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第七章:おまえを許さない
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(こいつは外道だ……許されるべき人間じゃない……!)
一度イって頭を支配していた変な気分から解放されたというのもあるが、ラズワードは思い直し、体を起こす。
(今日はこいつの言いなりになってたまるか……!)
布団を放り投げて、ラズワードはノワールを睨みつける。例のごとくの定位置に彼は座っていた。
……が。
「……え」
そこに座っていた彼は。てっきりまた何か作業でもしているのかと思ったが。
「……」
……寝ている。
腕を組み、頭を垂れて。
「……本当に……?」
あまりにも珍しい光景に、ラズワードはただただ驚いていた。いつも、戦っている時はもちろん、その他の時間も、絶対に隙を見せることはなかった彼である。よっぽど疲れているのだろうか。
おそらくもう二度とお目にかかれない光景に、ラズワードは興味津々であった。
ベッドから静かに降りて、彼にそろそろと近づいていく。下を向いているから寝顔は見えないが、近づいても反応がないところをみると、本当に寝ているようである。
(馬鹿か……)
そこでラズワードが真っ先に頭に浮かんだのは、ノワールへの罵倒の言葉であった。
気を許しすぎである。散々虐げた人の目の前で寝るなど、ツメが甘いにも程がある。恨みを買っているとは考えないのだろうか。こうして寝ている隙に殺される、とは考えないのだろうか。
ラズワードは、ノワールの寝ている姿を見ている内に、沸々と何かが湧いてくるのを感じていた。
……今なら、殺せる。この牢は魔術が使えないようになっている。もし、途中で目が覚めたとしても、先に手をだしたこちらのほうが圧倒的に有利だ。
そう、世界を占める悪の根源を。多くの人を苦しめる組織の頂点を。
今なら、殺せる。
「……」
グラリ、と視界が歪むような感覚を覚えた。
始めの頃の、業務連絡だけの会話。最近になって、他愛のない話を少しするようになった。彼の、本来の笑顔を少しだけみることができるようになってきた。
目を閉じる。奥歯を噛み締める。
「――っ」
殺せるのは、今、この瞬間のみ。俺だけだ。
「……あ」
ラズワードは上げた腕を止めた。
目が合ったのだ。ノワールと。起きていたのか、今起きたのかは定かではないが。彼はその黒い瞳で、しっかりとラズワードを見ていたのだ。
今を逃したら、もうない……!
ラズワードは勢いよく、その首を掴んだ。殺す方法など考えていなかった。
しかし、何も武器のないこの状況。ぱっと浮かんだ方法がこれであった。
「……ひっ」
しかし、ラズワードはすぐに手を離した。見つめてくるノワールを恐れたのではない。
その首が、細かったから。
悪の頂点。世界を占める男。数々の悪名を轟かせる、闇を支配するこのノワールという人。
その人は、どんな兵器だろうと軍隊だろうと、殺せないとまで言われていた最強の男で。
しかし。その人の首は、思ったよりもずっとずっと細く。下手したら片手でへし折れそうなくらいに、細かったのだ。
普通の人間と、同じように。
ノワールは何も言わない。ただ、狼狽えるラズワードを見つめている。
まるでその瞳は。「■してくれないのか」、そう言っているようで。
「……っ」
ラズワードは逆らえなかった。震える唇を噛み締め、恐る恐る手を伸ばし。
もう一度、その首に触れた。
「――」
少しずつ、力を込める。
手の震えが止まらない。冷や汗がダラダラと吹き出てくる。
一度イって頭を支配していた変な気分から解放されたというのもあるが、ラズワードは思い直し、体を起こす。
(今日はこいつの言いなりになってたまるか……!)
布団を放り投げて、ラズワードはノワールを睨みつける。例のごとくの定位置に彼は座っていた。
……が。
「……え」
そこに座っていた彼は。てっきりまた何か作業でもしているのかと思ったが。
「……」
……寝ている。
腕を組み、頭を垂れて。
「……本当に……?」
あまりにも珍しい光景に、ラズワードはただただ驚いていた。いつも、戦っている時はもちろん、その他の時間も、絶対に隙を見せることはなかった彼である。よっぽど疲れているのだろうか。
おそらくもう二度とお目にかかれない光景に、ラズワードは興味津々であった。
ベッドから静かに降りて、彼にそろそろと近づいていく。下を向いているから寝顔は見えないが、近づいても反応がないところをみると、本当に寝ているようである。
(馬鹿か……)
そこでラズワードが真っ先に頭に浮かんだのは、ノワールへの罵倒の言葉であった。
気を許しすぎである。散々虐げた人の目の前で寝るなど、ツメが甘いにも程がある。恨みを買っているとは考えないのだろうか。こうして寝ている隙に殺される、とは考えないのだろうか。
ラズワードは、ノワールの寝ている姿を見ている内に、沸々と何かが湧いてくるのを感じていた。
……今なら、殺せる。この牢は魔術が使えないようになっている。もし、途中で目が覚めたとしても、先に手をだしたこちらのほうが圧倒的に有利だ。
そう、世界を占める悪の根源を。多くの人を苦しめる組織の頂点を。
今なら、殺せる。
「……」
グラリ、と視界が歪むような感覚を覚えた。
始めの頃の、業務連絡だけの会話。最近になって、他愛のない話を少しするようになった。彼の、本来の笑顔を少しだけみることができるようになってきた。
目を閉じる。奥歯を噛み締める。
「――っ」
殺せるのは、今、この瞬間のみ。俺だけだ。
「……あ」
ラズワードは上げた腕を止めた。
目が合ったのだ。ノワールと。起きていたのか、今起きたのかは定かではないが。彼はその黒い瞳で、しっかりとラズワードを見ていたのだ。
今を逃したら、もうない……!
ラズワードは勢いよく、その首を掴んだ。殺す方法など考えていなかった。
しかし、何も武器のないこの状況。ぱっと浮かんだ方法がこれであった。
「……ひっ」
しかし、ラズワードはすぐに手を離した。見つめてくるノワールを恐れたのではない。
その首が、細かったから。
悪の頂点。世界を占める男。数々の悪名を轟かせる、闇を支配するこのノワールという人。
その人は、どんな兵器だろうと軍隊だろうと、殺せないとまで言われていた最強の男で。
しかし。その人の首は、思ったよりもずっとずっと細く。下手したら片手でへし折れそうなくらいに、細かったのだ。
普通の人間と、同じように。
ノワールは何も言わない。ただ、狼狽えるラズワードを見つめている。
まるでその瞳は。「■してくれないのか」、そう言っているようで。
「……っ」
ラズワードは逆らえなかった。震える唇を噛み締め、恐る恐る手を伸ばし。
もう一度、その首に触れた。
「――」
少しずつ、力を込める。
手の震えが止まらない。冷や汗がダラダラと吹き出てくる。
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