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第十一章:彗星のように

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 いつものように、沙良は他のメンバーよりも少しだけ仕事を早く切り上げさせてもらった。まだ生徒の声が聞こえる廊下をぬけていき、昇降口へ向かう。靴を履き替えようとした、そのときだ。


「あ、あの、神藤くん!」


 どこからか、声がした。沙良が振り向けば、そこには一人の女子生徒が立っている。ゆるゆるとしたウェーブのかかった髪は色が明るくて、化粧も少しだけ濃いめ。短いスカートからはすらりとした細い脚がのびている。派手な印象はうけるがどことなく清楚感のある、可愛らしい少女だった。


「あ、あの!  私、二組の雨宮華子(あまみや  はなこ)っていいます!」

「……あ、ああ……しってる、雨宮さん。俺の友達がみんな可愛いって言ってた」

「えっ、し、知ってるんですか」


 華子というらしいその少女は、沙良に存在を知られていたと言われて照れ臭そうに笑う。先ほどから顔を真っ赤にしながら沙良に話しかけてくる彼女は、彼女の容姿の雰囲気とは少しギャップがあって純情さを思わせた。


「あのっ……い、一緒に帰ってもいいですか!」

「え……?  方向同じなら全然いいけど……」

「ほ、ほんとに……!?   よ、よかったあ……!  ごめんね、突然」

「え?  いやいいよ、一緒に帰ろう」


 華子は嬉しそうに笑って、沙良の隣で靴を履き替え始める。沙良がなんとなく彼女を横目でみてみれば、彼女のまつ毛は長く、瞳に影をつくっている。最近の女子はマツエクとかいうやつもやっている可能性もあるが、つけまつげには見えない元々のまつ毛に見えた。たぶん化粧をしなくても可愛い顔してるんだろうな、なんてぼんやりと沙良が思っていると華子がちらりとこちらをみてくる。まさか沙良が自分のところをみていたとは思わなかったようで、目が合うとハッとしたように前に向き直った。

 誰かと一緒に帰るのは、久々だった。いつもは一人の帰り道で少し寂しかったが、華子はよくしゃべる子で今日は楽しく帰ることができた。彼女とは電車も一緒で、降りる駅だけが違った。先に降りる彼女が、降り際に「明日も一緒に帰ってもいい?」と聞いてきたから、「いいよ」と沙良は二つ返事で頷く。笑顔で手を振って沙良にさよならをする華子は非常に可愛らしくて、沙良も笑いながら手を振り返してやって、その日彼女とは別れたのだった。

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