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7 求婚の理由(最終話)

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「今日は来ないかと思ったわ」

「何故?約束してあっただろ」

私達は、婚約者との交流の為に、ロブソン侯爵家のテラスでお茶を飲んでいる。
事前の約束通りに来たのは良いが、不機嫌なオーラ全開のウィリアム。
あのパーティーの日から、ウィリアムは、何やらずっとピリピリしている。
何がいけなかったのか?
彼の怒りのツボは、いつもよく分からない。

私は、ため息を押し殺しながら、小さなチョコレートを一粒口に入れた。

「この間から、何をそんなに怒っているの?」

「・・・・・・君は、あのパーティーの日、バルコニーで誰と何を話してたの?」

「・・・・・・っ!」

私は息を呑んだ。
何故それを知っているのだろう?
見られていたとも思えないのだが・・・。
とにかく、彼が怒っている理由は理解した。
私は一応、ウィリアムの婚約者なのだから、怒る権利は充分にあるだろう。
しかし、なんと答えれば良いのか。
やましい気持ちがある訳ではないが、バルコニーで他の男性と二人になってしまい、告白をされたのは事実だ。

「涼しい場所から戻ったばかりのはずなのに、君は頬を染めていたね」

「・・・・・・」

「しかも、君が俺の隣に並んだ時、微かに男性用のコロンの香りがした」

「・・・・・・」

「君が戻った少し後に、同じバルコニーからアーロン様が戻って来たのを見たよ。
・・・・・・これってさぁ、どう考えたら良いのかな?」

地を這うような低い声で問いかけられる。
冷たい眼差しに晒されるのが怖くて、無意識に視線が落ちていく。

「ねぇ、ソフィー。
アーロン様に、愛の告白でもされた?」

図星を指されて、肩がピクッと反応した。
それを見た彼は、深く息を吐き出した。

「やっぱりね・・・。
それで?
抱きしめられたりしちゃった?」

「っそんな事されてない!」

「いや、ただ隣で話した位では、相手のコロンの香りなんて移らないだろ」

その声が、より一層低くなる。

「冷えるからって、上着を貸して下さっただけです」

「成る程。
貸して下さった、か・・・。
お優しいですね、アーロン様は」

ウィリアムの言葉は、いつに無く皮肉っぽく聞こえる。

「そんな言い方、しなくても・・・」

彼が発する冷気が、身体中に刺さる。
何故そこまで不快感を露わにするのだろう。
まるで嫉妬でもしているみたい・・・。
そんな筈無いか。
尻軽だと思われて、嫌われただけかもしれない。
じわじわと視界が滲んできた。

「アイツを庇うの?
告白されて、ソフィーもアイツを好きになった?
俺と婚約なんてしないで、アイツと見合いをした方が良かったか?」

「お見合いの事、知ってたの・・・?」

ウィリアムの顔が苦し気に歪む。

「知ってたさ。
だから、君に求婚したんだ。
君の見合いの邪魔をする為にね」

「どうして・・・」

「ソフィーが好きだからに決まってるだろう!?
好きじゃなきゃ、求婚なんてしない!」

バンッとテーブルに手をついて、立ち上がったウィリアムに驚いた私の瞳から、透明な雫が一粒ポロリとこぼれた。
それを見たウィリアムが、「あ・・・」と小さく声を上げて固まる。



「ごめん・・・」

「・・・・・・・・・座ってください」

「・・・はい」

私は呼吸を整えて少し気持ちを落ち着かせると、ゆっくり話し始めた。

「・・・この婚約は、貴方がアボット侯爵家との縁談を断る為の物かと思っていました」

「はあ?まあ、面倒な縁談を断れてラッキーだとは思ったけど、別にその為では無い。
ソフィーに見合いの話が持ち上がってるって聞いたから、焦ってプロポーズしたんだ。
君は俺の事なんか、何とも思ってなかっただろうけど」


「・・・・・・貴方は、いつも私をなんて呼んでいますか?」

「・・・え?・・・ソフィー、だけど」

「そうですよね。
いつの間にか、勝手にそう呼び始めましたよね。
でも、私はそれを咎めた事は一度も有りません」

「うん?」

ウィリアムは私が何を言い出したのか分からないようで、困惑した表情で首を傾げる。

「こう見えても、私、一応侯爵令嬢なのですよ?
その私が、愛称で呼ぶのを許すのは、余程親しい相手か、好きな相手だけです」

「・・・え、っと・・・それって・・・」

ウィリアムの瞳が丸く見開かれ、その頬が徐々に赤く染まっていく。
私の顔も、心なしか熱くなった様な気がして、俯いた。

「ソフィー?」

「・・・・・・」

「こっちを向いて」

いつの間にか、私のすぐ横に立っていたウィリアムの手が、そっと私の頬に触れる。

「ソフィー、愛してるよ」

「・・・・・・はい」

「ソフィーも、ちゃんと言って」


「・・・ウィリアムが、好きですよ」



私を見つめて、幸せそうに笑ったその瞳は、メルが言っていた通り、蕩けるような熱を帯びていた。



【終】
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みんなの感想(15件)

ブルーグラス

片思いが両思いに♡
二人がお互いの気持ちに気づいて良かった!
それまでのジレジレの展開が青春みたいで、キュンキュンしちゃいました♪
遠回りしながらのハッピーエンド最高でした。
素敵なお話を、ありがとうございました^ ^

miniko
2022.08.28 miniko

ご感想頂き、有難うございますヾ(*´∀`*)ノ♥

キュンキュンして貰えて光栄です!

両片思いやすれ違いのお話が大好物なので、他にも沢山書いております。
気になる物があれば、また読んでみてくださると嬉しいです♪

解除
ゆらぽって
2022.07.26 ゆらぽって

『金で〜』を読んでからこちらを読みました。

ソフィーはもっとお転婆?だった様な感じなのに、こちらではなんだか乙女で可愛らしかったです。

また素敵なお話を期待しております。

miniko
2022.07.26 miniko

いつもお読み頂き、有難うございます😊

ソフィーは、基本的には気が強くてしっかり者だけど、自分の恋愛には免疫が無く、あまり自信もないタイプ・・・みたいなイメージで書きました。
「金で〜」の方は、前半の性格が強く出ていて、この作品では本人の恋愛模様が中心なので後半の性格が強く出ています。
乙女なソフィーを可愛いと言って貰えて良かったです。

解除
nico
2022.05.28 nico

お互いの気持ちを告げあって晴れて両想いに。
てか、ソフィに先に貴方は特別だから愛称呼びを許してるのよ、と言わせちゃうウィリアムヘタレ。
婚約申し込み=愛の告白にはならないからね。
リチャードにはかなわないでしょうが、ウィリアムも激愛妻家間違いなし(笑)
お幸せに✨
二組の子供が縁を結べたら素敵だなぁ。

完結お疲れ様でした。
気づいたら完結してました(涙)
次回作でお会いできますように。


miniko
2022.05.28 miniko

ありゃ。ウィリアム、ヘタレ認定されちゃいましたね(笑)
きっと、ソフィの尻に敷かれて、超ラブラブな幸せ夫婦になると思いますヽ(*´∀`)
ソフィとメルの子供同士のお話、楽しそうですね!妄想が捗る_φ(・_・メモメモ

最後までお読み頂き、有難うございました(≧∀≦)

解除

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