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2 婚約者との交流

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「ふふ。あの時のミゲルは酷かったわよね。
本当に、とんでもない男と婚約する事になっちゃったと思ったわ」

私は、今でも度々あの時の話を持ち出しては、ミゲルを揶揄う。

「ホント、もうやめて。
全面的に僕が悪かったから」

ミゲルは顔を赤らめて、気まずそうに謝る。

貴族学園の入学を控えたある日、私達はあの時と同じガゼボで、今日もお茶を飲みながら、婚約者同士の交流を図っている。
あの日ガゼボの周りに咲いていたコスモスは、今は菜の花の黄色い絨毯に変わっていた。

彼にとってあの日の発言は黒歴史になっている。
所謂、若気の至りって奴だ。
私はそれを、笑顔で容赦なく抉る。
しかし、あの日の屈辱もだいぶ薄れてきたから、そろそろこの話題は封印してあげても良いかもしれない。


あれから3年半が過ぎ、私達の仲はと言うと・・・大方の予想に反して、意外と上手くいっている。
最初は険悪だったが、あの発言のせいで、お互い言いたいことを言い合える関係になったのが、逆に良かったのかもしれない。
今ではすっかり砕けた口調で話せる仲だ。
だからと言って、感謝する気にはなれないが。


「ところで、ミゲルはもう選択科目、決まったの?」

ジンジャークッキーに手を伸ばしながら、会話を続ける。

「えっ?僕もナディアも領地経営科でしょ?」

「うーん、それも良いんだけど・・・。
将来、二人でべニート伯爵家を盛り立てるなら、領地経営を学ぶのは一人で充分じゃないかしら?
片方が、農業科とか商業科とかの勉強をしておけば、領地内の農業改革をしたり、商会を興して資金を作ったり出来るかも・・・」

私が〝農業科〟と言った所で、ミゲルが胡乱な目になった。

「農業科の畑って、騎士科の訓練場が見える位置だろ?」

普段より一段低い声で、問いかけられる。

「何故バレた?
いや、正直それもちょっと嬉しいなとは思ったけど、でもメインは農業改革の方なのよ?」

「ナディアの言う事も一理あるけど、一緒に領地経営を学んだ方が、片方が勉強に躓いた時に教え合ったり出来るでしょ」

「・・・・・・」

「ナディア、今、教えるとか面倒臭いって思っただろ?」

・・・・・・何故バレた?

「ん?」

素知らぬ顔で小首を傾げてみるが、

「可愛子ぶって、誤魔化そうとするなよ」

誤魔化されてくれても良いじゃないか。

「でもまあ、そうね。
じゃあ、私も領地経営科にするわ。
もし婚約が解消されて、他の家に嫁ぐ事になっても、役立つ可能性が高いものね」

「は?」

ミゲルが綺麗な顔を不満そうに歪める。

「いや、だって、家の事情が変わって婚約解消なんて、今時は珍しくも無いでしょう?」

「そうだけど・・・」

そうなのだ。

ひと昔前までは婚約解消すると、特に女性側は傷モノ扱いされたりして不利益を被ったのだが、近年では家の事情が変わったりして解消されるのは、よくある事だ。
寧ろ、両家の利益のバランスが崩れたら、早めに婚約解消するのが普通である。

自由恋愛も増えてきて、他に好きな異性が出来たからと、婚約を解消するケースまで、チラホラと出てきている。
時代は変わったなぁ。

だから、私たちの結婚も、決まっているようで決定事項ではない。


いつ婚約が解消されても、おかしくは無いのだ。
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