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会談希望。だが現実は甘くない

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 「船ってこれ?」

 「これ」

 「割と普通なんだな」

 リワンに連れられて向かったのは船の停留所。そこにあったのは想像とは違う木造の小型船だった。
 ゴツいフォルムしてるのかと思ったけど意外とコンパクト。
 島の周りは雲海に包まれており、地上でいうところの海が雲なんだと思う。


 「乗って」

 「運転出来るの?」

 「任せとけ」

 「よろしくお願いします」

 船の操縦なんてさっぱりだから運転出来るのはありがたい。大船に乗ったつもりでいこう。


 「翼が生えてるのに天使じゃないなんて、ありえないこともあるんだな」

 「だから、これは……」

 話して信じてもらえるか?クラス転移であぶれて1人異空間で彷徨ってましたって話。
 ……無理だな。なんとか嘘でごまかすしかないか。頑張るだけやってみるか。


 「飾りです……」

 「天使にあこがれたのか。今もあこがれてるわけじゃないよな?」

 「そりゃもちろん。天使なんかクソくらえですよ」

 やべー天使にあったこともないのにとんでもないこと言っちゃったよ。
 まぁ聞かれてなきゃ何言ってもいいよね。陰口って最強だ。


 「だよな。良かった」

 「天使ってどんな感じなの?」

 「翼が生えてていつも空飛んでるな」

 「そうじゃなくて、内面的なことは?」

 「内面?うーん。優しかったと思う」

 「優しかった?」

 「天使は弱者の味方だからな」

 優しかったのにいきなり襲ってきた。何か理由がないとそんなことしないよな。
 元々狂暴ならいきなり襲ってくることもあるかと思ったけど。


 「あとすごい強い」

 「強い?」

 「あぁ。あいつら化け物みたいに強い」

 「へ、へぇー」

 俺、下手したら死ぬのでは?化け物に勝ったことないし、戦ったこともないよ。
 なんとか戦闘にならない方向でいくか。願いを聞くとは言ったが死にたくはない。
 

 「リワンたち人間側が天使に何かやったわけではないんだよね?」

 「ねぇよ。さっきも言ったろ。心当たりもないし、天使に危害を加える動機が無い」

 リワンの言ってることが、正しいなら天使が一歩的に悪いことになる。
 でもリワンだと天使は優しい。弱者の味方だとも言ってる。そんな奴らが何もしてない人たちをいきなり襲うのはやっぱり何か理由があるからな気がする。
 ただ、リワンが嘘をついてる様子も無い。なんか分からなくなってきたな。
 直接天使に話を聞かないといけないな。


 「ん?何か飛んできてる?」

 「え?そんなもの見えないぞ」
 
 城に向かっている途中、向かっている先からこちらに向かっている黒い点がいくつか見える。
 リワンは見えないようだけど。俺の錯覚か?でも近づいてきてる気がするんだよな。


 「あれ!天使じゃない?」

 「は?だから見えないっつうの」

 黒い点が段々近づいてきて分かった。それは人型で翼がある。そんなの天使しかない。
 指差してまで言ってるのにリワンは首を傾げる。なんでリワンには見えないんだよ。


 「ん?あれは……天使!?」

 「だから言ったじゃん!」

 「なら逃げるぞ!」

 「え?なんで?」

 「勝てるわけねぇだろ!下手すりゃここで轟沈して地上に落下だ」

 「それは嫌だけど間に合うの?」

 「間に合わせるしか無いだろ!!」

 リワンは天使の姿を目視すると焦ったようにオールを漕ぎ始めた。
 せっかくここまで来たのに帰るのか。仕方ないのかな


 「なんか光ってない?」

 「マズい!あいつら魔法撃ってきやがった!」

 「魔法?」

 「なんか撃てないのか?助けに来たんだろ!」

 「助けに来たのはごもっともなんですが、あのーそのーですね。魔法を知らないものでして」

 「はぁ!?」

 「存在自体知らなかったので撃つことはちょっと出来ないっていうか」

 「馬鹿言うなよ!!なんとかしろって!!」

 「無理だって!!無理なものは無理!!」

 「あぁ!!もう使えないな!!」

 魔法があるなんて知らないよ!あるなら言ってよ!
 てか、使えたとしてどうやって使うんだよ!
 

