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決別そして接近
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クラスメイトの鹿島茜は俺と同じ、神の魂を宿した人間だった
だが、鹿島は俺に対して明確な殺意を抱いていた。今思えば話しかけてきたあの時も殺意がこもった目をしていたかもしれない
あの時の俺は鹿島にいきなり話しかけられ動揺していたため鹿島の顔を直視は出来なかった
昼休みに屋上に来いと鹿島に言われ向かったが、そこで待っていたのは二度目の死だった
俺の言葉に耳を傾けようともせず殺し合いになった。俺が意識を失わなければオーデンは出てこない
意図的に意識を失うなど出来ないため俺は一方的にボコられた
俺が意識を失う前に見たのは2mはある剣が俺の体に勢いよく向かって来るところだった、人生で二度目の死を覚悟した
その後は知らない。太陽がまだ南にある頃に目を覚ました。俺の体には何の異常もなかった。あれだけボコボコにされたはずなのだが傷跡は一つも残っていなかった
オーデンの不死身という能力に助けられた。これで早くも二度目だ。これからお世話になる機会がないことを願う
それから何事も無かったかのように授業は進み、HRも終わった
学校を出て駅に着き、電車を待つ途中駅のホームの椅子に腰掛ける。すると昼休み逃げ回っていただけなのに感じたことのない肉体疲労が体を襲った
オーデンが戦った分の疲労も溜まっているんだろう
そういえばオーデンは今も何をしているんだろうか。目を覚ましてからかなりの時間は経っている
オーデンに呼びかけてみるが返事はこの前と同じようにない。また独り言で終わってしまう
そんなことをしていると電車が予定時刻通り15:24に到着する
満身創痍の体を起こし人がまばらの電車に乗り込んだ
あれから40分程電車で揺られたがオーデンは未だに沈黙を貫いている
俺でもおかしいと思い始めてきた。一緒の体で過ごし始めて3日も経っていないがさすがにおかしくないか
こういうのも神の気まぐれなんだろうか
昨日みたいなことが起こるかもしれない。そう言ったのはオーデンだ
言い出しっぺが沈黙していては鹿島の時のようにボコボコにされる未来が見える
最寄り駅に到着し電車を下車する
相変わらずホームには人がいない。降りる人も俺を含めても両手で数え切れる人数しかいない
ほぼ無人駅の改札を抜け駅を出る。太陽はほぼ沈みかけているにも関わらず、強い日差しを向けてきている
この前のことが記憶に新しいため辺りを警戒しながら家に帰る。何事もなく帰ってくる事ができた
(んーよく寝た)
家の扉を開けた同時にオーデンの声が聞こえた。だが、内容に耳を疑い足を一瞬止めた
俺が心配していた原因が睡眠だとは知る由もない
全く人騒がせな神だ
(寝てただけかよ)
(流石に疲れちゃったね。祐伸君も疲れてるでしょ?)
疲れていないといえば嘘になる
本音を言えばベッドにダイブしたいがやるべきことがある
(聞きたいんだけどなんで生物は神の力の影響を受けると元に戻らないの?)
(世界は生物に修正力の代わりに生命力を与えたからだね)
生命力があるから修正力は働かない
確かに生物の生命力は驚異的だが、それだけで釣り合わせて良いのか
(そんなので釣り合わせていいの?)
(生命力を侮ってはいけないよ。生物は生命力のおかげでここまで生きてるんだから)
人類の歴史を見れば伝染病によって死滅しかけたこともあった
医術の進歩とか色々あるんだろう
だが生き延びてこの時代を生きている
(そんなこと誰から聞いたの?)
(鹿島が言ってた)
鹿島は俺よりも前に神の魂を宿しているんだろう
俺の知らない世界の真理まで知っているのだから
(いやー参ったね。あんな奴とまた戦うことになるのは避けたいけど今の様子だと厳しいかな)
(殺し合いをする必要はないと思うんだけど)
(それは同意見。自我がある者同士で殺し合うなんて馬鹿のすることだよ。殺し合ってる場合じゃないのに)
オーデンも俺と同じ意見を持ってることが分かり安心した
最後の言葉には引っかかりを覚えた。焦っているような呆れているような様子だ
オーデンの目的は何なんだ?これは聞いたことがなかった
(オーデンの目的は何?)
(僕の目的はエデンの神たちの野望を止めること)
(エデンの神たち?野望?)
聞いたことのない言葉と野望というワードが出てきた
エデンの神たちが何かをしようとしているのは理解できた
(神はエデンという場所に住んでいる。僕もかつてはそこに住んでいた
だけど、そこの神々の野望に反対したら追放された。でも、やつらの野望だけは止めないといけない)
(野望?)
(やつらは地球こそがエデンだとして人類を滅ぼそうとしてる)
悪の組織が人類滅亡を目論むのは理解できるが、神が目論んでいるのは理解しがたい
しかも言ってること滅茶苦茶だぞ。エデンに住んどいて地球こそがエデンとか、何個エデン量産すれば良いんだよ
神って頭飛んでる思想持ってるやつしかいないのか
(おかしいでしょ?そんな馬鹿げたことはやめろって言ったんだけどね。聞く耳を持たなかった)
(まともな神いないの?)
(今のエデンには物事を正常に考えられないやつがほとんどだよ。反対派は僕みたいに追放される)
オーデンはそうとう怒っているのが聞いて分かる
いつもとは違う声色をしている
(あいつらを止めるためには戦うしかない)
(イカれた神たちとどうやって戦うの?)
(君の体を借りる)
(俺なんかの体で勝てるの?)
