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3 それぞれの秘めたる想い

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「お嬢様、またミゲル様からお花が届いておりますよ」

私の侍女が、嬉々として告げる。
ミゲルは頻繁に私に花束を贈ってくる。
今日は私が一番好きなガーベラだ。
私の好みを良く把握しており、花以外にも、装飾品などの贈り物も欠かさない。

先日、ガゼボでお茶をした時にも、ミゲルの瞳の色を思わせるサファイアが使われた髪飾りを贈られた。

「ナディアに似合うと思って。
髪飾りならば学園にも着けて行けるだろう?」
そう言って彼は、天使の様な美しい顔で微笑みながら、私の髪を撫でた。



「本当に、お嬢様はミゲル様に愛されていらっしゃるのですね」

「・・・そうね。ありがたい事だわ」


・・・・・・残念ながら、違うんだよな~。

心の中で大きな溜息を吐く。
侍女は主人である私の幸せを、自分の事の様に喜んでくれているのだが、私は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化すしか無い。

世間では、意に染まぬ相手だからと、婚約者を蔑ろにするケースは多いと聞く。
それに比べれば、ミゲルの振る舞いは婚約者として完璧だ。
あの一言さえ無ければ、私は愛されていると勘違いする事が出来ただろう。

しかし、そうでは無いと知っている。
彼は、ただ、婚約者としての義務を果たしているに過ぎないのだ。

とは言え、きちんと私の好みに合った贈り物を選択してくれている辺りには、誠意を感じるし、素直に嬉しいとも思う。

彼はいつも優しく、色々な場所に連れて行ってくれて、私の知らない世界を見せてくれる。

しかも、ミゲルは「女だから」と私を下に見たりしない。
お互いの意見が分かれても、私の言い分をきちんと聞いて検討してくれる。

そんな風に私を尊重し、表面上とは言え大事にしてくれる人と、3年以上も親密に交流を続けているのだから、自然と心が動くもので・・・


いつの間にか、私はミゲルに好意を寄せるようになっていた。


しかし私は、悲しい事に、彼好みの女では無い。
予想を裏切らない形で成長を遂げた私は、15歳を過ぎた今でも、小柄で童顔な令嬢のままだ。
丸く大きめの瞳も、緩くカーブしたふわふわの髪も、小ぶりな鼻も、ほんのりピンク色の柔らかな頬も、一般的には醜い訳では無いけれど、決して彼の理想では無いのだ。



ミゲルには、幼馴染がいる。
クリスティナ・マスキアラン公爵令嬢。
艶のあるストレートの銀髪に、理知的な紫の瞳。

二人は王都のタウンハウスが隣同士だった縁で、幼い頃から交流があったのだと言う。



私はミゲルの婚約者として、一度だけマスキアラン公爵邸のお茶会に参加した事がある。

「プレシアド伯爵家長女、ナディアと申します」

ミゲルに紹介されて、淑女の礼を取った私に、クリスティナ様は女性にしては少し低めの落ち着いた声で話し掛ける。

「貴女が、ミゲルのご婚約者ね。
なんて可愛らしい方なのかしら。
クリスティナ・マスキアランと申します。
是非わたくしとも仲良くして下さいね」

美し過ぎて少し冷たく見えるクリスティナ様が見せた、花が綻ぶ様な笑顔に、同性の私でも胸がときめき、目が釘付けになってしまった。

凛として美しい彼女へ向けるミゲルの眼差しが、他と違っているような気がして、ミゲルの台詞がストンと腑に落ちる。

ーーーああ、そういう事なのか と。


まさに知的美人系の代表の様な存在。

しかも優しく、笑顔は愛らしい。
最強だ。
絶対に敵わない。
彼女を見て育ったのならば、ミゲルの理想が高くなるのも当然だろう。

一つ年上のクリスティナ様とは、それ以来お会いしていないが、学園に入ったらお姿をお見かけする事もあるのだろうか。
ミゲルも、彼女との接点が増えるのを、楽しみにしているかもしれない。
そう思うと、胸の奥がチクチクする。



しかしクリスティナ様は、実は王太子殿下のご婚約者なのである。



ミゲルの想いが叶う事はないのだ。

「可哀想に」


ミゲルも、・・・・・・私も。

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