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第六章:もう一人のエゴイスト

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「……! 鑓水先輩!」

「おはよー神藤」

「おはようございます」


 自販機コーナーで飲み物を買っていた沙良のもとに、鑓水がやってくる。歩く度にちゃらちゃらと何かの音が鳴るのが不良っぽくて、本当にこの人は生徒会なんだろうか、なんて沙良は思う。

 鑓水は自販機の前にたつと、少し悩んでからコインをいれる。そして、炭酸飲料のボタンを押した。


「……そーいやさ、神藤。最近おまえ、波折と仲よさげじゃね?」

「えっ、そう見えますか」

「ああ、だって一時期すっげえ険悪だったじゃん。まあ、特別仲いい感じにはみえないけど、あのギスギス感はなくなったっていうか」


 よいしょ、と鑓水はでてきたジュースを取り出した。金髪の隙間から、ピアスがちらりと見える。「節度のある格好を」という曖昧な校則で、アクセサリーの類ははっきりと規制はされていないにしても生徒会の副会長がピアスというのは……、なんて沙良はぼんやり思う。


「神藤ー、ぶっちゃけ聞いていい?」

「なんですか?」

「おまえさ、波折のことどう思ってるの?」

「……え?」


 沙良は投入口にいれかけたコインを落としてしまう。口元をひきつらせて鑓水をみやれば、彼は邪気のない笑みを浮かべていた。


「いや、神藤が波折を見ている目……ちょーっとアレかなあって」

「……アレ?」

「そうだなー……この前俺に告ってきた女子みたいな目」

「……!」


 鑓水の言いたいことを、沙良は理解した。そして同時にぶわっと冷や汗が吹き出す。そんなに自分はわかりやすかっただろうか。同性に恋をしていることを、そんなに周りに知られていたなんて……


「いやいや、俺がちょっと気になっただけだから! 誰も噂なんてしてないよ!」

「えっ……」

「いいんじゃない。男同士の恋愛でも。波折はちょっと手強そうだけどなー」


 へらへらと笑って鑓水は沙良の肩を叩く。偏見があるわけじゃない、とわかると沙良は安心して、ほっとため息をついた。どっと疲れて情けない顔をしている沙良に、鑓水は落としたコインを拾って手渡してくれる。沙良がお礼を言ってうけとると、鑓水はにかっと笑った。


「あっ、でもあいつお手つきだけどね! まあ、頑張れ!」

「――えっ?」


 沙良がぎょっとして素っ頓狂な声をあげると、鑓水はそのまま歩き去って行ってしまった。
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