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70 目指していた未来なのに
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薬膳カフェのお料理は、前世の薬膳とは少し違って、もっと洋風な感じだった。
マーク兄様は、私が少しずつ食べたデザートの残りも、ペロリと完食してくれた。
五個にすれば良かったかしら?
「なかなか美味かったな。
それに、なんだか体が温まった気がする」
「それも薬効なんですかね?
薬っぽい苦味とかは、全然感じませんでしたが……」
食事を終え、感想を言い合いながら店を出る。
上品なお味で、普通の料理としても凄く美味しかった。
ただし、お高い!!
いくら美味しくても、自分でお金を払ってリピートするかというと……、ちょっと考えちゃうわってレベル。
カフェであのお値段じゃあねぇ……。
高位貴族のご夫人とかには受けそうな気もするけど、それも一時のブームで終わりそう。
うーん、もうちょっと何とかなればなぁ。
でも、薬膳料理って材料費も高そうだし、作るのに手間が掛かりそうなイメージだから、仕方が無いのかしら?
「薬草を練り込んだ焼き菓子とかを作ってみるのも良いかもな」
「ああ、そうですね。
お料理だとたまの贅沢って感じになってしまいますが、手頃な値段のお菓子なら続け易くて良いと思います。
美味しく作れれば、美容にお悩みのあるご令嬢とかに人気が出そうですし」
薬膳って効き目が緩やかだから、継続した方が効果が期待出来るんじゃないかな?
同じ様な料理を頻繁に食べ続けるのは難しいけど、小さいクッキーとかならばそれが可能だ。
前世のサプリメントみたいな感覚で使えそうじゃない?
「じゃあ、菓子屋も何軒か見てみるか」
「そうしましょう」
マーク兄様と一緒に、流行りのお店を覗きながら王都の中心街を歩く。
特に薬屋や化粧品店、菓子店を中心に回っていたのだが、ある化粧品店のショーウィンドウの前で、兄様がピタリと足を止めた。
「……」
兄様の視線の先を辿ると、可愛らしい装飾の小さなケースに収められた見覚えのある化粧品が展示されている。
「これって……、カブァナー商会の商品じゃないですよね?」
眉根を寄せてそう聞くと、兄様は「ああ」と神妙な顔で頷いた。
それは、兄様に開発して貰ったコンシーラーとそっくりな商品だったのだ。
店頭で立ち止まった私達に店主が気付いたらしく、扉を開けて顔を覗かせた。
「いらっしゃいませ。
そちらの商品は、最近発売したばかりなのですが、既に多くのお客様にご好評頂いているのですよ。
宜しければサンプルをご用意しておりますので、お試しだけでもなさってみませんか?」
ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら話しかけてきた店主に、こちらも愛想良く笑って見せた。
「そうなのね。ちょっと試してみたいのだけど、良いかしら?」
「勿論でございます!
ささっ、どうぞ此方へ!!」
案内された豪華なソファーに座り、店主の商品説明を聞きながら、コンシーラーもどきを手の甲に塗ってみるが……。
うん、成る程。
「如何ですか?」
「うーん……、ごめんなさい。
折角試させて頂いたけど、私にはちょっと合わないみたい。
また何か機会があったら、寄らせて頂くわね」
そう言ってやんわりと断り、店を出た。
「どうだった?」
「伸びが悪いし、ヨレやすかったですね。
それに、発色も良くないわ。
あれでしたら、脅威にはならなそうです」
私の感想に、マーク兄様も安堵を浮かべた表情で溜息をついた。
「まあ、類似品が出るのは予想していたけど、思ったより早かったから少し驚いた。
品質までは、なかなか真似出来ないとは思うが……」
「ただ、粗悪品の方を先に手にしてしまった人は、カヴァナー商会のも同じ様な物だと思うかもしれませんね」
「それは心配ない。
ウチには優秀な営業担当者がいるから」
「優秀な営業担当者?」
首を傾げると、ポンポンと肩を叩かれた。
「え? 私!?」
「そうだよ。フィーは丁寧な接客で確実に顧客の信用を得ている。
しかも、その顧客は社交界で力を持ったご夫人ばかりで、ウチの国にまで逆に評判が流れてくるくらいだ。
な? 俺の従妹、超優秀だろ?」
マーク兄様は私の顔を覗き込んで、悪戯っぽくニヤリと笑った。
そんな風に褒めてもらえるとは思っていなくて……。私の胸に、ジワジワと温かさが広がっていく。
「……なぁ、フィー」
マーク兄様は急に真面目な顔になって、わたしの名を呼んだ。
「はい?」
「学園を卒業したら、本格的にウチで働かないか?」
「えっ?」
「前に、『結婚しないで職業婦人になりたい』って言ってただろ?
