3 / 14
3 それぞれの秘めたる想い
しおりを挟む
「お嬢様、またミゲル様からお花が届いておりますよ」
私の侍女が、嬉々として告げる。
ミゲルは頻繁に私に花束を贈ってくる。
今日は私が一番好きなガーベラだ。
私の好みを良く把握しており、花以外にも、装飾品などの贈り物も欠かさない。
先日、ガゼボでお茶をした時にも、ミゲルの瞳の色を思わせるサファイアが使われた髪飾りを贈られた。
「ナディアに似合うと思って。
髪飾りならば学園にも着けて行けるだろう?」
そう言って彼は、天使の様な美しい顔で微笑みながら、私の髪を撫でた。
「本当に、お嬢様はミゲル様に愛されていらっしゃるのですね」
「・・・そうね。ありがたい事だわ」
・・・・・・残念ながら、違うんだよな~。
心の中で大きな溜息を吐く。
侍女は主人である私の幸せを、自分の事の様に喜んでくれているのだが、私は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すしか無い。
世間では、意に染まぬ相手だからと、婚約者を蔑ろにするケースは多いと聞く。
それに比べれば、ミゲルの振る舞いは婚約者として完璧だ。
あの一言さえ無ければ、私は愛されていると勘違いする事が出来ただろう。
しかし、そうでは無いと知っている。
彼は、ただ、婚約者としての義務を果たしているに過ぎないのだ。
とは言え、きちんと私の好みに合った贈り物を選択してくれている辺りには、誠意を感じるし、素直に嬉しいとも思う。
彼はいつも優しく、色々な場所に連れて行ってくれて、私の知らない世界を見せてくれる。
しかも、ミゲルは「女だから」と私を下に見たりしない。
お互いの意見が分かれても、私の言い分をきちんと聞いて検討してくれる。
そんな風に私を尊重し、表面上とは言え大事にしてくれる人と、3年以上も親密に交流を続けているのだから、自然と心が動くもので・・・
いつの間にか、私はミゲルに好意を寄せるようになっていた。
しかし私は、悲しい事に、彼好みの女では無い。
予想を裏切らない形で成長を遂げた私は、15歳を過ぎた今でも、小柄で童顔な令嬢のままだ。
丸く大きめの瞳も、緩くカーブしたふわふわの髪も、小ぶりな鼻も、ほんのりピンク色の柔らかな頬も、一般的には醜い訳では無いけれど、決して彼の理想では無いのだ。
ミゲルには、幼馴染がいる。
クリスティナ・マスキアラン公爵令嬢。
艶のあるストレートの銀髪に、理知的な紫の瞳。
二人は王都のタウンハウスが隣同士だった縁で、幼い頃から交流があったのだと言う。
私はミゲルの婚約者として、一度だけマスキアラン公爵邸のお茶会に参加した事がある。
「プレシアド伯爵家長女、ナディアと申します」
ミゲルに紹介されて、淑女の礼を取った私に、クリスティナ様は女性にしては少し低めの落ち着いた声で話し掛ける。
「貴女が、ミゲルのご婚約者ね。
なんて可愛らしい方なのかしら。
クリスティナ・マスキアランと申します。
是非わたくしとも仲良くして下さいね」
美し過ぎて少し冷たく見えるクリスティナ様が見せた、花が綻ぶ様な笑顔に、同性の私でも胸がときめき、目が釘付けになってしまった。
凛として美しい彼女へ向けるミゲルの眼差しが、他と違っているような気がして、あのミゲルの台詞がストンと腑に落ちる。
ーーーああ、そういう事なのか と。
まさに知的美人系の代表の様な存在。
しかも優しく、笑顔は愛らしい。
最強だ。
絶対に敵わない。
彼女を見て育ったのならば、ミゲルの理想が高くなるのも当然だろう。
一つ年上のクリスティナ様とは、それ以来お会いしていないが、学園に入ったらお姿をお見かけする事もあるのだろうか。
ミゲルも、彼女との接点が増えるのを、楽しみにしているかもしれない。
そう思うと、胸の奥がチクチクする。
しかしクリスティナ様は、実は王太子殿下のご婚約者なのである。
ミゲルの想いが叶う事はないのだ。
「可哀想に」
ミゲルも、・・・・・・私も。
私の侍女が、嬉々として告げる。
ミゲルは頻繁に私に花束を贈ってくる。
今日は私が一番好きなガーベラだ。
私の好みを良く把握しており、花以外にも、装飾品などの贈り物も欠かさない。
