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83 調査報告
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「お嬢様、まさか私を捨てるのですかっっ!?
嫌ですぅぅぅ!! 一生お仕えしようと心に決めてたのにぃぃぃ!!」
ユーニスを連れ帰った私を見て、リーザが泣き崩れた。
「いや、違う違うっっ!!」
私は慌ててブンブンと首を左右に振る。
リーザがこんなに狼狽えている姿は初めて見たかもしれない。
でも、ずっと仕えてくれるつもりだったって言う台詞は、ちょっと嬉しいわね。
「勿論、オフィーリア様の専属侍女の筆頭はリーザさんのままです。
私ともう一人のエルザという侍女は、リーザさんのサポートをしつつ、侍女以外の仕事もする予定です」
ユーニスがハンカチを手渡しながらそう言って宥めると、リーザはグスンと鼻を啜りながら顔を上げた。
「うぅ……。本当ですか?」
「ええ。リーザが良ければ、私が嫁ぐ時も着いて来てくれると心強いわ」
「コホンッ……。
取り乱してしまい、申し訳ありません」
やっと落ち着いてくれたリーザに、こうなった事情を説明して、改めてユーニスを紹介する。
二人が笑顔で握手をする姿を見て、『なんとかなりそうだな』と、私はホッとした。
ユーニスは異常に仕事が早かった。
流石は公爵夫人とアイザックのお墨付き侍女とでも言うべきか。
いや、そもそも私が頼んだのは侍女の仕事ではなかったのだけど。
「オフィーリア様、こちら例の件の報告書です」
そう言ってユーニスが二冊のファイルを差し出したのは、彼女が私の専属として派遣されてから僅か三日目の事だった。
「早過ぎないっ??
急ぎじゃないって言ったよね?
仕事が早いのはとても素晴らしいけど、休憩時間とか、睡眠とか、ちゃんと取らないとダメよ?」
ユーニスはリーザにエヴァレット伯爵家の事を教わりながら、普通に侍女としての仕事もしっかりと熟してくれている。
リーザには、ユーニスに情報収集の仕事も頼んでいると話してあるので、多少は時間の融通が効く様に配慮されているのかもしれない。
しかし、この三日間、ユーニスの姿を見かけない日はなかったのだ。
驚く私に、ユーニスは余裕の笑みを見せる。
「ありがとうございます。
適度に休ませて頂いてますので、ご心配は無用ですよ」
「本当に?」
「ええ。
この程度の調査は簡単……と、言いたい所ですが、残念ながら、お菓子の件に関してはあまり有力な情報が掴めませんでした。
申し訳ありません」
「まあ、匂いの正体を探すなんて、雲をつかむ様な話だものね。
調べてくれただけでもありがたいわ。ご苦労様」
ユーニスに労いの言葉をかけつつ、薄い方のファイルを開く。
そもそも学園内に外部からお菓子を持ち込む者は少ない。
食堂やカフェでも菓子は売られているので、必要に応じてそれらを購入すれば良いのだから。
そして、この国ではシナモン自体もまあまあ珍しい。
異国料理のお店ではシナモンロールみたいなパンやお茶などに使う場合もあるけど、まだこの国の国民には食べ慣れない物だから、あまり好まれていないのかもしれない。
ユーニスの報告書によれば、三年生の女子生徒が一度、他国のお土産として友人数名にシナモンと蜂蜜のクッキーを渡した事があるみたいだけど、他にそれらしき菓子の情報は得られなかったみたい。
ってゆーか、一生徒が土産を配ったとか、そんな些細な出来事までたったの三日で調べて来るなんて、有能過ぎて逆に怖いわ。
「三年の女子生徒じゃあ、クリスティアン殿下達とは関係なさそうよね」
「はい。クッキーを配ったり受け取った女子生徒の中に、クリスティアン殿下やその周囲に近付ける立場の者はおりませんでした。
それに、側近達はともかく、クリスティアン殿下が口にする物は必ず毒味をしますから、滅多な物は召し上がらないと思いますよ」
「それもそうよね」
フィクションの世界ではその辺りの設定を態と緩くしている場合もあるし、王子がお馬鹿過ぎてヒロインを無条件に信じちゃったりする。
てっきりクリスティアンもそういうタイプかと思っていたけど、流石に自分の命に関わる事だもの。毒味くらいはちゃんとさせるよね?