(勘違いしてるね。神に実体はないよ
エデンの神たちも魂だけの存在。君が見たことある神の絵は人間が神を具現化させたもの
本当はそんな体を持ってるわけじゃない)
神は魂だけの存在。この真実は俺のこれまで見てきたものを覆すことだ
俺が見たことのある神の絵は全て人間が想像して描いた架空の絵
(やつらは地上に降りて人間の体を強制的に支配して滅亡させる)
(相性が良ければ支配は出来ないよね?)
(神の魂は人間の魂よりも圧倒的に強い。その気になれば相性関係なく、元々の魂を喰うだろうね)
(じゃあオーデンもその気になれば俺の魂を喰うの?)
(僕はそんなことしないよ。神には僕みたいに共生を望むものと支配を望むものの二種類存在するんだ
共生を望む場合は相性が良ければ暴走することはない。ただ、支配を望む場合は3つのパターンが存在する
1つはうまく支配して神が体を思うままに操れる場合。この場合は暴走するかしないかは神次第だ
もう一つはお互いがお互いを拒絶して暴走する場合。これは単に相性の問題だけど、自我も理性もない破壊を繰り返すモンスターが生まれる
超レアな場合としては人間の魂が神の魂を喰らった場合。これはどう転ぶか分からない
力に溺れて暴れる事もあれば、それを悪用していない場合だってある
人間の魂が神の魂を喰らったことはほとんどないからね。予想が出来ない)
力に溺れる人もいるだろう。異能力なんて手に入ったら誰だって最強になってって思うはずだ
オーデンが支配を望む神じゃなくて良かった
相性が良いのは癪だけど
オーデンの能力は不死身なのだから死ぬことはない
なら勝機はこちらにある気がする
いくら数が多くても死ななければ負けることはない
(不死身だから大丈夫じゃないの?)
(この不死身はそんないいものじゃない。短時間で何度も何度も死ねば、完全に体が再生しなくなる
いずれ体全体が再生しなくなり、存在だけが未来永劫残るだけだよ)
俺が思い描いていた不死身とは違った。これが理想と現実だ
存在が不死身であり、短時間に何度も死ねば体が再生しなくなる
一度や二度くらいは平気だろうがそれ以上は完全に体が再生しなくなる
腕や足が欠けて蘇ることもあるということだ
(勝てるの?)
(今来られたら無理だね。でも味方が何人か集まれば不可能じゃない)
(味方を集めてる最中に来たら?)
(戦うしかない。でも今はまだ来ない。エデンで僕と同じ反対派がまだ残ってる
彼らが全員追放されるまでは来ないよ。あの馬鹿たちだって準備が必要だからね)
その準備が整うまでがタイムリミットだ
それまでに出来る限りの味方を集める
その候補として鹿島があがっているのか
(ん?俺が戦う想定で話進んでない?)
(ん?そうだよ)
(勝手に体に入ってきて人類の危機を救えって?
無理に決まってるじゃん。そんなこと出来ないよ)
(他のみんなが死んでもいいのかい?
君にだって家族や友達はいるだろう)
(家族……友達……
人のこと知らないでよく言えるな)
俺に家族と呼べる人はもういない
友達と呼べる人も周りにいない
俺をよく知る人はこの世にいない
俺を見てくれる人もこの世にいない
俺には誰もいない
こいつも所詮神で人間ではない。故に人間のことなど分からない。分かるはずがない
俺のことを理解しようともせず、俺のことを都合のいい人間程度にしか見ていない
神々の野望を止めると自己都合を押し付けてくる。そんなこと勝手にやっていればいい
俺の嫌いな人間と一緒だ
(祐伸君?どうしたんだい?)
(…………)
(祐伸君?)
(…………)
オーデンの声が独り言のように頭の中を巡っては誰にも届くことなく消える
意識からオーデンを消し去りたかった
思いが通じたのかこれ以降オーデンの声が気にならなくなった
オーデンと話さなくなって一週間が経っていた。話さなくなったからと言って特別何かが変わったわけでもない
ノートのように日々を浪費し、家事と課題をただこなす
感情が湧いてくる訳でもない。当たり前を作業ロボットのように繰り返す
いつも通りに戻るはずだったのだが、邪魔をしてくるやつがいた
「今日こそ屋上に来て」
「何回断ったら諦めてくれる?」
鹿島は屋上で戦って以来、ずっと屋上に来いと言ってきている。別に決闘で殺す必要はないと思うのだが…
決闘をするのは懲り懲りだ。オーデンは何も言わないため、俺が意識を失ったとしても出てくるか分からない
もし出てこなければ一方的に殺され体が消滅しかねない
「諦めないわ」
「殺したいなら決闘以外でも出来るのになんでやらない?」
「決闘なんて言って無いでしょ。お話するだけ」
そんな見え見えの嘘に誰が引っかかると思ってるんだ
こいつはただ決闘したいだけの戦闘民族。耳を傾けるだけ無駄だ
「嘘以外のなにものでもないな」
「嘘じゃないわ。来れば分かること」
体から殺してやるという雰囲気が出まくっている。これで行くというのは身投げ同然だ
戦闘民族に頭を使えって言っても無駄だというのは分かりきってる
「行かない」
「何か不満でもあるの?」
「嘘と分かりきってるのに行くわけ無いだろ」
「なにそれ、決めつけないでくれる……!」
「声が大きい」
鹿島が一際大きい声で喋ったためクラスの視線がこちらに集まる
女子は鹿島が男子と話していることに驚きの表情を見せていた
男子たちは俺に嫉妬や恨みのこもった視線を送ってきていた
鹿島の名前は男子の会話でよく出てくる。男子のほとんどが気にしてると言っても過言ではない
男子の陽キャと呼ばれるやつらが話しかけるも撃沈し、それ以来話しかけるものはいなくなった
そんな孤高のマドンナがよく分からない影みたいな男子と話している
恨みを買うシチュエーションはできてる
鹿島が声を荒げることがあるのか。もしかしたら鹿島の言葉に嘘は無いのか
「……昼休み屋上来て」
鹿島はそれだけ言うと自分の席に戻った
呆れたような、何か言いたげなような顔をしていた
少し声を大きくしただけでクラスの視線が集まりザワザワする。鹿島にとって話題の中心となるのは望んでもいないのだろう
あの容姿をしていたら話題になるのも仕方ない気もする
まぁ屋上に行くのはまた別問題だ
鹿島が声を荒らげたのは気になるがあそこへは二度と行かない
