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127 ゲームに無い行事
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授業が終わった途端、アイザックは有無を言わさぬ笑顔で私を馬車まで連行する。
車内に乗り込むと、いつもの様に膝の上に抱き上げられてしまった。
「ねぇ、オフィーリア。
君はもっと僕に愛されている自覚を持つべきだと思うんだ」
優しい微笑みを浮かべているはずのアイザックと目が合うと、背筋がゾクゾクするのは何故だろう。
「あの…、一応、自覚しているつもりなのですが……」
自ら『愛されているって分かってますよ』と明言するのは結構恥ずかしくて、真っ直ぐに見詰めてくる彼の視線から逃れる様に顔を逸らした。
「そう? おかしいなぁ」
本能的に危機を察知して彼の膝の上から逃げ出したくなるが、ガッチリと腰に巻き付いた腕に固定されていてビクともしない。
「出来ればオフィーリアの行動を制限したくは無いんだけど、どうやら僕は凄く嫉妬深いみたいなんだよ。
君が他の男をほんの少し気にかけるだけで、胸の奥がモヤモヤする。
本当は他の男の名前も呼んで欲しく無いし、視線も合わせて欲しく無いし、同じ空気を吸わせるのも……」
「ストップ、ストーーップ!!!」
なんか話がヤバい感じの方向へ向かっている気がして、彼の口を両手で塞いだ。
仄かな闇を感じる。
アイザックってこんなキャラだったっけ?
ゲームの中ではヤンデレ監禁エンドとかは無かったと思うけど……。
まあ、元々目の前の彼は、ゲームの中の彼とは全く違う性格だったか。
「そこまで想われると流石に重いです」
私がそう言うと、アイザックはシュンと悲しそうに眉を下げた。
クッ……。こんな時にそんな可愛い顔をするなんて、ズルいじゃないの。
「……でも、言いたい事はちょっとだけ理解しました。
アイザックが嫌な思いをする事は、私も出来るだけ避けたいです。
あ、でも名前を呼ばないとか、目を合わせないとか、同じ空気を吸わないとかは無理ですけど。
常識的な範囲でなら、気を付けます」
アイザックはちょっと泣きそうな顔で笑うと、口を塞いでいた私の手を取り、手の平にチュッと口付けた。
「ごめんね、オフィーリア。
でも、君が可愛すぎるから悪いんだ」
耳元で甘く囁かれて、一気に顔が熱くなる。
「あぁ、本当に可愛い」
離れる前に耳たぶにまでチュッとキスを落とされた。
ふと視線を感じて、向かい側の座席を見ると、ニヨニヨした顔で私達を眺めていたアイザックの侍従が慌てて顔を逸らした。
今日もやっぱり救いの手を差し伸べてくれる気はないらしい。
薄情な侍従を恨みがましい目で睨んでいると、「余所見しないの」と言われて、今度は頬に口付けられた。
それから自邸に着くまでの間、私はアイザックに抱き締められながら愛を語られ続けた。
もう甘過ぎて本気で砂糖を吐きそうよ。
でも、ヤンデレの悪化を防ぐ為には、そのままのアイザックを受け入れた方が良さそうだよね。
大丈夫。ちょっと恥ずかしいのを我慢すれば良いだけだもの。
甘い台詞はもうお腹いっぱいだったので、翌朝の登校時は「膝枕をしましょうか?」と提案すると、喜んで受け入れられた。
最初こそ恥ずかしかった膝枕だが、慣れてしまえばなんて事なくて、最近は頻繁に提供している。
少しでもアイザックの疲れを癒せるといいなと思って。
それに、無防備で可愛い彼の寝顔を見るのは婚約者の特権だと思うと、ちょっと嬉しかったりもするのだ。
学園に到着して馬車を降りると、なんだかいつもより浮ついた空気が漂っているのを感じた。
すれ違う生徒達は楽しそうにキャッキャと燥いでいたり、逆に厄介事に巻き込まれたみたいな顔でヒソヒソと何か話し合ったりしている。
「ちょっと騒がしいですね」
「ああ、いつもと様子が違うな」
訝しみながら教室へ入ると、既に登校していたベアトリスが私達の姿を見付けて駆け寄って来た。
「おはよう、オフィーリア、アイザック」
「おはようございます。何かありましたか?」
私の質問を待ってましたとばかり、ベアトリスは喋り始めた。
「それがね、また奴等が面倒な事を言い出したのよ」
「今度は何だ?」
こめかみを押さえながら小さな溜息をつくアイザック。
『奴等』が誰を指すのかは敢えて聞かないつもりらしい。
「学園内で祭りを開催しようって学園長に提案したみたいなの」
「お祭り、ですか?」
「そうよ。
この学園の生徒は貴族子女だから、将来は国民の生活を支える立場になるでしょう?