クリスティアンについては近寄りたくないからまだ確かめていないけど、攻略対象者である二人から同じ匂いがしたならば、彼も食べたかもと思ったんだけどなぁ。
ニコラスとリンメル先生だけがお菓子を食べて、クリスティアンは食べてないのか?
だとしたら、ゲームとは無関係な可能性もあるのかしら?
それにしても、ユーニスの調査能力を以てしても、それらしいお菓子の情報が出てこないなんて……。
「うーん、なんだったのかしら?
あの、蜂蜜とシナモンの匂い……」
「例えばですが、お菓子の現物を見た訳じゃなくて匂いを嗅いだだけでしたら、お香って可能性は無いでしょうか?」
「お香?」
「ええ。
私が生まれた街では、昔からお香を焚く文化が盛んで、民間療法などにも使われていたんです。
シナモンかどうかは定かではありませんが、確かスパイスと蜂蜜を混ぜたような匂いの物があったと記憶しています」
お香は考えた事がなかったけど、あり得なくは無いかも。
「民間療法で使うって事は、効果効能があるって事よね?」
前世ではリラックス効果とか聞いた事があるけど……。
「物によって様々だったと思いますが、鎮静効果や睡眠導入効果、逆に気分を高揚させたり、脳を活性化させる物もあって、心身が疲れた時に使う事が多いですね。
薬に比べれば、ごく弱い作用しかありませんが、副作用も殆ど無いのがメリットです。
でも、スパイスと蜂蜜の匂いの物がどんな効能だったかまでは……」
「ありがとう。充分参考になったわ」
「お役に立てたなら良かったです。
追加でお香の線も調べますか?」
ユーニスがありがたい提案をしてくれたので、乗ってみる事にした。
「そうね、お願い。
あぁ、でも本当に急がなくて良いから。
勤務時間は絶対に守る事!!
労働条件、大事だからねっ!」
「は、はい……」
ちょっと強い口調で注意すると、ユーニスは戸惑いながらも頷いた。
※作中のお香は完全に架空の物ですので、ご了承下さいませm(_ _)m
嫌ですぅぅぅ!! 一生お仕えしようと心に決めてたのにぃぃぃ!!」
ユーニスを連れ帰った私を見て、リーザが泣き崩れた。
「いや、違う違うっっ!!」
私は慌ててブンブンと首を左右に振る。
リーザがこんなに狼狽えている姿は初めて見たかもしれない。
でも、ずっと仕えてくれるつもりだったって言う台詞は、ちょっと嬉しいわね。
「勿論、オフィーリア様の専属侍女の筆頭はリーザさんのままです。
私ともう一人のエルザという侍女は、リーザさんのサポートをしつつ、侍女以外の仕事もする予定です」
ユーニスがハンカチを手渡しながらそう言って宥めると、リーザはグスンと鼻を啜りながら顔を上げた。
「うぅ……。本当ですか?」
「ええ。リーザが良ければ、私が嫁ぐ時も着いて来てくれると心強いわ」
「コホンッ……。
取り乱してしまい、申し訳ありません」
やっと落ち着いてくれたリーザに、こうなった事情を説明して、改めてユーニスを紹介する。
二人が笑顔で握手をする姿を見て、『なんとかなりそうだな』と、私はホッとした。
ユーニスは異常に仕事が早かった。
流石は公爵夫人とアイザックのお墨付き侍女とでも言うべきか。
いや、そもそも私が頼んだのは侍女の仕事ではなかったのだけど。
「オフィーリア様、こちら例の件の報告書です」
そう言ってユーニスが二冊のファイルを差し出したのは、彼女が私の専属として派遣されてから僅か三日目の事だった。
「早過ぎないっ??
急ぎじゃないって言ったよね?
