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第一章:憧れの生徒会長様
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(ああ……俺も今日から晴れて生徒会副会長……本当は会長になりたかったけどこれは快挙だ)
一人でにやにやとしながら歩く少年の名は、神藤沙良。街ゆく人々に不審な目で見られながらもにやけを止められない理由は、先日、生徒会の副会長に選ばれたからである。沙良の学校ではとある試験の結果をもとに生徒会役員を選抜するのだが、沙良のように一年生で副会長の座を手に入れるというのは稀に見ることだ。沙良は入学して半年、努力の末に試験で優秀な成績を収め、晴れて生徒会の副会長に選ばれたのである。
本当は、会長になりたかった。しかし、会長の座は校内でも有名な完璧人間・冬廣波折に奪われてしまった。頭脳明晰・運動神経抜群・加えて眉目秀麗、三拍子そろったまさに完璧人間。沙良は生徒会同士の挨拶のときくらいに初めて顔を合わせただけで、それまで彼とは面識がなかった。しかし、校内で王子様やら波折様やら呼ばれていた彼のことは入学当初から知っていた。彼は一個上の二年だが、沙良はずっと彼に対抗心を燃やしていたのだ。
「あー、今にみてろよオウジサマ、会長の椅子から引きずり下ろしてやる」
「……ねえ、君。その制服、JSの制服だよね」
「え? あ、はあ。たしかに俺はJSの生徒ですけど」
人通りが少ない路地にはいったとき。沙良に、一人の男が話しかけてきた。
「……君は、「裁判官」になりたいわけだ」
「……まあ、JSに通っているわけだし、そうですけど」
「そっか。未来の種はつんでおかなきゃね」
「……はい?」
どこか挙動不審な男に、沙良は違和感を覚えた。すっ、と動いた男の手は……いつの間にか目の前に。何かが危ない、と頭のなかで赤い回転灯が鳴り始めると、男の動きがスローモーションに見えてきた。危険を感じると逆に動けなくなってしまう、アレだ。やばい、と沙良は口元を引き攣らせる。この男は何かが、ヤバイ。
――男の手が、禍々しく光る。
「や、やっぱりあんた――ま」
「――走れ!」
男の正体に気付いた、その瞬間。誰かが走ってきて、沙良の腕を掴んだ。何が起こっているのかわからないままに、沙良は突然来た誰かに引きずられるようにして走りだす。沙良を先導する突然現れた人物は、沙良と同じ制服を着ていた。つまり、同じ学校の生徒ということだ。パニックになりながらもがむしゃらに走って、そうすれば後ろのほうから爆発音が聞こえてくる。それでも立ち止まることなく、必死に走る。
「……ッ、はあ、あの、ありがとうございます……」
男をなんとか振り切ることができたようで、二人は息を切らしながらも立ち止まった。沙良は自分を助けてくれたお礼を言おうと顔をあげて――息を呑む。
「……生徒会長!?」
手を引いてくれた人物は、なんと――生徒会長・波折だったのだ。ついさっきまで肩書を奪ってやるなんて思っていた人物の突然の登場に、沙良はひどく動揺してしまう。
「神藤君。怪我、ない?」
「だ、大丈夫です」
波折は乱れた服装を整えながら、沙良に微笑みかけた。一度挨拶をしただけなのに、ちゃんと名前を覚えていてくれたことに喜びを覚えながらも、沙良はじり、と胸のなかが焦げ付くような感覚を覚えた。近くでみればなるほど、美形。王子様なんて言われるだけのことはある。なんだか、この波折という人物が自分のもっていないものを全て持っているような気がして……嫉妬してしまったのだった。
「「魔女」をみかけたらすぐ逃げないと……って言っても、初めて出くわしたんだろ? 足がすくんで動けなくなっちゃうよね」
「や、やっぱりあれ、魔女……」
「だろうね。なんか魔術使ってたし。たぶんすぐに裁判官がきて狩ってくれるよ。それまでに被害がでないといいけれど」
やはり、沙良を襲った先ほどの男は「魔女」のようだった。それを波折に聞いた瞬間、沙良は怖気づいてしまった自分に悔しさを覚える。
魔女、とは近年現れだした、魔術を使う人間の総称のことだ。魔術が発見されたのは最近のことなのだが、非常に危険なものであるため、法で使用を禁じられている。法を破って魔術を使う者を男女問わずに「魔女」と呼ぶ。
