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75 二度目の告白
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その場に残された私とアイザックの間に、気まずい空気が流れる。
考えてみれば、アイザックが王都を出る直前は接触が少なくなっていたので、こうして二人だけの時間を過ごすのはとても久し振りなのだ。
「その……、予定より早く帰って来てしまって、ごめん」
おずおずと謝るアイザックに、首を横に振って見せる。
「いえ、ご無事に帰還なさって嬉しいです」
確かに急に現れた彼には驚かされたけど、彼の姿を久し振りに目にした瞬間、私は心から安堵したのだ。
だけど良く見れば、少しだけ痩せている気もする。
目の下に薄らと隈も出来ているし、お仕事大変だったのだろうか?
それとも、私が彼を煩わせてしまっているせい?
「邸に送る前に、少し時間をくれないか。
君と、ちゃんと話がしたいんだ」
それは、当然、あの事についてだろう。
私の気持ちについては、もう否定のしようもないくらいにハッキリと自覚した。
だけど、ここへ来て、ゲームのシナリオが一瞬私の脳裏を掠める。
彼の愛を受け入れて、その状況で、もしも万が一……、
私が処刑されてしまったら───?
そんな結末を迎えたら、友人のままだったとしても、彼は充分過ぎるくらいに傷付くだろう。
だが、想いを通わせた後であれば、その傷はより深くなるのでは?
しかも下手をすれば彼も何らかの罪に問われかねない。
勿論、簡単に断罪されるつもりなどないし、既にかなりシナリオは変わっていると思うけれど、百パーセント回避出来るという自信はまだない。
最悪の結末への不安はいつも私に付き纏い、ふと気を緩めた瞬間に襲い掛かってくる。
一旦は答えを決めた筈なのに、少しだけ揺らぎ始めた心。
それでも、これ以上答えを引き伸ばす事なんて出来ない。
「……………はい」
小さく頷き、話し合いを了承すると、アイザックの瞳が小さく揺れた。
その奥には、期待よりも不安が色濃く滲んでいる様に見える。
「じゃあ、少し歩いて、公園にでも場所を移そうか。
ちょっと僕も、心の準備が必要だし」
いつも通りに差し出されたその手を取って良いのだろうかと、ほんの一瞬、躊躇いが生じる。
でも、僅かに翳ったアイザックの瞳に気付いたら、無意識に彼の手を強く握っていた。
久し振りに触れる彼の手は、ヒンヤリと冷たかった。
もしかしたら、私の手が熱過ぎるのかもしれないけど。
彼は私の行動に微かに目を見張った後、小さく笑みを浮かべた。
手を繋いだまま、近くの公園まで無言で歩く間、私の心臓は壊れそうなくらいの早さで脈打っていた。
それは、気持ちを自覚してから初めて彼の手を握っているからなのか。それとも答えを決め切れない焦りからなのか、自分でも判断がつかないまま、ただひたすら歩を進めた。
お天気の良い週末。こんな日は、公園を利用する人が多い。
噴水の水飛沫が陽射しを反射してキラキラと輝きを放っていた。
その噴水を囲む様に植えられた芝生の上には、駆け回って遊ぶ子供達や、ベンチに座ってそれを見守りながらお喋りに興じる大人達。
私達は、多くの人で賑わう噴水広場の脇を通り過ぎ、広場から離れた場所にある静かなベンチに黙ったままで腰を下ろした。
「…………あの」
私が口を開こうとするのを、アイザックは片手を翳して制した。
「ちょっとだけ待って、先ずは僕の方から……」
アイザックは緊張を吐き出す様に軽く息を整えてから立ち上がると、私の手を握ったまま、恭しく目の前に跪いた。
透き通った水色の瞳が、私だけを映している。
「オフィーリア・エヴァレット嬢」
初めてフルネームで呼ばれ、ずっと騒がしかった心臓が、一際大きく跳ねた。
「愛しています」
自分の心音が大き過ぎて、さっきまで遠くに聞こえていた子供達のはしゃぐ声も耳に入らなくなった。
嬉しさと苦しさが同時に湧き上がり、握られていない方の手で自分の胸をギュッと押さえる。
「出会った時からずっと、君が胸の真ん中にいた。
僕の心を揺らすのは、君の存在だけなんだ。
だから……、一生のお願いだ。
オフィーリア、僕の妻になって下さい」
懇願するような眼差しに、思わずヒュッと息を呑む。
少しの沈黙の後、私が口を開こうとした瞬間、アイザックの綺麗な顔が苦痛を堪える様に歪んだ。
まるで、断られる事を覚悟しているみたいに。
そんな顔をさせたい訳ではないのに───。
私と一緒にいれば、この先アイザックは不幸になるかもしれない。
その事に気付いたら、やっと見付けたこの想いを、彼に伝えて良いのか分からなくなった。
でも、起こるかどうかも分からない未来を心配して、今の彼を遠ざけ、傷付けるのは、本当に正しい事なのだろうか?
少なくとも、私は今、彼の傷付いた顔を見たくなんかない。
今までずっと彼が私を守ってくれていた様に、これからは私も彼を守れる存在になりたい。
私如きに、何が出来るかはわからないけど。
せめて、私自身が沢山傷付けてしまった彼の心を少しでも癒し、もう二度とこんな悲しそうな顔をさせずに済む様に、寄り添ってあげられたなら……。
そう強く思った刹那。
私の震える唇から、自然と答えが零れ落ちた。
「私も、アイザックが好きです。
……だから、ずっと、そばに居て?」
水色の瞳がこれ以上ないくらいに大きく見開かれる。
きっと彼と友達になった時点で、もうとっくに色んな事が手遅れだったのだ。
考えてみれば、アイザックが王都を出る直前は接触が少なくなっていたので、こうして二人だけの時間を過ごすのはとても久し振りなのだ。
「その……、予定より早く帰って来てしまって、ごめん」
おずおずと謝るアイザックに、首を横に振って見せる。
「いえ、ご無事に帰還なさって嬉しいです」
確かに急に現れた彼には驚かされたけど、彼の姿を久し振りに目にした瞬間、私は心から安堵したのだ。
だけど良く見れば、少しだけ痩せている気もする。
目の下に薄らと隈も出来ているし、お仕事大変だったのだろうか?