「ねぇねぇ鹿島さんとはどんな関係?」
「どうやったら鹿島さんと話せる?」
鹿島が去った後、俺は陽キャたちに囲まれた
くだらないことを聞いてくる。それが高校生というものなんだろう
「別にだだの知り合い
鹿島が勝手に話しかけてきてるだけだから」
「あんだけ仲良さそうに話してたんだし、知り合い以上何じゃないの?」
「どんなこと話してたの?詳しく教えてよ」
こいつら、ダルッ
何が仲良く話してただよ。ちゃんと聞いてから言いやがれ
これは鹿島も話さなくなるわけだ
どうにかして鹿島に近づきたいのが隠せてない
自分たちでどうにかしてくれよ
「本当に何もないし、ただの知り合い」
「嘘だぁー
もっと教えてよ」
「鹿島ちゃんと話したいだけだからさぁ」
我慢の限界を迎えそうになった時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り陽キャどもは仕方なく席に戻った
休み時間なのに全く休めなかった。陽キャどもと話していた時間は無駄遣いだったな
ダルいやつらだ。金輪際、関わりたくない
4限目の終わりを告げるチャイムが鳴り昼休みになった
鹿島に屋上に来いと言われているが二度と行かない
声を荒らげたのも演技だろう。俺はそんな嘘には引っかからない
「来て」
鹿島が俺の椅子の前に来ると二文字だけ言い俺の手を掴んだ
俺はそのままグイグイ引っ張られ気づいたら来たくもない屋上に来ていた
屋上は雲一つない晴天の真下にあり、太陽がギラギラと輝いている
「無理やり連れてくるのは無いだろ……」
「…………」
鹿島は何も言わず俺に迫ってくる
これいきなりやってくるやつか?
俺の脳内でボコボコにされたあの日が脳内でリプレイされる
トラウマというのは簡単には消えない
「邪魔なの。消えてくれる?」
「「すいませんでしたぁー!!」」
鹿島は俺の横を通り過ぎると入ってきた扉を開けた
そこには俺を休み時間に質問攻めにした陽キャどもがかがみ込んでひっそりと隠れていた
盗み聞きしようとしてたのか。それでここまでついてくるか
本当に呆れる。盗み聞きなんかして何が楽しいんだ?
「……私のせいね。下衆どもあなたに迷惑かけたでしょ?ごめんなさい」
その容姿から下衆という言葉を聞くことがあるとは予想外だった
鹿島がそういうこと平気で言うやつなのか、鹿島にそこまで言わせるあいつらのせいなのかは分からない
だが鹿島はかなり陽キャどもに腹が立ってるのが見て分かる
「別に。じゃあ」
「何帰ろうとしてるの?」
「もう用ないから」
「私はあるの」
鹿島は背を向けて帰ろうとする祐伸に慌てて声をかける
いつもクールな鹿島がこの時ばかりは焦っていた
お前の事情は知らないよ
屋上がコロシアムに変わる前に帰りたい
「知るか。帰る」
「別に殺すわけじゃないわ」
「嘘だろ」
「嘘じゃない……!!
少しくらい信じてよ……」
鹿島はそう言うと今にも泣きそうな顔をする
鹿島が今にも泣きそうなのをみて祐伸はどうしたらいいかわからず困惑する
子守りなんてやったことないんだから出来ないぞ
でもこのままほっとくわけにはいかないよな
「分かったからそんな顔しないでくれ」
「良かった……」
「で、どうするんだ?」
「さっきも言ったでしょ。話をしましょう」
とりあえず泣くことは無かった
けど、何の話をするつもりだ
「何の話?」
「色々……」
「決めてないのか」
決めないで誘ってきたのか
後先考えず突っ走るタイプだ。戦闘民族らしい
「あなたと話せって言われたから」
「誰に?」
「え?そ、それは……
わ、私の神に……よ」
こいつ嘘ヘタクソだなぁ
まぁそういうことにしておこう
事前に知っておけば泣かせそうになることはなかったかもしれない
「鹿島の神ってどんな名前なの?」
「建御雷神。あなたの神は?」
「オーデン。今は全く話してないけどね」
「そう、能力は?」
俺たちはお互いの神について情報を共有した
鹿島の中にいる建御雷神は日本の神で韴霊剣という大剣を扱える
だが今は条件が整っていないため鹿島自身は使えないらしい。条件というものが分からないため元も子もないみたいだが
オーデンの能力は不死身と魔術だと伝えると絶句していた
不死身に勝てるわけがないと思ったそうだが、短時間で何度も殺されると体が消滅することも言うと「それなら勝機はあるわね」と言った
勝機が無いということではない。その代わり短期決戦が求められる
「そういえばこの前なんで遅刻したんだ?」
「あれは予定があったのよ」
「朝から用事があるなんて忙しいんだな」
「高校生も楽じゃないわよ」
どんな予定があったのかは分からないが鹿島なら内緒でモデルとかをやっていてもおかしくない
普通の高校生なら学校行って部活して帰ってくるだろうが、世の中にはそんな生活なんて夢のまた夢の人もいる
もしかすると目の前にいる鹿島もそうなのかもしれない
「ていうか話すだけならわざわざ無理やり連れてくる必要なかったんじゃ」
「あなたはそうでもしないと来ないでしょ」
「それは鹿島がいかにも殺してやるっていう雰囲気を醸し出したから」
「しょうがないでしょ。男と関わったことなんてほとんどないし、どうやって誘ったらいいのか分からなかったの」
男のことを下衆かぁ……辛辣だなぁ
鹿島みたいな綺麗な人に言われると心に刺さるものがある
鹿島が男と関係がないのは意外だが、普段からあんなに近寄りがたかったら人は寄ってこない
もったいないような気がしてしまう。鹿島なら人生勝ち組になれただろうに
「だからって戦闘民族みたいな雰囲気出さなくても」
「今、なんて言ったのか教えてくれる?」
「男との関わりが無いからって戦闘民族みたいな雰囲気出さなくても」
「二度もそんなこと言わないでくれる?」
「痛っ‼
なんで殴るんだよ⁉教えろっていうから教えただけじゃんか‼」
「はぁ……これだから下衆どもは」
こいつやっぱり戦闘民族だ
血が騒ぎすぎてる。一定の距離を保っておかないと殴られる
同じ種族とは思えないな
「もったいないな
鹿島ほど綺麗なら戦闘民族の雰囲気出さなければ人生楽できるだろうに」
「綺麗……」
鹿島は祐伸にそう言われると頬を赤らめる
目線を下に向け露骨に祐伸の方を見ようとしない
(こいつ何一人で慌ててるんだ?)
