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第十二章:スイートアンドビター
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しおりを挟む夕食を終えて、沙良と波折はリビングで食休みをしていた。ちなみに料理は波折からも洋之からも高評価。二人を満足させることができて、沙良も嬉しかった。
洋之は波折がいるということで気をきかせて自室に戻ってしまっていた。しかし、だからといってリビングで致すことなどできるはずもなく。悶々としながも、沙良は波折の肩を抱くにとどまってる。
「波折先輩……あの、聞いてもいいですか」
「ん?」
「波折先輩のご家族……亡くなったって言ってましたけど……記憶、ないんですか?」
「あるよ? なんで?」
「いや……どうでもいいって言ってから」
「どうでもいいものはどうでもいいんだよ」
「……そうですか」
波折は沙良の家族と話しているときに、楽しそうにしている。波折の亡くなった家族はどんなものだったのだろうと気になって聞いてみれば、やはり波折は「どうでもいい」という。ちゃんと家族の記憶があるのに亡くなった彼らに興味を示さないなんて……変なの、と思っていれば、波折がちらりと沙良を横目で見つめた。
「何か?」
「……いや。俺だったら自分の家族が死んじゃったら悲しくて、すごく引きずるので……えっと、波折先輩の事情もあると思うのでそれはなんとも言えないですけど」
「そうだね、俺も家族が死んだばかりのころは悲しかった」
「あっ……やっぱり……ですよね」
波折の言葉に、沙良はほっとした。波折が感情が欠落しているのではないかと疑念を抱いてしまっていたからだ。きっと、時間が心の傷を癒してくれたから、波折はなんともない顔をしているのだろうと沙良は納得する。しかし、次に波折の口から出た言葉に固まった。
「……悲しみは、消された」
「え……?」
「ご主人様が、消したんだよ」
波折はなんでもない、という風に言った。
「ご主人様」。波折を支配する謎の人物。波折にとって、悪い人。その名前を聞いた瞬間、沙良は腹の中がグツグツと煮えたぎるような苛立ちを覚えた。
「俺が幼いころ……歳はよく覚えていないけれど。ご主人様に、家族を皆殺しにされた」
「……は?」
「でもご主人様は俺だけは殺さなかった。俺がご主人様の理想像そのものだったんだって。俺はあの人の望みを叶えるために、あの人の傀儡にさせられた――あの人へ陶酔するように調教されたんだ。あの人のものになったときからずっと」
「……」
沙良は信じられない、といった目で波折を見つめた。まるでフィクションのような、狂気じみた境遇。それは本当なのだろうか。本当ならば、波折は両親を殺した犯人を「ご主人様」と呼び慕っていることになる。
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