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第七章:おまえを許さない
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部屋に着くと、グラエムが上着を脱ぐ。棚の上に乱雑に投げ捨てる辺り昔と変わっていない、そう思いながらラズワードはその様子を見ていた。せっかくのハンターの制服がシワになる、そう思って黙ってそれをたたんでみれば、グラエムはそれに気付いたようだ。あ、悪ィ、そう言って笑う。
「……ラズ」
グラエムが気まずそうに頭を掻く。
「オレ、おまえのそういうところ、好きだよ」
「え」
「普段オレにあたり悪ィけど、オレの見ていないところで気遣ってくれるところ」
急に何を言い出すんだろう。ラズワードは、先ほどのことなどなかったような態度を見せるグラエムを見て、目を瞬かせた。
「オレさ、初めておまえ見たとき、すんげえ無愛想な奴って思ったの。なんか見た目が無駄にいいのも相まってお高くとまってんのかなあって、そう思っておまえのところあんまり好きじゃなかった」
「……」
「でもさ、話してみると別にラズは気取っているわけでもなんでもなくて、ちょっと感情を表にだすのが苦手なんだ、そう気付いてさ。……時々見せる笑顔がすっげえ可愛いの。オレそれが見たくて、おまえにいっぱい話かけて……少しずつおまえを知って、いつの間にか好きになってた。昔はほんと苦手だったのに、今では友達だって、そう言い張れるくらいに」
へへ、と笑うグラエムは、昔となんら変わっていない。
よくこんな素直な気持ちを恥ずかしげもなく言えるよなあ。聞いているこちらが恥ずかしくなってくるようなグラエムの言葉を聞いて、ラズワードは微かに顔を赤らめる。
「だから……おまえが施設に連れて行かれて、そのときは本当に怖かった。おまえの笑った顔も、もう二度と見れなくなるんだって。もしも施設から帰ってきたとして、笑えなくなっていたらどうしよう。オレのこと覚えていなかったりしたら、悲しいとかそんなレベルじゃすまないなって」
「……グラエム」
「……ずっとずっと、ハンターとして頑張って、力もつけて……そうやっている中でも、ラズのことは片時も忘れたことねェんだ。もう一度、必ずラズの笑顔をみたいって……そうずーっと考えていた」
……やばい、恥ずかしい。あまりにもストレートにものを言うグラエムに、ラズワードもたじたじであった。真面目に話してくれている彼から目を逸らすのも悪いと思ったが、流石に面はゆくて口元を片手で隠す。
「……会えてよかった。そんなに変わっていなくてよかった。オレ、さっきおまえに会ったとき、嬉しくて嬉しくて……本当に、嬉しかった」
グラエムがそっとラズワードを抱きしめる。耳元でひく、としゃくりの声が聞こえた。
(……泣いている)
この涙も、俺のためなのだろうか――
誰かのために泣くこと……そんなこと、自分はあっただろうか。ラズワードはグラエムのすすり泣く声を聞いて、そんなことを思う。
――いや、あった。たしか、俺が泣いたのは……
頭の中をチラリと何かの記憶が過ぎりそうであったが、それはグラエムの声によってかき消されてしまった。
「……さっきは怒鳴ってごめん。……でも、オレ、ラズにわかってほしくて……オレが、おまえの周りのみんなが、おまえのこと大切に思っているんだ、そうわかってほしかったから……」
「……俺のほうこそ……ごめん。変なこと言って……」
ふふ、とグラエムが笑った。グラエムと喧嘩をしたのは初めてだ。こうした会話を交わすのすら初々しくて、可笑しかったのかもしれない。
ラズワードも長年友人として過ごしてきたグラエムとのこんな会話に、気恥かしさを覚えて笑った。その笑い声を聞いて、グラエムはパッとラズワードから離れて言う。
「お、笑った。それだよ、オレそれ大好き」
「……もうあんまり好き好き言わないでくれ。恥ずかしい」
「だって本当だし。ラズもオレのこと好きだろ?」
「……ま、まあ……好き、だけど」
あれ、好きってなんだっけ。グラエムに対して性的な感情など一切湧いたりしていないのに、「好き」と口から自然にでてきてしまった。
