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11 初めての気持ち《アイザック》
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『いつまでも過去の男を想い続けてメソメソしているのは、性に合いません。
そんな無益な事に貴重な時間を使う位なら、自分を磨く事に時間を使った方がよっぽど有意義ですわ』
平凡で地味だと聞いていたオフィーリア・エヴァレット伯爵令嬢は、不敵な笑顔でそう言い放った。
(彼女の何処が平凡なんだ?)
貴族令嬢にとっての幸せは結婚である。そんな固定観念を持つ者が多いこの国において、彼女の考えはとても斬新であり、アイザックの心に鮮烈な印象を残した。
それと同時に、彼女の強気な発言は傲慢な性格の表れかもしれないとも思ったのだが───。
そんな懸念は直ぐに払拭された。
彼女はどちらかと言えば謙虚な性格で、使用人にすら気遣いを見せる人だった。
アイザックはオフィーリアへの興味を強めたのだが、残念ながら彼女の方は婚約を望んでくれなかった。
最初に両親からオフィーリアの話を聞いた時、本音を言えば婚約なんてしたくなかった。
女性は信用出来ないと思っていたから。
筆頭公爵家の嫡男であるアイザックは、将来的な地位も、財産も、母に似た美しい容姿も、父に似た頭脳と運動神経も、生まれた時から全ての物を手にしていた。
自己評価が高い訳ではなく、純然たる事実だ。
だが、そのせいで、彼のこれまでの女運は最悪だった。
ストーカーの様に付き纏われる事なんて日常茶飯事。
勝手に『私は彼の恋人だ』とか『私と彼は相思相愛で、婚約間近だ』などと嘘の噂を流されたりするのだって可愛い方で、アイザックを巡って女同士が取っ組み合いの喧嘩までする始末。
迷惑な事この上無い。
ライバルを蹴落とそうと画策する時の表情は醜悪でしかないのに、彼女達は何故それに気付かないのだろう?
(恋心に振り回されるなんて、愚かだ)
女性達の身勝手な姿ばかりを見せられた幼いアイザックは、すっかり恋愛に対する興味を失ってしまった。
そんな中で降って沸いた婚約話。
それは、愚妹が主催したお茶会での事故に起因していた。
貴族令嬢が魔獣に襲われ怪我をしたと聞いた時は、血の気が引いた。
体に傷を持った女性は、それだけで本人の能力など関係無く、理不尽に扱われてしまう。
しかもその原因が『魔獣に襲われたから』だなんて、さぞかし心の傷も深いだろう。
基本的には女性を嫌っているアイザックでも、それを思うと胸が痛んだ。
知らせを聞いて駆け付けた客室には、艶やかな黒髪の小さな女の子が眠っていた。
まだあどけなさの残るその少女は、眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべながら、魘されている。
怪我をした時の夢でも見ているのだろうか?
苦しそうに唸り始めた彼女は、やがて大きな悲鳴を上げながら飛び起きた。
涙に濡れたアメジストの瞳が、アイザックに向けられる。
「……大丈夫、か?」
掠れる声でそう問い掛けたアイザックに、応えが返される事は無かった。
彼女は再び意識を失い、ベッドに沈んでしまったから。
それから一時間後には、オフィーリアの家族が迎えに来て、彼女は眠ったままエヴァレット伯爵家へと帰って行った。
後日、額の怪我が原因で、オフィーリアが婚約を解消したと聞いた。
両親はアイザックに『公爵家として責任を取らねばならない。彼女と婚約をしてくれないか?』と頭を下げた。
オフィーリアについては既に調査済みらしかった。
伯爵夫妻も彼女自身も、良い意味でも悪い意味でも地味で、噂らしい噂らしいさえ聞こえて来ない様な人物。
数ある伯爵家の中でエヴァレット家の序列は低い方だけど、ギリギリ高位貴族ではあるので、家格的にも釣り合いが取れない事も無い。
ヘーゼルダイン家はこれ以上の権力を必要としていないから、問題の無い人物であればそれで良しと判断された様だ。
アイザックは、恋に盲目になっている令嬢たちを嫌悪しており、この先自分が恋をする姿なんて想像も出来なかった。
だが、恋をする気が無かったとしても、どうせいつかは誰かと結婚しなければいけない立場なのだ。
だったら、親が良いと言う相手ならば、誰でも構わない。
兄としてフレデリカのお茶会を止められなかった事に、少なからず責任を感じていたのも手伝い、アイザックはアッサリと婚約を受け入れた。
(まあ、あの紫色の瞳はなかなか美しかったし、悪くないかもな)
などと、上から目線で考えていたのだ。
アイザックは、この時、婚約の打診を断られるなんて夢にも思っていなかったし、ましてや自分が恋心に振り回される立場になるなんて、想像も出来なかった。
そんな無益な事に貴重な時間を使う位なら、自分を磨く事に時間を使った方がよっぽど有意義ですわ』
平凡で地味だと聞いていたオフィーリア・エヴァレット伯爵令嬢は、不敵な笑顔でそう言い放った。
(彼女の何処が平凡なんだ?)
