らない欲求を、なんとか理性で抑え込む。
しかし、このドレスは少々背中が開き過ぎているんじゃ無いだろうか?
今日は他の男とは踊らせない様にしなければ。(今日もである)
会場には既に華やかに着飾った参加者が集まっており、それぞれに歓談している。
私達が入場すると、多くの視線がこちらに向けられ、寄り添うトリシアの動きが硬くなったのを感じた。
「大丈夫だよ。
皆んな、君が美しいから見ているだけなのだから」
「ご冗談を」
冗談などでは無い。
紛れも無い事実だ。
彼女は自分が地味であると思っているらしい。
こんなに可愛いのに、何故今まで男に口説かれる経験が少なかったのだろうか?
隙だらけで心配になる。
実際には、トリシアの様に可憐で楚々とした女性が好みの男は多いのだ。
出来るだけ目を離さない様にしているが、もっと自覚して自分でも気を付けて欲しい。
「相変わらず、夫人にだけは優しいんだなぁ」
ニヤニヤ笑いながら近付いてきたレジェスに若干イラッとした。
「当たり前だ。
それよりレジェス、あんまりトリシアを見るな。減る」
彼女を背に隠す様に、一歩前に出る。
「減らねーよ!!
っつーか、女嫌いの公爵様はどこに行った?
別人過ぎて怖いよ!!」
「失礼だな。
私は、トリシアに対しては元からこうだ」
普段は想いを隠しているが、社交の場では隠す必要が無いのだ。
『仲の良い夫婦を演じる』と言う契約なのだから、彼女も不審に思う事は無いだろう。
普段抑圧されている分、多少暴走している感は否めないが・・・。
ホール全体に響いていた騒めきが、急にピタリと静まる。
王族方の入場が始まったのだ。
全員が揃った所で、国王陛下の挨拶があり、その後は、他国からの来賓達が順番に祝辞を述べる。
欠伸を噛み殺しながら、適当に聞き流す。
楽団の演奏が開始され、王族方がファーストダンスを踊り終わると、参加者達も続々とダンスの輪に加わり始めた。
「じゃあ俺は、美しいご令嬢達と踊って来ようかな」
レジェスは浮き浮きとした様子で離れて行った。
「私達も踊ろうか」
「はい。喜んで」
トリシアの手を取って、ホールの中央へエスコートする。
ホールドの形を組むと、大きく開いた背中の素肌に手が触れる。
薄い手袋越しではあるが、彼女の体温が伝わって、ドクンと心臓が跳ねた。
やはり、今夜は他の男と踊らせる訳にはいかない。
絶対に。
トリシアはダンスもとても上手い。
滑らかなステップを踏む彼女を見ていると、ちょっとした悪戯心が湧いて来た。
アドリブで、彼女をクルリとターンさせると、栗色の瞳が驚いた様に見開かれた。
(可愛い過ぎる)
「トリシアと踊るのは楽しい」
「私も、ダンのリードは踊り易くて楽しいですよ。
急にアドリブを入れるところは、ちょっと困りますけど」
上目遣いで軽く睨まれてしまった。
「つい、驚かせたくなって」
気持ちを隠さなくて済む社交の場では、いつも少し浮かれてしまう。
結局、二曲続けて踊り、シャンパングラスを片手に壁際へ戻る。
その途中でトリシアが、ふと足を止めた。
彼女の視線の先を辿ると、セレスティナとエルミニオが、仲睦まじく寄り添っている。
───トリシアは、いつも直ぐに彼を見つける。
先程迄の浮かれた気持ちが、冷や水を掛けられたみたいに急激に萎む。
セレスティナがトリシアに気付いて、嬉しそうに手を振り、こちらに寄って来た。
トリシアの表情はあまり変わらないが、微かに緊張した空気を感じる。
「パティ、会えて嬉しいわ。
久し振りに会ったら、なんだか、とっても綺麗になったみたいね」
無邪気に語り掛ける姉に、彼女は少し困ったような微笑みを浮かべる。
「嫌ですわ、お姉様ったら・・・」
「本当よ。ねぇ、エル」
話を振られたエルミニオが、トリシアに向けて優しく微笑むのを見ると、なんだかムカムカしてきた。
報われぬトリシアの気持ちを考えてのことなのか、それとも醜い嫉妬心なのか、自分でも分からない。
或いは、その両方なのかもしれないが。
「ああ、本当に美しくなった。
出会った頃は小さかったのに、いつの間にか大人の女性になってしまったな。
そうだ、久し振りに僕ともダンスを踊ってくれないか?」
───嫌だ。
差し出された彼の手に、トリシアが反応する前に、やんわりとその手を押し戻す。
「申し訳ありません。
折角ですが、私はとても狭量なのです。
美しい妻が他の男と踊るのは、いくら義兄と言えども、我慢出来そうにありません」
「ははっ。そうかそうか、パティはとても愛されているんだね」
エルミニオは、楽しそうに私を揶揄った。
ああ、つい勝手に断ってしまった。
チラリとトリシアの顔色を窺うと、ほんの少し悲しそうな、傷付いたような表情に見えた。
胸がズキズキと痛んで、後悔が押し寄せてくる。
彼女は、やっぱり、彼と踊りたかったのだろうか・・・・・・。
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