97 / 236
第十章:その弱さを知ったとき
2
しおりを挟む
「淺羽せんせー!」
淺羽の特別講義は全学年が受講している。講義が終わって鑓水は、件のレポートについて尋ねようと淺羽のもとを訪れた。鑓水は成績こそはいいがこうして授業のあと熱心に先生のもとに通うタイプではなかったため、淺羽も少し驚いて鑓水のことを見つめる。
レポートを淺羽が書いたということを尋ねれば、淺羽は目を丸くした。自分のレポートをみつけて鑓水が読んでいたなどとは夢にも思わなかったらしい。
「淺羽せんせー、この理論って本当なんですか?」
「あくまで俺が主張した、ってだけでその理論が確定かどうかはわからないけどね。俺は本当だと思うよ」
「ええー? でもそれだと俺が防御の魔術が得意って変じゃないですか? 防御の魔術が得意な人ってどんな人なんです?」
鑓水は理論が本当かどうか、ということよりも自分の魔術について聞いてみたかった。沙良にも言われたし、自分でも防御魔術が得意、というのは「らしくない」からだ。鑓水は自分の攻撃的な性格はある程度把握しているつもりだった。
「防御の魔術が得意な人は、『守りたいものがある人』だよ」
「守りたいもの?」
「たとえば大切な人とか」
「ぶっは! いねー! 心当たりないですよー、そんなの! 俺、潜在的に周りの人が傷つくのが嫌って思ってたりするのかな?」
「それもあるかもな。でも、守りたいものっていうのは外側にだけあるものじゃなくて、内側にもあることがある」
「うん?」
「自分を守りたい、とかね」
淺羽がふっと笑って鑓水をみつめる。大切な人、と言えば笑い飛ばした鑓水が黙り込んでしまった。淺羽は考えこむように下を向いてしまった鑓水に、優しく語りかける。
「防御の魔術はちょっと心に弱いところを持っている人が長けていることが多い。苦しいことから逃れたい、そんな逃避の願望が防御の魔術となって現れる」
「……へえ、」
「……そっちには心当たりあるみたいだね」
鑓水は口元では笑いながらも、意識は完全に淺羽からは外れていた。心ここにあらず、といったところだ。普段の鑓水らしくないそんな表情を見て、淺羽は困ったように笑う。
「君はまだ高校生だからね。辛いことがあればそれに面と向かってぶつかっていくことなんて出来ないかもしれない。でもそれを恥ずかしがることはないし、気に病むことはないよ。いいんじゃない、防御魔術が得意、素敵じゃないか! 将来裁判官になったら、みんなを魔女から守ってあげることができるぞ」
「うーん、そうですね! 結局のところ防御魔術が得意ってことに繋がっているならいいか!」
淺羽の言葉に鑓水はころっと態度を変えて笑った。いつもの表情に戻った鑓水をみて、淺羽も安心したようだ。ほっとしたように笑う。
「じゃあせんせー、波折は? 波折はどういうこと? あいつなんでオール満点なの?」
「……波折? そうだな、波折について分析していけばもうちょっとこの理論も信憑性でるよなー。イレギュラーな存在だからさ、波折」
「せんせーも波折についてはやっぱりわからない?」
「あはは、俺もなんでも知ってるわけじゃないしな!」
「そっか。淺羽せんせー、ありがとうございます。すみません、引き止めちゃって」
報告レポートは少し前に書かれたもの。波折のJS入学前のものであるから、淺羽も波折のようなイレギュラーには驚いたんだろうな、と鑓水は納得した。鑓水は理論を間違っているとは思っていない。むしろ波折のことを知る大切な術であるから正しくあって欲しいと考えている。だから理論が正しいのか正しくないのか、そういったことを議論するつもりはなかった。
鑓水は淺羽にお礼を言うと教室をでていく。淺羽はそんな鑓水の後ろ姿を、ひらひらと手を振って軽い調子で見送っていた。
淺羽の特別講義は全学年が受講している。講義が終わって鑓水は、件のレポートについて尋ねようと淺羽のもとを訪れた。鑓水は成績こそはいいがこうして授業のあと熱心に先生のもとに通うタイプではなかったため、淺羽も少し驚いて鑓水のことを見つめる。
レポートを淺羽が書いたということを尋ねれば、淺羽は目を丸くした。自分のレポートをみつけて鑓水が読んでいたなどとは夢にも思わなかったらしい。
「淺羽せんせー、この理論って本当なんですか?」
「あくまで俺が主張した、ってだけでその理論が確定かどうかはわからないけどね。俺は本当だと思うよ」
「ええー? でもそれだと俺が防御の魔術が得意って変じゃないですか? 防御の魔術が得意な人ってどんな人なんです?」
鑓水は理論が本当かどうか、ということよりも自分の魔術について聞いてみたかった。沙良にも言われたし、自分でも防御魔術が得意、というのは「らしくない」からだ。鑓水は自分の攻撃的な性格はある程度把握しているつもりだった。
「防御の魔術が得意な人は、『守りたいものがある人』だよ」
「守りたいもの?」
「たとえば大切な人とか」
「ぶっは! いねー! 心当たりないですよー、そんなの! 俺、潜在的に周りの人が傷つくのが嫌って思ってたりするのかな?」
「それもあるかもな。でも、守りたいものっていうのは外側にだけあるものじゃなくて、内側にもあることがある」
「うん?」
「自分を守りたい、とかね」
淺羽がふっと笑って鑓水をみつめる。大切な人、と言えば笑い飛ばした鑓水が黙り込んでしまった。淺羽は考えこむように下を向いてしまった鑓水に、優しく語りかける。
「防御の魔術はちょっと心に弱いところを持っている人が長けていることが多い。苦しいことから逃れたい、そんな逃避の願望が防御の魔術となって現れる」
「……へえ、」
「……そっちには心当たりあるみたいだね」
鑓水は口元では笑いながらも、意識は完全に淺羽からは外れていた。心ここにあらず、といったところだ。普段の鑓水らしくないそんな表情を見て、淺羽は困ったように笑う。
「君はまだ高校生だからね。辛いことがあればそれに面と向かってぶつかっていくことなんて出来ないかもしれない。でもそれを恥ずかしがることはないし、気に病むことはないよ。いいんじゃない、防御魔術が得意、素敵じゃないか! 将来裁判官になったら、みんなを魔女から守ってあげることができるぞ」
「うーん、そうですね! 結局のところ防御魔術が得意ってことに繋がっているならいいか!」
淺羽の言葉に鑓水はころっと態度を変えて笑った。いつもの表情に戻った鑓水をみて、淺羽も安心したようだ。ほっとしたように笑う。
「じゃあせんせー、波折は? 波折はどういうこと? あいつなんでオール満点なの?」
「……波折? そうだな、波折について分析していけばもうちょっとこの理論も信憑性でるよなー。イレギュラーな存在だからさ、波折」
「せんせーも波折についてはやっぱりわからない?」
「あはは、俺もなんでも知ってるわけじゃないしな!」
「そっか。淺羽せんせー、ありがとうございます。すみません、引き止めちゃって」
報告レポートは少し前に書かれたもの。波折のJS入学前のものであるから、淺羽も波折のようなイレギュラーには驚いたんだろうな、と鑓水は納得した。鑓水は理論を間違っているとは思っていない。むしろ波折のことを知る大切な術であるから正しくあって欲しいと考えている。だから理論が正しいのか正しくないのか、そういったことを議論するつもりはなかった。
鑓水は淺羽にお礼を言うと教室をでていく。淺羽はそんな鑓水の後ろ姿を、ひらひらと手を振って軽い調子で見送っていた。
1
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる