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第三章:もっとキミのことを知りたくて
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昼休み、沙良は返却しなくてはいけない本があるということで図書室に来ていた。
持ってきた本を元の場所に戻して、ついでに新しい本でも借りようかと本棚を物色しはじめる。こっそり、ハマっている小説があった。シリーズ物のファンタジー小説。少女が主人公で、さらに恋愛描写も多めということで、なんとなく恥ずかしくて公言はしていなかった。大人たちにも慕われている大作で、決して男子が好きだからといって馬鹿にされるものではないが、周りの友人たちとは話が合わないだろうということで、黙っていた。
その小説があるであろう本棚までいく。一巻を発見して、すっと視線を横へ動かしてゆく。5巻、6巻……
「あ、まじか、貸出中……」
7巻、がない。沙良が求めていた7巻のところだけが、空いていたのだ。今すぐに読みたいというほどでもなかったが、借りることができないとなると落胆してしまう。沙良がため息をついてそこを離れようとしたとき。
「あの……もしかして、これ探していましたか?」
「え?」
誰かが肩を叩いてきて沙良を引き止めた。振り向けば、差し出された7巻。はっとして顔をあげて、沙良は顔を引き攣らせる。
「な、波折先輩……」
このエンカウント率の高さは一体何なんだ。学年の違う嫌いな人とここまで頻繁に出くわしてしまう自分の運の悪さを呪いたくなる。しかし、波折が手に持っているものにはものすごく興味がある。
「えっと……波折先輩もこれ、読むんですか?」
「……ま、まあ」
波折も、自分の呼び止めた相手が沙良だとは思っていなかったようだ。あからさまに「しまった」という顔をしている。相変わらずの反応にカチンときてしまったが、その7巻はありがたくお借りしたいところ。悪態をつきたくなるところをぐっとこらえて、沙良はにっこりと作り笑いを浮かべる。
「ちょうど7巻欲しくて……あの、借りてもいいですか?」
「ああ……どうぞ」
頼んでみれば波折は本を譲ってくれた。受け取った本の表紙をみて、沙良はじっと黙りこむ。表紙には、主人公が想いを寄せる青年のイラストが描いてある。少し前の巻で彼は主人公の少女を裏切って敵側についてしまったのだが……
「も、もしかして7巻、エリオットがメインですか?」
「……神藤君はネタバレ大丈夫な人なの?」
「ネタバレしない範囲で!」
「うーん……そうだね、エリオットがメインだと思う。視点がほとんどエリオットだったよ」
「お、おおお……まじですか……! 俺エリオットが何考えているのかがすごく気になっていて、」
「――図書館ではお静かに」
沙良の一番気になっているキャラクターが表紙になっていたものだから、思わず沙良は一人で盛り上がってしまう。少し声のトーンが大きくなってしまっていたのだろう、司書が注意にきてしまった。ほぼ巻き込まれた状態の波折はむっとした顔で沙良を睨んでくる。沙良は苦笑いして司書にあやまると、貸し出しカードだけ記入して図書室をでていった。一緒に注意をされた波折もでてくる。
「えっと……すみません、波折先輩」
今のは、自分が悪かった。沙良は素直に波折に謝った。波折はいつもの仏頂面で「べつにいいけど、」と呟く。
「……」
沙良はちらりと時計をみた。時刻は昼休みを3分の1ほどすぎたところ。そろそろ昼食をとりたい。
「えっと……波折先輩、そのー……」
「なに?」
「い、一緒にごはん食べませんか」
「え?」
なぜ、今自分が波折と昼食をとりたくなったのかは、自分でもわからない。たぶん、本について語れる唯一の知り合いを発見した嬉しさのままに誘ってしまった。突然いつもと態度を変えた沙良に波折はびっくりしてしまったようで、きょとんと目を大きくしている。それはそうだ。沙良も、誘ってから「アレ?」と思ってしまったのだから。波折については色々と思うところがあって、あまり仲良くはしたくなかったのだが……共通の趣味というのは、恐ろしい魔力をもっている。衝動的に波折を誘ってしまっていた。
もしかしたら断られるかもしれない。いや、断ってくれていい。沙良は誘ってから、少し後悔していた。仲の悪い自分たちが二人で食事をしたところで、気まずい空気になることなど目に見えているのだから。
しかし、波折は考えこむようにしばらく黙っていた。早く「嫌だ」って言えよ、と沙良は視線で催促をすれば、ようやく口を開く。
「……いいけど」
「ですよねー……って、え!?」
波折の口からでた返事は、思いがけないもの。思わずぎょっとしてしまった沙良を、波折は鬱陶しそうにみつめている。
「……教室からお弁当とってくるから……屋上で待っていて」
「は、はい……」
波折はぼそりとつぶやくと、足早に去って行ってしまった。しばらく沙良はその場に立ち尽くす。そして、「やらかした……」と頭を抱えるのだった。
持ってきた本を元の場所に戻して、ついでに新しい本でも借りようかと本棚を物色しはじめる。こっそり、ハマっている小説があった。シリーズ物のファンタジー小説。少女が主人公で、さらに恋愛描写も多めということで、なんとなく恥ずかしくて公言はしていなかった。大人たちにも慕われている大作で、決して男子が好きだからといって馬鹿にされるものではないが、周りの友人たちとは話が合わないだろうということで、黙っていた。
その小説があるであろう本棚までいく。一巻を発見して、すっと視線を横へ動かしてゆく。5巻、6巻……
「あ、まじか、貸出中……」
7巻、がない。沙良が求めていた7巻のところだけが、空いていたのだ。今すぐに読みたいというほどでもなかったが、借りることができないとなると落胆してしまう。沙良がため息をついてそこを離れようとしたとき。
「あの……もしかして、これ探していましたか?」
「え?」
誰かが肩を叩いてきて沙良を引き止めた。振り向けば、差し出された7巻。はっとして顔をあげて、沙良は顔を引き攣らせる。
「な、波折先輩……」
このエンカウント率の高さは一体何なんだ。学年の違う嫌いな人とここまで頻繁に出くわしてしまう自分の運の悪さを呪いたくなる。しかし、波折が手に持っているものにはものすごく興味がある。
「えっと……波折先輩もこれ、読むんですか?」
「……ま、まあ」
波折も、自分の呼び止めた相手が沙良だとは思っていなかったようだ。あからさまに「しまった」という顔をしている。相変わらずの反応にカチンときてしまったが、その7巻はありがたくお借りしたいところ。悪態をつきたくなるところをぐっとこらえて、沙良はにっこりと作り笑いを浮かべる。
「ちょうど7巻欲しくて……あの、借りてもいいですか?」
「ああ……どうぞ」
頼んでみれば波折は本を譲ってくれた。受け取った本の表紙をみて、沙良はじっと黙りこむ。表紙には、主人公が想いを寄せる青年のイラストが描いてある。少し前の巻で彼は主人公の少女を裏切って敵側についてしまったのだが……
「も、もしかして7巻、エリオットがメインですか?」
「……神藤君はネタバレ大丈夫な人なの?」
「ネタバレしない範囲で!」
「うーん……そうだね、エリオットがメインだと思う。視点がほとんどエリオットだったよ」
「お、おおお……まじですか……! 俺エリオットが何考えているのかがすごく気になっていて、」
「――図書館ではお静かに」
沙良の一番気になっているキャラクターが表紙になっていたものだから、思わず沙良は一人で盛り上がってしまう。少し声のトーンが大きくなってしまっていたのだろう、司書が注意にきてしまった。ほぼ巻き込まれた状態の波折はむっとした顔で沙良を睨んでくる。沙良は苦笑いして司書にあやまると、貸し出しカードだけ記入して図書室をでていった。一緒に注意をされた波折もでてくる。
「えっと……すみません、波折先輩」
今のは、自分が悪かった。沙良は素直に波折に謝った。波折はいつもの仏頂面で「べつにいいけど、」と呟く。
「……」
沙良はちらりと時計をみた。時刻は昼休みを3分の1ほどすぎたところ。そろそろ昼食をとりたい。
「えっと……波折先輩、そのー……」
「なに?」
「い、一緒にごはん食べませんか」
「え?」
なぜ、今自分が波折と昼食をとりたくなったのかは、自分でもわからない。たぶん、本について語れる唯一の知り合いを発見した嬉しさのままに誘ってしまった。突然いつもと態度を変えた沙良に波折はびっくりしてしまったようで、きょとんと目を大きくしている。それはそうだ。沙良も、誘ってから「アレ?」と思ってしまったのだから。波折については色々と思うところがあって、あまり仲良くはしたくなかったのだが……共通の趣味というのは、恐ろしい魔力をもっている。衝動的に波折を誘ってしまっていた。
もしかしたら断られるかもしれない。いや、断ってくれていい。沙良は誘ってから、少し後悔していた。仲の悪い自分たちが二人で食事をしたところで、気まずい空気になることなど目に見えているのだから。
しかし、波折は考えこむようにしばらく黙っていた。早く「嫌だ」って言えよ、と沙良は視線で催促をすれば、ようやく口を開く。
「……いいけど」
「ですよねー……って、え!?」
波折の口からでた返事は、思いがけないもの。思わずぎょっとしてしまった沙良を、波折は鬱陶しそうにみつめている。
「……教室からお弁当とってくるから……屋上で待っていて」
「は、はい……」
波折はぼそりとつぶやくと、足早に去って行ってしまった。しばらく沙良はその場に立ち尽くす。そして、「やらかした……」と頭を抱えるのだった。
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