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スマイルという感染症
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ある廃教会。人目にもつかない場所に放置され、時を忘れたこの教会に一人の老人が座っていた。
ステンドグラスには何本もの人間の手の指を合わせて出来たスマイルマークが飾られている。
老人は手を合わせ何かに祈っているわけでもない。この老人は”何か”を待っている。その表情には笑顔が浮かんでいた。
すると、扉がキキィと甲高い音を立ててゆっくりと開いた。何者かがスタスタと入ってくる。
「あぁ、主様戻られましたか」
老人は後ろを振り返らずに口を開く。入ってきた男は老人が座っている席を通り過ぎて、スマイルが装飾されたステンドグラスの前に行くと口角を上げ天を仰いだ。
「ハハハ!いつ見ても良いよ!ここは最高だ!!」
男は天を仰ぎ、高々に笑った。男の笑い声を聞いて老人も穏やかな笑みを浮かべる。
スマイルで埋め尽くされた廃教会は世界を笑顔で埋め尽くすために行動しているこの男の今の根城である。
男は連続殺人鬼として世間から知られている。またの名をスマイルキラー。
警察も必死に捜査を行っているのだが、未だに消息を掴めていない。
「主様、最近この辺りにも警察が来るようになりました。時にそろそろ居所を変えられては?」
「そうかぁ。ここは気に入っているんだけどなぁ。それなら仕方ない。ここともお別れだね」
「主様がいなくなると寂しくなりますね」
「こんな素敵な場所ともお別れしないといけなくなるのは僕も寂しいよ」
ただの会話に過ぎないのだがお互いに笑顔を絶やさない。
老人が言った通り、人目のつかない場所にあるこの廃教会ですら警察の目が届こうとしている。
男は名残惜しそうに教会を見渡した。その目には少しばかりの寂しさが写っている。
「もうお出かけになるのですか?」
「うん。僕にはやらなきゃいけない事があるからね」
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
男は少し廃教会に滞在するとまた出かけて行ってしまった。
老人は男の背中を名残惜しそうに見つめた。だが、その顔には笑顔が浮かんでいた。
――――――――
「良い街だ。良い街だからこそ、僕が笑顔で満たさないとね」
「だけど、警察が邪魔だな」
男は人が多く住む街に来ると、街を出歩く人々を見つめ笑顔で言った。
だが、街をうろつく警察の姿を見て面白くなさそうな顔をする。
「………………はぁ」
「いい人がいた」
男が街を歩いていると人里離れた場所に向かおうとしている男性に会った。
男性は暗く絶望した表情だった。フラフラと歩き、前などろくに見ていない。
人々を笑顔にするという目的がある男にとって疲れ切って笑顔とは縁も無い人は好物だった。
「この場所じゃ無理かな。このまま付いていこう」
男はフラフラと歩く男性の後をついていくことにした。
男性と警察、2つの事に気付かれないように尾行をするのは至難の業だが男は難なくこなす。
「はぁ…………これで全部終わる」
数時間後、男性はある橋にいた。橋の真ん中で下にある川を見てそう呟いた。
周りには誰もおらず、日が暮れ街頭も無いこの辺りは真っ暗だった。
男性が飛び降り防止の柵を乗り越えようとしたところで男は笑顔で近づいた。
「ハハハ!」
「……!!何ですか?邪魔をする気ですか?」
「ハハハ!」
「私はもう疲れたんです。邪魔なんかしないでください」
「ハハハ!!」
「本当に何なんですか?」
男は男性の質問に答えず、ただ笑顔で男性に近づく。
その様子に恐怖を覚えた男性は男が近づく度、一歩下がって距離を取る。
三歩ほど下がったところで男性の足が動かなくなった。すくんでしまったのだ。
何も言わずにただ笑顔で近づいてくる男に今までに感じたことのない恐怖が湧いてくる。
「ハハハ!笑顔になりなよ!笑顔は幸せなんだよ!」
「な、何を言ってるんですか?」
「笑いなって!ハハハ!」
男性は男が目の前まで来ると腰を抜かして尻もちをついてしまった。
男は笑顔で男性の恐怖に支配された顔を見る。
男性の表情を見た男は懐から暗闇でも光る切れ味の良さそうなナイフを取り出した。
ナイフを男性の顔の前に突き出し、再び笑い出す。
「あ、ああ」
「ほら!笑いなよ!幸せになりなよ!!」
「あ、あ、あぁぁ」
男性は目の前に突き出されたナイフを見て呼吸が荒くなる。
言葉を口に出そうとしても恐怖で支配された口が上手く回らない。
ナイフの先端が段々近づいてきて眼球のすぐ前まで来た。
男性の視線はナイフの先端一点だけに集中している。
「ほら!ほら!ほら!笑顔になりなよ!ハハハ!」
「ハァ……ハァ……あ、あ、あ、あぁぁ」
過呼吸になり呼吸も上手くいっていない。
男性の脳内は恐怖と「笑え」という強迫観念に支配されていた。
笑わなければ死ぬ。という結論に本能が至った。
「ハハ、ハハハ!」
男性の口から溢れ出る笑い声。笑いたいわけではない。
だが、出てしまうのだ。気付けば口角も上がり立派な笑顔になっていた。
「ハハハ!いいねぇ!その顔だよ!!」
「ハハ、ハハハ!ハハハ!」
「最っ高だ!!素晴らしい!!」
男は男性の笑顔を盛大な拍手で迎えた。
いつもよりも上機嫌そうな笑顔で男性を見つめる。
「また一人笑顔になった。ハハハ」
男はナイフをしまうとその場を後にした。
男の笑顔は達成感が感じられる。愉悦が混じった笑顔だった。
男性は止まらない笑顔にパニックになっていた。男を止める余裕など無く、自分の呼吸を整えるので精一杯だった。
――――――――
「警察だ!手を挙げろ!」
翌々日、男が根城にしていた廃教会に警察が突入した。全員拳銃を手に持ち、銃口を辺りに向けながら入ってくる。
中には口元が裂かれ手の指の無い死体が何体も天井から吊るされ、ステンドグラスには手の指で作られたスマイルマークが飾ってある。廃教会の中は異臭が充満しており、刑事も思わず鼻を塞いだ。
気味の悪い廃教会である。突入してきた警官の内数人が目の前の光景と異臭に耐え切れず、思わず吐いてしまった。
「なんだこれは?」
「これが、我が主が望む世界ですよ」
刑事が吊るされた死体を見ながら呟くとどこからともなく老人がやってきた。
刑事はすぐさま拳銃を向けるが老人は手を挙げるどころか怖がってすらいなかった。
老人の顔は笑顔で、どこか不気味さを感じる。
「お前以外にも住人がいるだろ」
「もういませんよ。どこにいるかは私も分かりません」
「なんだと……!てめぇ警察なめてんのか?」
笑顔で飄々と答える老人に刑事は詰め寄り拳銃を目の前に突きつける。
だが、老人は一切臆せずに刑事を笑顔で見つめる。
笑顔を崩さない老人に刑事は顔をしかめた。
「時にあなたに問いたい」
「なんだ?」
老人が穏やかな笑顔で口を開いた。
刑事は他の警官に捜査を命じて、顔をしかめながら老人の質問に耳を傾けた。
「時にあなたは主の罪は何だと思っているのですか?」
「そんなもん、大勢の人を殺した事に決まってんだろ」
「では、時にあなたは主の罰は何だと思っているのですか?」
「これだけの人数を殺したんだ。当然、死刑だろ」
「ほう。これまで数多の人間を殺した罪を主一人の命で罰を済ますのですか?」
「……」
老人の言葉に刑事は言葉を詰まらせた。
少し間を開けて刑事は口を開いた。
「それは法が決めることだ。俺が決めることじゃない」
「刑事さん。あなた自身はどう思っているのですか?」
「お前の言う主は殺人を犯してのうのうと生きている。あいつは絶対に捕まえないといけない。罪と罰の話をする前にそこからだ。多くの人を痛めつけ、悲しめた奴を許すわけにはいかない」
「そうですか。執念深い方だ」
「お前の話は署で聞かせてもらうぞ」
「えぇどうぞ」
老人は刑事に連れられパトカーに乗車した。笑顔を全く崩すことがなかった。
警察によって徹底的な捜査が行われたが首謀者の証拠は何1つ出てこなかった。
廃教会にいた老人も首謀者に関してろくな情報を持っておらず、無駄足を踏んだだけだった。
「クソが!」
全ての報告を聞いた刑事は思いっきり机を叩いた。
歯を食いしばり、拳を握り締める。
「逃げられると思うなよ」
刑事は怒りの感情に包まれながら言葉を振り絞った。
――――――――――
「ハハハ!!!!!!!」
男は目の前の光景を見て嬉々とした笑い声が溢れ出る。
目の前には口元を裂かれ笑みを浮かべているようになっている死体とただ笑っている人間たち。
笑いたくなくても笑ってしまう人間たち。
笑顔に包まれた光景。これこそ男の望むものであった。
「これが僕の望む世界だよ!幸せな世界だ!!ハハハ!」
「もっともっと笑顔を、幸せを増やさないとね。ハハハ!」
