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14 完璧な演技
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遠乗りデートで、ダンと一緒に過ごす事に少し慣れた私は、顔を合わせる度に真っ赤になったりはしなくなった。
ショック療法は実に効果的だと証明されました。
そのお陰で、問題なく日常生活が送れる様になって、社交も再開する事が出来た。
そんなある日、王家主催の夜会への招待状が届いた。
毎年この時期に行われる、建国記念の夜会は、王宮で開かれる夜会の中でも一番大規模な物だ。
国内貴族の殆どが参加し、特に高位貴族は強制参加である。
私は結婚前は侯爵令嬢として、毎年強制的に参加させられていた。
昨年も婚約者として、ダンと共に参加した。
あの頃は、まだ彼のパートナーとして社交に出る事に慣れていなくて、とても緊張したっけ・・・。
「折角だから、新しいドレスを作ろう」
「もうクローゼットに入り切らないと言っているでは無いですか。
一度も袖を通していないドレスが、まだニ十着はありますよ」
ダンは何かに付けて私にドレスを贈りたがるので、あれからかなり処分したのに、常にクローゼットはパンパンだ。
しかも、どれも高級ブランドだ。
このままでは、全て着終わる前に流行が変わってしまう。
勿体ない。
「では、せめてアクセサリーを作ろう」
微かな不満を滲ませて、妥協案を出して来たダンに、「それくらいなら」と同意を示したのが間違いだった。
───眩し過ぎる。
目の前には、キラッキラに輝く大粒のタンザナイトのネックレスとイヤリング。
こんな大きい石、初めて見たわよ。
なんだコレ。
身に着けたら、重さと緊張で肩が凝りそうだ。
値段を想像するのが怖いよぅ。
私だって侯爵家出身なのだから、高級品は見慣れているはずなのだけど・・・・・・。
ダンの金銭感覚が心配だ。
まあ、イバンが止めなかったのならば、問題ないのだろうけれど。
マリベルとソニアも、ニコニコしながら私のデコルテにネックレスを当てているので、公爵家ではこの位が普通なのかも知れない。
「奥様には、旦那様の瞳の色がピッタリですね」
ああ、そうか。
タンザナイトは青紫色。
コレも仲良し夫婦の演技の一環なのね。
ならば、必要経費って事なのかもしれない。
うん、そうか。納得。
・・・納得、した筈なのに。
何故モヤモヤした気持ちが強くなるのだろう?
夜会の当日は昼頃から準備が始まる。
数日前から磨き上げられた私は、肌も髪も完璧なコンディションである。
結婚式の時と同じ様に、公爵家の侍女の実力が遺憾無く発揮され、別人みたいに美しくして貰えた。
最後に、あの重そうなアクセサリーを着けたら完成だ。
アクセサリーが派手なので、ドレスは敢えてシンプルなデザインの物に。
洗練された印象に仕上がった。
「ああ、私の妻は今日も美しいね」
相変わらず短い褒め言葉だが、その瞳が嬉しそうに細められた。
「有難うございます。ダンも相変わらず素敵ですよ」
公爵家の入場は、王族を除けば最後の方なので、少しゆっくり目に出発する。
ホールの入り口で名前を読み上げられた。
ダンのエスコートで、シャンデリアが煌めく会場に一歩足を踏み入れた途端に、一斉に視線が集まるのを感じる。
この感覚は何度経験しても慣れない。
足がすくみそうになり、思わずダンの腕に添えた手に力が入った。
「トリシア、また緊張している?」
夜会の最中にダンから注がれる視線は、普段とは違って、蕩けるように甘く優しい。
仲良く見せる為なのだと分かっていても、動揺してしまう。
俳優も真っ青の演技力である。
「はい。少し」
「大丈夫だよ。
皆んな、君が美しいから見ているだけなのだから」
「ご冗談を」
どこが大丈夫なのか、意味が分からない。
全く大丈夫じゃ無いし、注目されてる理由も間違っている。
思わず訝しげな視線を向けると、悪戯っぽい笑みを浮かべたダンと目が合う。
彼は、スルリと腰に手を回して、私を引き寄せた。
近いよ、旦那様!
余計に緊張しちゃうじゃない!
「相変わらず、夫人にだけは優しいんだなぁ」
揶揄う様にニヤニヤ笑いながら近付いて来たのは、ダンの友人のレジェス・センテーノ様である。
結婚式にも出席してくれて、夜会でも何度か話したことがある。
美青年であるが、飄々とした印象で、掴みどころの無い人物だ。
「当たり前だ。
それよりレジェス、あんまりトリシアを見るな。減る」
ダンが私を背に隠す。
「減らねーよ!!
っつーか、女嫌いの公爵様はどこに行った?
