【完結】女嫌いの公爵様は、お飾りの妻を最初から溺愛している

miniko

文字の大きさ
上 下
9 / 26

9 幸せの形は様々

しおりを挟む
それから大きな問題もなく、穏やかな生活が続いた。

相変わらず、お飾りの妻には分不相応なほどに丁寧な扱いを受けている気がするが、慣れというのは恐ろしい物で、それも少しづつ気にならなくなりつつある。

約束通り、社交の場に出る時はいつも一緒だ。
常に寄り添い、仲の良い婚約者を演じた甲斐があって、今ではお似合いの二人だなんて言われているらしい。
(九割がたお世辞だという事は、言われなくても分かっている)

ダンはプライベートの時でも、甘やかな眼差しを私に向ける事がある。
普段クールな人からそんな風に見つめられると、ちょっと心臓に悪い。

「二人きりの時まで仲良しカップルのフリをしなくても良いんですよ。
無防備にそんな表情を見せるから、ご令嬢達が勘違いして寄ってくるのでは無いですか?」

「トリシア以外にこんな顔は見せないから、それは無いだろう」

フッと優しく目を細めた彼に、思わず半眼になった。

(そういう所だぞ!)



そんな風に、婚約中の同居期間は平和に過ぎていき、いつの間にか一年が経って、とうとう結婚式の当日がやって来た。

数日前から、毎日、公爵家の侍女達に身体中を擦られ、揉まれ、洗われ、塗りたくられて、お肌は艶々のプルプルだ。
私はただ座って、されるがままで居ただけなのに、疲労感が凄い。
何故だろう?

昨日の夜は流石に緊張で、余り眠れなかった。
クマが出来ていないと良いけど・・・
まあ、優秀な侍女達が化粧で隠してくれるだろう。
真っ白なウエディングドレスに袖を通して、アクセサリーも身に着ける。
最後にティアラを飾ったら・・・・・・鏡の中には幸せそうな美女が写っていた。
いつも鏡に写る地味な女は何処にも居ない。
公爵家の侍女の力、恐るべし!!

「奥様、世界一お綺麗です!」

ソニアが頬を赤らめて褒めてくれる。
大袈裟ではあるが、とても嬉しい。
契約結婚とは言え、一生に一度(かもしれない)の晴れ舞台に、こんなに美しくして貰えるなんて、最高の気分だ。

「ありがとう。
皆んなが磨き上げてくれたお陰ね」

「うふふ。
旦那様も、きっとお喜びになられますよ」

・・・どうだろう?
世の殿方が、お飾りの妻の婚礼衣装にどれ程の関心を寄せる物なのかは分からないが、ダンはドレスを嬉々として選んでいたから、喜んでくれるかもしれない。
喜んでくれると良いな。

「準備が出来たと聞いたんだが・・・」

噂をすれば・・・丁度良いタイミングで、ダンが私の控室にやって来た。
しかし、私の姿を見て固まっている。

彼の顔の前で、片手をヒラヒラ振ってみるが、なかなか再起動しない。

「ダン?どうしました?」

「ああ。・・・済まない。
とても似合っているよ」

簡潔な褒め言葉であるが、その耳が若干赤くなっているのを私は見逃さなかった。

(ああ、満足してくれている)

一年以上も一緒に暮らしていたら、いつの間にか、無表情にしか見えなかった顔から、彼の感情が少しだけ読める様になっていた。

今日は朝から機嫌が良さそうだ。



礼拝堂の大きな扉の外に立ち、入場を待つ私の足は緊張で震えていた。

「大丈夫か?」

ぶっきらぼうに問い掛けるダンの瞳には、微かに心配が滲んでいる。

「ええ。大丈夫です」

安心させる為にニコリと微笑んだ所で、扉が開かれた。
私をお父様に託し、ダンが先に入場する。

「パティはイングレース公爵家で大切にされている様だね」

そう言ったお父様は、ホッとした様な、寂しい様な、複雑な顔で微笑んだ。

「はい。ダニエル様も、公爵家の使用人の皆さんも、とっても良くして下さるの。
私、幸せよ」

「そうか・・・良かった」

お父様の瞳に涙の膜が張ったのを見て、これが契約結婚だと言う事実に、申し訳無さが込み上げる。

(私、家族を騙しているのよね)

でも、大切にして貰っているのも、幸せなのも、本当だ。
その幸せの形が、お父様が思っているのと少し違うだけ。


再び扉が開き、お父様のエスコートでバージンロードを一歩づつ進む。
ヴェールの隙間からこっそりと会場を見渡せば、皆んながこちらに優しい眼差しを向けてくれていて、胸が熱くなった。
お母様とお姉様は目を潤ませていて、今にも涙が溢れそうだ。
そのお姉様を、優しく気遣うお義兄様が目に入っても、以前ほど胸は痛まない。

(ダンのお陰だわ)

私は祭壇の前で待つ仮初めの夫に、深く感謝した。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

【完結】白い結婚をした悪役令嬢は田舎暮らしと陰謀を満喫する

ツカノ
恋愛
「こんな形での君との婚姻は望んでなかった」と、私は初夜の夜に旦那様になる方に告げられた。 卒業パーティーで婚約者の最愛を虐げた悪役令嬢として予定通り断罪された挙げ句に、その罰としてなぜか元婚約者と目と髪の色以外はそっくりな男と『白い結婚』をさせられてしまった私は思う。 それにしても、旦那様。あなたはいったいどこの誰ですか? 陰謀と事件混みのご都合主義なふんわり設定です。

処理中です...