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第十一章:彗星のように

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「ただいま~」
 
「お、おう、おかえり!」
 

 波折が家に帰ると、鑓水が出迎えてくれる。しかしなんだか様子が変だ。いつもの余裕たっぷりの包容力みたいなものを感じない。不思議に思った波折が一歩、家の中に足を踏み入れると……
 

「……なにこの臭い」
 

 異臭がする。波折は鑓水を押しのけて異臭の原因と思われるーーキッチンをみて、怪訝な眼差しで鑓水を見つめた。鑓水は「あー、あー、」なんて言いながら冷や汗を流している。 


「……この暗黒物質は一体……」
 
「い、いやー……えっと、焼きそば?  腹減ったからつまみ作ろうと……」
 
「……やき、そば?」
 

 フライパンの上にはこんがりと焦げた謎の物体。焼きそばとは全く違う臭いのするそれは、焼きそばではない何かである。鑓水が僅かに顔を赤らめながら波折に近付いていくと、波折はふっ、と気が抜けたように笑って、そして大笑いし始めた。


「えっ、何、慧太ここまで料理下手くそなんだ?  なんでもできると思ってたから面白っ!」
 
「う、うるせえな、笑うなよ!」
 
「ほんと面白い!  あははっ」
 

 なかなか見ない波折の大笑いに、鑓水はむっとしながも少しきゅんとしてしまう。可愛いなあ、なんて。馬鹿にされているのに可愛いとか感じているのは末期なような気がしたが、可愛いものは可愛い、仕方ない。鑓水は波折の後ろに立って、ぎゅっと抱きしめる。
 

「わかった、わかったからもう笑うなよ!  俺はおまえに養ってもらうから料理できなくていいの」
 
「料理だけできないっていうの、ほんとウケるよ!  あははっ」
 
「笑いすぎだ!」
 

 あんまりにも笑われるものだから恥ずかしくて、鑓水は波折の頭に自分の顔をぐりぐりと擦り付ける。脳天にやってやったからだろうか、波折は笑いながら「痛い痛い」ともがいていた。しばらくそうしてやれば、やっと波折は落ち着いたようで笑いがおさまってくる。鑓水はため息をつきながら、気になっていたことをようやく尋ねてみた。
 

「神藤とは仲直りできたの?」
 
「んー?  うん!」
 
「おー、おー、そっか。嬉しそうに笑ってよ。ちゅーくらいはされた?」
 
「ん~……エッチした」
 
「あいつ手ェはやいな!?  俺も人のこと言えねえけど」
 

 波折は沙良とのセックスを思い出したのか、鑓水の腕のなかでもぞもぞと動く。鑓水はそんな波折の様子に少しばかりの嫉妬を覚えて、後ろから波折の服の中に手を突っ込んで両方の乳首をきゅっとつまみあげてやった。


「あんっ……!」
 
「俺と神藤、どっちがセックス上手い?」
 
「んんっ……く、比べるもんじゃないって……」
 

 波折が鑓水の腕を掴みながら、ぷるぷると顔を振る。鑓水はそれを無視してぎゅっ、ぎゅっ、と乳首を揉んで波折の耳に息を吐きかけた。


「ぁふっ……」
 
「俺とのセックスじゃないとイけない身体にしてやりてぇなぁ。俺がおまえの身体を調教し直してやりたい」
 

 波折に恋人という概念がなさそう、それは鑓水が薄々と気付いていたことだ。だから波折が沙良と何をしようが口を出す権利は鑓水にない。でも、嫉妬してしまうのは仕方ない。波折のことが好きで好きでしょうがなくて、波折が幸せなら沙良と仲良くして欲しいとは思うが、それでも男だ、独占欲はある。この可愛い可愛い波折を、自分のものにしたい。そんなことを考えて自分はちょっと幼いかな、なんて思ってしまう。
 

「おまえのケツの穴が俺のチンコの形になるくらい犯しまくってやるからな」
 
「ううっ……慧太ぁ……でも、今日は……」
 
「今日はだめなの?」
 
「沙良のせーえき中にはいってて出すのもったいないから、だめ」
 
「あいつ中出ししたのか……」
 

 へへ、と顔を赤らめながらとんでもないことを言っている波折に、鑓水は思わず苦笑いをしてしまう。相変わらずの淫乱っぷりだ。
 
 沙良も、波折本人もなかなかの強敵だなぁなんて思いながら……鑓水の闘争心に僅かに火が灯ったのだった。
 
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