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第十三章:予兆

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「冬廣会長。これ、着て」

「……なんで」

「冬廣会長に似合うと思って買ったんですよ」

「……性癖歪んでんじゃないの」

「え? 何か」

「……いや」


 波折が押し付けられたのは、赤い女物の着物。こんな意味のわからないプレイをする準備をずっと前からしていたのかと思うと、ゾッとした。


「……」


 波折が黙っていても、篠崎は何も言ってこない。「着ろ」という無言の圧力を感じた。波折は渋々制服を脱いでいく。脱いでいるところを舐めるように見つめらて気分が悪かったから、手早く。脱いだ制服は鞄の上に投げ捨てて、さっと着物を羽織る。帯をしめたところで篠崎に引っ張られて拘束具のあるところまで連れて行かれた。


「うっ……」


 拘束具は、色んな種類があった。鎖や手錠、荒縄。こんなものを天井に取り付けて、あとでマンションの管理人から請求が来ないのだろうかと波折はどうでもいいことを考える。

 着物を肩まではだけさせられて、荒縄で乱暴に縛られる。つま先でぎりぎり立っていられるくらいに上から吊られて、そして尻を突き出すような格好をさせられる。手首は前にまとめあげられた。


(……変態だ……)


 熟女もののAVなんかでありそうな格好をさせられているなあ、と波折は他人ごとのように自分の状況を考えていた。赤い着物と荒縄。非常に変態臭い。拘束プレイは大好きだけど、なんだか気が乗らない。篠崎の言動に散々傷つけられたあとだからだろうか。


「冬廣会長。これ、飲んで」

「……っ」


 波折の拘束を終えると、篠崎が冷蔵庫から飲み物を持ってきた。コップに並々と注がれた、どろっとした茶色の液体。近づけられて匂いでわかる。チョコレートドリンクだ。この量だと……板チョコ一枚分くらいの量になるのだろうか。

 こんなものを飲んだらひとたまりもない……わかっているが、抵抗するわけにもいかない。波折はぎゅっと目をつぶって、口を開く。そうすれば、篠崎が遠慮無くチョコレートドリンクを口の中に注いできた。


「……あっ、」


 全てを飲み込んだ、その直後に全身がゾクゾクとしてくる。量が多すぎだ。ガクガクと身体が震えて、頭が真っ白になって、壊れてしまいそうになった。かあっと身体が熱くなって涙まで溢れてくる。


「可愛い……冬廣会長……」


 篠崎がいそいそと道具を取り出しはじめる。手には、ローターやバイブ。両方の乳首にローターをガムテープで貼付け、そしてアナルにローションをかけたあと、バイブをずっぷりと突っ込んだ。そして口もガムテープで塞がれてしまう。


「んんーっ……! んー! んー!」


 拘束されて、オモチャで感じるところを責められて。身体はエビ反りになったり前かがみになったり、せわしない。ビクンビクンと大げさなくらいに何度も何度も跳ねて、つま先立ちの脚がガクガクと震えてくる。立ち上がったペニスからは先走りがだらだら、だらだらと大量に溢れてきて太ももを濡らし、そしてやがて床も濡らす。感じすぎて感じすぎて、おかしくなってしまいそうで。助けてと言いたいのに、口は塞がれていて唸ることしか許されない。


「んーっ! んんー……! んー……んー……」


 泣いて泣いて、懇願して。それでも篠崎はニヤニヤと笑っているだけ。周りのカメラを使って波折を撮影し始める。ご丁寧に照明器具まで設置してあるのか、波折の痴態を強い光が照らしだす。ビックンビックンとひくつくアナルやびしょぬれの股間、そして泣き顔。色んなところをアップにしながら篠崎は撮影を楽しんでいた。


「冬廣会長ー……すっごくエッチですねー。またいい動画ができた。そうだ、この動画、みんなに回してあげましょうか」

「……!」


 波折が目を見開いて、ぶんぶんと首を振る。そうすれば篠崎が、ハハっと笑って波折の口を塞ぐガムテープをベリっと引き剥がした。


「じゃあ、どのくらい気持ちいいかこのカメラに向かって言ってみてください、冬廣会長。とびっきりエッチにね。ちゃんと言わないと動画回しちゃいますよ」

「……っ」


――屈辱だった。淫語を言わされるのはよくあることだし、別に嫌ではない。が、この男に言うのはどうにも好かなかった。チョコレートを使って無理やり感じさせているだけのくせに。オモチャを大量に使っているだけのくせに。セックスが下手なくせに。もの頼りの男に下るのが、悔しい。……でも、言わないと。逆らっては、いけないから。


「……気持ちいい、です……あっ……おかしく、なっちゃいそう、なくらい……」

「……まだまだ言えるよね、会長……鑓水くん相手のとき、もっとすごいこと言ってませんでした?」

「……っ、イッちゃいそうです……気持ちよすぎて、イッちゃいます……! ゆるして、篠崎くん……!」


 何を言えばいいのかなんて、わからない。慧太は上手だから自然とああいう言葉がでてくるんだよ! と波折は心のなかで叫ぶ。いくら身体は感じていても、篠崎への嫌悪感が募りすぎて頭は冷静だった。

 何とか絞り出した言葉は、篠崎のお気に召しただろうか。正直、彼を相手にこれ以上の言葉は言えそうにない。波折はぼろぼろと涙をこぼしながら、篠崎を見上げる。


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