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第十三章:予兆
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しおりを挟む――きみは、僕の天使だった。
『――おまえさ、マジキモイよな!』
『キモデブほんと邪魔なんだよ』
教室にいる人達は、みんな見てみないフリ。僕を殴ってくる彼らを咎めて、僕を救おうだなんて考える人は、この教室にはいなかった。そもそも、僕なんかを救いたいと思ってくれる人はいないだろう。デブで、ブサイクで、頭もたいして良くなくて、話も下手くそで。そんな僕を、みんな疎ましく思っていた。
ひとしきり僕に暴力をふるって満足した奴らは、何食わぬ顔をしてどこかへ行ってしまう。俯いて、乱れた服を直して……そんな僕をみている人など、この教室のどこにもいない。そう、丁度「彼」が現れたこともあるけれど。
なにやら資料を持って教室に入って来たのは――冬廣波折。たしか隣のクラスの生徒だ。まだ一年のくせに生徒会長になったとかいう、とんでもない奴。見た目もものすごくかっこよくて、僕にとっては遠い遠い存在だ。クラスのみんなは彼が教室に入ってくるなり、わあと騒ぎ立てる。教室の隅でうずくまる僕のことなんて、目にも留めていない。持ってきた資料の説明をしている彼を、みんな目を輝かせてみている。
「……?」
しかし、突然僕に教室中の注目が集まりだした。原因は、僕もすぐにわかった。彼が――冬廣波折が僕に向かって歩いてきているのである。
「……大丈夫?」
「え……?」
彼は床に転がっていた僕のメガネを拾って、手渡してくれた。そして、僕に手を差し出す。恐る恐るその手をとってみれば、彼は僕の手を引いて立たせてくれた。
「あ、あの……」
彼はにっこりと笑って、僕の首元に手を添える。ぎょっとしていれば……彼は、僕の緩んだネクタイを絞めてくれた。
「制服、きちんと着ないとね」
間近でみて、僕は息を呑む。本当に……本当に綺麗な顔をしている。そして、その綺麗な彼の笑顔が僕に向いている。この、みんなから嫌われている僕なんかに、彼は微笑みかけてくれている。
――天使のようだ。そう思った。
そのときから、冬廣波折という生徒は、僕の天使だった。それ以降話したことなんてないけど、ずっとずっと、僕は彼のことを想い続けていた。
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