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第十二章:スイートアンドビター
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今日の波折の料理は肉じゃがだった。優しい味が体に染みるようなそれに、これは本格的に嫁に欲しいぞ、なんて思いながら鑓水は夕食のときまで波折のことを想っていた。
「波折~一生養って~」
「んー? 慧太はちゃんと女の子と結婚して子供つくりなさい」
「やだよ。波折とずっといたい」
「あは、俺とは結婚できないよ」
「じゃあ外国いって結婚しようぜ!」
「……外国?」
食べ終えた食器を片付けながら、波折がきょと、と鑓水を見つめる。あれ、何か変なこと言ったかな、と鑓水が首をかしげれば、波折がどこか遠くを見てつぶやく。
「外国……外国かぁ……ふぅん」
「な、なんだよ」
「外国にいったら誰も俺たちのことを知らないだろうね」
「そうだな?」
「そっかー……誰も、俺のことを知らないところ。全部から逃げられるところ。いいなぁ、行ってみたい」
波折が立ち上がり、食器を流しに持って行く。軽く食器を洗って水に浸け、手を洗うとまた鑓水のもとへ戻ってきた。
「慧太」
「ん?」
「……俺を、どこか知らないところへ連れ去ってくれますか」
「えっ……」
波折の切なげな表情に、鑓水は固まってしまう。一体どういうことだ……そう思って、気付く。「ご主人様」から逃げたいのか、と。でも……波折はたしか「ご主人様」に心酔していなかったか。なぜそんなことを言ってきたのか。そして、「誰も知らないところ」へ逃げなければ「ご主人様」からは逃げられないということなのか。
「うそ。じょーだんだよ、慧太」
「な、波折……」
鑓水がごちゃごちゃと思案していれば、波折が誤魔化すようににこ、と笑った。なんだかその笑顔にムカついて、鑓水は波折の手をガッと掴む。そしてびくりとした波折に詰め寄って、言う。
「どこへでも連れ去ってやるよ。昼間も言ったけど、俺はおまえさえいれば何もいらない。ふたりきりで、どこまででも行こう」
「……だ、だめだよ。ごめん、ほんと冗談だから、ね、慧太」
へら、と波折が泣きそうな顔で笑う。またそんな顔で笑って、と鑓水が波折の手を強く握れば、波折が唇を噛んで瞳を震わせた。そして、潤んだ瞳で鑓水を見つめ、口付けてくる。
「でも……ありがとう。けいた。嬉しい」
波折がちゅ、ちゅ、とキスを繰り返してくる。鑓水はそれに応えながら、波折の頭をよしよしと撫でてやった。波折はぺたりと鑓水にくっついてきて、甘えるように唇を押し付けてくる。非常に愛らしいが、一体波折はどうしたんだろうと鑓水は不安に思った。
「波折~一生養って~」
「んー? 慧太はちゃんと女の子と結婚して子供つくりなさい」
「やだよ。波折とずっといたい」
「あは、俺とは結婚できないよ」
「じゃあ外国いって結婚しようぜ!」
「……外国?」
食べ終えた食器を片付けながら、波折がきょと、と鑓水を見つめる。あれ、何か変なこと言ったかな、と鑓水が首をかしげれば、波折がどこか遠くを見てつぶやく。
「外国……外国かぁ……ふぅん」
「な、なんだよ」
「外国にいったら誰も俺たちのことを知らないだろうね」
「そうだな?」
「そっかー……誰も、俺のことを知らないところ。全部から逃げられるところ。いいなぁ、行ってみたい」
波折が立ち上がり、食器を流しに持って行く。軽く食器を洗って水に浸け、手を洗うとまた鑓水のもとへ戻ってきた。
「慧太」
「ん?」
「……俺を、どこか知らないところへ連れ去ってくれますか」
「えっ……」
波折の切なげな表情に、鑓水は固まってしまう。一体どういうことだ……そう思って、気付く。「ご主人様」から逃げたいのか、と。でも……波折はたしか「ご主人様」に心酔していなかったか。なぜそんなことを言ってきたのか。そして、「誰も知らないところ」へ逃げなければ「ご主人様」からは逃げられないということなのか。
「うそ。じょーだんだよ、慧太」
「な、波折……」
鑓水がごちゃごちゃと思案していれば、波折が誤魔化すようににこ、と笑った。なんだかその笑顔にムカついて、鑓水は波折の手をガッと掴む。そしてびくりとした波折に詰め寄って、言う。
「どこへでも連れ去ってやるよ。昼間も言ったけど、俺はおまえさえいれば何もいらない。ふたりきりで、どこまででも行こう」
「……だ、だめだよ。ごめん、ほんと冗談だから、ね、慧太」
へら、と波折が泣きそうな顔で笑う。またそんな顔で笑って、と鑓水が波折の手を強く握れば、波折が唇を噛んで瞳を震わせた。そして、潤んだ瞳で鑓水を見つめ、口付けてくる。
「でも……ありがとう。けいた。嬉しい」
波折がちゅ、ちゅ、とキスを繰り返してくる。鑓水はそれに応えながら、波折の頭をよしよしと撫でてやった。波折はぺたりと鑓水にくっついてきて、甘えるように唇を押し付けてくる。非常に愛らしいが、一体波折はどうしたんだろうと鑓水は不安に思った。
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