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77 心配の理由
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頭を下げたアイザックを、お父様が大慌てで制止する。
「わ、分かりましたから、頭を上げてくださいっ!
オフィーリアが良いと言うのでしたら、私が反対する理由は何もありません」
「ありがとうございます、義父上っ!!」
アイザックは感涙しながらお父様の両手をギュと握り締めて、ブンブン振った。
「……まだ義父ではないです」
と、遠い目をして蚊の鳴くような声で訂正するお父様。
だよね。
まだ婚約すら成立していないもの。
お父様はアイザックとの握手が終わった途端、真っ青な顔をしながら胃の辺りを片手で押さえて「ウゥッ」と小さく呻き声を上げた。
安定の小心者っぷりである。
そして、心配顔の執事が手渡した胃薬らしき物を口いっぱいに頬張り、無理矢理飲み込んでいる。
大量に飲みゃあ良いってもんでもないと思うんだけど……、大丈夫なの?
用法用量を守って正しくお使いくださいね。
まあ、お父様が頼りないのは相変わらずだが、公爵家と姻戚関係になる事を諸手を挙げて喜び、その威光を利用する気満々な親よりは、ずっと好感が持てるかもしれない。
一方のアイザックは、既にジョエルに捕まっていて、幸いにもお父様の情けない姿は見られていなかったみたいだ。
「姉上を泣かせたら、許しませんからね」
ジョエルはアイザックをキッと睨み付けると、可愛い顔に似合わぬ低い声で、唸る様にそう言った。
目上の人を敬えといつも言ってるのに……。後でお説教決定ね。
そんな不遜な態度の弟の頭を、アイザックは上機嫌でグリグリと撫でる。
「僕がオフィーリアを泣かせる訳がないだろ?」
当たり前の様にサラリと返された言葉に渋面を作り、プイッとそっぽを向いたジョエルの瞳には、微かに光る物が浮かんでいた。
やだ。ウチの弟、超可愛い。
私、ちゃんとお説教出来るかしら?
もしかして、娘を嫁に出すみたいな気分なのかな?
私の方が五歳も上だけど。
なんか時々、世話の焼ける妹みたいに思われている様な気がするのよね。
「坊っちゃま、お嬢様の幸せを喜んで差し上げましょうね?」
リーザは困った様な笑みを浮かべながら、必死に涙を堪えているジョエルの背中を、優しくさすって慰めている。
マーク兄様は、そりゃあもう盛大にニヨニヨしていて本当に腹立たしい。
いつか兄様に婚約者が出来た時には、倍返しで揶揄ってやろうと思う。
まあ、この無神経さを何とかしない限り、お相手を見付けるのはかなり難しいかもしれないけど。
政略結婚ならば我慢してくれる女性もいるのかな?
仕事の時の有能さをプライベートでも少しは発揮すれば良いのに……。
「フィー、なんか失礼な事を考えてないか?」
「……何の事でしょう?」
無神経なクセに、妙な所で勘が働くから厄介だわ。
そんな中で、一番この縁談を喜んだのは、実はお母様である。
「ああっ良かった! 本当に良かったわ。
おめでとう、オフィーリア」
お母様は満面の笑みで私にハグをする。
「ありがとうございます」
ギュウギュウに抱き締められて、思わず私も笑みを浮かべた。
「貴女の事は、ず~~っと心配だったのよぉ!
やっとひとつ肩の荷が降りたわ~」
「ご心配おかけして、済みません」
母親が娘の結婚を心配するのは、至極当然の事かもしれない。
ウチのお母様も、私が『結婚するつもりが無い』という意味の発言をする度に苦い表情を浮かべていたけれど、まさかそこまで喜ばれるなんて思わなかった。
やっぱりこの世界の母親にとって『娘がずっと独身』なんて受け入れ難かったのかな?
ずっと心労をかけていたのだと改めて知り、申し訳なく思った。
「オフィーリアったら、あんなに分かり易く猛アタックされてるのに、全然素っ気ないんですもの。冷や冷やしたわ」
ん?
「一生このまま気付かなかったらって思うと本当に申し訳なくて、私まで胃が痛くなったのよ。
誰に似たのかしら? こんなポンコツ娘に育てた覚えはないのに……」
んん?
「アイザック様、ごめんなさいねぇ。
ウチの娘が鈍感過ぎて、貴方も相当苦労したでしょう?」
んんんんんん?
なんか、心配の方向性が思ってたのと違うんですけど!?
私の反省、返して!
「いえ、オフィーリアが鈍いのにはもう慣れましたし、そんな所も可愛いかなって……」
ちょっと照れた表情で、そんな風に答えるアイザック。
家族の前で惚気るの止めて。
ほら、ご覧よ。
マーク兄様のニヨニヨが酷くなってるじゃないか。
そして翌日、登校した私達は、ベアトリスにもめちゃくちゃ揶揄われるハメになったのだった。
まあ、ベアトリスにも迷惑を掛けっぱなしだったみたいだから、甘んじて受け入れましたけど。
「わ、分かりましたから、頭を上げてくださいっ!
