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14 愛しい日々(最終話/ミゲル視点)
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「クリスティナは、隣国の王太子殿下の元へ嫁ぐ事が決まったみたいだよ」
通学の馬車の中で、父上から聞いた話を報告すると、クリスティナを心配していたナディアはホッとした様だった。
それと同時に、一瞬だけ不安気に揺れた瞳に気付く。
「違うって言ったでしょ?」
「うん。ごめん」
俯いた彼女の頭をそっと撫でる。
出会ってからずっと、こんなに不安な気持ちにさせていたのかと思うと、出会った日の自分を殴ってやりたい。
それに、こんなにも分かりやすいナディアの表情に、今迄気付かなかった自分が信じられない。
『ナディアが好きなのは騎士みたいな男』と、思い込んでいたせいだろうか?
もっと早くに気付いていれば、傷付けなくて済んだのに。
反省する事ばかりだ。
「じゃあナディア、またお昼休みに」
教室までエスコートして、頬にキスをすると、顔を赤らめたナディアに少し睨まれた。
今迄の反動なのか、ナディアと気持ちが通じた時から、僕は彼女への想いを抑えられなくなっていた。
あまりしつこいと、嫌われてしまうかもしれないから、気を付けなくてはと思ってはいるのだが・・・・・・。
可愛いナディアの反応を見ていると、ついやり過ぎてしまう。
そんな風に、ナディアと共に穏やかに年月を重ねていった。
僕達は学園を卒業してすぐに結婚し、幸せな日々を送っている。
あの日と同じ様な秋晴れの日。
コスモスに囲まれたガゼボのベンチには、もうすぐ一歳になる可愛い娘が、気持ち良さそうにお昼寝中。
その隣には、優雅にお茶を飲む愛しい妻。
「ははうえ!」
庭を駆け回っていた息子が、ナディアの膝に飛び付く。
静かにする様にと窘められて、素直にコクコク頷く姿が微笑ましい。
彼は、ぐっすり眠る妹の頬をそっとつついて、無邪気な笑顔を見せた。
その様子を見守るナディアの慈愛に満ちた表情は、思わず見惚れてしまう程に美しい。
「ははうえ、こすもすのはなたば、つくってほしいですか?」
「まあ!私の為に摘んで来てくれるの?
とっても嬉しいわ」
片言で尋ねる我が子に、ナディアは心から嬉しそうな笑顔になる。
彼は得意気に頷くと、トテトテとコスモス畑に入って行った。
「ここは良いから、悪いけど、ちょっと付いて行ってあげて」
先程から、肩車やら高い高いやらを何度もねだられた僕は、流石に疲れてしまった。
控えていた侍女の一人にバトンタッチして、ナディアの隣に座る。
「坊ちゃん、お待ちください」
追いかけて行った侍女と何か話しながら、覚束ない足取りで遠ざかる小さな背中を眺めていたら、胸一杯に幸せな気持ちが広がっていく。
「ねぇ、ナディア。
僕と結婚してくれて有難う」
「どうしたの?急に」
彼女は不思議そうに僕を見た。
「初対面であんなに酷い事を言った僕を許してくれて、好きになってくれて、こんなに可愛い子供達まで授けてくれて、どれだけ感謝しても足りないよ」
「確かに、あの発言は酷かったと今でも思うし、傷付いたり、苦しんだ事もあったけど・・・。
でも、あの一言が無ければ、私達はこんなに心を通わせる事は出来なかったかもしれないわ。
貴方は今でも綺麗系の女性が好きだったかもしれないし、私は今でも騎士の様な男性が好きだったかも。
そして、それをお互い隠して、表面だけ円満な夫婦を装っていたかも。
・・・・・・そう考えると、きっと、あれも私達にとっては必要な事だったのよ」
そう言い切ったナディアは、艶やかに笑う。
ああ、この顔だ。
あの日僕が恋した少女と、全く同じ笑顔がそこにあった。
僕は一生ナディアに敵わないのだろう。
先に惚れた方が負けなのだ。
「ナディアが大好きだよ。
これからも、ずっと大事にする」
ナディアの頬がポッと薄紅色に染まる。
普段は凛としているのに、未だにこんな一言で照れてしまう彼女が、愛しくて仕方ない。
そっと抱き寄せると、「私も、大好き」と、腕の中から消え入りそうな声が聞こえた。
【終】
通学の馬車の中で、父上から聞いた話を報告すると、クリスティナを心配していたナディアはホッとした様だった。
それと同時に、一瞬だけ不安気に揺れた瞳に気付く。
「違うって言ったでしょ?」
「うん。ごめん」
俯いた彼女の頭をそっと撫でる。
出会ってからずっと、こんなに不安な気持ちにさせていたのかと思うと、出会った日の自分を殴ってやりたい。
それに、こんなにも分かりやすいナディアの表情に、今迄気付かなかった自分が信じられない。
『ナディアが好きなのは騎士みたいな男』と、思い込んでいたせいだろうか?
