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第四章

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「……え?」


 黄金色の残照が散る、夕焼けの空。いつものように契を迎えにいこうと支度を始めた氷高を、絃が呼び止める。彼が「氷高くんは行かなくてもいいよ」なんて言うものだから、氷高は思わず素にかえって間抜けな声を出してしまった。


「私がいかなくてもいい……とは、どういう、」

「契の迎えは酒井さんにさせることになったんだ」

「な、なぜ……!?」


 酒井とは、ここ数年ほど鳴宮家で働いている執事のことである。物腰の柔らかい、中年の男だ。主に絃の身の回りの世話をするはずだった彼だが……なぜ、急に契の迎えに行くことになったのか。突然の知らせに氷高は、混乱してしまう。

 まさか……契から、拒絶されたのか。

 そうとしか、考えられなかった。タイミングがタイミングだ。氷高と二人きりになるのが嫌で、契が絃に言ったに違いないーー氷高はそう思った。氷高にはなぜ契があんな風に怒っていたのかが理解できなかったが、とにかく契にとって不快なことを自分がしてしまったのだということは氷高もわかっていた。それだけに、はっきりと拒絶されてしまうのは、ひどく哀しかった。

 しかし――絃から発せられた言葉には、氷高も想像できないものだった。


「氷高くんにはこれから二週間、私の執事になってもらうよ」

「……え、ええ。わかりました」

「では、さっそく支度を。ドイツに行くからね」

「……。……はい?」


 ――絃の言うところによると。

 絃は商談のために、ドイツに行くのだという。しかし、いつも身の回りの世話をしてくれている酒井は英語はできてもドイツ語はできないらしい。しかし、氷高は叔父の影響もあってか、いくつかの国の言葉を話せる。そのなかに、ドイツ語もはいっていた。もちろん通訳士も連れて行くらしいのだが、ドイツ語を話せる世話役が側にいればより安心だろうということで、氷高を同行させることにしたらしい。

 
「あ、あの……契さまは何も言っていませんでしたか?」

「契? いや……何も聞いていないが。ああ、まだ氷高くんがドイツに行くことは行っていないんだ。まあ、少し寂しがるだろうが、二週間だけだし大丈夫だろう」

「……はあ、」


 契は特に氷高を拒絶するようなことを絃に言ったということはないらしい。氷高は益々、契の側から離れることが怖くなってしまった。もしかしたら、今日、このまま契と会っていれば、彼の気持ちを聞くことができたかもしれない。それを、二週間も期間を空けては……このまま、お互いの気持ちが宙ぶらりんになって修正不可能になってしまうかもしれない。

 しかし、絃の言うことに逆らうわけにはいかない。氷高は渋々、しかしそれを顔に出さないようにして、準備を始めたのだった。
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