46 / 200
46 厄介なタイプ
しおりを挟む
プリシラがこのままベアトリスに不敬を重ねてはまずいと思い、私も少しだけ口を挟む事にした。
「あの、ウェブスター嬢。
ベアトリス様は、既に第二王子殿下に割り当てられた執務の一部を負担していらっしゃいます。
現状をご存知ない方が口を出すべき事ではないと思います」
一時期は殿下のフォローをボイコットしていたベアトリスだが、王妃殿下の懇願に絆されて、現在も執務の一部を代行しているのだ。
それなのに、更に尻を拭えと?
もうクリスティアンの尻、拭われ過ぎて擦り切れるんじゃない?
まあ、王子の尻の心配(R指定的な意味ではない)なんて、どうでも良いか。
そんな事よりも、今はプリシラという名の爆弾を如何に安全に処理するかの方が大事だよね。
「これ以上私の負担を増やしてしまえば、大臣達から『第二王子は必要なのか?』と疑問の声が上がる事だって懸念されます。
そうなれば困るのは殿下ご自身ですわ」
ベアトリスが先程の私の台詞を補足している。
「……えっ?」
真相を確認する様に、隣に立つガザード子爵令息の顔を見上げるプリシラ。
ガザード子爵令息は困った表情で小さく頷いた。
口には出せないけどさ、ぶっちゃけ要らないよね。第二王子。
少し前まではスペアとして王家の血を繋ぐ役割があったんだろうけど、既に王太子夫妻の間に姫が生まれてるし。
「で、でも……、それはアディンセル様の能力が高いからであって、他の人も同じ様に出来るとは限らないのでは……」
引くに引けなくなったのか、プリシラは尚も言葉を重ねた。
でもそれって、クリスティアンが無能だって言っちゃってるよね?
良いのか、それで?
まあ、私は構わんし、概ね事実だけど。
「求められる仕事の量が能力に対して多過ぎるのであれば、ご自分に振り分けられた予算の範囲内で、有能な側近をもっと雇えば良いのですよ。
とても簡単な事でしょう?」
ベアトリスの言葉を聞いて何かを思い出したかの様にハッとしたプリシラは、今度は私とアイザックに矛先を向ける。
「そういえば、ヘーゼルダイン様が側近候補を降りたから実務が回らなくなったって、クリスティアン殿下が仰っていたわ。
エヴァレット様と仲良くなってから、ヘーゼルダイン様が変わってしまったと嘆いて、いら、し…て……」
後半、言葉を失ったのは、おそらくアイザックの発する怒気に気が付いたからだろう。
ベアトリスの不機嫌には気付かなかったプリシラですら、一瞬で口をつぐむくらいに殺気がダダ漏れだ。
「……へえ。クリスティアンがそんな事を」
地を這うような低い声で零されたアイザックの呟きを耳にして、本能的な危機感を覚えたのか、プリシラはサッと顔を青褪めさせる。
『もしかしたら、アイザックもヒロインと出会ったら悪役の私を疎むかも……』
なんて、心の何処かでずっと懸念していたけれど、そんな心配は無用だったみたい。
「クリスティアンの側近候補を降りたのは、僕と僕の家の都合だよ。
無関係なオフィーリアのせいにするなんて、見当違いも甚だしいし、彼女に失礼過ぎるだろ。
君さぁ、なんでそんなにクリスティアンの言葉だけを盲目的に信じられるの?