別人過ぎて怖いよ!!」
「失礼だな。
私は、トリシアに対しては元からこうだ」
───大嘘である。
社交の席だけで発揮される、完璧過ぎる『愛妻家』の演技なのだ。
胸の奥深い場所が、ジクジクと鈍く痛み始めるのを感じた。
ショック療法は実に効果的だと証明されました。
そのお陰で、問題なく日常生活が送れる様になって、社交も再開する事が出来た。
そんなある日、王家主催の夜会への招待状が届いた。
毎年この時期に行われる、建国記念の夜会は、王宮で開かれる夜会の中でも一番大規模な物だ。
国内貴族の殆どが参加し、特に高位貴族は強制参加である。
私は結婚前は侯爵令嬢として、毎年強制的に参加させられていた。
昨年も婚約者として、ダンと共に参加した。
あの頃は、まだ彼のパートナーとして社交に出る事に慣れていなくて、とても緊張したっけ・・・。
「折角だから、新しいドレスを作ろう」
「もうクローゼットに入り切らないと言っているでは無いですか。
一度も袖を通していないドレスが、まだニ十着はありますよ」
ダンは何かに付けて私にドレスを贈りたがるので、あれからかなり処分したのに、常にクローゼットはパンパンだ。
しかも、どれも高級ブランドだ。
このままでは、全て着終わる前に流行が変わってしまう。
勿体ない。
「では、せめてアクセサリーを作ろう」
微かな不満を滲ませて、妥協案を出して来たダンに、「それくらいなら」と同意を示したのが間違いだった。
───眩し過ぎる。
目の前には、キラッキラに輝く大粒のタンザナイトのネックレスとイヤリング。
こんな大きい石、初めて見たわよ。
なんだコレ。
身に着けたら、重さと緊張で肩が凝りそうだ。
値段を想像するのが怖いよぅ。
私だって侯爵家出身なのだから、高級品は見慣れているはずなのだけど・・・・・・。
ダンの金銭感覚が心配だ。
まあ、イバンが止めなかったのならば、問題ないのだろうけれど。
マリベルとソニアも、ニコニコしながら私のデコルテにネックレスを当てているので、公爵家ではこの位が普通なのかも知れない。
「奥様には、旦那様の瞳の色がピッタリですね」
ああ、そうか。
タンザナイトは青紫色。
コレも仲良し夫婦の演技の一環なのね。
ならば、必要経費って事なのかもしれない。
うん、そうか。納得。
・・・納得、した筈なのに。
何故モヤモヤした気持ちが強くなるのだろう?
夜会の当日は昼頃から準備が始まる。
数日前から磨き上げられた私は、肌も髪も完璧なコンディションである。
結婚式の時と同じ様に、公爵家の侍女の実力が遺憾無く発揮され、別人みたいに美しくして貰えた。
最後に、あの重そうなアクセサリーを着けたら完成だ。
アクセサリーが派手なので、ドレスは敢えてシンプルなデザインの物に。
洗練された印象に仕上がった。
「ああ、私の妻は今日も美しいね」
相変わらず短い褒め言葉だが、その瞳が嬉しそうに細められた。
「有難うございます。ダンも相変わらず素敵ですよ」
公爵家の入場は、王族を除けば最後の方なので、少しゆっくり目に出発する。
ホールの入り口で名前を読み上げられた。
ダンのエスコートで、シャンデリアが煌めく会場に一歩足を踏み入れた途端に、一斉に視線が集まるのを感じる。
この感覚は何度経験しても慣れない。
足がすくみそうになり、思わずダンの腕に添えた手に力が入った。
「トリシア、また緊張している?」
夜会の最中にダンから注がれる視線は、普段とは違って、蕩けるように甘く優しい。
仲良く見せる為なのだと分かっていても、動揺してしまう。
俳優も真っ青の演技力である。
「はい。少し」
「大丈夫だよ。
皆んな、君が美しいから見ているだけなのだから」
「ご冗談を」
どこが大丈夫なのか、意味が分からない。
全く大丈夫じゃ無いし、注目されてる理由も間違っている。
思わず訝しげな視線を向けると、悪戯っぽい笑みを浮かべたダンと目が合う。
彼は、スルリと腰に手を回して、私を引き寄せた。
近いよ、旦那様!
余計に緊張しちゃうじゃない!
「相変わらず、夫人にだけは優しいんだなぁ」
揶揄う様にニヤニヤ笑いながら近付いて来たのは、ダンの友人のレジェス・センテーノ様である。
結婚式にも出席してくれて、夜会でも何度か話したことがある。
美青年であるが、飄々とした印象で、掴みどころの無い人物だ。
「当たり前だ。
それよりレジェス、あんまりトリシアを見るな。減る」
ダンが私を背に隠す。
「減らねーよ!!
っつーか、女嫌いの公爵様はどこに行った?
別人過ぎて怖いよ!!」
「失礼だな。
私は、トリシアに対しては元からこうだ」
───大嘘である。
社交の席だけで発揮される、完璧過ぎる『愛妻家』の演技なのだ。
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