仕事が早いのはとても素晴らしいけど、休憩時間とか、睡眠とか、ちゃんと取らないとダメよ?」
ユーニスはリーザにエヴァレット伯爵家の事を教わりながら、普通に侍女としての仕事もしっかりと熟してくれている。
リーザには、ユーニスに情報収集の仕事も頼んでいると話してあるので、多少は時間の融通が効く様に配慮されているのかもしれない。
しかし、この三日間、ユーニスの姿を見かけない日はなかったのだ。
驚く私に、ユーニスは余裕の笑みを見せる。
「ありがとうございます。
適度に休ませて頂いてますので、ご心配は無用ですよ」
「本当に?」
「ええ。
この程度の調査は簡単……と、言いたい所ですが、残念ながら、お菓子の件に関してはあまり有力な情報が掴めませんでした。
申し訳ありません」
「まあ、匂いの正体を探すなんて、雲をつかむ様な話だものね。
調べてくれただけでもありがたいわ。ご苦労様」
ユーニスに労いの言葉をかけつつ、薄い方のファイルを開く。
そもそも学園内に外部からお菓子を持ち込む者は少ない。
食堂やカフェでも菓子は売られているので、必要に応じてそれらを購入すれば良いのだから。
そして、この国ではシナモン自体もまあまあ珍しい。
異国料理のお店ではシナモンロールみたいなパンやお茶などに使う場合もあるけど、まだこの国の国民には食べ慣れない物だから、あまり好まれていないのかもしれない。
ユーニスの報告書によれば、三年生の女子生徒が一度、他国のお土産として友人数名にシナモンと蜂蜜のクッキーを渡した事があるみたいだけど、他にそれらしき菓子の情報は得られなかったみたい。
ってゆーか、一生徒が土産を配ったとか、そんな些細な出来事までたったの三日で調べて来るなんて、有能過ぎて逆に怖いわ。
「三年の女子生徒じゃあ、クリスティアン殿下達とは関係なさそうよね」
「はい。クッキーを配ったり受け取った女子生徒の中に、クリスティアン殿下やその周囲に近付ける立場の者はおりませんでした。
それに、側近達はともかく、クリスティアン殿下が口にする物は必ず毒味をしますから、滅多な物は召し上がらないと思いますよ」
「それもそうよね」
フィクションの世界ではその辺りの設定を態と緩くしている場合もあるし、王子がお馬鹿過ぎてヒロインを無条件に信じちゃったりする。
てっきりクリスティアンもそういうタイプかと思っていたけど、流石に自分の命に関わる事だもの。毒味くらいはちゃんとさせるよね?
クリスティアンについては近寄りたくないからまだ確かめていないけど、攻略対象者である二人から同じ匂いがしたならば、彼も食べたかもと思ったんだけどなぁ。
ニコラスとリンメル先生だけがお菓子を食べて、クリスティアンは食べてないのか?
だとしたら、ゲームとは無関係な可能性もあるのかしら?
それにしても、ユーニスの調査能力を以てしても、それらしいお菓子の情報が出てこないなんて……。
「うーん、なんだったのかしら?
あの、蜂蜜とシナモンの匂い……」
「例えばですが、お菓子の現物を見た訳じゃなくて匂いを嗅いだだけでしたら、お香って可能性は無いでしょうか?」
「お香?」
「ええ。
私が生まれた街では、昔からお香を焚く文化が盛んで、民間療法などにも使われていたんです。
シナモンかどうかは定かではありませんが、確かスパイスと蜂蜜を混ぜたような匂いの物があったと記憶しています」
お香は考えた事がなかったけど、あり得なくは無いかも。
「民間療法で使うって事は、効果効能があるって事よね?」
前世ではリラックス効果とか聞いた事があるけど……。
「物によって様々だったと思いますが、鎮静効果や睡眠導入効果、逆に気分を高揚させたり、脳を活性化させる物もあって、心身が疲れた時に使う事が多いですね。
薬に比べれば、ごく弱い作用しかありませんが、副作用も殆ど無いのがメリットです。
でも、スパイスと蜂蜜の匂いの物がどんな効能だったかまでは……」
「ありがとう。充分参考になったわ」
「お役に立てたなら良かったです。
追加でお香の線も調べますか?」
ユーニスがありがたい提案をしてくれたので、乗ってみる事にした。
「そうね、お願い。
あぁ、でも本当に急がなくて良いから。
勤務時間は絶対に守る事!!
労働条件、大事だからねっ!」
「は、はい……」
ちょっと強い口調で注意すると、ユーニスは戸惑いながらも頷いた。
※作中のお香は完全に架空の物ですので、ご了承下さいませm(_ _)m
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