ラズワードの言葉を聞いて、グラエムがぱあっと笑顔を見せる。それを見て、なんとなく心が暖かくなってくる。彼の笑っている姿に、嬉しさを覚えてくる。
ああ、これかもしれない。「笑っていて欲しい」、「好き」。その意味は。
「……ラズ」
グラエムが気まずそうに頭を掻く。
「オレ、おまえのそういうところ、好きだよ」
「え」
「普段オレにあたり悪ィけど、オレの見ていないところで気遣ってくれるところ」
急に何を言い出すんだろう。ラズワードは、先ほどのことなどなかったような態度を見せるグラエムを見て、目を瞬かせた。
「オレさ、初めておまえ見たとき、すんげえ無愛想な奴って思ったの。なんか見た目が無駄にいいのも相まってお高くとまってんのかなあって、そう思っておまえのところあんまり好きじゃなかった」
「……」
「でもさ、話してみると別にラズは気取っているわけでもなんでもなくて、ちょっと感情を表にだすのが苦手なんだ、そう気付いてさ。……時々見せる笑顔がすっげえ可愛いの。オレそれが見たくて、おまえにいっぱい話かけて……少しずつおまえを知って、いつの間にか好きになってた。昔はほんと苦手だったのに、今では友達だって、そう言い張れるくらいに」
へへ、と笑うグラエムは、昔となんら変わっていない。
よくこんな素直な気持ちを恥ずかしげもなく言えるよなあ。聞いているこちらが恥ずかしくなってくるようなグラエムの言葉を聞いて、ラズワードは微かに顔を赤らめる。
「だから……おまえが施設に連れて行かれて、そのときは本当に怖かった。おまえの笑った顔も、もう二度と見れなくなるんだって。もしも施設から帰ってきたとして、笑えなくなっていたらどうしよう。オレのこと覚えていなかったりしたら、悲しいとかそんなレベルじゃすまないなって」
「……グラエム」
「……ずっとずっと、ハンターとして頑張って、力もつけて……そうやっている中でも、ラズのことは片時も忘れたことねェんだ。もう一度、必ずラズの笑顔をみたいって……そうずーっと考えていた」
……やばい、恥ずかしい。あまりにもストレートにものを言うグラエムに、ラズワードもたじたじであった。真面目に話してくれている彼から目を逸らすのも悪いと思ったが、流石に面はゆくて口元を片手で隠す。
「……会えてよかった。そんなに変わっていなくてよかった。オレ、さっきおまえに会ったとき、嬉しくて嬉しくて……本当に、嬉しかった」
グラエムがそっとラズワードを抱きしめる。耳元でひく、としゃくりの声が聞こえた。
(……泣いている)
この涙も、俺のためなのだろうか――
誰かのために泣くこと……そんなこと、自分はあっただろうか。ラズワードはグラエムのすすり泣く声を聞いて、そんなことを思う。
――いや、あった。たしか、俺が泣いたのは……
頭の中をチラリと何かの記憶が過ぎりそうであったが、それはグラエムの声によってかき消されてしまった。
「……さっきは怒鳴ってごめん。……でも、オレ、ラズにわかってほしくて……オレが、おまえの周りのみんなが、おまえのこと大切に思っているんだ、そうわかってほしかったから……」
「……俺のほうこそ……ごめん。変なこと言って……」
ふふ、とグラエムが笑った。グラエムと喧嘩をしたのは初めてだ。こうした会話を交わすのすら初々しくて、可笑しかったのかもしれない。
ラズワードも長年友人として過ごしてきたグラエムとのこんな会話に、気恥かしさを覚えて笑った。その笑い声を聞いて、グラエムはパッとラズワードから離れて言う。
「お、笑った。それだよ、オレそれ大好き」
「……もうあんまり好き好き言わないでくれ。恥ずかしい」
「だって本当だし。ラズもオレのこと好きだろ?」
「……ま、まあ……好き、だけど」
あれ、好きってなんだっけ。グラエムに対して性的な感情など一切湧いたりしていないのに、「好き」と口から自然にでてきてしまった。
ラズワードの言葉を聞いて、グラエムがぱあっと笑顔を見せる。それを見て、なんとなく心が暖かくなってくる。彼の笑っている姿に、嬉しさを覚えてくる。
ああ、これかもしれない。「笑っていて欲しい」、「好き」。その意味は。
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