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第十章:その弱さを知ったとき

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「……」


 頭が痛い。

 目を覚ました時、鑓水はあまりの具合の悪さに顔をしかめた。全身に汗をかいていて、胸のあたりにもやもやと黒い霧のようなものが渦巻いて。ひどい、夢をみた。怖くて、気持ち悪くて、吐き気がする。


「……波折?」


 ふと、布団の中に寂しさを感じた。一緒に寝ていたはずの波折がいない。


「……波折、なあ、波折」


 心が騒ぐ。恐怖にあふれる。

 鑓水は起き上がって、呆然としながら波折の名を呼び続けた。


「――慧太、どうかした?」


 そうしていれば、部屋の扉が開いて波折が現れた。手にはフライ返しを持っていて、扉がひらくと同時に香ばしいいい匂いがしたから……ああ、波折は今日も朝食をつくってくれていたんだな、と鑓水は安堵の溜息をつく。そして、このまえも同じように波折が自分よりも早く起きて朝食をつくってくれていた光景をみたのに、何を自分は恐れていたのだろうと鑓水は自分で自分を笑ってやった。


「……慧太」


 そんな鑓水をみて、波折が溜息をつく。フライ返しを置くと、スタスタと鑓水に近づいていって――鑓水を抱きしめた。


「……怖い夢でもみましたか」

「えっ……」

「捨てられた猫みたいな声で俺を呼んでさ。大丈夫、俺はここにいるから」

「……波折」


 鑓水が抱きしめ返してくる。波折はぽんぽんと鑓水の背を叩いてやった。


「あ、慧太」

「……ん、」

「今日は目玉焼きでいい? ソース派? 醤油派?」

「……醤油派」

「そっか。俺も」


 波折が笑えば、鑓水がきゅ、と泣きそうな顔をして……波折に軽く、口付けをした。

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