「みんなもそう思うよね?ハハハ!」
「「「ハハハ!!!!!!!!!!!!!!」」」
見る者全員が笑顔であるこの光景に男は一層口角を上げた。
ステンドグラスには何本もの人間の手の指を合わせて出来たスマイルマークが飾られている。
老人は手を合わせ何かに祈っているわけでもない。この老人は”何か”を待っている。その表情には笑顔が浮かんでいた。
すると、扉がキキィと甲高い音を立ててゆっくりと開いた。何者かがスタスタと入ってくる。
「あぁ、主様戻られましたか」
老人は後ろを振り返らずに口を開く。入ってきた男は老人が座っている席を通り過ぎて、スマイルが装飾されたステンドグラスの前に行くと口角を上げ天を仰いだ。
「ハハハ!いつ見ても良いよ!ここは最高だ!!」
男は天を仰ぎ、高々に笑った。男の笑い声を聞いて老人も穏やかな笑みを浮かべる。
スマイルで埋め尽くされた廃教会は世界を笑顔で埋め尽くすために行動しているこの男の今の根城である。
男は連続殺人鬼として世間から知られている。またの名をスマイルキラー。
警察も必死に捜査を行っているのだが、未だに消息を掴めていない。
「主様、最近この辺りにも警察が来るようになりました。時にそろそろ居所を変えられては?」
「そうかぁ。ここは気に入っているんだけどなぁ。それなら仕方ない。ここともお別れだね」
「主様がいなくなると寂しくなりますね」
「こんな素敵な場所ともお別れしないといけなくなるのは僕も寂しいよ」
ただの会話に過ぎないのだがお互いに笑顔を絶やさない。
老人が言った通り、人目のつかない場所にあるこの廃教会ですら警察の目が届こうとしている。
男は名残惜しそうに教会を見渡した。その目には少しばかりの寂しさが写っている。
「もうお出かけになるのですか?」
「うん。僕にはやらなきゃいけない事があるからね」
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
男は少し廃教会に滞在するとまた出かけて行ってしまった。
老人は男の背中を名残惜しそうに見つめた。だが、その顔には笑顔が浮かんでいた。
――――――――
「良い街だ。良い街だからこそ、僕が笑顔で満たさないとね」
「だけど、警察が邪魔だな」
男は人が多く住む街に来ると、街を出歩く人々を見つめ笑顔で言った。
だが、街をうろつく警察の姿を見て面白くなさそうな顔をする。
「………………はぁ」
「いい人がいた」
男が街を歩いていると人里離れた場所に向かおうとしている男性に会った。
男性は暗く絶望した表情だった。フラフラと歩き、前などろくに見ていない。
人々を笑顔にするという目的がある男にとって疲れ切って笑顔とは縁も無い人は好物だった。
「この場所じゃ無理かな。このまま付いていこう」
男はフラフラと歩く男性の後をついていくことにした。
男性と警察、2つの事に気付かれないように尾行をするのは至難の業だが男は難なくこなす。
「はぁ…………これで全部終わる」
数時間後、男性はある橋にいた。橋の真ん中で下にある川を見てそう呟いた。
周りには誰もおらず、日が暮れ街頭も無いこの辺りは真っ暗だった。
男性が飛び降り防止の柵を乗り越えようとしたところで男は笑顔で近づいた。
「ハハハ!」
「……!!何ですか?邪魔をする気ですか?」
「ハハハ!」
「私はもう疲れたんです。邪魔なんかしないでください」
「ハハハ!!」
「本当に何なんですか?」
男は男性の質問に答えず、ただ笑顔で男性に近づく。
その様子に恐怖を覚えた男性は男が近づく度、一歩下がって距離を取る。
三歩ほど下がったところで男性の足が動かなくなった。すくんでしまったのだ。
何も言わずにただ笑顔で近づいてくる男に今までに感じたことのない恐怖が湧いてくる。
「ハハハ!笑顔になりなよ!笑顔は幸せなんだよ!」
「な、何を言ってるんですか?」
「笑いなって!ハハハ!」
男性は男が目の前まで来ると腰を抜かして尻もちをついてしまった。
男は笑顔で男性の恐怖に支配された顔を見る。
男性の表情を見た男は懐から暗闇でも光る切れ味の良さそうなナイフを取り出した。
ナイフを男性の顔の前に突き出し、再び笑い出す。
「あ、ああ」
「ほら!笑いなよ!幸せになりなよ!!」
「あ、あ、あぁぁ」
男性は目の前に突き出されたナイフを見て呼吸が荒くなる。
言葉を口に出そうとしても恐怖で支配された口が上手く回らない。
