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第十一章:彗星のように

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 その日の生徒会の活動の最中も、波折は華子のことが気になって仕方がなかった。沙良に聞いてみたいとも思ったが、今の沙良にそういったプライベートなことは聞きづらいと感じて結局沙良が帰るときまで何も聞くことができなかった。

 沙良がいつものように少しだけ早く帰ろうと立ち上がった時、波折は生徒会室にある荷物を空き教室へ持っていかねばならないという用事を思い出す。


「……沙良、途中まで一緒にいこう」

「……あ、はい」


 別に一緒にいく必要はないのだが、どうにかして二人で話すきっかけが欲しかった。波折は荷物を持って、教室をでていく沙良の後ろについていく。

 生徒会室から昇降口まで、大した距離はない。何かを話さなきゃ、波折は必死に考えてみたが何も言葉がでてこない。ほかの生徒を相手にすれば、いくらでも話題をこちらから出すことなんてできるのに、沙良を前にして波折はそれをできなかった。


「……波折先輩」

「えっ……」


 波折が必死になっていると、沙良のほうから口を開く。びく、と震えながら波折は沙良の目をみて――泣き崩れそうになった。いつもと、全く違う目だった。こちらをみているのに、みていない。おまえには興味ない、そんな目だった。


「……いままで、ありがとうございました。週末も、無理に家にさそったりして……迷惑でしたよね。もう、大丈夫です。最近自分でご飯つくれるように、家で練習しているんですよ」

「……ッ、ま、まって、沙良……今週――」


 もう、本当に彼との接点がなくなってしまう。焦った波折が自分から「いきたい」と言おうとしたとき……視界に、沙良の目的地が飛び込んできた。昇降口についてしまったのだ。そして波折は下駄箱の影から現れた人物に息を呑む。


「……あの子、」


 一人の女の子が、こちらに向かって手を振っていた。彼女は、紛れも無い――あの子。雨宮華子だ。沙良も彼女に手を振り返して、彼女の名前を呼ぶ。


「――華子」


――吐き気を覚えた。


 そうか、沙良は彼女をそう呼ぶのか。俺と一緒にいるときは少し弱々しい男とばかり思っていたけれど――なんだ、女の子を前にしたらちゃんと「男の子」だ。


「……じゃあ、波折先輩。また明日。学園祭近いですし、頑張りましょうね。いつも早く帰っちゃってごめんなさい」


 何も、言葉を返せなかった。沙良が靴を履いているその後姿を、黙ってみていることしかできなかった。身長差のある二人が並んで校舎をでていくところを眺めていることしか、できなかった。もう、彼の中に自分の居場所はないのだと、思い知った。


「……あ、」


 するり、持っていた荷物が腕から滑り落ちる。荷物の中にあった資料がばらばらと床に散らばる。――一人でそれを、拾った。

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