 「どんどん光大きなってるって!」

 「精一杯漕いでるって!見りゃ分かるだろ!」

 「知るかァ!見てる余裕なんて無いんだよ!!早く漕げよぉ!!」

 「あぁ!もう!うるさい!」

 こうやって騒いでる間にも光はどんどん大きくなり俺の身長の何倍にもなっていた。
 気のせいか気温が上がったように感じる。なんでだろう。
 「喧嘩して 陽気感じる 船の上」
 辞世の句も作ったし死んでもいいや。18年長いようで短かった。全てに感謝。


 「もう、終わりだ」

 「諦めんなって!!」

 「はいはい。失礼しますよ」

 「え?あなたはお兄さんじゃないですか」

 「どうしたの。そんなこの世の終わりみたいな顔して」

 「終わりですよ。だって後ろ……あれ?止まってる?」

 「今、世界の時は止まってる。だから心配しなくていいよ」

 全てを諦めた俺の前にさっきのお兄さんが現れた。お兄さんはニコニコ顔で現れたけど、そこ雲ですよね。
 この人マジで何者なんだよ。でも、時が止まってるってことはまだ死なないってことかな。少し安心できる。


 「君に説明し忘れたことがあってね」

 「説明?」

 「君自身の説明を全くしてなかった」

 「俺自身?」

 「実は君を異世界に送る際に君のステータスを少しイジっておいたんだ」

 「ステータスを?」

 「この世界にはステータスっていうのがあってね。人間の能力を数値化したものだ。これで確認できる。好きなところに身に着けるといい」

 お兄さんから腕輪をもらい、とりあえず右手につけてみた。ボタンのようなものがついていたので押すと「ステータス表」と書かれたものが浮かび上がった。


 「君はスキルというものを4つ所持している。1つが【目視】というスキル。これは魔法を習得する際に非常に便利になる代物だ」

 「魔法ですか?」

 「この世界には魔法が存在する。これは魔導書を読んで魔術印を脳内に刻み、呪文を覚え、脳内でその魔法を撃っているイメージをして呪文を唱えることで魔法を撃つことが出来る」

 「はぁ……」

 「魔法を習得する過程で【暗記】というのは切っても切れないんだ。【目視】というスキルは魔導書を読んだ際に【暗記】の工程をしなくてよくなる。つまり読むだけで魔法を暗記出来るんだ」

 「すごいですね」

 「他人事みたいに言ってるけど所有者君だから」

 「それは分かりますよ。ただ、実感が湧かないといいますか」

 「だと思って魔導書は用意しておいたよ」

 お兄さんは胸ポケットから小袋を取り出すと俺に渡した。
 は?魔導書は?


 「あの魔導書は?」

 「袋の中に入ってるよ」

 「あ、あった」

 「ちなみにその袋、別次元につながってるから無制限に物を入れられるよ」

 「ドラ〇もんの四次元ポケットってあったんだ」

 袋の中には魔導書が何冊か入っており、【入門編】【中級者編】【上級者編】の3冊が入っていた。
 3冊も入ってる。親切だな。


 「とりあえず【入門編】読んでみなよ」

 「はい」

 お兄さんに進められるままに魔導書を読む。本なんて読まないのにスラスラと読める。
 結構なスピードで読んでるのに全部覚えてる。あっという間に読破してしまった。
 結構な数の魔法あったのに全部覚えてる。脳にいっぱい情報があるのに全部処理出来てる。
 変な感じがする。


 「じゃあ次のスキルは魔法を撃つのを含めて説明するよ。そっちの方が説明しやすいから」

 「はい」

 「次のスキルは【思念】。これは魔法を撃つ過程で重要な【想像】を容易くしてくれるスキル。さっきも言ったように魔法を撃つには頭の中でその魔法を撃ってるイメージを【想像】をしないといけない」

 「はい」

 「魔法の難易度が高ければ高いほどイメージが難しくなる。ただ【思念】のスキルがあればどんな魔法でもイメージが容易になる」

 「はぁ……」

 「試しに魔法を撃ってみな」

 「え?今ですか?」

 生命の危機が迫ってる時にのんきにチュートリアルやってる余裕ありますかね?
 まぁここでバタバタしても意味無いし、試しに撃ってみるか。
 脳内でイメージしながら呪文を唱えると。


 「フレア

 お兄さんのいない方向に魔法を撃ってみた。俺の手から身長の何倍もある火柱が轟音を立てながら放たれた。
 おぉ。これが魔法。威力すごいな。


 「威力も【想像】で加減してね。魔法によっては街消せるから。気を付けてよ」
 
 「あっ、はい」

 「3つ目は【視力】。君の視力は常人の倍以上の視力を持つスキルだ」

 「だけ?」
 
 「だけ」
 
 「最後のスキルは【武具の達人】だ。これは名前の通りだね。どんな武器でも達人のように扱うことが出来る」

 「【武具の達人】?」

 「君は現世で武器なんか取ったことないだろうから。必要なスキルだと思ってね」

 「武器使う必要ありますか?魔法使えるのに」

 「魔法は脳の負担が大きい。君は【思念】のスキルがあるから脳の負担は少ないだろうけど、考えも無しに魔法を撃ってたら脳に限界が来てイメージが出来なくなる。魔法が撃てなくなったら何にもできないだろう。武器の1つや2つ使えた方が戦闘に有利だ」

 「はぁ……」

 「それに近距離戦では圧倒的に武具が強い。考えて戦闘してみて。僕からのプレゼントとして刀を袋の中に入れておいたから」

 「ありがとうございます」
 
 「児手柏包永このてがしわかねながっていう名刀だから無くさないようにしてね」

 なんか結構なものをもらったっぽいな。大事にしないと。
 無くしたらどうなることか。こんなもの渡されたら死ねないじゃん。


 「じゃあ説明は終わったから。あと頑張って」

 「え?助けてくれないんですか?」

 「これくらいだったらどうにかなるでしょ」

 「マジでチュートリアルだけ?」

 「じゃ、バイバイ」

 お兄さんはそのままフェードアウトして消えた。
 あの人マジで何者なんだよ。


 「おい!どうすんだよ!もう死ぬぞ!」

 「大丈夫。焦らなくていい。数秒後には全て分かる」

 「焦れよ。冷静になりすぎだよ」

 よし、さっきのチュートリアルを思い出して脳内で炎を出してるイメージで呪文を唱える。
 深呼吸して前を向く。俺の予想よりも光が来ていた。予想してなかったことに弱い俺はガチ焦りした。


 「え!ヤバ!もう来てるじゃん!早く言ってよ!」

 「言ったよ!!」

 「クソ!とにかく光を消さないと!爆絶炎ダイナミックフレア!」

 焦ってロクなイメージが出来なかった俺の魔法は威力の加減が出来ず、上位互換の魔法が出てしまった。
 天使が撃ってきた光など簡単に粉砕し、遠いところにいる天使すらも粉砕した。
 建物に危害出てないといいな……出てたら損害賠償どうなるかな。


 「やるじゃねぇか!」

 「ハハハ、ま、まぁね」

 「見直したぜ!マジで助けに来たんだな!」

 「じゃあ行こうぜ!」

 明らかに調子が良くなったリワンを横目に袋から残りの魔導書と刀を取り出す。刀を腰に差し、魔導書を城につくまでの間読み始めた。今みたいな威力の魔法撃ったら街が消し飛ぶ。注意しないと。
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