でも、女性の社会進出は徐々に進んではいても、まだまだ安心して働ける職場は少ないのが現状だ。
その点ウチの商会なら、叔父上や叔母上も反対しないと思うんだけど、どうかな?」
確かに、独身を貫く事でジョエルのお荷物になるのは嫌だったし、いずれは貴族籍を抜けて仕事をしながら一人で生きて行ければ良いな……なんて、一時期は本気で思っていた。
だけど───。
何も答えられず、俯いて考え込む私の頭を、苦笑したマーク兄様がワシャワシャと乱暴に撫でて、バシバシと背中を叩いた。
「そんな困った顔するなよ。
もう気が変わってしまったのなら、それで良いんだ。
……もしかして、好きな男でも出来たか?」
好きな───?
その時、私の脳裏に浮かんだのは、アイザックの顔だった。
「フィー、お前、顔真っ赤だぞ。
そう言えば、東の海に浮かぶ島では、こういう顔を『茹でダコみたい』って表現するって知ってたか?」
日本に似た島国の存在は知ってたが、今はそんな事どうでも良い。
「ほんっとに、デリカシーが無い!」
変なタイミングで要らん情報を挟んでくる兄様に、照れ隠しも兼ねて悪態をつくと、彼は豪快に笑った。
マーク兄様は、私が少しずつ食べたデザートの残りも、ペロリと完食してくれた。
五個にすれば良かったかしら?
「なかなか美味かったな。
それに、なんだか体が温まった気がする」
「それも薬効なんですかね?
薬っぽい苦味とかは、全然感じませんでしたが……」
食事を終え、感想を言い合いながら店を出る。
上品なお味で、普通の料理としても凄く美味しかった。
ただし、お高い!!
いくら美味しくても、自分でお金を払ってリピートするかというと……、ちょっと考えちゃうわってレベル。
カフェであのお値段じゃあねぇ……。
高位貴族のご夫人とかには受けそうな気もするけど、それも一時のブームで終わりそう。
うーん、もうちょっと何とかなればなぁ。
でも、薬膳料理って材料費も高そうだし、作るのに手間が掛かりそうなイメージだから、仕方が無いのかしら?
「薬草を練り込んだ焼き菓子とかを作ってみるのも良いかもな」
「ああ、そうですね。
お料理だとたまの贅沢って感じになってしまいますが、手頃な値段のお菓子なら続け易くて良いと思います。
美味しく作れれば、美容にお悩みのあるご令嬢とかに人気が出そうですし」
薬膳って効き目が緩やかだから、継続した方が効果が期待出来るんじゃないかな?
同じ様な料理を頻繁に食べ続けるのは難しいけど、小さいクッキーとかならばそれが可能だ。
前世のサプリメントみたいな感覚で使えそうじゃない?
「じゃあ、菓子屋も何軒か見てみるか」
「そうしましょう」
マーク兄様と一緒に、流行りのお店を覗きながら王都の中心街を歩く。
特に薬屋や化粧品店、菓子店を中心に回っていたのだが、ある化粧品店のショーウィンドウの前で、兄様がピタリと足を止めた。
「……」
兄様の視線の先を辿ると、可愛らしい装飾の小さなケースに収められた見覚えのある化粧品が展示されている。
「これって……、カブァナー商会の商品じゃないですよね?」
眉根を寄せてそう聞くと、兄様は「ああ」と神妙な顔で頷いた。
それは、兄様に開発して貰ったコンシーラーとそっくりな商品だったのだ。
店頭で立ち止まった私達に店主が気付いたらしく、扉を開けて顔を覗かせた。
「いらっしゃいませ。
そちらの商品は、最近発売したばかりなのですが、既に多くのお客様にご好評頂いているのですよ。
宜しければサンプルをご用意しておりますので、お試しだけでもなさってみませんか?」
ニコニコと人の良い笑みを浮かべながら話しかけてきた店主に、こちらも愛想良く笑って見せた。
「そうなのね。ちょっと試してみたいのだけど、良いかしら?」
「勿論でございます!
ささっ、どうぞ此方へ!!」
案内された豪華なソファーに座り、店主の商品説明を聞きながら、コンシーラーもどきを手の甲に塗ってみるが……。
うん、成る程。
「如何ですか?」
「うーん……、ごめんなさい。
折角試させて頂いたけど、私にはちょっと合わないみたい。
また何か機会があったら、寄らせて頂くわね」
そう言ってやんわりと断り、店を出た。
「どうだった?」
「伸びが悪いし、ヨレやすかったですね。
それに、発色も良くないわ。
あれでしたら、脅威にはならなそうです」
私の感想に、マーク兄様も安堵を浮かべた表情で溜息をついた。
「まあ、類似品が出るのは予想していたけど、思ったより早かったから少し驚いた。
品質までは、なかなか真似出来ないとは思うが……」
「ただ、粗悪品の方を先に手にしてしまった人は、カヴァナー商会のも同じ様な物だと思うかもしれませんね」
「それは心配ない。
ウチには優秀な営業担当者がいるから」
「優秀な営業担当者?」
首を傾げると、ポンポンと肩を叩かれた。
「え? 私!?」
「そうだよ。フィーは丁寧な接客で確実に顧客の信用を得ている。
しかも、その顧客は社交界で力を持ったご夫人ばかりで、ウチの国にまで逆に評判が流れてくるくらいだ。
な? 俺の従妹、超優秀だろ?」
マーク兄様は私の顔を覗き込んで、悪戯っぽくニヤリと笑った。
そんな風に褒めてもらえるとは思っていなくて……。私の胸に、ジワジワと温かさが広がっていく。
「……なぁ、フィー」
マーク兄様は急に真面目な顔になって、わたしの名を呼んだ。
「はい?」
「学園を卒業したら、本格的にウチで働かないか?」
「えっ?」
「前に、『結婚しないで職業婦人になりたい』って言ってただろ?
でも、女性の社会進出は徐々に進んではいても、まだまだ安心して働ける職場は少ないのが現状だ。
その点ウチの商会なら、叔父上や叔母上も反対しないと思うんだけど、どうかな?」
確かに、独身を貫く事でジョエルのお荷物になるのは嫌だったし、いずれは貴族籍を抜けて仕事をしながら一人で生きて行ければ良いな……なんて、一時期は本気で思っていた。
だけど───。
何も答えられず、俯いて考え込む私の頭を、苦笑したマーク兄様がワシャワシャと乱暴に撫でて、バシバシと背中を叩いた。
「そんな困った顔するなよ。
もう気が変わってしまったのなら、それで良いんだ。
……もしかして、好きな男でも出来たか?」
好きな───?
その時、私の脳裏に浮かんだのは、アイザックの顔だった。
「フィー、お前、顔真っ赤だぞ。
そう言えば、東の海に浮かぶ島では、こういう顔を『茹でダコみたい』って表現するって知ってたか?」
日本に似た島国の存在は知ってたが、今はそんな事どうでも良い。
「ほんっとに、デリカシーが無い!」
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