言った本人がこれでは状況が混沌を極める
祐伸は人間と関わってこなかったため他の人が言わないようなこともサラッと言ってしまう
だが本人はそれに気づくことが出来ない
KYの代表格とも言える
「何慌ててんだ?」
「あ、慌ててなんかないわよ……!」
「じゃあなんでそんな頬が赤いんだよ」
「う、うるさい……!
気にしないでよ!!」
「痛っ!!
なんでまた殴られた!?俺なんか言ったか!?」
鹿島が祐伸に言葉で詰められると祐伸に背を向ける
その振り向きざまに鹿島の拳が祐伸の顎を下からクリーンヒットした
アッパーようになり祐伸の脳が少し揺れ視界にブレが生まれる
なんか目まいする……
アッパーは聞いてねぇよ……
振り向きざまは分からないって……
祐伸は気絶してしまいその場に倒れる
「何寝てるの。何もしてないでしょ」
「……」
鹿島が祐伸の体を何度揺らしても祐伸はビクともしない
鹿島は自分が殴ったことに気づいていない
祐伸が戦闘民族と呼ぶのも頷ける
「体が重いなぁ……」
「あなた誰?」
しばらくすると気絶していた祐伸の髪の色が抜け白に変わり体を起こす。右目には眼帯がついている
声は祐伸のものだが鹿島は見てすぐに別人だと気づいた
この子、実際見ると本当に綺麗な子だな
「僕はオーデン。祐伸君の体に居候させてもらってる」
「あなたがそうなのね」
鹿島は目の前にいる人物こそが神だと分かり緊張した様子で口を開く
襲ってくる可能性もあるため慎重になっている
祐伸君と話してた時はリラックスしてそうだったのに僕と話す時は慎重になるのか
もっとフラットに話してくれてもいいのに
「あのさ、気づいてないのはおかしいよ
ちゃんと殴ってたからね」
「私は殴ったつもりなんて無いのだけれど」
「……怖」
鹿島の発言にオーデンすらも絶句してしまう
この子、本当に人間か?
化けの皮被った建御雷神じゃないよね
数分前に自分がやったこと覚えてないのは怖すぎるよ
「何のつもりで祐伸君に近づいた?」
「べ、別にただ話したかっただけよ……」
「祐伸君の目は騙せても僕の目はごまかせないよ」
この前いきなり殺しに来たと思ったら今日はただ話がしたいか
情緒が不安定なのか、それとも何か狙いがあるのか
いずれにせよ警戒はしておかないと最悪な事態を招きかねない
「同士討ちなんて意味無いのに」
「勘違いしないで
あなたたちのことを味方だと思ってるわけじゃない」
「だからって殺す必要はあるのかい?
こんなところで殺し合うよりもやらないといけないことがあるのに」
先程まで和気あいあいとしていた雰囲気が一気に重苦しくなる
緊張が空間を支配する。二人は目には見えない火花を散らし始めた
「やらないといけないこと?」
「人類を救うことだよ」
「人類がどうなろうと知らないわ。私は私のやるべきことをするだけ」
「それが無意味だって言ってるんだ」
「無意味でもやらないといけないのよ‼」
「はぁ……今は何言っても無駄そうだね」
オーデンは地面に座り込み呆れたような顔をする
鹿島はオーデンに背を向け耳を貸そうともしない
僕の言うことに耳も貸しちゃくれないか
知らない神にそんなこと言われたら誰でも怒るか
いかにも人間らしい。普段は嫌いじゃないんだけどな……今はそんなことをやってる暇じゃないのに
この子自身が何かを抱えていそうだ。それを取っ払うことができれば進展が望めるかもしれない
「祐伸君を傷つけようっていうなら覚悟してよ」
オーデンはそう言うと眠り始め髪色も黒に戻り、右目の眼帯もなくなっていた
と同時に空間を支配していた緊張が解け、鹿島もようやく気を緩めた
「あなたはあいつと同じ人間なの?
