【完結】死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko

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14 薔薇園散策

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 その数日後。
 私は再びヘーゼルダイン公爵邸に招待された。

『庭の薔薇が美しく咲いたから、君にも見せたい』と、アイザックから手紙を貰ったのだ。


「ヘーゼルダイン様、本日はお招き頂きありがとうございます」

 丁寧なカーテシーで挨拶をすると、アイザックはムッと眉根を寄せた。

「堅苦しいのはやめてよ。
 友達になったんだから無礼講でしょ?」

 前回会った時よりも砕けた口調で話すアイザック。

「ふふっ。分かりました」

「それから、アイザックって呼んでくれない?
 僕もオフィーリアって呼びたいしさ」

 良いのかな? と少し迷ったけど、それは私にとって好都合でもあった。

 だってさぁ、欧米風の名前って、文字数多過ぎない?
 実は『ヘーゼルダイン様』って呼ぶ度に舌を噛みそうになっていた。
 元日本人の私にとっては苦行みたいな物よ。

 でも、それがこの世界の貴族社会のルール。
 郷に入っては郷に従うつもりでいたのだが、本人が良いって言うなら良いんじゃ無いかな?
 ゲームの影響で心の中では既に『アイザック』って呼んじゃってたし。

「では、そうしますね。アイザック様」

「二人の時だけなら、敬称も要らないよ」

 お互いに護衛や侍女は連れているのだが、この場合、彼等は人数には入らないのだろう。

 しかし、呼び捨ては流石にマズい気がする。
 二人の時だけって言ったって、絶対呼び間違える事あるよね?

「いえ……」

「友達なんだから気にする事は無いよ。
 オフィーリアは『ヘーゼルダイン様』って呼びにくそうだったよね。
 本当は『アイザック様』でもまだちょっと長いって思ってるんじゃない?」

 何故バレた?

 上手く誤魔化せていると思っていたのに、アイザックって、周囲の人間を良く観察しているんだな。

「……では、お言葉に甘えて」

「なんならアイクでも良いけど」

「あ、それはやめておきます」

 今度こそ食い気味に拒絶しておく。
 愛称呼びとかは、恋人か婚約者が出来た時の為に取っておいた方が良いと思うよ。

「そう? 残念」

 上手く誘導されてしまった感もあるが、敬称抜きの名前呼びに落ち着いた。
 他の人に聞かれなければ問題無いって事にしておこう。


「ところで、色々と贈り物をありがとうございました。
 お花は部屋に飾ってありますし、クッキーは弟と一緒に美味しく頂きました」

 アイザックにエスコートされ、広い庭園を散策しながら会話を続ける。
 公爵夫人ご自慢の薔薇園は、『王宮庭園に負けずとも劣らない』と、社交界でも度々話題にのぼっていたが、実際に来てみると想像以上だ。

「弟か……。
 僕等の五歳年下だっけ? 可愛い?」

「そりゃあもう、超絶可愛いですよ」

「そっか。仲が良いんだな。
 僕は、最近、妹とどう関われば良いのか分からないんだ。
 普段は何をして一緒に過ごすの?」

「お庭でお茶を飲んだりとか、勉強を見てあげたりとか。お出掛けもしますね。
 あと、最近は良く一緒に寝るのですが……」

「は? 一緒に寝るの? 弟と? 同じベッドで?」

 途端にアイザックの眼差しが鋭くなる。

「え? ええ、一緒に。おかしいですか?」

「五歳年下なら、七歳か……。
 まあ、実の姉弟だし、ギリギリセーフ……なのか? いやいや、アウトだろ?」

 ブツブツと何かを呟きながら、真剣な顔で考え込むアイザック。

「どうかしました?」

「ん? いや、何でもない」

「そうですか?
 で……、あれ? 何のお話でしたっけ?」

「君の弟くんの話」

「ああ、そうでした。
 弟のジョエルは、少し生意気な所もありますが、とっても優しい子なんです。
 実は、最近夢見が悪くて魘されてしまう事が多いので、弟にも心配させてしまっていて……。
 それで、弟が添い寝してくれる日は、不思議と良く眠れるのですよ。
 幼い子は体温が高いからですかね」

 湯たんぽを抱いて眠るみたいに、気持ち良く寝られるのだ。

「そうかもな。
 ……それよりも、悪夢を頻繁に見るって、大丈夫なのか?
 もしかして、魔獣に襲われた時の事がトラウマになっているのか?」

「いえ、それは全く違いますので、お気遣いなく。
 少し寝不足になってしまう時もありますが、今日は大丈夫ですよ」

「今度会う時までに、僕も安眠できる方法を調べてみるよ」

「ありがとうござ……」

 アイザックの気遣いにお礼を言おうとした時、何処かから強い視線を感じた。

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