【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

文字の大きさ
上 下
175 / 200

175 長い手紙

しおりを挟む
「え? 手紙?
 クリスティアン殿下からですか?」

 ベアトリスとクリスティアンの婚約破棄から、いつの間にやら丸一年が過ぎた。
 今年の『紅葉を愛でる会』も、爽やかな秋晴れの空の下に開催されている。

 クリスティアンとプリシラは不参加だ。
 通常の授業を休む事は許されないが、イベント事の時は、他の生徒への影響を考慮して、欠席させられるらしい。
 多くの生徒が一堂に会する場面では、警備が難しいというのも、理由の一つかもしれない。


 お陰で昨年みたいなトラブルに巻き込まれる心配もなく、私達は会場の片隅で、ゆったりとお茶を飲みながら会話を楽しんでいた。

 そこでベアトリスが、クリスティアンからの手紙を受け取ったという話を始めたのだ。


「手紙ねぇ……。復縁の要請とか?」

 アイザックが揶揄う様にそう言うと、ベアトリスは心底嫌そうな顔をして睨み付ける。

「冗談でもやめて。
 ただの謝罪の手紙よ。
 ……いや、あの長さは手紙と言うより、反省文みたいな?
 だって、便箋十枚近くあるのよ。信じられる?」

 迷惑そうな顔でボヤくベアトリスに、アイザックは何故かフフンと得意気に笑った。

「クリスティアンもまだまだ甘いな」

 何を競っているの?

「え? ヤダ、もしかして、オフィーリアはもっと長い手紙を読まされてるの?」

「ええ、まあ」

 かなり引き気味のベアトリスに、苦笑いで頷くと、ガシッと肩を掴まれた。

「嫌な事は、ちゃんと嫌って言った方が良いわよ!」

「あ、別にそんなに嫌ではないですよ?
 ほら、ベアトリス様の場合は差出人がクリスティアン殿下だったから、迷惑だと思っただけでは?
 もしも、キッシンジャー様から長文のお手紙を頂いたとしたら……如何ですか?」

「それは……、ちょっとだけ嬉しいかもしれないわね」

「でしょう?」

「二人共、惚気はもう良いから。
 それで、ポンコツからの手紙はどんな内容だったの?」

 フレデリカが先を促す。

「あ、そうだったわね。
 まあ、普通に謝罪と反省と後悔が延々と綴られていたわ。
 あと、卒業後の進路はサディアス殿下の意向次第だから、まだどうなるか分からないらしいけど、他人に迷惑を掛けずに生きていける様に、市井での生き方とかを学び始めているんですって」

「最近大人しいと思ったら、ちゃんと反省していたのですね」

「そうみたいね。
 それと、オフィーリアにも謝罪をしたいけど、手紙を出したらアイザックが怒り狂いそうだから、どうすれば良いか迷ってるって書いてあったわ」

 それを予想出来る様になっただけでも、ポンコツ王子にしては凄い成長だわ。

「私に謝罪は要らないですけどね。
 ベアトリス様が許すなら、それで良いので」

 皆に視線を向けられたベアトリスは、思案顔で首を捻る。

「うーん、今更どうでも良いかな。
 まあ、子供の頃からずっと執務を代行させられたり、尻拭いをさせられてた事は腹立たしいけど。
 その癖、感謝もしないどころか、迷惑掛けてる自覚さえなかったみたいだし。
 胡散臭い聖女候補とやらを侍らせて、婚約者だった私を蔑ろにするし。
 その聖女候補の取り巻きからは、理不尽な言い掛かりをつけられるし。
 挙句の果てに、生卵を投げ付けたとかいう、謎の冤罪を掛けられそうになるし……」

「いや、不満大爆発じゃないの。
 全然どうでも良くなさそうよ」

 永遠に続きそうなベアトリスの愚痴に、フレデリカがクスクス笑う。

「そうね。
 こうして並べてみると、なんだかもの凄く酷い扱いをされてた気がしてきたわ」

 ムゥッと眉根を寄せたベアトリスを見て、メイナードが何か思い付いたみたいにポンと手を叩いた。

「一発殴ってみたらスッキリするんじゃないですか?
 ほら、オフィーリア嬢みたいに」

「ングッ……!?」

「ああっ、オフィーリア、大丈夫か?」

 急に名前を出されて、食べていたクッキーの欠片が喉に詰まった。
 目を白黒させながらケホケホと咽せている私に、アイザックは甲斐甲斐しく果実水を飲ませてくれる。

「済みません、オフィーリア嬢」

「ん……」

 眉を下げて謝るメイナードに、片手を軽く上げながら『気にしないで』という意味で頷く。
 口を開くと咳が出てしまいそうだから。

「……でも、それって良い考えかもしれないわね。
 廃籍予定の王子を殴るくらい、王太子を殴るのに比べたら可愛いものだし」

 ニヤリと笑って頷くベアトリス。

 いや、可愛くない!
 暴力で解決しようとしてる時点で、全然可愛くないよ!
 しかも、今の笑顔はめちゃくちゃ悪役令嬢顔だったよ!?

 ってゆーか、私を引き合いに出さないで!!

「お兄様、サディアス殿下に掛け合ってみてよ。
 実現するなら、私も見学したいわ!」

 フレデリカ、悪ノリするんじゃありません!

「ああ、分かった」

 快諾すんな!

 私がまだちょっと咽せている間に、どんどん話が進んでいくんですけどっ!?

「でも、上手く殴れるかしら?」

「俺が教えようか?」

「なら、問題ないわね」

 ニコラスまで参戦しないで!!
 問題しかないから!


 私の心の声は、誰にも聞き届けられず……。

 美しい紅葉の下、周囲の生徒達に聞き咎められる事もなく、ツッコミ不在のままで、物騒な会話は続いていくのだった。

しおりを挟む
感想 1,005

あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...