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184 最悪の二択
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人生の門出を祝う様に晴れ渡る青空の下、私達の卒業式は厳かに、そして恙無く執り行われた。
卒業式には当然ながらクリスティアンとプリシラも参加していた。
二人とも姿勢を正し、真っ直ぐ前を見て座っていた姿が印象的だった。
そんな二人に対して、これ迄目に余る態度を取っていた者達も、今日ばかりは妙に大人しくしている。
流石に、皆の人生の節目を祝う大切な儀式の最中に、騒ぎを起こさない程度の常識くらいは持ち合わせているのだろうか?
いや、もしかしたら、既にサディアス殿下から何らかの制裁を受けていて、二人に絡んでいる場合じゃない状態なのかもしれない。
どちらにせよ、学生生活の最後を平和に終える事が出来たのは幸いであった。
卒業式が終わると、一旦生徒達は自邸へと引き上げる。
私もエヴァレット伯爵家に戻り、リーザとユーニスの手によって化粧とヘアメイクを施され、アイザックから贈られたドレスを身に纏う。
身支度が整った頃、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
入室を許可すると扉が開かれ、ジョエルがヒョッコリと顔を出した。
「姉上、お支度終わりましたか?」
「ええ、丁度今終わった所よ」
「とてもお綺麗です。
そのドレスも悔しいけど、やっぱり似合ってますね。
本当に悔しいですけど」
「フフッ。ありがとう」
少し淋しそうな顔で二度も『悔しい』と言いながら褒めてくれたジョエルに、心の中で苦笑しつつお礼を述べた。
「アイザック様がお迎えにいらしてますよ」
「え? もう?」
出発時間にはかなり早い。
王宮での夜会やパーティーの際は、爵位が低い者から入場が始まるので、筆頭公爵家嫡男のアイザックとその婚約者である私の入場は一番最後なのだ。
「待ちきれなかったみたいですよ。
応接室でお待ち頂いてます」
「そう、じゃあ私も行かなきゃ」
「では、参りましょう」
ジョエルが恭しく差し出したエスコートの手を取り、アイザックが待つ応接室へと向かった。
私が応接室に入ると、慌てて立ち上がったアイザックは、こちらを凝視しながら固まった。
「……? お待たせして申し訳ありません」
挙動不審なアイザックに少し首を傾げながら挨拶をしたが、彼からの返答は無い。
「……~~~っっ!!」
何故かアイザックは、両手で顔を覆って天を仰いだ。
「似合いませんか?
折角アイザックと並んでも見劣りしない様に、リーザ達が磨いてくれたのですけど……」
パートナーの女性を褒めるのは貴族子息にとってマナーみたい物なのに、何も言ってくれないアイザックに少し不安が湧いてくる。
「いや、ごめん。似合ってる!
可愛い。世界一可愛い。
もう可愛いって言葉はオフィーリアの為にあるんじゃないかってくらい可愛い」
いや、褒め過ぎだから。
両極端かよ。
でも、『似合ってる』とか『可愛い』とか言いながらも、アイザックの眉間には依然として深い皺が刻まれたままである。
「何か問題でも?」
「似合っているから困るんだよ。
フィーがそんなに美しく着飾ったら、馬鹿な男共がきっとジロジロ見るだろう?」
アイザックは悩まし気な溜息を吐き出した。
「考え過ぎでは?
私の事なんて、誰も見やしないですよ」
「皆んな見るよ。賭けても良い」
そう断言したアイザックは、良い事を思い付いたとでも言いた気に、ポンと手を叩いた。
「……そうだよ、今度から夜会やパーティーでは着ぐるみでも着ておけば良いんじゃないかな?
それなら誰も見ないだろう」
いや、別の意味で大注目されると思いますけどっ!?
「ほら、文化祭の時にニコラスが着ていた猫のを借りて……いや、駄目だな。
他の男が一度でも身に着けた物に、オフィーリアが触れるのを想像しただけでも、相手を捻り潰したくなる」
ニコラス様、逃げてっ!!
「どちらにせよ、ニコラス様が着ていた物では、私には大き過ぎますよ」
馬鹿な事を言い出したアイザックを睥睨しつつ、現実的な指摘をしてみたが、残念ながら彼の暴走を止める効果はないみたい。
「特注品を作るか?
そうだな、僕が昔君に送った白いウサギのぬいぐるみと同じデザインなんか、どうだろう?」
「どうだろう? じゃないですよ。
……というか、着ぐるみは着ませんからね。絶対に」
いや、想像してみてよ。
怖いだろうが、七頭身のミッ○ィーちゃん。
全然可愛くないよ。
ディック・ブ○ーナ氏(ミッ○ィーの作者)に謝れ。
「因みに、着ぐるみを着るのと監禁されるのだったら、どっちが良い?」
とうとう大真面目な顔をして、とんでもない事を言い出したぞ。
「何ですか? その地獄の二択は。
どっちもお断りです。
あんまり馬鹿な事ばかり言ってると、嫌いますよ?」
最近公爵夫人に伝授された、伝家の宝刀『嫌いますよ?』。
これを使えば、アイザックの暴走は大抵止める事が出来る。とっても便利な魔法の呪文だ。
「そうか……、嫌なら仕方ない。
その代わり、パーティーの間は僕から離れないで」
「分かりました」
他の要求に比べれば遥かにまともなお願いだったので、それには素直に頷いた。
卒業式には当然ながらクリスティアンとプリシラも参加していた。
二人とも姿勢を正し、真っ直ぐ前を見て座っていた姿が印象的だった。
そんな二人に対して、これ迄目に余る態度を取っていた者達も、今日ばかりは妙に大人しくしている。
流石に、皆の人生の節目を祝う大切な儀式の最中に、騒ぎを起こさない程度の常識くらいは持ち合わせているのだろうか?
いや、もしかしたら、既にサディアス殿下から何らかの制裁を受けていて、二人に絡んでいる場合じゃない状態なのかもしれない。
どちらにせよ、学生生活の最後を平和に終える事が出来たのは幸いであった。
卒業式が終わると、一旦生徒達は自邸へと引き上げる。
私もエヴァレット伯爵家に戻り、リーザとユーニスの手によって化粧とヘアメイクを施され、アイザックから贈られたドレスを身に纏う。
身支度が整った頃、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
入室を許可すると扉が開かれ、ジョエルがヒョッコリと顔を出した。
「姉上、お支度終わりましたか?」
「ええ、丁度今終わった所よ」
「とてもお綺麗です。
そのドレスも悔しいけど、やっぱり似合ってますね。
本当に悔しいですけど」
「フフッ。ありがとう」
少し淋しそうな顔で二度も『悔しい』と言いながら褒めてくれたジョエルに、心の中で苦笑しつつお礼を述べた。
「アイザック様がお迎えにいらしてますよ」
「え? もう?」
出発時間にはかなり早い。
王宮での夜会やパーティーの際は、爵位が低い者から入場が始まるので、筆頭公爵家嫡男のアイザックとその婚約者である私の入場は一番最後なのだ。
「待ちきれなかったみたいですよ。
応接室でお待ち頂いてます」
「そう、じゃあ私も行かなきゃ」
「では、参りましょう」
ジョエルが恭しく差し出したエスコートの手を取り、アイザックが待つ応接室へと向かった。
私が応接室に入ると、慌てて立ち上がったアイザックは、こちらを凝視しながら固まった。
「……? お待たせして申し訳ありません」
挙動不審なアイザックに少し首を傾げながら挨拶をしたが、彼からの返答は無い。
「……~~~っっ!!」
何故かアイザックは、両手で顔を覆って天を仰いだ。
「似合いませんか?
折角アイザックと並んでも見劣りしない様に、リーザ達が磨いてくれたのですけど……」
パートナーの女性を褒めるのは貴族子息にとってマナーみたい物なのに、何も言ってくれないアイザックに少し不安が湧いてくる。
「いや、ごめん。似合ってる!
可愛い。世界一可愛い。
もう可愛いって言葉はオフィーリアの為にあるんじゃないかってくらい可愛い」
いや、褒め過ぎだから。
両極端かよ。
でも、『似合ってる』とか『可愛い』とか言いながらも、アイザックの眉間には依然として深い皺が刻まれたままである。
「何か問題でも?」
「似合っているから困るんだよ。
フィーがそんなに美しく着飾ったら、馬鹿な男共がきっとジロジロ見るだろう?」
アイザックは悩まし気な溜息を吐き出した。
「考え過ぎでは?
私の事なんて、誰も見やしないですよ」
「皆んな見るよ。賭けても良い」
そう断言したアイザックは、良い事を思い付いたとでも言いた気に、ポンと手を叩いた。
「……そうだよ、今度から夜会やパーティーでは着ぐるみでも着ておけば良いんじゃないかな?
それなら誰も見ないだろう」
いや、別の意味で大注目されると思いますけどっ!?
「ほら、文化祭の時にニコラスが着ていた猫のを借りて……いや、駄目だな。
他の男が一度でも身に着けた物に、オフィーリアが触れるのを想像しただけでも、相手を捻り潰したくなる」
ニコラス様、逃げてっ!!
「どちらにせよ、ニコラス様が着ていた物では、私には大き過ぎますよ」
馬鹿な事を言い出したアイザックを睥睨しつつ、現実的な指摘をしてみたが、残念ながら彼の暴走を止める効果はないみたい。
「特注品を作るか?
そうだな、僕が昔君に送った白いウサギのぬいぐるみと同じデザインなんか、どうだろう?」
「どうだろう? じゃないですよ。
……というか、着ぐるみは着ませんからね。絶対に」
いや、想像してみてよ。
怖いだろうが、七頭身のミッ○ィーちゃん。
全然可愛くないよ。
ディック・ブ○ーナ氏(ミッ○ィーの作者)に謝れ。
「因みに、着ぐるみを着るのと監禁されるのだったら、どっちが良い?」
とうとう大真面目な顔をして、とんでもない事を言い出したぞ。
「何ですか? その地獄の二択は。
どっちもお断りです。
あんまり馬鹿な事ばかり言ってると、嫌いますよ?」
最近公爵夫人に伝授された、伝家の宝刀『嫌いますよ?』。
これを使えば、アイザックの暴走は大抵止める事が出来る。とっても便利な魔法の呪文だ。
「そうか……、嫌なら仕方ない。
その代わり、パーティーの間は僕から離れないで」
「分かりました」
他の要求に比べれば遥かにまともなお願いだったので、それには素直に頷いた。
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