ねぇ、教えてよ」
「……言っても無駄よね
私のやってること正しいの?誰か教えてよ」
「そうよね。自分自身を信じないと」
鹿島はかがみ込み寝ている祐伸の顔を覗き込むと独り言を言ったが寝ている祐伸に届くわけがなかった
立ち上がると雲一つない空に向かって呟いたが、その言葉は底無しの青空に吸い込まれ消えていった
だが、鹿島は俺に対して明確な殺意を抱いていた。今思えば話しかけてきたあの時も殺意がこもった目をしていたかもしれない
あの時の俺は鹿島にいきなり話しかけられ動揺していたため鹿島の顔を直視は出来なかった
昼休みに屋上に来いと鹿島に言われ向かったが、そこで待っていたのは二度目の死だった
俺の言葉に耳を傾けようともせず殺し合いになった。俺が意識を失わなければオーデンは出てこない
意図的に意識を失うなど出来ないため俺は一方的にボコられた
俺が意識を失う前に見たのは2mはある剣が俺の体に勢いよく向かって来るところだった、人生で二度目の死を覚悟した
その後は知らない。太陽がまだ南にある頃に目を覚ました。俺の体には何の異常もなかった。あれだけボコボコにされたはずなのだが傷跡は一つも残っていなかった
オーデンの不死身という能力に助けられた。これで早くも二度目だ。これからお世話になる機会がないことを願う
それから何事も無かったかのように授業は進み、HRも終わった
学校を出て駅に着き、電車を待つ途中駅のホームの椅子に腰掛ける。すると昼休み逃げ回っていただけなのに感じたことのない肉体疲労が体を襲った
オーデンが戦った分の疲労も溜まっているんだろう
そういえばオーデンは今も何をしているんだろうか。目を覚ましてからかなりの時間は経っている
オーデンに呼びかけてみるが返事はこの前と同じようにない。また独り言で終わってしまう
そんなことをしていると電車が予定時刻通り15:24に到着する
満身創痍の体を起こし人がまばらの電車に乗り込んだ
あれから40分程電車で揺られたがオーデンは未だに沈黙を貫いている
俺でもおかしいと思い始めてきた。一緒の体で過ごし始めて3日も経っていないがさすがにおかしくないか
こういうのも神の気まぐれなんだろうか
昨日みたいなことが起こるかもしれない。そう言ったのはオーデンだ
言い出しっぺが沈黙していては鹿島の時のようにボコボコにされる未来が見える
最寄り駅に到着し電車を下車する
相変わらずホームには人がいない。降りる人も俺を含めても両手で数え切れる人数しかいない
ほぼ無人駅の改札を抜け駅を出る。太陽はほぼ沈みかけているにも関わらず、強い日差しを向けてきている
この前のことが記憶に新しいため辺りを警戒しながら家に帰る。何事もなく帰ってくる事ができた
(んーよく寝た)
家の扉を開けた同時にオーデンの声が聞こえた。だが、内容に耳を疑い足を一瞬止めた
俺が心配していた原因が睡眠だとは知る由もない
全く人騒がせな神だ
(寝てただけかよ)
(流石に疲れちゃったね。祐伸君も疲れてるでしょ?)
疲れていないといえば嘘になる
本音を言えばベッドにダイブしたいがやるべきことがある
(聞きたいんだけどなんで生物は神の力の影響を受けると元に戻らないの?)
(世界は生物に修正力の代わりに生命力を与えたからだね)
生命力があるから修正力は働かない
確かに生物の生命力は驚異的だが、それだけで釣り合わせて良いのか
(そんなので釣り合わせていいの?)
(生命力を侮ってはいけないよ。生物は生命力のおかげでここまで生きてるんだから)
人類の歴史を見れば伝染病によって死滅しかけたこともあった
医術の進歩とか色々あるんだろう
だが生き延びてこの時代を生きている
(そんなこと誰から聞いたの?)
(鹿島が言ってた)
鹿島は俺よりも前に神の魂を宿しているんだろう
俺の知らない世界の真理まで知っているのだから
(いやー参ったね。あんな奴とまた戦うことになるのは避けたいけど今の様子だと厳しいかな)
(殺し合いをする必要はないと思うんだけど)
(それは同意見。自我がある者同士で殺し合うなんて馬鹿のすることだよ。殺し合ってる場合じゃないのに)
オーデンも俺と同じ意見を持ってることが分かり安心した
最後の言葉には引っかかりを覚えた。焦っているような呆れているような様子だ
オーデンの目的は何なんだ?これは聞いたことがなかった
(オーデンの目的は何?)
(僕の目的はエデンの神たちの野望を止めること)
(エデンの神たち?野望?)
聞いたことのない言葉と野望というワードが出てきた
エデンの神たちが何かをしようとしているのは理解できた
(神はエデンという場所に住んでいる。僕もかつてはそこに住んでいた
だけど、そこの神々の野望に反対したら追放された。でも、やつらの野望だけは止めないといけない)
(野望?)
(やつらは地球こそがエデンだとして人類を滅ぼそうとしてる)
悪の組織が人類滅亡を目論むのは理解できるが、神が目論んでいるのは理解しがたい
しかも言ってること滅茶苦茶だぞ。エデンに住んどいて地球こそがエデンとか、何個エデン量産すれば良いんだよ
神って頭飛んでる思想持ってるやつしかいないのか
(おかしいでしょ?そんな馬鹿げたことはやめろって言ったんだけどね。聞く耳を持たなかった)
(まともな神いないの?)
(今のエデンには物事を正常に考えられないやつがほとんどだよ。反対派は僕みたいに追放される)
オーデンはそうとう怒っているのが聞いて分かる
いつもとは違う声色をしている
(あいつらを止めるためには戦うしかない)
(イカれた神たちとどうやって戦うの?)
(君の体を借りる)
(俺なんかの体で勝てるの?)