先日、ガゼボでお茶をした時にも、ミゲルの瞳の色を思わせるサファイアが使われた髪飾りを贈られた。
「ナディアに似合うと思って。
髪飾りならば学園にも着けて行けるだろう?」
そう言って彼は、天使の様な美しい顔で微笑みながら、私の髪を撫でた。
「本当に、お嬢様はミゲル様に愛されていらっしゃるのですね」
「・・・そうね。ありがたい事だわ」
・・・・・・残念ながら、違うんだよな~。
心の中で大きな溜息を吐く。
侍女は主人である私の幸せを、自分の事の様に喜んでくれているのだが、私は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すしか無い。
世間では、意に染まぬ相手だからと、婚約者を蔑ろにするケースは多いと聞く。
それに比べれば、ミゲルの振る舞いは婚約者として完璧だ。
あの一言さえ無ければ、私は愛されていると勘違いする事が出来ただろう。
しかし、そうでは無いと知っている。
彼は、ただ、婚約者としての義務を果たしているに過ぎないのだ。
とは言え、きちんと私の好みに合った贈り物を選択してくれている辺りには、誠意を感じるし、素直に嬉しいとも思う。
彼はいつも優しく、色々な場所に連れて行ってくれて、私の知らない世界を見せてくれる。
しかも、ミゲルは「女だから」と私を下に見たりしない。
お互いの意見が分かれても、私の言い分をきちんと聞いて検討してくれる。
そんな風に私を尊重し、表面上とは言え大事にしてくれる人と、3年以上も親密に交流を続けているのだから、自然と心が動くもので・・・
いつの間にか、私はミゲルに好意を寄せるようになっていた。
しかし私は、悲しい事に、彼好みの女では無い。
予想を裏切らない形で成長を遂げた私は、15歳を過ぎた今でも、小柄で童顔な令嬢のままだ。
丸く大きめの瞳も、緩くカーブしたふわふわの髪も、小ぶりな鼻も、ほんのりピンク色の柔らかな頬も、一般的には醜い訳では無いけれど、決して彼の理想では無いのだ。
ミゲルには、幼馴染がいる。
クリスティナ・マスキアラン公爵令嬢。
艶のあるストレートの銀髪に、理知的な紫の瞳。
二人は王都のタウンハウスが隣同士だった縁で、幼い頃から交流があったのだと言う。
私はミゲルの婚約者として、一度だけマスキアラン公爵邸のお茶会に参加した事がある。
「プレシアド伯爵家長女、ナディアと申します」
ミゲルに紹介されて、淑女の礼を取った私に、クリスティナ様は女性にしては少し低めの落ち着いた声で話し掛ける。
「貴女が、ミゲルのご婚約者ね。
なんて可愛らしい方なのかしら。
クリスティナ・マスキアランと申します。
是非わたくしとも仲良くして下さいね」
美し過ぎて少し冷たく見えるクリスティナ様が見せた、花が綻ぶ様な笑顔に、同性の私でも胸がときめき、目が釘付けになってしまった。
凛として美しい彼女へ向けるミゲルの眼差しが、他と違っているような気がして、あのミゲルの台詞がストンと腑に落ちる。
ーーーああ、そういう事なのか と。
まさに知的美人系の代表の様な存在。
しかも優しく、笑顔は愛らしい。
最強だ。
絶対に敵わない。
彼女を見て育ったのならば、ミゲルの理想が高くなるのも当然だろう。
一つ年上のクリスティナ様とは、それ以来お会いしていないが、学園に入ったらお姿をお見かけする事もあるのだろうか。
ミゲルも、彼女との接点が増えるのを、楽しみにしているかもしれない。
そう思うと、胸の奥がチクチクする。
しかしクリスティナ様は、実は王太子殿下のご婚約者なのである。
ミゲルの想いが叶う事はないのだ。
「可哀想に」
ミゲルも、・・・・・・私も。
48
お気に入りに追加
1,228
あなたにおすすめの小説
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。
待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。
しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。
※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる