スイートアンドビターエゴイスト

うめこ

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第十三章:予兆

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「……僕と付き合ってくれたら、誰にもいいません。冬廣会長」

「……なんで、こんなこと……」

「貴方のことが好きだからですよ! でも僕は……普通に告白したところで、絶対に貴方に振り向いてもらえない……僕は、鑓水くんみたいに頭がいいわけでも、かっこいいわけでもないから……」

「だからって……」


 波折はぐっと押し黙る。その顔には、焦りと絶望。


「……篠崎くん、やっていいことと悪いことが……」

「うるさい……! 冬廣会長……! 僕と付き合うんですか、付き合わないんですか! 答えて!」


 迫られ、波折は顔をしかめる。付き合うっていったら……今とは大分状況が変わる。沙良と昼休みに語らうことも、鑓水と同じ部屋に帰ることも、きっと許されない。そもそも今まで関わりのなかった人物に突然関係を強要されるのが、嫌だ。――でも。


「……わかった……付き合うよ」


――篠崎が、恍惚と微笑んだ。波折の頬を撫でうっとりとした声で囁く。


「……冬廣会長……僕のものに、なってくれるんですね」

「……うん」

「他の男と無駄に接触するのは、だめですよ。鑓水くんと同棲するのも」

「……わかってる」


 篠崎は波折の返事をきくと、にこにこと嬉しそうに笑った。全く悪気のない顔だ。平気で人の家に侵入して隠しカメラを設置するくらいなのだから……その精神は普通ではないのだろう。その笑顔は本当にただ好きな人と付き合えることになった純粋な少年のもののようだった。

 篠崎がポケットからチョコレートを取り出す。隠しカメラで「ご主人様」とのセックスもみていたから、波折がチョコレートを食べることによって変わってしまうことも知っているのだ。チョコレートを差し出されると、波折は抵抗しても無駄だと悟り、おとなしく口を開く。チョコレートが咥内に押し込められ、じわりとその甘味が溶け出してゆくと……身体がじわじわと熱くなってきた。


「うっ……」


 乱暴に、服を脱がされる。篠崎は興奮で手が震えているのか、波折の服を脱がせるのに苦労しているようである。ベルトを外すのも、スラックスを脱がせるのにも時間がかかっていた。上はもはやちゃんと脱がせる心の余裕がないのか、ぐいっと首までたくし上げられて、胸を露出させられる。波折の肌があらわになっていくごとに、篠崎の息はあがっていった。


「……あっ……ひ、ぁ……」


 篠崎はただ興奮のままに、波折の身体を舐めまわす。一年――溜め込んだ波折への想いをすべてぶつけるような愛撫は激しくて、それでいて粗雑。チョコレートの作用でかろうじて波折は感じてしまっていたが、あまりにもひとりよがりなそれに波折の心は拒絶を示していた。後孔のほぐし方も、下手くそだ。ただ指を突っ込んで掻き回しているだけ。


「うっ……」

「冬廣会長、……感じて、ますね……とても可愛いです」

「あっ……あぁっ……!」


 篠崎は早急にペニスを波折のなかに突っ込んできた。体格のままに、太く大きいそれをろくに解されることもなく突っ込まれて波折は悲鳴をあげる。


「やっ……もう、いやだ……! やめて、……ひゃあっ……!」

「いやいやいって……恥ずかしがっているんですか……可愛い……」

「ううっ……」


 セックスは好き。でも、ここまで気の乗らないセックスは初めてだ……というくらい、波折は篠崎のやり方が嫌だった。感じてしまっている自分が憎らしいと思うくらい。別に、篠崎が嫌いというわけではない……むしろこのセックスを通して嫌いになりそうだ。こんなに、相手のことを考えない自分の欲望のままにするセックスを、波折は知らなかった。ガクガクと身体を揺さぶられて、強引に口付けられて。ああ、これセックスじゃなくてレイプだ、と気づいたのは中に出されたとき。最後まで、波折はこのセックスへの嫌悪感を拭えなかった。


「冬廣会長……今日から、僕の家に帰りますよ。冬廣会長との愛の巣にふさわしくなるように、たくさん準備していますからね」

「……うん」


 ……自分のうちに帰りたいなあ、なんて。慧太に触られたいなあ、なんて。そう思いながら、波折は微笑んだ。

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