オフィーリアが良いと言うのでしたら、私が反対する理由は何もありません」
「ありがとうございます、義父上っ!!」
アイザックは感涙しながらお父様の両手をギュと握り締めて、ブンブン振った。
「……まだ義父ではないです」
と、遠い目をして蚊の鳴くような声で訂正するお父様。
だよね。
まだ婚約すら成立していないもの。
お父様はアイザックとの握手が終わった途端、真っ青な顔をしながら胃の辺りを片手で押さえて「ウゥッ」と小さく呻き声を上げた。
安定の小心者っぷりである。
そして、心配顔の執事が手渡した胃薬らしき物を口いっぱいに頬張り、無理矢理飲み込んでいる。
大量に飲みゃあ良いってもんでもないと思うんだけど……、大丈夫なの?
用法用量を守って正しくお使いくださいね。
まあ、お父様が頼りないのは相変わらずだが、公爵家と姻戚関係になる事を諸手を挙げて喜び、その威光を利用する気満々な親よりは、ずっと好感が持てるかもしれない。
一方のアイザックは、既にジョエルに捕まっていて、幸いにもお父様の情けない姿は見られていなかったみたいだ。
「姉上を泣かせたら、許しませんからね」
ジョエルはアイザックをキッと睨み付けると、可愛い顔に似合わぬ低い声で、唸る様にそう言った。
目上の人を敬えといつも言ってるのに……。後でお説教決定ね。
そんな不遜な態度の弟の頭を、アイザックは上機嫌でグリグリと撫でる。
「僕がオフィーリアを泣かせる訳がないだろ?」
当たり前の様にサラリと返された言葉に渋面を作り、プイッとそっぽを向いたジョエルの瞳には、微かに光る物が浮かんでいた。
やだ。ウチの弟、超可愛い。
私、ちゃんとお説教出来るかしら?
もしかして、娘を嫁に出すみたいな気分なのかな?
私の方が五歳も上だけど。
なんか時々、世話の焼ける妹みたいに思われている様な気がするのよね。
「坊っちゃま、お嬢様の幸せを喜んで差し上げましょうね?」
リーザは困った様な笑みを浮かべながら、必死に涙を堪えているジョエルの背中を、優しくさすって慰めている。
マーク兄様は、そりゃあもう盛大にニヨニヨしていて本当に腹立たしい。
いつか兄様に婚約者が出来た時には、倍返しで揶揄ってやろうと思う。
まあ、この無神経さを何とかしない限り、お相手を見付けるのはかなり難しいかもしれないけど。
政略結婚ならば我慢してくれる女性もいるのかな?
仕事の時の有能さをプライベートでも少しは発揮すれば良いのに……。
「フィー、なんか失礼な事を考えてないか?」
「……何の事でしょう?」
無神経なクセに、妙な所で勘が働くから厄介だわ。
そんな中で、一番この縁談を喜んだのは、実はお母様である。
「ああっ良かった! 本当に良かったわ。
おめでとう、オフィーリア」
お母様は満面の笑みで私にハグをする。
「ありがとうございます」
ギュウギュウに抱き締められて、思わず私も笑みを浮かべた。
「貴女の事は、ず~~っと心配だったのよぉ!
やっとひとつ肩の荷が降りたわ~」
「ご心配おかけして、済みません」
母親が娘の結婚を心配するのは、至極当然の事かもしれない。
ウチのお母様も、私が『結婚するつもりが無い』という意味の発言をする度に苦い表情を浮かべていたけれど、まさかそこまで喜ばれるなんて思わなかった。
やっぱりこの世界の母親にとって『娘がずっと独身』なんて受け入れ難かったのかな?
ずっと心労をかけていたのだと改めて知り、申し訳なく思った。
「オフィーリアったら、あんなに分かり易く猛アタックされてるのに、全然素っ気ないんですもの。冷や冷やしたわ」
ん?
「一生このまま気付かなかったらって思うと本当に申し訳なくて、私まで胃が痛くなったのよ。
誰に似たのかしら? こんなポンコツ娘に育てた覚えはないのに……」
んん?
「アイザック様、ごめんなさいねぇ。
ウチの娘が鈍感過ぎて、貴方も相当苦労したでしょう?」
んんんんんん?
なんか、心配の方向性が思ってたのと違うんですけど!?
私の反省、返して!
「いえ、オフィーリアが鈍いのにはもう慣れましたし、そんな所も可愛いかなって……」
ちょっと照れた表情で、そんな風に答えるアイザック。
家族の前で惚気るの止めて。
ほら、ご覧よ。
マーク兄様のニヨニヨが酷くなってるじゃないか。
そして翌日、登校した私達は、ベアトリスにもめちゃくちゃ揶揄われるハメになったのだった。
まあ、ベアトリスにも迷惑を掛けっぱなしだったみたいだから、甘んじて受け入れましたけど。
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