上 下
189 / 236
第十二章:スイートアンドビター

24(1)

しおりを挟む
 今日の波折の料理は肉じゃがだった。優しい味が体に染みるようなそれに、これは本格的に嫁に欲しいぞ、なんて思いながら鑓水は夕食のときまで波折のことを想っていた。


「波折~一生養って~」

「んー?  慧太はちゃんと女の子と結婚して子供つくりなさい」

「やだよ。波折とずっといたい」

「あは、俺とは結婚できないよ」

「じゃあ外国いって結婚しようぜ!」

「……外国?」


 食べ終えた食器を片付けながら、波折がきょと、と鑓水を見つめる。あれ、何か変なこと言ったかな、と鑓水が首をかしげれば、波折がどこか遠くを見てつぶやく。


「外国……外国かぁ……ふぅん」

「な、なんだよ」

「外国にいったら誰も俺たちのことを知らないだろうね」

「そうだな?」

「そっかー……誰も、俺のことを知らないところ。全部から逃げられるところ。いいなぁ、行ってみたい」


 波折が立ち上がり、食器を流しに持って行く。軽く食器を洗って水に浸け、手を洗うとまた鑓水のもとへ戻ってきた。


「慧太」

「ん?」

「……俺を、どこか知らないところへ連れ去ってくれますか」

「えっ……」


 波折の切なげな表情に、鑓水は固まってしまう。一体どういうことだ……そう思って、気付く。「ご主人様」から逃げたいのか、と。でも……波折はたしか「ご主人様」に心酔していなかったか。なぜそんなことを言ってきたのか。そして、「誰も知らないところ」へ逃げなければ「ご主人様」からは逃げられないということなのか。


「うそ。じょーだんだよ、慧太」

「な、波折……」


 鑓水がごちゃごちゃと思案していれば、波折が誤魔化すようににこ、と笑った。なんだかその笑顔にムカついて、鑓水は波折の手をガッと掴む。そしてびくりとした波折に詰め寄って、言う。


「どこへでも連れ去ってやるよ。昼間も言ったけど、俺はおまえさえいれば何もいらない。ふたりきりで、どこまででも行こう」

「……だ、だめだよ。ごめん、ほんと冗談だから、ね、慧太」


 へら、と波折が泣きそうな顔で笑う。またそんな顔で笑って、と鑓水が波折の手を強く握れば、波折が唇を噛んで瞳を震わせた。そして、潤んだ瞳で鑓水を見つめ、口付けてくる。


「でも……ありがとう。けいた。嬉しい」


 波折がちゅ、ちゅ、とキスを繰り返してくる。鑓水はそれに応えながら、波折の頭をよしよしと撫でてやった。波折はぺたりと鑓水にくっついてきて、甘えるように唇を押し付けてくる。非常に愛らしいが、一体波折はどうしたんだろうと鑓水は不安に思った。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

処理中です...