もっと早くに気付いていれば、傷付けなくて済んだのに。
反省する事ばかりだ。
「じゃあナディア、またお昼休みに」
教室までエスコートして、頬にキスをすると、顔を赤らめたナディアに少し睨まれた。
今迄の反動なのか、ナディアと気持ちが通じた時から、僕は彼女への想いを抑えられなくなっていた。
あまりしつこいと、嫌われてしまうかもしれないから、気を付けなくてはと思ってはいるのだが・・・・・・。
可愛いナディアの反応を見ていると、ついやり過ぎてしまう。
そんな風に、ナディアと共に穏やかに年月を重ねていった。
僕達は学園を卒業してすぐに結婚し、幸せな日々を送っている。
あの日と同じ様な秋晴れの日。
コスモスに囲まれたガゼボのベンチには、もうすぐ一歳になる可愛い娘が、気持ち良さそうにお昼寝中。
その隣には、優雅にお茶を飲む愛しい妻。
「ははうえ!」
庭を駆け回っていた息子が、ナディアの膝に飛び付く。
静かにする様にと窘められて、素直にコクコク頷く姿が微笑ましい。
彼は、ぐっすり眠る妹の頬をそっとつついて、無邪気な笑顔を見せた。
その様子を見守るナディアの慈愛に満ちた表情は、思わず見惚れてしまう程に美しい。
「ははうえ、こすもすのはなたば、つくってほしいですか?」
「まあ!私の為に摘んで来てくれるの?
とっても嬉しいわ」
片言で尋ねる我が子に、ナディアは心から嬉しそうな笑顔になる。
彼は得意気に頷くと、トテトテとコスモス畑に入って行った。
「ここは良いから、悪いけど、ちょっと付いて行ってあげて」
先程から、肩車やら高い高いやらを何度もねだられた僕は、流石に疲れてしまった。
控えていた侍女の一人にバトンタッチして、ナディアの隣に座る。
「坊ちゃん、お待ちください」
追いかけて行った侍女と何か話しながら、覚束ない足取りで遠ざかる小さな背中を眺めていたら、胸一杯に幸せな気持ちが広がっていく。
「ねぇ、ナディア。
僕と結婚してくれて有難う」
「どうしたの?急に」
彼女は不思議そうに僕を見た。
「初対面であんなに酷い事を言った僕を許してくれて、好きになってくれて、こんなに可愛い子供達まで授けてくれて、どれだけ感謝しても足りないよ」
「確かに、あの発言は酷かったと今でも思うし、傷付いたり、苦しんだ事もあったけど・・・。
でも、あの一言が無ければ、私達はこんなに心を通わせる事は出来なかったかもしれないわ。
貴方は今でも綺麗系の女性が好きだったかもしれないし、私は今でも騎士の様な男性が好きだったかも。
そして、それをお互い隠して、表面だけ円満な夫婦を装っていたかも。
・・・・・・そう考えると、きっと、あれも私達にとっては必要な事だったのよ」
そう言い切ったナディアは、艶やかに笑う。
ああ、この顔だ。
あの日僕が恋した少女と、全く同じ笑顔がそこにあった。
僕は一生ナディアに敵わないのだろう。
先に惚れた方が負けなのだ。
「ナディアが大好きだよ。
これからも、ずっと大事にする」
ナディアの頬がポッと薄紅色に染まる。
普段は凛としているのに、未だにこんな一言で照れてしまう彼女が、愛しくて仕方ない。
そっと抱き寄せると、「私も、大好き」と、腕の中から消え入りそうな声が聞こえた。
【終】
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