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第七章:おまえを許さない

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「……」


 しかしここでつっ立っていても仕方がない。フードを深くかぶり、ラズワードはカウンターへ近づいていく。


(大丈夫……今の俺は顔さえ隠せばただの地味な男……顔を見られなければ……)


「あの、すみま」

「おい、にーちゃん! この村に住んでいる人か? 一人酒も寂しいからさ、一緒に飲もうぜ!」

「……へ?」


(こ、声をかけられた……!?)


 ラズワードがマスターへ宿泊について尋ねるのを阻んだ人物。それは紛れもなく座っていたハンターの男であった。

 ラズワードはこれ以上伸びないフードを引っ張って、必死で顔を隠す。冷や汗が額を伝う。

 バレたらどうなる。奴隷であることがこの男にバレたら……


「あれ、聞こえている? おーい!」


 ラズワードは最悪の展開を頭の中で描いていた。もしもこのハンターに奴隷であることがバレれば、おそらく捕まる。ハンターであるこの男に抵抗でもして怪我をさせれば、ハルの権威に関わるかもしれない。つまり、捕まれば抵抗も許されることもないまま……


(……いや、でも待て……ヒトの世界では青い瞳なんて珍しくはない……ここはヒトのフリをして乗り切れば……)


 ラズワードは軽く息を吐く。そして、意を決してフードを取った。変に隠しているほうがかえって怪しいというものだ。


「……あれ、おまえ」

「……え?」


 ラズワードがフードをとった瞬間、ハンターの男が息を飲む声が聞こえた。まさか、そこまでヒトとかけ離れた容姿をしているわけでもないのに、天使であると、奴隷であるとバレたのか。ラズワードは自らの激しい心臓の鼓動を聞きながら、視線をハンターの男に向けた。


「……え、……な、」


 そこにいた男にラズワードはただただ驚いた。息をするのも忘れてしまうくらいに。それは、おそらく相手も同じだろう。彼も、あんぐりと口を開けてラズワードを凝視している。


「……おまえ、……え、本物? マジで……? ら、ラズ……?」

「……グラエム……」


 そこにいたのは、魔獣狩りをしていた時代の友人、グラエム。ラズワードが施設に捕らえられる際に、命懸けで救おうとしてくれた人物である。

――無事、だったんだ

 ラズワードは腰が抜けそうになって、カウンターに手を着いた。ラズワードはグラエムが腹に致命傷を受けた後、ノワールが彼を治療したところを見ていないのだ。


「……ラズ……ほんとに、ラズ、なんだな……!」


 ガタ、とグラエムが立ち上がる。そしてふるふると頬を震わせ今にも泣きそうな顔をして、そろりそろりとラズワードに近づいた。


「――ラズッ!!」

「わっ……」


 勢いよくグラエムに抱きつかれてラズワードはよろけてしまった。
 

「よかった……! おまえ、無事だったんだな……! よかった、ホントによかった……」

「グラエム、……くるし……」


 ぎゅう、ときつく抱きしめてくるグラエムに、ラズワードは狼狽えてしまった。どうすればいいんだろう。グラエムが生きていて良かった。その気持ちを表すには、抱きしめ返せばいいんだろうか。

 なぜか熱くなってくる目頭。ツンと痛む鼻の奥。涙がでそう、そう思ってラズワードは手をゆっくりグラエムの腰にまわし、彼の肩口に頬を寄せた。

 なんだろう、すごく暖かい。

 じわりと心の中で何かが溶け出すような。春の雪解けにも似たぬくもりが、妙に心地よく感じた。

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