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第三章

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 莉一の寝室は、個人のものとは思えないくらいに大きなものだった。部屋の中央に置かれているキングサイズのベッドは、高級ホテルを思わせるもの。キングサイズのベッド自体には自分の部屋もそうであるから慣れているものの、これからすることを考えると契は緊張してしまっていた。

 契がきゅっと身を縮込めて、ベッドを見つめる。莉一はその背後から、ぎゅっ……と優しく契を抱きしめた。


「……僕ね、契くんのこと可愛いって、一目見て思っちゃった。出会ったその日にこんなこと言っても信じてくれないかもしれないけれど……僕、君のことを抱きたくて仕方ない」

「……っ」

「僕は一応芸能人だから、こういうことは基本的に抑えているんだよ。でも、そんなことができないくらい……僕は君にハマっちゃった。一目惚れ、初めてした」


 低く、甘い声。莉一のそれが、契の耳の中から入っていって脳味噌にじわりと浸透してゆく。たしか、「声が良い俳優ランキング」で上位だった莉一の声は、こうして耳元で囁かれると凶器にすらなりえる。下腹部がぶわっと熱くなって、体の奥のほうが切なくなって、全身が莉一を求めるメスになってしまう。恐ろしい、声。

 そんな声で愛を囁かれ、契は目眩を覚えていた。

 その言葉が本気か嘘か。そんなもの、相手がいくら演技を生業とする人間であろうともわかってしまう。莉一の言葉は、本気だ。ほんのわずか掠れた、莉一の声は……莉一の本心を露わにしていた。


「……契くん。嫌だったら言って。むりやりは、しないから」

「……、」


 体が、震える。

 莉一に振り向かされて、契は彼と向き合った。熱っぽい瞳が、契の心臓を射抜く。

 きっと彼の「雄」は、すべての人間を虜にする。どんな人間にもきっと存在する「雌」を捕まえて、そして心も体も開いてしまう。篠田莉一という人間は、雄の頂点に立つような、そんな存在。どんな立場も心も体も関係なく――発情させてしまう。篠田莉一の精子を求めるようになってしまう。
 
 契も例外ではなかった。くらくらとして、まともな理性が働かなくなってしまった。心の片隅に氷高の存在があるというのに、体が莉一のことを欲しくて欲しくてたまらなくなってしまっていて、全身が熱くなってゆく。体に引きずられるようにして、心までもが――「莉一に抱かれたい」と思うようになってゆく。


「……まだ、高校生なのに……そんな顔できるんだね。契くん」

「……りーちさん……」

「どうしよう。優しくしたいのに……おかしくなりそう」

「り、りーちさん……」


 切羽詰まった、莉一の顔。先ほど見せたものよりも、ずっと。

 心が溶けてゆく。狂いそうになる。恐ろしいほどの、莉一の色気になにもかもがもっていかれる。


「ンッ――……!」


 ――噛みつかれるように、キスをされた。「優しくしたい」と言いながら苦しそうに眉を顰めた莉一のキスは、その甘い顔からは想像がつかないくらいに激しいもの。契のことを喰らうような勢いでされるそのキスは、契が知らないほどに激しく、淫らで、そして熱い。


「んっ……」

 
 莉一にあてられた契の体は、そのキスだけで感じ始めていた。腰ががくがくといって、立っていることが難しくなる。それに気づいた莉一が契の腰を抱き寄せて、脚の間に膝をいれてきて、落ちそうになった契の腰を支えてきたからもう恐ろしいことになった。有無を言わさずアソコがぐりぐりと刺激される形となって……契の体はもう、完全に発情してしまった。


「あっ……ん、……ふ、ぅ……んん……」

(なに、この、きす……きもちい、……すごい、……きもちいい、きもちいい……)

「んっ、ん、……ふ、……ぁふ、……ん……」

(ひだか、……たすけてぇ、……おかしくなっちゃう……ひだかぁ……)


 舌を絡め取られ、くちゅくちゅとかき回され。口の中もアソコも、とろっとろ。契の体は全身から力が抜け、されるがままになり、一瞬にして快楽に堕とされてしまった。


「ん、ぅ……」

「はぁ、……契くん、……すごい、……」

「りーち……さん……」

「契くん……こっち……」


 もう、なにがなんだかわからない。気持ちよくて、なにも考えられない。

 時折頭の中に浮かぶ、氷高の顔。その瞬間に胸が締め付けられるのに、体が熱くてしょうがない。

 莉一にベッドまで手を引かれ、そして押し倒されて。服を乱されてゆくのを……契は、期待に満ちた目で見つめていた。


「あ……、だ、め……」


 シャツが、脱がされてゆく。イケナイ、とわかっているのに体が莉一を求めてしまっている。そもそもなぜ「イケナイ」と思っているのかも、わからないが。体が熱を持って激しく莉一を求めていて、それに引きずられるようにして莉一に抱かれたいと感じる、そんな表面の想いの奥底で――この人に抱かれたくない、と朧気に思っているのだ。

 けれど。莉一の強烈な魅惑にはかなわない。莉一に種付けされたいと、頭がそればかりを考えてしまう。下腹部がきゅんきゅんと疼いて、今すぐに莉一の雄に突き上げられ揺さぶられたいと思ってしまう。


「あれ……契くん」


 ぼんやり。自分のシャツのボタンをはずしてゆく莉一の指先を見つめていると。莉一が、ふと、手を止めた。

 莉一の表情に映るのは、冷酷とも思えるほどに冷たい炎。


「これ……誰につけられたの?」

「えっ……?」


 突然表情を変えた莉一に契はびくりと表情をこわばらせる。莉一はそっと指先で契の首筋を撫でて……低い声で、ささやいた。


「キスマーク。ねえ、これつけた人、あてていい?」

「キス、マーク……?」

「執事さん、でしょ?」


 キスマーク。それを聞いた瞬間、契はあることを思い出した。

 氷高が、首筋にキスをしてきて……そのときにちくりと痛みを感じた。あのときだ。あのとき、肌を吸われたような感覚がした。あれで、痕がついたのだ。それに気づいた契はカッと顔を赤らめて、キスマークを隠すようにして手で首筋を押さえる。

 ……なんで。氷高は、キスマークなんて。

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