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告白※
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あの大事件から早一月が経った。
ダグパールは約束通り、アスコアニの奴隷を解放した。それにともない、契約していた革命魔法陣の残りの魔法陣の設計図も渡した。
まずは生活面で相当楽になる電化製品、もとい魔法陣製品、略して陣製品でどれだけ楽になるかを王宮で確認して貰い、良さそうならば解放後に農業関係へと手を入れた。タニルは農業大国だ。実は奴隷の大半がこの農業奴隷だ。
七割~八割がこれだと言っても良い。それだけ農業は重労働で、何よりも人手が欲しい場所だ。そこへ簡易型トラクターを突っ込んだ。材料はアスコアニ産だが、それをタニルへと安く卸してビジネス化する。
今までアスコアニとタニルの貿易は宝石、薬草、お茶のみだったが、これによって更に貿易は拡大するだろう。いずれ共同開発とかしてくれるようになれば、そう易々と即戦争というフラグは立つまい、なにせ共同開発中にそうなってしまえば自国も大損害を被るからだ。
と、瑛士は先の先まで読んで行動していたのだが、そんな事はおそらくダグパール殿下もサルトゥーア陛下も知らないだろう。
瑛士はペンを置き、傍らのお茶を飲んで一休みする。
「ふぅ…」
そして、俺もさっさと約束を果たすべく、必死に執筆活動をしていた。
国の事を考えて自分の事を疎かにするのはあまりにもアホだから。
良かった。あの手帳以外にもプロットを書いていて。
実は瑛士はあの持ち運び用の手帳以外にも自室にメモ用の手帳を持っていた。
あの手帳に比べればもっと雑多だし、プロットどころか設計図的なまとめとしてしか活用していないけれど、物語の流れが頭の中にある瑛士には、この情報だけで十分だった。
本当は書き上げるまで手帳を返して欲しかったのだが、そこまで?と引くほどダグパールに手帳を抱え込まれて拒否されたので断念した。
気持ちはわかるので瑛士は大人しく手を引っ込めた。
わかる。ヲタクにとっての戦利品であり、貴重な薬であるソレを無理やり取り上げるほど瑛士は鬼ではなかった。
ダレクにはあんなことされたのに甘いと言われたけれど。
ソレはソレ、これはこれ、である。
お昼のパンを食べているとサルトゥーア陛下とボルツア団長がやって来た。
慌ててシンシアと共に頭を下げると「クリハラ」と名前を呼ばれる。用があるのは瑛士のようだ。
「頭をあげよ。クリハラ」
サルトゥーア陛下の許しで頭をあげる。
するとボルツアが陛下の前に出て、来い、と命令してきた。何かしらの重要な話なのだろう。名指しから瑛士のみ用がある。お昼が途中だけれど、陛下の命令なら仕方がないと、食べ掛けのパンをシンシアに預け、瑛士は大人しく二人に付いていった。
連れてこられたのはいつもの王の間ではなく、何故かサルトゥーアの執務室だった。
サルトゥーアは椅子に腰掛け、傍らのボルツアを部屋の外へと下がらせた。部屋の中は瑛士とサルトゥーア陛下の二人のみで、瑛士はたらりと背中に汗を流した。
「進捗はどうなのだ?」
そう切り出したサルトゥーア陛下の言葉に瑛士は内心首を傾けた。今手掛けている仕事はいくつもある。一体どれの事なのだろう。
「どちらの件で?」
「もちろん、タニルに提供した技術関連の件だ」
なるほど、そちらでしたかと瑛士は姿勢を正す。
正しながら、恐らく話の本題はその次だろうなと予想を立てた。
「まあまあ、ですね。あちらも魔法陣技術大国なのでタニルなりのアレンジしてきそうですが」
「そうか。それで、今回の件でのお前の処分についてだが」
ほら、これが本題だ。
国に迷惑掛けたのと、俺個人で決行した新魔法陣技術流出の件だ。きっとサルトゥーアはあの魔法陣技術はアスコアニが独占して利益を得たかったろう。
「甘んじて受けます。降格ですか?首ですか?」
そもそも捕まった時点で俺のミスだ。絶対に捕まってはいけない立場なのに、と瑛士は反省していた。もしクビだとしても、きちんと引き継ぎをしてやることやってから去るようにしよう。立つ鳥跡を濁さずだ。
だけど、サルトゥーア陛下はそんな瑛士を鼻で笑う。
「そんなもんで終わらせる気はない」
処刑なのかな。
一番最悪な予想が過るが、サルトゥーア陛下は足を優雅に組んで、人差し指を瑛士に突き出した。
「あれと同等以上の新魔法陣技術を4つアスコアニに提供せよ。それで見逃してやろう」