そして、その魔女を捕まえるのが「裁判官」という人たち。彼らも同じく魔術を使うのだが、魔女と違うのは法律に許されているということ。裁判官として国に認められ、法にのっとって魔術を使えば「魔女」とは呼ばれない。沙良が通っているのは、裁判官養成学校、通称ジャッジメントスクール(JS)である。沙良は裁判官になることが、将来の夢なのだ。先ほどの魔女の男が沙良を襲ってきたのは、恐らく、沙良がJSの制服を着ていたことから未来の裁判官候補だと判断し、自分たちの敵を排除しようと考えたからであろう。
「まあ、あんまり魔女にビビっているようじゃ裁判官にはなれないよ」
「う……わ、わかってます」
「仕方ないけどね。でも魔女に慣れたからといって間違っても学外で魔術をつかったりするなよ」
JSの生徒は魔女を狩るために魔術を学んでいる。しかし、まだ裁判官でない生徒たちは、学外で魔術使うことは許されていない。そのため、魔女に出くわしたらすぐに逃げるように、というのが生徒たちが口酸っぱく先生に言われていることだった。
「……生徒会長、すごいですね」
「え?」
「なんだか、しっかりしていて……魔女をみても冷静に俺を助けてくれたし」
「……べつに、すごくなんてないよ。知っている人が襲われていたら怖いよりもさきに助けたいって思うだろ?」
にこ、と笑った波折の表情に、沙良はどきっと心臓が高なったような気がした。イケメンはいいよな……なんて、すぐに心の中で言い訳をしたが。
「それより、生徒会長って呼ぶのやめよう?」
「えっと、じゃあ……波折先輩って呼んでもいいですか」
「うん」
なおりせんぱい、と頭の中で唱える。急にこの人と親しくなったような気がした。みんなの羨望の的の人物、少し卑しいことを言えば優越感を覚えてしまう。
「じゃあ、学校いこうか。遅刻する」
「……一緒に!?」
「え、わざわざ別々にいく意味なくない?」
「たしかに」
波折先輩と一緒に登校! こんな日がくるとは……!
嬉しいというよりは、夢のよう、といったほうがいいかもしれない。波折はとにかく学内で人気のある人物だから、ここまで接近できるとは思っていなかったのだ。夢見心地な気分。沙良は歩き出した波折の横にちょんとついて、そわそわとしながら彼についていった。
一人でにやにやとしながら歩く少年の名は、神藤沙良。街ゆく人々に不審な目で見られながらもにやけを止められない理由は、先日、生徒会の副会長に選ばれたからである。沙良の学校ではとある試験の結果をもとに生徒会役員を選抜するのだが、沙良のように一年生で副会長の座を手に入れるというのは稀に見ることだ。沙良は入学して半年、努力の末に試験で優秀な成績を収め、晴れて生徒会の副会長に選ばれたのである。
本当は、会長になりたかった。しかし、会長の座は校内でも有名な完璧人間・冬廣波折に奪われてしまった。頭脳明晰・運動神経抜群・加えて眉目秀麗、三拍子そろったまさに完璧人間。沙良は生徒会同士の挨拶のときくらいに初めて顔を合わせただけで、それまで彼とは面識がなかった。しかし、校内で王子様やら波折様やら呼ばれていた彼のことは入学当初から知っていた。彼は一個上の二年だが、沙良はずっと彼に対抗心を燃やしていたのだ。
「あー、今にみてろよオウジサマ、会長の椅子から引きずり下ろしてやる」
「……ねえ、君。その制服、JSの制服だよね」
「え? あ、はあ。たしかに俺はJSの生徒ですけど」
人通りが少ない路地にはいったとき。沙良に、一人の男が話しかけてきた。
「……君は、「裁判官」になりたいわけだ」
「……まあ、JSに通っているわけだし、そうですけど」
「そっか。未来の種はつんでおかなきゃね」
「……はい?」
どこか挙動不審な男に、沙良は違和感を覚えた。すっ、と動いた男の手は……いつの間にか目の前に。何かが危ない、と頭のなかで赤い回転灯が鳴り始めると、男の動きがスローモーションに見えてきた。危険を感じると逆に動けなくなってしまう、アレだ。やばい、と沙良は口元を引き攣らせる。この男は何かが、ヤバイ。
――男の手が、禍々しく光る。
「や、やっぱりあんた――ま」
「――走れ!」