せめて事実かどうかを調べてから発言しなよ。
特定の人物の言葉を鵜呑みにするばかりで、自分で考える気が全く無いんだったら、そんな頭、要らないんじゃないかな?」
微笑みながら睨むという器用な芸当をやってのけるアイザックに、プリシラは今度こそ完全に口をつぐんで、仔鹿みたいにプルプルと震え出した。
アイザックの発言は、『その首切り落とすぞ』という脅しに聞こえなくもない。
ヤバい。
アイザックなら本気でやりそう。
「オフィーリア、もう行こう」
アイザックは私の手首を掴んでクルリと踵を返す。
「では、私も失礼するわ。
ガザード様、先程の件、よろしくお願いしますね」
ニッコリと微笑みながらそう言い残たベアトリスも、私達と共にその場を後にした。
その晩、なかなか寝付けなかった私は、ベッドに横たわり、仄かな灯りの下で読みかけの小説を開く。
だが、残念ながら文章は全く頭に入って来ず、いつの間にやら昼間の出来事を思い返していた。
私はこれまでプリシラとは挨拶程度の関わりしかなかったのだが、思ったよりも面倒な相手かもしれない。
というのも、彼女の態度や表情からは全く悪意が感じられなかったのだ。
論理は破綻していたが、きっと彼女は心からそれが正しいと信じているのだろう。
寧ろ、善意で自分の親しい人達を擁護しようとしただけみたいな感じなのだ。
しかも、おっとりしている様に見えて、超頑固。
女神の加護を受けていると本には書いてあったけど……。
女神、趣味悪くない?
まあ、正義感がおかしな方向に暴走しなければ、真面目で他人のために行動できる子って事なのかもしれないけど。
悪意を持って行動する人よりも、善行であると思い込んだ行動によって周囲に迷惑をかける人の方が、ある意味タチが悪い気がする。
自覚がなければ改善のしようがないし、対応を間違えるとこちらの方が悪者に見えかねないのだから。
まあ、どんな人にだって、良い面も悪い面もある物だとは思う。
今日知った一面だけをもって、プリシラを嫌なヤツだと断じるのは早計だ。
そうは思うのだが、少なくとも私とは相容れない存在な気がする。
そんな事を考えながら、ふと時計に視線を向けると、針は午前二時を指していた。
(やだ、もうこんな時間……。
流石にそろそろ寝なきゃね)
時間を意識した途端に、眠気がジワリと押し寄せてきた。
全く読み進められなかった小説を閉じ、サイドテーブルの灯りを消す。
ほんのりと温かいミッ○ィーちゃんを抱きかかえながら目を閉じれば、ゆっくりと夢の世界に誘われた。
「あの、ウェブスター嬢。
ベアトリス様は、既に第二王子殿下に割り当てられた執務の一部を負担していらっしゃいます。
現状をご存知ない方が口を出すべき事ではないと思います」
一時期は殿下のフォローをボイコットしていたベアトリスだが、王妃殿下の懇願に絆されて、現在も執務の一部を代行しているのだ。
それなのに、更に尻を拭えと?
もうクリスティアンの尻、拭われ過ぎて擦り切れるんじゃない?
まあ、王子の尻の心配(R指定的な意味ではない)なんて、どうでも良いか。
そんな事よりも、今はプリシラという名の爆弾を如何に安全に処理するかの方が大事だよね。
「これ以上私の負担を増やしてしまえば、大臣達から『第二王子は必要なのか?』と疑問の声が上がる事だって懸念されます。
そうなれば困るのは殿下ご自身ですわ」
ベアトリスが先程の私の台詞を補足している。
「……えっ?」
真相を確認する様に、隣に立つガザード子爵令息の顔を見上げるプリシラ。
ガザード子爵令息は困った表情で小さく頷いた。
口には出せないけどさ、ぶっちゃけ要らないよね。第二王子。
少し前まではスペアとして王家の血を繋ぐ役割があったんだろうけど、既に王太子夫妻の間に姫が生まれてるし。
「で、でも……、それはアディンセル様の能力が高いからであって、他の人も同じ様に出来るとは限らないのでは……」
引くに引けなくなったのか、プリシラは尚も言葉を重ねた。
でもそれって、クリスティアンが無能だって言っちゃってるよね?
良いのか、それで?