(勘違いしてるね。神に実体はないよ
エデンの神たちも魂だけの存在。君が見たことある神の絵は人間が神を具現化させたもの
本当はそんな体を持ってるわけじゃない)
神は魂だけの存在。この真実は俺のこれまで見てきたものを覆すことだ
俺が見たことのある神の絵は全て人間が想像して描いた架空の絵
(やつらは地上に降りて人間の体を強制的に支配して滅亡させる)
(相性が良ければ支配は出来ないよね?)
(神の魂は人間の魂よりも圧倒的に強い。その気になれば相性関係なく、元々の魂を喰うだろうね)
(じゃあオーデンもその気になれば俺の魂を喰うの?)
(僕はそんなことしないよ。神には僕みたいに共生を望むものと支配を望むものの二種類存在するんだ
共生を望む場合は相性が良ければ暴走することはない。ただ、支配を望む場合は3つのパターンが存在する
1つはうまく支配して神が体を思うままに操れる場合。この場合は暴走するかしないかは神次第だ
もう一つはお互いがお互いを拒絶して暴走する場合。これは単に相性の問題だけど、自我も理性もない破壊を繰り返すモンスターが生まれる
超レアな場合としては人間の魂が神の魂を喰らった場合。これはどう転ぶか分からない
力に溺れて暴れる事もあれば、それを悪用していない場合だってある
人間の魂が神の魂を喰らったことはほとんどないからね。予想が出来ない)
力に溺れる人もいるだろう。異能力なんて手に入ったら誰だって最強になってって思うはずだ
オーデンが支配を望む神じゃなくて良かった
相性が良いのは癪だけど
オーデンの能力は不死身なのだから死ぬことはない
なら勝機はこちらにある気がする
いくら数が多くても死ななければ負けることはない
(不死身だから大丈夫じゃないの?)
(この不死身はそんないいものじゃない。短時間で何度も何度も死ねば、完全に体が再生しなくなる
いずれ体全体が再生しなくなり、存在だけが未来永劫残るだけだよ)
俺が思い描いていた不死身とは違った。これが理想と現実だ
存在が不死身であり、短時間に何度も死ねば体が再生しなくなる
一度や二度くらいは平気だろうがそれ以上は完全に体が再生しなくなる
腕や足が欠けて蘇ることもあるということだ
(勝てるの?)
(今来られたら無理だね。でも味方が何人か集まれば不可能じゃない)
(味方を集めてる最中に来たら?)
(戦うしかない。でも今はまだ来ない。エデンで僕と同じ反対派がまだ残ってる
彼らが全員追放されるまでは来ないよ。あの馬鹿たちだって準備が必要だからね)
その準備が整うまでがタイムリミットだ
それまでに出来る限りの味方を集める
その候補として鹿島があがっているのか
(ん?俺が戦う想定で話進んでない?)
(ん?そうだよ)
(勝手に体に入ってきて人類の危機を救えって?
無理に決まってるじゃん。そんなこと出来ないよ)
(他のみんなが死んでもいいのかい?
君にだって家族や友達はいるだろう)
(家族……友達……
人のこと知らないでよく言えるな)
俺に家族と呼べる人はもういない
友達と呼べる人も周りにいない
俺をよく知る人はこの世にいない
俺を見てくれる人もこの世にいない
俺には誰もいない
こいつも所詮神で人間ではない。故に人間のことなど分からない。分かるはずがない
俺のことを理解しようともせず、俺のことを都合のいい人間程度にしか見ていない
神々の野望を止めると自己都合を押し付けてくる。そんなこと勝手にやっていればいい
俺の嫌いな人間と一緒だ
(祐伸君?どうしたんだい?)
(…………)
(祐伸君?)
(…………)
オーデンの声が独り言のように頭の中を巡っては誰にも届くことなく消える
意識からオーデンを消し去りたかった
思いが通じたのかこれ以降オーデンの声が気にならなくなった
オーデンと話さなくなって一週間が経っていた。話さなくなったからと言って特別何かが変わったわけでもない
ノートのように日々を浪費し、家事と課題をただこなす
感情が湧いてくる訳でもない。当たり前を作業ロボットのように繰り返す
いつも通りに戻るはずだったのだが、邪魔をしてくるやつがいた
「今日こそ屋上に来て」
「何回断ったら諦めてくれる?」
鹿島は屋上で戦って以来、ずっと屋上に来いと言ってきている。別に決闘で殺す必要はないと思うのだが…
決闘をするのは懲り懲りだ。オーデンは何も言わないため、俺が意識を失ったとしても出てくるか分からない
もし出てこなければ一方的に殺され体が消滅しかねない
「諦めないわ」
「殺したいなら決闘以外でも出来るのになんでやらない?」
「決闘なんて言って無いでしょ。お話するだけ」
そんな見え見えの嘘に誰が引っかかると思ってるんだ
こいつはただ決闘したいだけの戦闘民族。耳を傾けるだけ無駄だ
「嘘以外のなにものでもないな」
「嘘じゃないわ。来れば分かること」
体から殺してやるという雰囲気が出まくっている。これで行くというのは身投げ同然だ
戦闘民族に頭を使えって言っても無駄だというのは分かりきってる
「行かない」
「何か不満でもあるの?」
「嘘と分かりきってるのに行くわけ無いだろ」
「なにそれ、決めつけないでくれる……!」
「声が大きい」
鹿島が一際大きい声で喋ったためクラスの視線がこちらに集まる
女子は鹿島が男子と話していることに驚きの表情を見せていた
男子たちは俺に嫉妬や恨みのこもった視線を送ってきていた
鹿島の名前は男子の会話でよく出てくる。男子のほとんどが気にしてると言っても過言ではない
男子の陽キャと呼ばれるやつらが話しかけるも撃沈し、それ以来話しかけるものはいなくなった
そんな孤高のマドンナがよく分からない影みたいな男子と話している
恨みを買うシチュエーションはできてる
鹿島が声を荒げることがあるのか。もしかしたら鹿島の言葉に嘘は無いのか
「……昼休み屋上来て」
鹿島はそれだけ言うと自分の席に戻った
呆れたような、何か言いたげなような顔をしていた
少し声を大きくしただけでクラスの視線が集まりザワザワする。鹿島にとって話題の中心となるのは望んでもいないのだろう
あの容姿をしていたら話題になるのも仕方ない気もする
まぁ屋上に行くのはまた別問題だ
鹿島が声を荒らげたのは気になるがあそこへは二度と行かない