ナイフの先端が段々近づいてきて眼球のすぐ前まで来た。
男性の視線はナイフの先端一点だけに集中している。
「ほら!ほら!ほら!笑顔になりなよ!ハハハ!」
「ハァ……ハァ……あ、あ、あ、あぁぁ」
過呼吸になり呼吸も上手くいっていない。
男性の脳内は恐怖と「笑え」という強迫観念に支配されていた。
笑わなければ死ぬ。という結論に本能が至った。
「ハハ、ハハハ!」
男性の口から溢れ出る笑い声。笑いたいわけではない。
だが、出てしまうのだ。気付けば口角も上がり立派な笑顔になっていた。
「ハハハ!いいねぇ!その顔だよ!!」
「ハハ、ハハハ!ハハハ!」
「最っ高だ!!素晴らしい!!」
男は男性の笑顔を盛大な拍手で迎えた。
いつもよりも上機嫌そうな笑顔で男性を見つめる。
「また一人笑顔になった。ハハハ」
男はナイフをしまうとその場を後にした。
男の笑顔は達成感が感じられる。愉悦が混じった笑顔だった。
男性は止まらない笑顔にパニックになっていた。男を止める余裕など無く、自分の呼吸を整えるので精一杯だった。
――――――――
「警察だ!手を挙げろ!」
翌々日、男が根城にしていた廃教会に警察が突入した。全員拳銃を手に持ち、銃口を辺りに向けながら入ってくる。
中には口元が裂かれ手の指の無い死体が何体も天井から吊るされ、ステンドグラスには手の指で作られたスマイルマークが飾ってある。廃教会の中は異臭が充満しており、刑事も思わず鼻を塞いだ。
気味の悪い廃教会である。突入してきた警官の内数人が目の前の光景と異臭に耐え切れず、思わず吐いてしまった。
「なんだこれは?」
「これが、我が主が望む世界ですよ」
刑事が吊るされた死体を見ながら呟くとどこからともなく老人がやってきた。
刑事はすぐさま拳銃を向けるが老人は手を挙げるどころか怖がってすらいなかった。
老人の顔は笑顔で、どこか不気味さを感じる。
「お前以外にも住人がいるだろ」
「もういませんよ。どこにいるかは私も分かりません」
「なんだと……!てめぇ警察なめてんのか?」
笑顔で飄々と答える老人に刑事は詰め寄り拳銃を目の前に突きつける。
だが、老人は一切臆せずに刑事を笑顔で見つめる。
笑顔を崩さない老人に刑事は顔をしかめた。
「時にあなたに問いたい」
「なんだ?」
老人が穏やかな笑顔で口を開いた。
刑事は他の警官に捜査を命じて、顔をしかめながら老人の質問に耳を傾けた。
「時にあなたは主の罪は何だと思っているのですか?」
「そんなもん、大勢の人を殺した事に決まってんだろ」
「では、時にあなたは主の罰は何だと思っているのですか?」
「これだけの人数を殺したんだ。当然、死刑だろ」
「ほう。これまで数多の人間を殺した罪を主一人の命で罰を済ますのですか?」
「……」
老人の言葉に刑事は言葉を詰まらせた。
少し間を開けて刑事は口を開いた。
「それは法が決めることだ。俺が決めることじゃない」
「刑事さん。あなた自身はどう思っているのですか?」
「お前の言う主は殺人を犯してのうのうと生きている。あいつは絶対に捕まえないといけない。罪と罰の話をする前にそこからだ。多くの人を痛めつけ、悲しめた奴を許すわけにはいかない」
「そうですか。執念深い方だ」
「お前の話は署で聞かせてもらうぞ」
「えぇどうぞ」
老人は刑事に連れられパトカーに乗車した。笑顔を全く崩すことがなかった。
警察によって徹底的な捜査が行われたが首謀者の証拠は何1つ出てこなかった。
廃教会にいた老人も首謀者に関してろくな情報を持っておらず、無駄足を踏んだだけだった。
「クソが!」
全ての報告を聞いた刑事は思いっきり机を叩いた。
歯を食いしばり、拳を握り締める。
「逃げられると思うなよ」
刑事は怒りの感情に包まれながら言葉を振り絞った。
――――――――――
「ハハハ!!!!!!!」
男は目の前の光景を見て嬉々とした笑い声が溢れ出る。
目の前には口元を裂かれ笑みを浮かべているようになっている死体とただ笑っている人間たち。
笑いたくなくても笑ってしまう人間たち。
笑顔に包まれた光景。これこそ男の望むものであった。
「これが僕の望む世界だよ!幸せな世界だ!!ハハハ!」
「もっともっと笑顔を、幸せを増やさないとね。ハハハ!」
「みんなもそう思うよね?ハハハ!」
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