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第四章

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『悠維。こちらが、契さまですよ。ご挨拶を』


 始めて契さまに出逢った時のことを、今でも夢に見る。我が氷高家は、代々鳴宮家の使用人として仕えてきた。何でも鳴宮家と氷高家の関係は明治より前から続いており、平成の今でも関係は良好。ただ、昔と違って今の氷高家の人間は、絶対に鳴宮家の使用人にならなければならないという決まりなどなく、たとえば俺の叔父なんかはハリウッドスターの通訳士として活躍している。

 10歳の頃の俺の夢は、たしか、映画監督。叔父が通訳したハリウッドスターが出演している映画をいくつも見ているうちに、自分も映画をとってみたいと考えるようになっていた。当時鳴宮家のメイドとして働いていた母にそれを伝えてみれば、喜んで応援してくれたので、それから俺は本気で映画監督を目指していた。

 けれど、そんな夢が一瞬で弾けた。契さまに、出逢ったのである。

 小学校を卒業した俺に、母が契さまを紹介してくれた。「悠維はきっと映画監督になるけれど、鳴宮家の方々とも仲良くしてね」と、そんなことを言いながら。俺も、始めて鳴宮家に行く前は、そのつもりだった。鳴宮家で働くつもりなんてないし、ただ、古いつきあいのところらしいから良好な関係を築かなければ、と。

 そんな風に思っていた。思っていた、はずだった。

 それなのに――


『なんだよおまえ、氷高家の子供なんだって? じゃあ、俺様の召使いだな!』

『……っ、』


 契さまを見た瞬間に、俺は、思ったのだ。「俺は彼の執事になる」と。それは「望み」ではなく「確信」。だって俺は、その瞬間にはまだ映画監督になりたいとしか考えていなかった。じゃあ俺はどうしたのかというと、「見えてしまった」のだ。自分が、彼の執事となっている未来を。

 まだ幼く、ランドセルすらも大きく感じさせるような、契さま。彼を始めて見たとき、俺は、なんて生意気な子供なんだろうと思った。けれど、嫌悪感を抱かなかった。


『おまえ、名前は?』

『……、氷高、……悠維……です』

『へえ~。俺は鳴宮 契だよ。おまえの、ご主人様。』


 契さまと俺の出逢いには、契さまの両親、それから俺の両親、さらには鳴宮家で働く使用人たち数名が立ち会っていた。彼らは、横暴な契さまの態度と、呆気にとられたような俺の表情を「可愛い」なんて目で見て、ほほえんでいた。

 そんな彼らの顔色を一変させるような出来事が、ある。自己紹介を終えた契さまが、す、と俺に向かって手を差し出してきた。握手を求めるものではなかった。俺に、手の甲を向けてきたのである。

 周囲の者たちは、皆、頭上にはてなマークを浮かべていた。契さまの意図することが
わからなかったのだろう。けれど、俺にはすぐにわかった。俺がすべきことを、瞬時に理解した。

 ――そして、次の俺の行動には、俺自身が驚いた。

 俺は、無意識のうちに契さまの前に跪いた。そして――彼の手をとり、その甲に口づけをしたのである。

 そんなことをするつもりはなかった。俺は、彼に仕えるつもりなど毛頭なかった。それなのに、俺は気付けばそんなことをしていた。そして、してしまったあとに何も違和感を覚えなかった。

 きっと、魂に刻み込まれていた。俺は、生まれたときから、契さまの執事だった。



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