【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
上 下
187 / 200

187 不幸になれば良い《レイラ?》

しおりを挟む
 どうして自分だけが、こんなにも不幸なのか?
 どうしてシナリオを一番知っている筈の、自分だけが───?

 最近は、何処へ行っても『レイラ』の似顔絵が目に入る。
 メイクで顔の印象を変えて髪色も変えてはいるけれど、いつか捕まるんじゃないかとビクビクしながら、死んだ様にひっそりと暮らしていた。

 そんなストレスは、次第にオフィーリアとアイザックへの逆恨みに変換されていく。

「こんなの、不公平だわ。
 そうよ。アイツ等も不幸になれば良いのよ」

 前世の知識を活かしてのし上がるつもりだった。
 この国の最高権力者を影で操り、愛する男性と共に、高い身分を潤沢な財産を得て、何不自由なく幸せに生きて行く予定だったのだ。
 だが、その道が断たれたのならば、せめて自分の邪魔をした者達も引き摺り下ろしてやらなければ、腹の虫が治まらない。

 そんな身勝手な復讐心を持って、レイラは王都へ足を向けた。

 琥珀の瞳のせいで、検問を通る度に時間が掛かったが、幸い脱色した髪を疑われる事は一度もなかった。

 そして王宮の近くの食堂に、『マリー』を名乗りアルバイトとして潜り込んだ。
 その店の客の多くは、王宮に勤めていた。
 店に通うメイド達は皆お喋りで、愚痴を聞くふりをして、王宮内の情報を色々と得る事に成功した。

 あの日は午後から雨が降り出し、翌日まで降り続く予報であった。
 カウンターで呑んでいたメイドは、『明日は休みだけど、どうせ雨だし何処にも出掛けないから』と言って深酒をしていた。
 レイラはチャンスだと思った。

 隣の椅子に置いてあったメイドのバッグを不注意を装って倒し、散らばった中身を拾い集めるフリをしながら、王宮への入構許可証を自分のポケットに入れた。
 既にかなり酔っている彼女達は、レイラの行動に気付かない。
 そしてメイドのビールにヴィクターの部屋から持ち出した薬を入れた。
 彼女は近隣の集合住宅で一人暮らしをしていると、以前聞いた事があった。
 飲ませた薬は遅効性で、効果が出るのに半日かかるので、明日自宅で一人でゴロゴロしている間にそのまま目覚めなくなるだろう。

 レイラはそんな彼女と入れ替わり、王宮に潜入する計画を立てていた。

 一人暮らしのメイドが自宅で倒れ、誰にも気付かれないままに眠り続ければ、当然ながら生命の危機に瀕する事になるのだが……。
 思慮の浅いレイラは、薬の効果が出た後の事までは考えていない。


 狙いは卒業式の後に行われるパーティーである。
 レイラは、メイドに飲ませたのと同じ薬を、オフィーリアに盛ろうとしていた。

 教皇やヴィクターの供述によって、既に薬の存在は知られているかもしれないが、調薬の天才であるヴィクターが作った薬の解毒薬を作るのは、一筋縄ではいかないはず。
 結婚目前で花嫁が倒れたら、アイザックはどんな顔をするだろうか?

(子供の頃に私を選んでいたら、こんな事にはならなかったかもしれないのに。
 女の趣味が悪いからいけないのよ)

 オフィーリアが眠りに就いて何年も経ってから解毒薬が開発されたとしても、その頃にはアイザックの隣に別の女がいるかもしれない。

(そうなったら、目覚めたオフィーリアは絶望するでしょうね)

 二人が苦しむのを想像して、レイラは仄暗い笑みを浮かべた。

(もしかしたら、解毒薬を作るのを条件にして、ヴィクターの罪が軽くなるかもしれないわよね)

 そんな風に都合の良い想像ばかりしているレイラは、とっくの昔に解毒薬が開発されている事実を知らなかった。
 確かにヴィクターは天才だが、ダドリー医師の弟子であるカイルは、それを凌ぐ程の天才だった。
 上には上がいるのが世の常である。



 パーティーの当日、通用口の守衛に入構許可証を見せると、少し怪訝な顔をされた。
 内心冷や汗タラタラだったが、何食わぬ顔をしてニコリと微笑んで見せた。

 入構許可証には氏名、年齢、所属部署、そして身体的な特徴が明記されている。
 身長や髪と瞳の色等である。

 レイラが提示した入構許可証には、『金髪で琥珀の瞳』と記されていた。
 まあ、金髪と言えなくも無いが……。
 平民でもなかなか見ないくらいに傷んでいる髪に、守衛は違和感を覚えた。
 しかも、下女ならばともかく所属部署はメイドである。

 彼は守衛室の奥にいた同僚にコッソリ目配せをした。
 同僚は小さく頷き、上の指示を仰ぎに向かった。

 そんな事も知らずに、レイラは入念すぎる頭髪チェックを受けていた。

(この入構許可証の本当の持ち主であるメイドも『瞳が琥珀色なだけで、毎日しつこく確認される』と愚痴っていたけど、こんなにも時間がかかるのかしら?)

 と、少しだけうんざりしながら。


 漸く許可が出て、王宮の中へと足を踏み入れる。
 続々と出勤してくる使用人達の中に、知った顔を探した。
 店に来た事があるメイドを見付けて、彼女をさり気なく尾行する。
 王宮のメイドは専用のロッカールームで私服から制服に着替えるのだと、客のお喋りで知っていたが、そのロッカールームの場所は分からなかったから。

 そうして無事にロッカールームに辿り着いたレイラは、入構許可証に記された名前が書かれたロッカーを探し、その中に入っていた制服を着用した。

 これで王宮メイドに紛れる事が出来る。

(なんだ、とっても簡単じゃない)

 レイラは小さく笑みを零した。
 元々自己評価が高い彼女は、自分はスパイに向いているかもしれないなんて、妙な妄想を抱いていた。

 サディアスの指示で泳がされているとも知らずに。
 暗部の人間に見張られているだなんて、思いもしないで。
しおりを挟む
感想 1,005

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...