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Madeleine~恋せよマーメイド~
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しおりを挟む「ちょっと……! 白柳、おまえ、なんなの!」
「うるさい、わからずや!」
「おまえにわかってもらう気ないから! 放せ!」
「このままじゃ腹の虫がおさまらないんだよ!」
苛立ち気な智駿を引いて、俺は近所の公園に飛び込んだ。そこでやっと手を離してやれば、智駿は「なにがしたいの」とでも言いたげに俺を睨んできた。そんな風に問われても、俺はきっと何も答えられないだろうけれど。衝動的にここまで智駿を連れてきてしまったのだから。
「帰っていい? どうせ僕と白柳じゃあ話合わないし」
「帰るんなら約束しろよ、もう女に手を出すな!」
「は? それをなんで白柳に言われなきゃいけないわけ? 白柳に決められる筋合いないけど」
「おまえがああやって女に手を出しまくると迷惑する奴がいるんだよ! 俺みたいに!」
「知らないね。僕は僕なりに恋愛してるつもりだから、口出ししないでくれる。いいでしょ、それなりに好きでそれなりに関係もってればそれだって」
「だからおまえのその恋愛観ズレてるんだっつーの!」
俺がここまでムキになっているのは、そのあんまりにもズレた智駿の恋愛観に不安を覚えたからだと思う。
はじめこそは元カノの奈々を弄ばれたことに憤っていたけれど、智駿の考えを聞くうちに胸のなかがモヤモヤとしてきた。
おまえ、そんな考えで今まで生きてきたの?って、心配ともなんとも言えない気持ちになってしまったのだ。
「……おまえが変なのさァ、そうやって何にも固執しないからでしょ。足が地面についていないから、ふわふわふわふわしちゃって宙に浮いちゃって」
「何言ってんの白柳。僕が宙に浮いてるってなに」
「浮世離れしてんだよ、おまえ。悪い意味でな!」
「……」
俺が気付いた答えを口にすれば、智駿はムスッとして俺を睨みつける。そうだ、智駿が人間らしくないなんて感じるのは、智駿が強い「好き」って気持ちを持たないでいるから。だから熱を感じない。浮いているように見える。
「好きなものなら、あるよ。僕はおじいちゃんの店が好き」
「……それは知ってる」
「あっそ。じゃあこの話は終わりで。僕がちゃんと好きなものもって、それに対して強い想いもってればいいんでしょ」
「……でも、おまえのその好きなもの、人じゃないじゃん」
「人である必要なくない?」
「……っ」
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そもそもなんで俺が智駿を変えようとしているのかなんて、自分でもわからないけれど。
「これ以上、そのわけのわからない話を僕にふらないでね」
俺と智駿なんてただの腐れ縁だし、好きか嫌いかでいえば嫌いだし。こんな風に深く入り込むような話をする必要なんて一切ない。それなのに……なぜか、勝手に意識が向いてしまう。
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