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第十章:その弱さを知ったとき
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授業が終わって、鑓水が生徒会室に向かおうとしたときだ。帰ろうとしている淺羽を発見した。裁判官という肩書も持っている彼は、帰る時間が他の教員よりも早い。裁判官と特別講師を両立している彼をすごいなあなんて思いながら、鑓水は彼に声をかける。
「淺羽先生、もう帰られるんですか」
「ああ、鑓水くん。どうだね、俺は帰らなきゃ」
「先生、ちょっと質問あるんですけど、」
「質問?」
「先生って波折と仲いいんです?」
あまり時間をとらないようにと、鑓水は早急にずっと気になっていた質問を切り出す。これについては沙良も気付いたことであったが、波折のことだけ呼び捨てであることを鑓水も気になっていた。
「ああ、そうだね。話す機会も多いよ」
「へえー、やっぱり波折が優秀だからですか?」
「そうだねー。あと彼、放っておけないでしょ?」
「放っておけない?」
にこにこと笑って淺羽は話す。
「波折、寂しい子だから」
「……寂しい子」
「鑓水くん、仲いいんでしょ? 波折はあんまり素直になれない子だけれど、優しくしてあげてね。本当は優しくされたいって思ってるから」
「……はい」
素直になれない、という言葉に、鑓水はあまりピンとこなかったが……「好きになるな」と言ったりしてきたことを考えれば、素直じゃないような気もする。あんなに哀しそうな顔をしながら「好きになるな」なんて、波折は絶対ほかに思うところがあったのだ。
鑓水はうーん、と唸っていたが、とりあえずは淺羽の言葉に頷いておく。
ここで波折に好きと言ったとしてどうなるんだと考え、そしてそもそもどうして自分が好きと言ったとして、なんて仮定をたてたのかに驚いて。別に自分は波折のことを好きじゃないんだから、そんな言葉を言う必要はない……そう鑓水は頭のなかでぐるぐると考える。
「今日も遅くまで生徒会?」
「はい」
「そっかー」
悩んでいる様子の鑓水を微笑ましそうにみつめ、淺羽は歩き出す。とん、と鑓水の肩に手をおいて、一言、
「帰るときは気をつけるんだよ」
とだけいって去って行ってしまった。
「淺羽先生、もう帰られるんですか」
「ああ、鑓水くん。どうだね、俺は帰らなきゃ」
「先生、ちょっと質問あるんですけど、」
「質問?」
「先生って波折と仲いいんです?」
あまり時間をとらないようにと、鑓水は早急にずっと気になっていた質問を切り出す。これについては沙良も気付いたことであったが、波折のことだけ呼び捨てであることを鑓水も気になっていた。
「ああ、そうだね。話す機会も多いよ」
「へえー、やっぱり波折が優秀だからですか?」
「そうだねー。あと彼、放っておけないでしょ?」
「放っておけない?」
にこにこと笑って淺羽は話す。
「波折、寂しい子だから」
「……寂しい子」
「鑓水くん、仲いいんでしょ? 波折はあんまり素直になれない子だけれど、優しくしてあげてね。本当は優しくされたいって思ってるから」
「……はい」
素直になれない、という言葉に、鑓水はあまりピンとこなかったが……「好きになるな」と言ったりしてきたことを考えれば、素直じゃないような気もする。あんなに哀しそうな顔をしながら「好きになるな」なんて、波折は絶対ほかに思うところがあったのだ。
鑓水はうーん、と唸っていたが、とりあえずは淺羽の言葉に頷いておく。
ここで波折に好きと言ったとしてどうなるんだと考え、そしてそもそもどうして自分が好きと言ったとして、なんて仮定をたてたのかに驚いて。別に自分は波折のことを好きじゃないんだから、そんな言葉を言う必要はない……そう鑓水は頭のなかでぐるぐると考える。
「今日も遅くまで生徒会?」
「はい」
「そっかー」
悩んでいる様子の鑓水を微笑ましそうにみつめ、淺羽は歩き出す。とん、と鑓水の肩に手をおいて、一言、
「帰るときは気をつけるんだよ」
とだけいって去って行ってしまった。
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