それなのに、庶民の苦労を知らないのは如何なものか、とか言い出したみたいよ。
生徒主催で模擬店などを運営してみて、小売店を経営する難しさや、今の政策の問題点などについて考える切っ掛けを作ろうって事らしいわ」
「それだけ聞くと、珍しくマトモだな。
まあ、多分誰かの入れ知恵なんだろうけど……」
「私もそう思うわ。
なんか、ちゃんとした企画書まで提出したみたいで、テストケースとして今年開催してみる事がほぼ決定したみたい。
文化祭って呼ぶんですって」
「文化祭……?」
聞き返した私の声は、少し掠れていた。
『文化祭』
この国には、今迄無かったその行事の名称に、転生者の存在を強く感じたから。
車内に乗り込むと、いつもの様に膝の上に抱き上げられてしまった。
「ねぇ、オフィーリア。
君はもっと僕に愛されている自覚を持つべきだと思うんだ」
優しい微笑みを浮かべているはずのアイザックと目が合うと、背筋がゾクゾクするのは何故だろう。
「あの…、一応、自覚しているつもりなのですが……」
自ら『愛されているって分かってますよ』と明言するのは結構恥ずかしくて、真っ直ぐに見詰めてくる彼の視線から逃れる様に顔を逸らした。
「そう? おかしいなぁ」
本能的に危機を察知して彼の膝の上から逃げ出したくなるが、ガッチリと腰に巻き付いた腕に固定されていてビクともしない。
「出来ればオフィーリアの行動を制限したくは無いんだけど、どうやら僕は凄く嫉妬深いみたいなんだよ。
君が他の男をほんの少し気にかけるだけで、胸の奥がモヤモヤする。
本当は他の男の名前も呼んで欲しく無いし、視線も合わせて欲しく無いし、同じ空気を吸わせるのも……」
「ストップ、ストーーップ!!!」
なんか話がヤバい感じの方向へ向かっている気がして、彼の口を両手で塞いだ。
仄かな闇を感じる。
アイザックってこんなキャラだったっけ?
ゲームの中ではヤンデレ監禁エンドとかは無かったと思うけど……。
まあ、元々目の前の彼は、ゲームの中の彼とは全く違う性格だったか。
「そこまで想われると流石に重いです」
私がそう言うと、アイザックはシュンと悲しそうに眉を下げた。
クッ……。こんな時にそんな可愛い顔をするなんて、ズルいじゃないの。
「……でも、言いたい事はちょっとだけ理解しました。
アイザックが嫌な思いをする事は、私も出来るだけ避けたいです。
あ、でも名前を呼ばないとか、目を合わせないとか、同じ空気を吸わないとかは無理ですけど。
常識的な範囲でなら、気を付けます」
アイザックはちょっと泣きそうな顔で笑うと、口を塞いでいた私の手を取り、手の平にチュッと口付けた。
「ごめんね、オフィーリア。
でも、君が可愛すぎるから悪いんだ」
耳元で甘く囁かれて、一気に顔が熱くなる。
「あぁ、本当に可愛い」
離れる前に耳たぶにまでチュッとキスを落とされた。
ふと視線を感じて、向かい側の座席を見ると、ニヨニヨした顔で私達を眺めていたアイザックの侍従が慌てて顔を逸らした。
今日もやっぱり救いの手を差し伸べてくれる気はないらしい。
薄情な侍従を恨みがましい目で睨んでいると、「余所見しないの」と言われて、今度は頬に口付けられた。
それから自邸に着くまでの間、私はアイザックに抱き締められながら愛を語られ続けた。
もう甘過ぎて本気で砂糖を吐きそうよ。
でも、ヤンデレの悪化を防ぐ為には、そのままのアイザックを受け入れた方が良さそうだよね。
大丈夫。ちょっと恥ずかしいのを我慢すれば良いだけだもの。
甘い台詞はもうお腹いっぱいだったので、翌朝の登校時は「膝枕をしましょうか?」と提案すると、喜んで受け入れられた。
最初こそ恥ずかしかった膝枕だが、慣れてしまえばなんて事なくて、最近は頻繁に提供している。
少しでもアイザックの疲れを癒せるといいなと思って。
それに、無防備で可愛い彼の寝顔を見るのは婚約者の特権だと思うと、ちょっと嬉しかったりもするのだ。
学園に到着して馬車を降りると、なんだかいつもより浮ついた空気が漂っているのを感じた。
すれ違う生徒達は楽しそうにキャッキャと燥いでいたり、逆に厄介事に巻き込まれたみたいな顔でヒソヒソと何か話し合ったりしている。
「ちょっと騒がしいですね」
「ああ、いつもと様子が違うな」
訝しみながら教室へ入ると、既に登校していたベアトリスが私達の姿を見付けて駆け寄って来た。
「おはよう、オフィーリア、アイザック」
「おはようございます。何かありましたか?」
私の質問を待ってましたとばかり、ベアトリスは喋り始めた。
「それがね、また奴等が面倒な事を言い出したのよ」
「今度は何だ?」
こめかみを押さえながら小さな溜息をつくアイザック。
『奴等』が誰を指すのかは敢えて聞かないつもりらしい。
「学園内で祭りを開催しようって学園長に提案したみたいなの」
「お祭り、ですか?」
「そうよ。
この学園の生徒は貴族子女だから、将来は国民の生活を支える立場になるでしょう?
それなのに、庶民の苦労を知らないのは如何なものか、とか言い出したみたいよ。
生徒主催で模擬店などを運営してみて、小売店を経営する難しさや、今の政策の問題点などについて考える切っ掛けを作ろうって事らしいわ」
「それだけ聞くと、珍しくマトモだな。
まあ、多分誰かの入れ知恵なんだろうけど……」
「私もそう思うわ。
なんか、ちゃんとした企画書まで提出したみたいで、テストケースとして今年開催してみる事がほぼ決定したみたい。
文化祭って呼ぶんですって」
「文化祭……?」
聞き返した私の声は、少し掠れていた。
『文化祭』
この国には、今迄無かったその行事の名称に、転生者の存在を強く感じたから。
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