スイートアンドビターエゴイスト

うめこ

文字の大きさ
上 下
222 / 236
第十三章:予兆

1

しおりを挟む



――きみは、僕の天使だった。


『――おまえさ、マジキモイよな!』

『キモデブほんと邪魔なんだよ』


 教室にいる人達は、みんな見てみないフリ。僕を殴ってくる彼らを咎めて、僕を救おうだなんて考える人は、この教室にはいなかった。そもそも、僕なんかを救いたいと思ってくれる人はいないだろう。デブで、ブサイクで、頭もたいして良くなくて、話も下手くそで。そんな僕を、みんな疎ましく思っていた。

 ひとしきり僕に暴力をふるって満足した奴らは、何食わぬ顔をしてどこかへ行ってしまう。俯いて、乱れた服を直して……そんな僕をみている人など、この教室のどこにもいない。そう、丁度「彼」が現れたこともあるけれど。

 なにやら資料を持って教室に入って来たのは――冬廣波折。たしか隣のクラスの生徒だ。まだ一年のくせに生徒会長になったとかいう、とんでもない奴。見た目もものすごくかっこよくて、僕にとっては遠い遠い存在だ。クラスのみんなは彼が教室に入ってくるなり、わあと騒ぎ立てる。教室の隅でうずくまる僕のことなんて、目にも留めていない。持ってきた資料の説明をしている彼を、みんな目を輝かせてみている。


「……?」


 しかし、突然僕に教室中の注目が集まりだした。原因は、僕もすぐにわかった。彼が――冬廣波折が僕に向かって歩いてきているのである。


「……大丈夫?」

「え……?」


 彼は床に転がっていた僕のメガネを拾って、手渡してくれた。そして、僕に手を差し出す。恐る恐るその手をとってみれば、彼は僕の手を引いて立たせてくれた。


「あ、あの……」


 彼はにっこりと笑って、僕の首元に手を添える。ぎょっとしていれば……彼は、僕の緩んだネクタイを絞めてくれた。


「制服、きちんと着ないとね」


 間近でみて、僕は息を呑む。本当に……本当に綺麗な顔をしている。そして、その綺麗な彼の笑顔が僕に向いている。この、みんなから嫌われている僕なんかに、彼は微笑みかけてくれている。

――天使のようだ。そう思った。

 そのときから、冬廣波折という生徒は、僕の天使だった。それ以降話したことなんてないけど、ずっとずっと、僕は彼のことを想い続けていた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...