男の正体に気付いた、その瞬間。誰かが走ってきて、沙良の腕を掴んだ。何が起こっているのかわからないままに、沙良は突然来た誰かに引きずられるようにして走りだす。沙良を先導する突然現れた人物は、沙良と同じ制服を着ていた。つまり、同じ学校の生徒ということだ。パニックになりながらもがむしゃらに走って、そうすれば後ろのほうから爆発音が聞こえてくる。それでも立ち止まることなく、必死に走る。
「……ッ、はあ、あの、ありがとうございます……」
男をなんとか振り切ることができたようで、二人は息を切らしながらも立ち止まった。沙良は自分を助けてくれたお礼を言おうと顔をあげて――息を呑む。
「……生徒会長!?」
手を引いてくれた人物は、なんと――生徒会長・波折だったのだ。ついさっきまで肩書を奪ってやるなんて思っていた人物の突然の登場に、沙良はひどく動揺してしまう。
「神藤君。怪我、ない?」
「だ、大丈夫です」
波折は乱れた服装を整えながら、沙良に微笑みかけた。一度挨拶をしただけなのに、ちゃんと名前を覚えていてくれたことに喜びを覚えながらも、沙良はじり、と胸のなかが焦げ付くような感覚を覚えた。近くでみればなるほど、美形。王子様なんて言われるだけのことはある。なんだか、この波折という人物が自分のもっていないものを全て持っているような気がして……嫉妬してしまったのだった。
「「魔女」をみかけたらすぐ逃げないと……って言っても、初めて出くわしたんだろ? 足がすくんで動けなくなっちゃうよね」
「や、やっぱりあれ、魔女……」
「だろうね。なんか魔術使ってたし。たぶんすぐに裁判官がきて狩ってくれるよ。それまでに被害がでないといいけれど」
やはり、沙良を襲った先ほどの男は「魔女」のようだった。それを波折に聞いた瞬間、沙良は怖気づいてしまった自分に悔しさを覚える。
魔女、とは近年現れだした、魔術を使う人間の総称のことだ。魔術が発見されたのは最近のことなのだが、非常に危険なものであるため、法で使用を禁じられている。法を破って魔術を使う者を男女問わずに「魔女」と呼ぶ。
そして、その魔女を捕まえるのが「裁判官」という人たち。彼らも同じく魔術を使うのだが、魔女と違うのは法律に許されているということ。裁判官として国に認められ、法にのっとって魔術を使えば「魔女」とは呼ばれない。沙良が通っているのは、裁判官養成学校、通称ジャッジメントスクール(JS)である。沙良は裁判官になることが、将来の夢なのだ。先ほどの魔女の男が沙良を襲ってきたのは、恐らく、沙良がJSの制服を着ていたことから未来の裁判官候補だと判断し、自分たちの敵を排除しようと考えたからであろう。
「まあ、あんまり魔女にビビっているようじゃ裁判官にはなれないよ」
「う……わ、わかってます」
「仕方ないけどね。でも魔女に慣れたからといって間違っても学外で魔術をつかったりするなよ」
JSの生徒は魔女を狩るために魔術を学んでいる。しかし、まだ裁判官でない生徒たちは、学外で魔術使うことは許されていない。そのため、魔女に出くわしたらすぐに逃げるように、というのが生徒たちが口酸っぱく先生に言われていることだった。
「……生徒会長、すごいですね」
「え?」
「なんだか、しっかりしていて……魔女をみても冷静に俺を助けてくれたし」
「……べつに、すごくなんてないよ。知っている人が襲われていたら怖いよりもさきに助けたいって思うだろ?」
にこ、と笑った波折の表情に、沙良はどきっと心臓が高なったような気がした。イケメンはいいよな……なんて、すぐに心の中で言い訳をしたが。
「それより、生徒会長って呼ぶのやめよう?」
「えっと、じゃあ……波折先輩って呼んでもいいですか」
「うん」
なおりせんぱい、と頭の中で唱える。急にこの人と親しくなったような気がした。みんなの羨望の的の人物、少し卑しいことを言えば優越感を覚えてしまう。
「じゃあ、学校いこうか。遅刻する」
「……一緒に!?」
「え、わざわざ別々にいく意味なくない?」
「たしかに」
波折先輩と一緒に登校! こんな日がくるとは……!
嬉しいというよりは、夢のよう、といったほうがいいかもしれない。波折はとにかく学内で人気のある人物だから、ここまで接近できるとは思っていなかったのだ。夢見心地な気分。沙良は歩き出した波折の横にちょんとついて、そわそわとしながら彼についていった。
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