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第十二章:スイートアンドビター
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しおりを挟む結局波折は目的の駅につくまで表情を崩すことはなかった。超敏感な身体なのによくここまで耐えるな、と鑓水も感心してしまう。しかし感じていない、というわけではないらしい。どこか足元はおぼつかなくて、瞳はぼんやりとしていて。熱に浮かされて、人肌恋しくなっているような雰囲気だ。鑓水のほうをちらちらとみてはくっつきたそうにしている。
「波折。手、繋ぐ?」
「……でも」
「いいよ。俺は別におまえと噂がたとうがどうなろうが」
「……嬉しい。でも大丈夫」
鑓水の言葉が嬉しかったようだ。波折ははにかむようにして笑った。うわ、めっちゃ可愛いな、人目とかどうでもいいから抱きしめたいな、と思ったが鑓水は寸のところでその衝動を呑み込んだ。やっぱりデートじゃなくて家で思う存分触りまくればよかったかな、と思いつつ、この焦らされている感じもなかなか悪くないので楽しい。
「……波折ってさ、なんでそんなに人前だと猫かぶるの」
「猫かぶってる?」
「猫かぶってるっていうか……なんか理想の王子様って感じを装ってるじゃん」
「ああ……だって、俺はそうしていなくちゃ」
「……ふうん」
普段は甘えたなくせにこうして今は少し鑓水と距離をとる感じ。波折の擬態と言っても過言ではないくらいの変わり様に、鑓水は疑問を覚える。尋ねてみれば波折の言葉にひっかかるものを感じたが、それ以上は言及しなかった。すぐに、気づいたから。「ご主人様」の影響だな、と。「ご主人様」については波折に言及しないように心がけていたから、その会話はここで終了させた。なにより今はそんなめんどうなことは考えたくなかった。
「……トイレでもいく?」
「いや、いい」
「ほんと? 実は腰がくがくなんじゃねぇの?」
「……我慢する。うちに帰るまで、慧太に甘えるのも」
波折が俯いてこっそりと笑う。そして、ちらりと鑓水を見て小声で言う。
「うちに帰ったらいっぱい愛してね。今はデート楽しみたい」
「……っ、」
鑓水はバッと目を逸らして顔を赤らめる。これはふとした瞬間に我慢がぷつんときれて襲っちゃいそうだな、と自分で提案しておきながらこれからのデートに先行きが不安になったのだった。
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