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第八章:甘く蕩けて心まで

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「――……」


 目を覚ます。意識がぼんやりとしているなか、胸元の温もりを感じて鑓水は視線を下ろす。


「……今日はねぼすけか」


 昨日は目を覚ましたときには朝食をつくるためにベッドから抜け出していたが、今日は鑓水のほうが早く起きてしまったらしい。昨日眠りについたときの体勢のまま、鑓水にぴっとりとくっついて、すやすやと穏やかに眠っている。


「はあ……」


 なんだろう、この満足感は。波折を抱いて眠ると、胸がいっぱいになる。セックスをして誰かと朝を迎えることなんて、初めてじゃないのに。


「ん……」


 鑓水は、眠ったままの波折に覆いかぶさり、キスをした。ぴく、と波折は身じろいだが、起きる様子はない。そのまま、ちゅ、ちゅ、と何度も何度もキスを落とす。


(止まんねえ……)


 からからと渇いた心の中が満たされてゆくようだ。何にも興味が湧かなかった自分が、初めて興味を抱いた相手。ぐちゃぐちゃで、どろどろで、酷く醜悪な想いを波折に抱いているのに、こうして波折と寄り添うと幸福感のようなものを覚える。枯渇した心が潤っていく、そんな感覚なのだろうか。


「けーた……?」

「……っ!」


 ふわ、と波折が目を覚ます。びくっと鑓水は体を強張らせた。波折がもう一度「けーた」と呼んで鑓水の背に腕を回し、キスをねだる。鑓水は誘われるがままに、また唇を重ねた。


(くそっ……)


 もうちょっとこうしていたい。でも、今日は波折は沙良の家にいく。波折にはあんまりゆっくりしている時間はないのだ。

 波折の意識が覚醒するときが、タイムリミット。今日、自分が波折と触れ合えるのはそこまでだ。時間が止まればいいのに、なんて思ってしまったのはなぜだろう。


(くだらねー……)


 波折に執着すれば、負け。この関係は終了だ。おかしな想いが静かに、小さく泡が浮き上がってくるように生まれ出ている……そんな気がするが、……たぶんそれは、セックスをして満たされる、そんな人間の本能だ。だからこのキスにはなんの意味もない。自分たちの関係なんて、合わないパズルのピースを無理やりはめ込んだような、歪なものなのだから。
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