「ねぇねぇ鹿島さんとはどんな関係?」
「どうやったら鹿島さんと話せる?」
鹿島が去った後、俺は陽キャたちに囲まれた
くだらないことを聞いてくる。それが高校生というものなんだろう
「別にだだの知り合い
鹿島が勝手に話しかけてきてるだけだから」
「あんだけ仲良さそうに話してたんだし、知り合い以上何じゃないの?」
「どんなこと話してたの?詳しく教えてよ」
こいつら、ダルッ
何が仲良く話してただよ。ちゃんと聞いてから言いやがれ
これは鹿島も話さなくなるわけだ
どうにかして鹿島に近づきたいのが隠せてない
自分たちでどうにかしてくれよ
「本当に何もないし、ただの知り合い」
「嘘だぁー
もっと教えてよ」
「鹿島ちゃんと話したいだけだからさぁ」
我慢の限界を迎えそうになった時、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り陽キャどもは仕方なく席に戻った
休み時間なのに全く休めなかった。陽キャどもと話していた時間は無駄遣いだったな
ダルいやつらだ。金輪際、関わりたくない
4限目の終わりを告げるチャイムが鳴り昼休みになった
鹿島に屋上に来いと言われているが二度と行かない
声を荒らげたのも演技だろう。俺はそんな嘘には引っかからない
「来て」
鹿島が俺の椅子の前に来ると二文字だけ言い俺の手を掴んだ
俺はそのままグイグイ引っ張られ気づいたら来たくもない屋上に来ていた
屋上は雲一つない晴天の真下にあり、太陽がギラギラと輝いている
「無理やり連れてくるのは無いだろ……」
「…………」
鹿島は何も言わず俺に迫ってくる
これいきなりやってくるやつか?
俺の脳内でボコボコにされたあの日が脳内でリプレイされる
トラウマというのは簡単には消えない
「邪魔なの。消えてくれる?」
「「すいませんでしたぁー!!」」
鹿島は俺の横を通り過ぎると入ってきた扉を開けた
そこには俺を休み時間に質問攻めにした陽キャどもがかがみ込んでひっそりと隠れていた
盗み聞きしようとしてたのか。それでここまでついてくるか
本当に呆れる。盗み聞きなんかして何が楽しいんだ?
「……私のせいね。下衆どもあなたに迷惑かけたでしょ?ごめんなさい」
その容姿から下衆という言葉を聞くことがあるとは予想外だった
鹿島がそういうこと平気で言うやつなのか、鹿島にそこまで言わせるあいつらのせいなのかは分からない
だが鹿島はかなり陽キャどもに腹が立ってるのが見て分かる
「別に。じゃあ」
「何帰ろうとしてるの?」
「もう用ないから」
「私はあるの」
鹿島は背を向けて帰ろうとする祐伸に慌てて声をかける
いつもクールな鹿島がこの時ばかりは焦っていた
お前の事情は知らないよ
屋上がコロシアムに変わる前に帰りたい
「知るか。帰る」
「別に殺すわけじゃないわ」
「嘘だろ」
「嘘じゃない……!!
少しくらい信じてよ……」
鹿島はそう言うと今にも泣きそうな顔をする
鹿島が今にも泣きそうなのをみて祐伸はどうしたらいいかわからず困惑する
子守りなんてやったことないんだから出来ないぞ
でもこのままほっとくわけにはいかないよな
「分かったからそんな顔しないでくれ」
「良かった……」
「で、どうするんだ?」
「さっきも言ったでしょ。話をしましょう」
とりあえず泣くことは無かった
けど、何の話をするつもりだ
「何の話?」
「色々……」
「決めてないのか」
決めないで誘ってきたのか
後先考えず突っ走るタイプだ。戦闘民族らしい
「あなたと話せって言われたから」
「誰に?」
「え?そ、それは……
わ、私の神に……よ」
こいつ嘘ヘタクソだなぁ
まぁそういうことにしておこう
事前に知っておけば泣かせそうになることはなかったかもしれない
「鹿島の神ってどんな名前なの?」
「建御雷神。あなたの神は?」
「オーデン。今は全く話してないけどね」
「そう、能力は?」
俺たちはお互いの神について情報を共有した
鹿島の中にいる建御雷神は日本の神で韴霊剣という大剣を扱える
だが今は条件が整っていないため鹿島自身は使えないらしい。条件というものが分からないため元も子もないみたいだが
オーデンの能力は不死身と魔術だと伝えると絶句していた
不死身に勝てるわけがないと思ったそうだが、短時間で何度も殺されると体が消滅することも言うと「それなら勝機はあるわね」と言った
勝機が無いということではない。その代わり短期決戦が求められる
「そういえばこの前なんで遅刻したんだ?」
「あれは予定があったのよ」
「朝から用事があるなんて忙しいんだな」
「高校生も楽じゃないわよ」
どんな予定があったのかは分からないが鹿島なら内緒でモデルとかをやっていてもおかしくない
普通の高校生なら学校行って部活して帰ってくるだろうが、世の中にはそんな生活なんて夢のまた夢の人もいる
もしかすると目の前にいる鹿島もそうなのかもしれない
「ていうか話すだけならわざわざ無理やり連れてくる必要なかったんじゃ」
「あなたはそうでもしないと来ないでしょ」
「それは鹿島がいかにも殺してやるっていう雰囲気を醸し出したから」
「しょうがないでしょ。男と関わったことなんてほとんどないし、どうやって誘ったらいいのか分からなかったの」
男のことを下衆かぁ……辛辣だなぁ
鹿島みたいな綺麗な人に言われると心に刺さるものがある
鹿島が男と関係がないのは意外だが、普段からあんなに近寄りがたかったら人は寄ってこない
もったいないような気がしてしまう。鹿島なら人生勝ち組になれただろうに
「だからって戦闘民族みたいな雰囲気出さなくても」
「今、なんて言ったのか教えてくれる?」
「男との関わりが無いからって戦闘民族みたいな雰囲気出さなくても」
「二度もそんなこと言わないでくれる?」
「痛っ‼
なんで殴るんだよ⁉教えろっていうから教えただけじゃんか‼」
「はぁ……これだから下衆どもは」
こいつやっぱり戦闘民族だ
血が騒ぎすぎてる。一定の距離を保っておかないと殴られる
同じ種族とは思えないな
「もったいないな
鹿島ほど綺麗なら戦闘民族の雰囲気出さなければ人生楽できるだろうに」
「綺麗……」
鹿島は祐伸にそう言われると頬を赤らめる
目線を下に向け露骨に祐伸の方を見ようとしない
(こいつ何一人で慌ててるんだ?)
言った本人がこれでは状況が混沌を極める
祐伸は人間と関わってこなかったため他の人が言わないようなこともサラッと言ってしまう
だが本人はそれに気づくことが出来ない
KYの代表格とも言える
「何慌ててんだ?」
「あ、慌ててなんかないわよ……!」
「じゃあなんでそんな頬が赤いんだよ」
「う、うるさい……!
気にしないでよ!!」
「痛っ!!
なんでまた殴られた!?俺なんか言ったか!?」
鹿島が祐伸に言葉で詰められると祐伸に背を向ける
その振り向きざまに鹿島の拳が祐伸の顎を下からクリーンヒットした
アッパーようになり祐伸の脳が少し揺れ視界にブレが生まれる
なんか目まいする……
アッパーは聞いてねぇよ……
振り向きざまは分からないって……
祐伸は気絶してしまいその場に倒れる
「何寝てるの。何もしてないでしょ」
「……」
鹿島が祐伸の体を何度揺らしても祐伸はビクともしない
鹿島は自分が殴ったことに気づいていない
祐伸が戦闘民族と呼ぶのも頷ける
「体が重いなぁ……」
「あなた誰?」
しばらくすると気絶していた祐伸の髪の色が抜け白に変わり体を起こす。右目には眼帯がついている
声は祐伸のものだが鹿島は見てすぐに別人だと気づいた
この子、実際見ると本当に綺麗な子だな
「僕はオーデン。祐伸君の体に居候させてもらってる」
「あなたがそうなのね」
鹿島は目の前にいる人物こそが神だと分かり緊張した様子で口を開く
襲ってくる可能性もあるため慎重になっている
祐伸君と話してた時はリラックスしてそうだったのに僕と話す時は慎重になるのか
もっとフラットに話してくれてもいいのに
「あのさ、気づいてないのはおかしいよ
ちゃんと殴ってたからね」
「私は殴ったつもりなんて無いのだけれど」
「……怖」
鹿島の発言にオーデンすらも絶句してしまう
この子、本当に人間か?
化けの皮被った建御雷神じゃないよね
数分前に自分がやったこと覚えてないのは怖すぎるよ
「何のつもりで祐伸君に近づいた?」
「べ、別にただ話したかっただけよ……」
「祐伸君の目は騙せても僕の目はごまかせないよ」
この前いきなり殺しに来たと思ったら今日はただ話がしたいか
情緒が不安定なのか、それとも何か狙いがあるのか
いずれにせよ警戒はしておかないと最悪な事態を招きかねない
「同士討ちなんて意味無いのに」
「勘違いしないで
あなたたちのことを味方だと思ってるわけじゃない」
「だからって殺す必要はあるのかい?
こんなところで殺し合うよりもやらないといけないことがあるのに」
先程まで和気あいあいとしていた雰囲気が一気に重苦しくなる
緊張が空間を支配する。二人は目には見えない火花を散らし始めた
「やらないといけないこと?」
「人類を救うことだよ」
「人類がどうなろうと知らないわ。私は私のやるべきことをするだけ」
「それが無意味だって言ってるんだ」
「無意味でもやらないといけないのよ‼」
「はぁ……今は何言っても無駄そうだね」
オーデンは地面に座り込み呆れたような顔をする
鹿島はオーデンに背を向け耳を貸そうともしない
僕の言うことに耳も貸しちゃくれないか
知らない神にそんなこと言われたら誰でも怒るか
いかにも人間らしい。普段は嫌いじゃないんだけどな……今はそんなことをやってる暇じゃないのに
この子自身が何かを抱えていそうだ。それを取っ払うことができれば進展が望めるかもしれない
「祐伸君を傷つけようっていうなら覚悟してよ」
オーデンはそう言うと眠り始め髪色も黒に戻り、右目の眼帯もなくなっていた
と同時に空間を支配していた緊張が解け、鹿島もようやく気を緩めた
「あなたはあいつと同じ人間なの?
ねぇ、教えてよ」
「……言っても無駄よね
私のやってること正しいの?誰か教えてよ」
「そうよね。自分自身を信じないと」
鹿島はかがみ込み寝ている祐伸の顔を覗き込むと独り言を言ったが寝ている祐伸に届くわけがなかった
立ち上がると雲一つない空に向かって呟いたが、その言葉は底無しの青空に吸い込まれ消えていった
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