それとも、私が彼を煩わせてしまっているせい?
「邸に送る前に、少し時間をくれないか。
君と、ちゃんと話がしたいんだ」
それは、当然、あの事についてだろう。
私の気持ちについては、もう否定のしようもないくらいにハッキリと自覚した。
だけど、ここへ来て、ゲームのシナリオが一瞬私の脳裏を掠める。
彼の愛を受け入れて、その状況で、もしも万が一……、
私が処刑されてしまったら───?
そんな結末を迎えたら、友人のままだったとしても、彼は充分過ぎるくらいに傷付くだろう。
だが、想いを通わせた後であれば、その傷はより深くなるのでは?
しかも下手をすれば彼も何らかの罪に問われかねない。
勿論、簡単に断罪されるつもりなどないし、既にかなりシナリオは変わっていると思うけれど、百パーセント回避出来るという自信はまだない。
最悪の結末への不安はいつも私に付き纏い、ふと気を緩めた瞬間に襲い掛かってくる。
一旦は答えを決めた筈なのに、少しだけ揺らぎ始めた心。
それでも、これ以上答えを引き伸ばす事なんて出来ない。
「……………はい」
小さく頷き、話し合いを了承すると、アイザックの瞳が小さく揺れた。
その奥には、期待よりも不安が色濃く滲んでいる様に見える。
「じゃあ、少し歩いて、公園にでも場所を移そうか。
ちょっと僕も、心の準備が必要だし」
いつも通りに差し出されたその手を取って良いのだろうかと、ほんの一瞬、躊躇いが生じる。
でも、僅かに翳ったアイザックの瞳に気付いたら、無意識に彼の手を強く握っていた。
久し振りに触れる彼の手は、ヒンヤリと冷たかった。
もしかしたら、私の手が熱過ぎるのかもしれないけど。
彼は私の行動に微かに目を見張った後、小さく笑みを浮かべた。
手を繋いだまま、近くの公園まで無言で歩く間、私の心臓は壊れそうなくらいの早さで脈打っていた。
それは、気持ちを自覚してから初めて彼の手を握っているからなのか。それとも答えを決め切れない焦りからなのか、自分でも判断がつかないまま、ただひたすら歩を進めた。
お天気の良い週末。こんな日は、公園を利用する人が多い。
噴水の水飛沫が陽射しを反射してキラキラと輝きを放っていた。
その噴水を囲む様に植えられた芝生の上には、駆け回って遊ぶ子供達や、ベンチに座ってそれを見守りながらお喋りに興じる大人達。
私達は、多くの人で賑わう噴水広場の脇を通り過ぎ、広場から離れた場所にある静かなベンチに黙ったままで腰を下ろした。
「…………あの」
私が口を開こうとするのを、アイザックは片手を翳して制した。
「ちょっとだけ待って、先ずは僕の方から……」
アイザックは緊張を吐き出す様に軽く息を整えてから立ち上がると、私の手を握ったまま、恭しく目の前に跪いた。
透き通った水色の瞳が、私だけを映している。
「オフィーリア・エヴァレット嬢」
初めてフルネームで呼ばれ、ずっと騒がしかった心臓が、一際大きく跳ねた。
「愛しています」
自分の心音が大き過ぎて、さっきまで遠くに聞こえていた子供達のはしゃぐ声も耳に入らなくなった。
嬉しさと苦しさが同時に湧き上がり、握られていない方の手で自分の胸をギュッと押さえる。
「出会った時からずっと、君が胸の真ん中にいた。
僕の心を揺らすのは、君の存在だけなんだ。
だから……、一生のお願いだ。
オフィーリア、僕の妻になって下さい」
懇願するような眼差しに、思わずヒュッと息を呑む。
少しの沈黙の後、私が口を開こうとした瞬間、アイザックの綺麗な顔が苦痛を堪える様に歪んだ。
まるで、断られる事を覚悟しているみたいに。
そんな顔をさせたい訳ではないのに───。
私と一緒にいれば、この先アイザックは不幸になるかもしれない。
その事に気付いたら、やっと見付けたこの想いを、彼に伝えて良いのか分からなくなった。
でも、起こるかどうかも分からない未来を心配して、今の彼を遠ざけ、傷付けるのは、本当に正しい事なのだろうか?
少なくとも、私は今、彼の傷付いた顔を見たくなんかない。
今までずっと彼が私を守ってくれていた様に、これからは私も彼を守れる存在になりたい。
私如きに、何が出来るかはわからないけど。
せめて、私自身が沢山傷付けてしまった彼の心を少しでも癒し、もう二度とこんな悲しそうな顔をさせずに済む様に、寄り添ってあげられたなら……。
そう強く思った刹那。
私の震える唇から、自然と答えが零れ落ちた。
「私も、アイザックが好きです。
……だから、ずっと、そばに居て?」
水色の瞳がこれ以上ないくらいに大きく見開かれる。
きっと彼と友達になった時点で、もうとっくに色んな事が手遅れだったのだ。
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