貴族令嬢にとっての幸せは結婚である。そんな固定観念を持つ者が多いこの国において、彼女の考えはとても斬新であり、アイザックの心に鮮烈な印象を残した。
それと同時に、彼女の強気な発言は傲慢な性格の表れかもしれないとも思ったのだが───。
そんな懸念は直ぐに払拭された。
彼女はどちらかと言えば謙虚な性格で、使用人にすら気遣いを見せる人だった。
アイザックはオフィーリアへの興味を強めたのだが、残念ながら彼女の方は婚約を望んでくれなかった。
最初に両親からオフィーリアの話を聞いた時、本音を言えば婚約なんてしたくなかった。
女性は信用出来ないと思っていたから。
筆頭公爵家の嫡男であるアイザックは、将来的な地位も、財産も、母に似た美しい容姿も、父に似た頭脳と運動神経も、生まれた時から全ての物を手にしていた。
自己評価が高い訳ではなく、純然たる事実だ。
だが、そのせいで、彼のこれまでの女運は最悪だった。
ストーカーの様に付き纏われる事なんて日常茶飯事。
勝手に『私は彼の恋人だ』とか『私と彼は相思相愛で、婚約間近だ』などと嘘の噂を流されたりするのだって可愛い方で、アイザックを巡って女同士が取っ組み合いの喧嘩までする始末。
迷惑な事この上無い。
ライバルを蹴落とそうと画策する時の表情は醜悪でしかないのに、彼女達は何故それに気付かないのだろう?
(恋心に振り回されるなんて、愚かだ)
女性達の身勝手な姿ばかりを見せられた幼いアイザックは、すっかり恋愛に対する興味を失ってしまった。
そんな中で降って沸いた婚約話。
それは、愚妹が主催したお茶会での事故に起因していた。
貴族令嬢が魔獣に襲われ怪我をしたと聞いた時は、血の気が引いた。
体に傷を持った女性は、それだけで本人の能力など関係無く、理不尽に扱われてしまう。
しかもその原因が『魔獣に襲われたから』だなんて、さぞかし心の傷も深いだろう。
基本的には女性を嫌っているアイザックでも、それを思うと胸が痛んだ。
知らせを聞いて駆け付けた客室には、艶やかな黒髪の小さな女の子が眠っていた。
まだあどけなさの残るその少女は、眉根を寄せて苦悶の表情を浮かべながら、魘されている。
怪我をした時の夢でも見ているのだろうか?
苦しそうに唸り始めた彼女は、やがて大きな悲鳴を上げながら飛び起きた。
涙に濡れたアメジストの瞳が、アイザックに向けられる。
「……大丈夫、か?」
掠れる声でそう問い掛けたアイザックに、応えが返される事は無かった。
彼女は再び意識を失い、ベッドに沈んでしまったから。
それから一時間後には、オフィーリアの家族が迎えに来て、彼女は眠ったままエヴァレット伯爵家へと帰って行った。
後日、額の怪我が原因で、オフィーリアが婚約を解消したと聞いた。
両親はアイザックに『公爵家として責任を取らねばならない。彼女と婚約をしてくれないか?』と頭を下げた。
オフィーリアについては既に調査済みらしかった。
伯爵夫妻も彼女自身も、良い意味でも悪い意味でも地味で、噂らしい噂らしいさえ聞こえて来ない様な人物。
数ある伯爵家の中でエヴァレット家の序列は低い方だけど、ギリギリ高位貴族ではあるので、家格的にも釣り合いが取れない事も無い。
ヘーゼルダイン家はこれ以上の権力を必要としていないから、問題の無い人物であればそれで良しと判断された様だ。
アイザックは、恋に盲目になっている令嬢たちを嫌悪しており、この先自分が恋をする姿なんて想像も出来なかった。
だが、恋をする気が無かったとしても、どうせいつかは誰かと結婚しなければいけない立場なのだ。
だったら、親が良いと言う相手ならば、誰でも構わない。
兄としてフレデリカのお茶会を止められなかった事に、少なからず責任を感じていたのも手伝い、アイザックはアッサリと婚約を受け入れた。
(まあ、あの紫色の瞳はなかなか美しかったし、悪くないかもな)
などと、上から目線で考えていたのだ。
アイザックは、この時、婚約の打診を断られるなんて夢にも思っていなかったし、ましてや自分が恋心に振り回される立場になるなんて、想像も出来なかった。
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