まあ、私は構わんし、概ね事実だけど。
「求められる仕事の量が能力に対して多過ぎるのであれば、ご自分に振り分けられた予算の範囲内で、有能な側近をもっと雇えば良いのですよ。
とても簡単な事でしょう?」
ベアトリスの言葉を聞いて何かを思い出したかの様にハッとしたプリシラは、今度は私とアイザックに矛先を向ける。
「そういえば、ヘーゼルダイン様が側近候補を降りたから実務が回らなくなったって、クリスティアン殿下が仰っていたわ。
エヴァレット様と仲良くなってから、ヘーゼルダイン様が変わってしまったと嘆いて、いら、し…て……」
後半、言葉を失ったのは、おそらくアイザックの発する怒気に気が付いたからだろう。
ベアトリスの不機嫌には気付かなかったプリシラですら、一瞬で口をつぐむくらいに殺気がダダ漏れだ。
「……へえ。クリスティアンがそんな事を」
地を這うような低い声で零されたアイザックの呟きを耳にして、本能的な危機感を覚えたのか、プリシラはサッと顔を青褪めさせる。
『もしかしたら、アイザックもヒロインと出会ったら悪役の私を疎むかも……』
なんて、心の何処かでずっと懸念していたけれど、そんな心配は無用だったみたい。
「クリスティアンの側近候補を降りたのは、僕と僕の家の都合だよ。
無関係なオフィーリアのせいにするなんて、見当違いも甚だしいし、彼女に失礼過ぎるだろ。
君さぁ、なんでそんなにクリスティアンの言葉だけを盲目的に信じられるの?
せめて事実かどうかを調べてから発言しなよ。
特定の人物の言葉を鵜呑みにするばかりで、自分で考える気が全く無いんだったら、そんな頭、要らないんじゃないかな?」
微笑みながら睨むという器用な芸当をやってのけるアイザックに、プリシラは今度こそ完全に口をつぐんで、仔鹿みたいにプルプルと震え出した。
アイザックの発言は、『その首切り落とすぞ』という脅しに聞こえなくもない。
ヤバい。
アイザックなら本気でやりそう。
「オフィーリア、もう行こう」
アイザックは私の手首を掴んでクルリと踵を返す。
「では、私も失礼するわ。
ガザード様、先程の件、よろしくお願いしますね」
ニッコリと微笑みながらそう言い残たベアトリスも、私達と共にその場を後にした。
その晩、なかなか寝付けなかった私は、ベッドに横たわり、仄かな灯りの下で読みかけの小説を開く。
だが、残念ながら文章は全く頭に入って来ず、いつの間にやら昼間の出来事を思い返していた。
私はこれまでプリシラとは挨拶程度の関わりしかなかったのだが、思ったよりも面倒な相手かもしれない。
というのも、彼女の態度や表情からは全く悪意が感じられなかったのだ。
論理は破綻していたが、きっと彼女は心からそれが正しいと信じているのだろう。
寧ろ、善意で自分の親しい人達を擁護しようとしただけみたいな感じなのだ。
しかも、おっとりしている様に見えて、超頑固。
女神の加護を受けていると本には書いてあったけど……。
女神、趣味悪くない?
まあ、正義感がおかしな方向に暴走しなければ、真面目で他人のために行動できる子って事なのかもしれないけど。
悪意を持って行動する人よりも、善行であると思い込んだ行動によって周囲に迷惑をかける人の方が、ある意味タチが悪い気がする。
自覚がなければ改善のしようがないし、対応を間違えるとこちらの方が悪者に見えかねないのだから。
まあ、どんな人にだって、良い面も悪い面もある物だとは思う。
今日知った一面だけをもって、プリシラを嫌なヤツだと断じるのは早計だ。
そうは思うのだが、少なくとも私とは相容れない存在な気がする。
そんな事を考えながら、ふと時計に視線を向けると、針は午前二時を指していた。
(やだ、もうこんな時間……。
流石にそろそろ寝なきゃね)
時間を意識した途端に、眠気がジワリと押し寄せてきた。
全く読み進められなかった小説を閉じ、サイドテーブルの灯りを消す。
ほんのりと温かいミッ○ィーちゃんを抱きかかえながら目を閉じれば、ゆっくりと夢の世界に誘われた。
2,770
お気に入りに追加
6,320
あなたにおすすめの小説

[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる