TARROS

in鬱

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昼夜急襲

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 PM13:00
 
 
 「で、新人を探すのはどうするの?」

 「そのために、街中に出たんだろ」

 「肝心なところ無策かよ」

 「前言ったことを思い出せ。じゃ、何かあったら報告しろ」

 「……?了解」
 
 住宅街が並び高層ビルもそびえ立つ街に二人は繰り出していた。一見すると栄えてる街だが、至るところにテロ組織の構成員が潜んでいる。二人はそれぞれ別れて捜索を開始した。


 「あいつは一人か」

 ツルギは路地裏を徘徊しながら以前ゼパムに言われたことを元に新人を探していた。大抵のテロ組織は新人に単独行動はさせない。熟練の構成員と共に行動するのが基本。複数人でいる場合はその中に新人がいる可能性はあると教わった。


 パン パン
 
 「あっちか」

 路地裏を徘徊していると銃声が2回聞こえた。銃声のした方向に急いで向かい、物陰に隠れながら様子を伺う。ルミノソのバッジをつけた複数人が死体をゴミ箱に放り込んでいた。その全員が指輪を付けていた。


 「あいつだな」

 その中で死体に慣れておらず怯えながら死体をゴミ箱に放り込む一人がいた。こいつが新人だと確信し、懐からサイレンサー付きの銃を取り出す。


 「誰だ?」

 ピュン

 ツルギは物陰から飛び出し、近くにいた男の脳天を撃ち抜いた。
 
 
 「殺れ!!」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 他の男たちが懐から銃を取り出そうとしたが、ツルギは即座に発砲し正確に脳天を撃ち抜いた。残されたのは新人だと確信した男だけだった。


 「知ってることを教えてくれれば助ける」

 「え?」

 「お前の知ってることを全て話せ。そしたら、責任を持ってお前を生かす」

 「ホントか!?」

 「あぁ。嘘じゃない」

 ツルギは尻餅をついて震える男に近づき銃口を向けた後銃をしまった。しゃがんで男と同じ目線で優しく話しかける。男はツルギに縋りつき何度も体を揺らす。


 「俺は入ったばかりであんまり知らないんだが……」

 「組織のアジトはどこだ?」

 「いっぱいあるから全部は知らない。でも、俺が出入りしていたのはプルスの南東にある洋館だ」

 「そこには何人いる?」

 「だいたい常駐してるのは10人くらい。集合がかかると50人は集まる」

 「そこの代表者は?」

 「名前はフリッツ。見たことはない」

 「洋館の構造は?」

 「分からない。俺も5回しか入ったことない」

 「……そうか」

 新人にしては上出来なほどの情報を持っていた。まだ何か聞けないかと思い尋問を続ける。


 「ルミノソのトップは分かるか?」

 「そんなの知るわけないだろ」

 「だよな。フリッツってやつはいつも洋館にいるのか」

 「多分」

 「フリッツは組織でも上の立場か」

 「あぁ。洋館は組織の支部みたいなものだって聞いた。それの管理者だから結構上の人だと思う」

 「わかった」

 ツルギはだいたい聞けることは聞いたと判断して立ち上がる。


 「おい!知ってることは全部話したんだ!助けてくれよ!」

 「あぁ、そうだな」

 「あ?なんの冗談だよ」

 ツルギは再び懐から銃を取り出し男に向ける。


 「組織のことを喋ったんだ。遅かれ死ぬ運命だ」

 「ふざけんな!俺はお前が助けてくれるって言うから話したんだ!そういう約束だろ!」

 「テロリストと交わす約束はない」

 ピュン

 ツルギの銃から放たれた銃弾は無常にも男の脳天に突き刺さった。ツルギは近場にいた人間へ合図を送るとその場を後にした。
 近場にいた人間はその場にあった死体を全て回収し適切に処理した。


 「情報を聞き出せた」

 「俺もだ。バーに戻るぞ」

 ツルギはゼパムと無線で会話をした後バーに戻った。


 「王室撤廃!我々の血税を生活費に充てるな!」

 「ぜひ!私、ぺドルをよろしくお願いします!」

 路地裏にまで街頭演説が聞こえていた。チェスロバではまもなく選挙が行われる。
 今、演説を行っているのは左翼の代表。この国ではチェスロバの象徴として王室が存在する。
 左翼は国民の血税を王室が吸っているとして王室の解散を選挙公約に掲げている。
 ツルギとゼパムは左翼の演説など耳にも入れずその場を立ち去った。
 
 
 ――――――――――
 PM19:00


 「奴らが集まるのはプルスにある洋館だと聞き出せた」

 「こっちも。プルスの南東にある洋館だって」

 「プルスの南東か。あの地域は山に囲まれて隠れやすいな」

 「考えられてる。情報を漏らしやすい新人に最小限の情報を与えるだけでなく、集める場所も見つかりにくいところ」

 「なるほどな。新人たちはプルスの洋館に集められてたわけだ」

 「洋館に突入?」

 ゼパムとツルギが集めてきた情報は全く一緒であった。新人はプルスの洋館に集められている。新人たちが集まる場所でリクに繋がる情報は掴めないだろうと二人は思った。


 「その価値があるか……やってみなきゃ分からんことだが」

 「おそらく無価値。せめて管理者から話を聞ければいいけど」

 「それだな。本人に話は無理だろうがフリッツの部屋くらいあるだろ。その部屋になら何かあるかもな」

 「構造をコバンに教えてもらいなよ」

 「もう聞いてる。まだ返信は無いが」

 ゼパムの携帯が鳴り通知を確認するとコバンから返信だった。コバンも新人としてプルスの洋館に集められていた。洋館の構造だけでなく、警備の人数など詳細に内部情報が書かれていた。警備は常駐している10人で全員ライフル銃を所持している。2人は正面の警備、8人は洋館を徘徊している。


 「きたぞ、洋館の構造だ」

 「フリッツの部屋は2階か」

 「窓が無いな。外から直接侵入は出来ないか」

 「近くの部屋に入ってから移動しないといけないね」

 「廊下に出ないといけないか。そこで警備と鉢合わせたら作戦終了だな」

 「警備をどこかに寄せ付けないといけないね」

 「そうだな」

 ゼパムは少し考えこみツルギを見るとニヤッと笑った。ツルギはゼパムのニヤケ顔を見て呆れたようにため息をついた。


 「コバンと一緒に中で一騒動起こしてこい」

 「だろうなとは思った」

 「警備を全員集めろよ。じゃなきゃ侵入出来ないからな」

 「はいはい。で、いつ?」

 「そうだな、保険をかけて明後日だ」

 「2日で何か掴める?」

 「コバンなら出来るだろ。それに掴むものは必ずしも情報とは限らんからな」

 ゼパムの携帯にメールが届く。送り主はコバンであった。


 「良い知らせか、悪い知らせか。どっちだろうな」

 「前者にかける」

 メールにはコバンがルミノソと敵対する組織に攻撃を仕掛けるメンバーに選ばれたというメールだった。
 ゼパムはメールを見て口角を上げた。ツルギもゼパムの携帯を覗き込み首を縦に何度も振った。


 「よし、俺らもいくぞ」

 「了解」

 「あの、弟は無事なんですか?」

 後ろから声がして振り返るとメイカが心配そうな表情で立っていた。ツルギはメイカの問いかけを無視して外に出る。


 「大丈夫だ。俺たちを信じろ」

 「お願いします」

 「あぁ、任せとけ」

 ゼパムは穏やかな表情でメイカの肩を優しく叩き、声をかけると外に出て行った。メイカはゼパムの後ろ姿に深く頭を下げた。


 「態度冷たすぎるだろ」

 「仕方ないでしょ」

 「……行くぞ」

 外ではフードで口元を隠したツルギがゼパムを待っていた。ゼパムはツルギにメイカへの態度を咎める。ツルギは仕方なさそうに首を縦に振った。ゼパムはツルギの態度に1つため息をついた。
 二人はフードで口元を隠し、完全に日が落ちた21:00の街中を足音を立てずに歩いていた。道中、ゼパムはコバンから送られてきた作戦概要メールを眺めながら策を練っていた。2人はチェスロバの首都・ハラプ郊外に止めてある車に乗り込み、ルミノソが攻撃を仕掛ける地点まで向かった。
 ルミノソは構成員を殺された報復として敵対組織であるツパク・アマルフィの1拠点を破壊することを決定した。発見された死体からツパク・アマルフィのバッジが出てきたことでルミノソは勘違いを起こした。
 ターゲットとなった拠点はチェスロバ王国とクラクフ共和国の国境沿いにあるクロノフ郊外の拠点。攻撃を仕掛けるメンバーは10人程度。いずれもルミノソの中では熟練の兵士。コバンは実技試験で高い能力を示したことで特例として同行している。



 ――――――――――――

 
 車で最短ルートを進んでいるため舗装されていない道を通ることもあるため高度な運転技術が要求される。車の運転はツルギの方が得意なのでツルギが運転席に座っている。ゼパムは助手席に座り、ツルギに作戦を伝えながらコバンにスマホで作戦概要のメッセージを送る。
 

 「で、作戦は?」

 「ルミノソの作戦を成功させる」

 「手を貸すってこと?」

 「今回の奇襲が成功すればコバンの組織内の評価は上がる。そうすればリクに関する作戦に関われるかもしれない」

 「成功させたらツパクが黙って無いでしょ。全面戦争になってリクどころじゃなくなる」

 「でもルミノソは攻撃を仕掛ける。ルミノソは全面戦争になることを承知で決定したはずだ。つまり、リクに割く余裕があるってことじゃないか」

 「確かにルミノソは一時的な感情で動く組織じゃない。ゼパムの言うことは一理ある」

 「それにリクは一般人だ。一般人を堂々と誘拐したってことはそれほどデカい山か、リクがそれほど大きな価値を持っているのかだな」

 「現段階はルミノソの作戦を成功させること」

 「あぁ。俺たちはセキュリティー室の掃討だ。俺たちが速やかに内部の人間を始末、その後コバンがやってきてコバンがやったことにする。話はつけてある」

 セキュリティー室は拠点についている防犯カメラ全てを確認できる。セキュリティー室さえ使用不能してしまえば索敵能力は無くなる。ルミノソの侵入も容易くなるためだ。

 
 「セキュリティー室の場所は?」
 
 「今調べさせてる。着くころには分かるはずだ」

 「建物の構造は?」
 
 「フロアが3個ある。詳しい事はまだだ」
 
 「それも分かるんだよね?」
 
 「大丈夫だ。必ず分かるからもっとスピード上げろ」
 
 「はいはい」

 肝心な情報が分からずツルギは呆れたように返事をする。車はすでに法定速度をオーバーしていたがさらにスピードを上げて目的地に向かう。
 
 
 「ここら辺で止めてくれ」

 「目的地から2キロも離れてるけど」

 「近すぎて気づかれたら終わりだ。安全に行く」

 「了解」

 ツルギはブレーキを踏み車のスピードを落とす。車が完全に停車し、ツルギが降りようとするとゼパムが制止した。
 ツルギは半分開けた扉を閉め席に座りなおす。

 
 「で、セキュリティー室はどこに?」
 
 「三階、一番上のフロアだ。警備が手薄なルートを通っていくぞ」

 「了解」
 
 「あと少しでルミノソがやってくる、急いでいくぞ」
 
 「はいはい」
 
 二人は口元をフードで隠すと車を下車する。足音を立てずに走って目的地に向かう。
 ゼパムが先を行き、ツルギがその後を2m離れて進む。



 ――――――――――
 AM1:00
 
 
 「ここだ」

 「これが本部じゃないのか。仕事が無くなるのは当分先みたいだね」

 「死ぬまでに無くなればいいがな」

 敵拠点が見えてから草むらに隠れて匍匐前進で前に進み、ようやく目的地に辿り着いた。
 二人の前に現れたのは塀で覆われた刑務所のような建物。ここは廃工場でありルミノソが改造して利用している。
 ツルギは目の前の要塞のような建物を見て呆れた。ゼパムもツルギと同じことを思っていた。


 「ここから?」

 「あぁ、以前攻撃を受けて穴が開いたが修理をケチったらしい」

 「これくらいの穴じゃケチるよ」

 二人の視線の先にあったのは30㎝ほどの穴。ゼパムが体をねじ込ませて穴を潜る。
 ゼパムが潜り終わった後、ツルギは肩を外し手を伸ばしてけのびのような体勢で体を細くして穴を潜る。
 潜り終わってから関節を治す。そして銃を取り出し、ゼパムの後をついていく。


 「あの警備が邪魔だな」

 「そっちに合わせる」

 ゼパムの言う通り警備は薄く、ゼパムのルートではセキュリティー室のある3階まで誰とも会わなかった。
 セキュリティー室の前には2人警備がおり、セキュリティー室に入るには排除するしかない。
 ゼパムは銃口を警備の一人に向ける。ツルギももう片方に銃口を向ける。
 

 ピュン ピュン

 「行くぞ」

 「了解」

 ゼパムがトリガーを引いた0.1秒後にツルギもトリガーを引き、二人の銃弾はほぼ同時にそれぞれの脳天に突き刺さった。
 ゼパムは警備を葬り去った後ツルギの方を見ると呆れたように笑った。


 「3、2……」

 セキュリティー室の前に来るとゼパムがドアノブに手をかけ小声でカウントを始める。ツルギは銃を構えて待つ。
 ゼロになるタイミングで扉を開け、ツルギは中にいた人間の姿を見てトリガーを即座に引く。
 

 ガチャ ピュン ピュン

 「これでクリア」

 「よし撤収するぞ」

 中には二人おり、1人を葬り去ったあともう1人に反応させる隙も与えずに発砲した。
 ゼパムはツルギの能力に笑うしかなかった。
 部屋に誰もいないことを確認してから二人は撤収し、すぐに拠点の外に出る。


 「来たみたい」
 
 「見つかるわけにはいかないからな。早く戻るぞ」

 二人が穴から外に出ると同時に中で複数の銃声が鳴り始めた。
 ルミノソが到着し攻撃を仕掛け始めた。二人は急いで車を止めた場所まで戻った。
 
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