瑛士は思わずサルトゥーア陛下を見る。
もともと瑛士の専門は新魔法陣技術開発だ。果たしてソレが処分になるのか。
困惑しているとサルトゥーア陛下はクツクツと笑い、こう言う。
「お前の故郷は、技術大国なのだろう?人を空の果てへと連れていける程の。ならば出し惜しみせずに作り続けろ。命あるかぎりな」
最終目標は飛行機か、ロケットか。
なんにせよ、元々そのつもりだ。瑛士は深く頭を下げた。
「畏まりました。サルトゥーア陛下」
□□□告白□□□
ヘリオドルが帰ってきた瑛士に頭を下げた。今回の事件で一番迷惑を掛けたらしい。
主にダレクによる館木っ端微塵を防ぐという意味で。
「お帰りなさいませ、エージ様」
「ただいま、ヘリオドルさん。ダレクは?」
「書斎に居られます」
「ありがとうございます。ああ、そうだ」
帰りがてら購入したお菓子をヘリオドルに手渡した。
「なんです?」
「それ、皆で食べてください。レンジで30加熱すると更に美味しいですよ」
「はぁ、ありがとうございます」
言い方は素っ気ないが、口許が緩んでいる。そんな嬉しそうなヘリオドルに瑛士も開発して良かったと心を和ませながら書斎に向かった。
ノックをして、中に居るであろう人物に声をかけた。
「ただいま帰りました。エージです」
「鍵は開いている」
がちゃりと扉を開けるとダレクが席ごとこちらを向いた。
机には書類の山。今回の大騒動の関連だ。
同じことが起こらないようにするために、国境警備の体制を変えるらしい。
「今日、陛下に呼び出されまして…。処分は決まりました。生きている限り新魔法陣技術開発を命じられました」
ホッとした様子のダレクが瑛士を手招きした。
招かれるままに瑛士はダレクの元へと歩めば、腕を優しく掴まれた。
「今までと変わらないじゃないか」
「いえ、遠回しに空の果てにも連れていけみたいな圧を掛けられましたよ」
「そうか。それには私も同行できるのか?」
「もちろんですよ」
これから更に忙しくなりそうだ。
軽く腕を引かれて腰を落とすと、チュッと額にキスを落とされた。
「明日は休みだろ?」
ダレクからこう切り出す時は決まっている。
顔に熱が集まってくるのを感じて、瑛士は思わずダレクから視線を外して顔を伏せた。
なんというか、前のように緊急ではそうでもなかったのに、正式に付き合いだしてからはなんでかとても恥ずかしい。それを悟っているダレクは口許に笑みを浮かべながら赤くなっている瑛士の顔を見るのだから尚更だ。
ダレクの視線に耐えられなくなって、瑛士は空いている方の腕で顔を隠して言い訳をする。
「まだプロット書き終えていません」
「どうせ書き上がるまで少し掛かるだろう。一日くらい休んでも良いんじゃないか?」
イケメンの微笑みに瑛士の心に致命傷を負う。
瑛士はダレクのこの表情に弱い。いや、というよりダレク自体に弱い。惚れた弱みかと瑛士は眉間に皺を寄せ、息を吐き出した。
どうせダレクは引かないだろうし、と、観念したように瑛士は腕を下ろして仕方ないなと頷いた。
「…少しだけですからね。動けなくのは嫌ですよ」
「まぁ、善処してみよう」
ダレクは立ち上がり、手が瑛士の指を絡め取る。剣を握るから、マメのある大きな手。その手を瑛士は見つめた。大好きな手だ。
恋人繋ぎで二人が書斎を出ると、書斎に残された鞄から新しく購入した手帳が転がり落ちてページが開いた。
そのページには、 “異世界コミケ計画” という瑛士の壮大な計画が綴られていたのであった。
◆◆◆
二人の男の吐息が交じる。
切なく啼く方の男、瑛士は枕に顔を埋めて与えられる快感に悶えていた。
「は、ぅ、ん、ん、ふぅ、はっあ、あ」
初めは四つん這いだったのだろうが、力の入ってない腕では最早自分の体重すら支えられず、ダレクによって腰だけが高く上げられており、激しく、だけど労るように快感を絶えず与えて続けられていた。
トロトロと瑛士のモノからは突かれる度に精が吐き出され、寝具を汚している。
「気持ち良いか…?」
「う…ん、きもち、です…」
「お前はこの体制好きだな…」
「楽なんですよ…腰が…」
そんなに腰が固いつもりはないけれども、瑛士はこうした背面位の方が楽で気持ちが良い。
正常位だとなんでかいつもお腹が圧迫されて苦しいから、理性のあるときは出来るだけこの体位を優先して貰っている。
ゾクゾクとした感覚が尾骨から脳天へと駆け上がっていく。
「あ、あっ、はっ、ああ、んーッ!」
全身が痙攣したように跳ねながら瑛士は達した。回数は数えていないけれど、イキ過ぎて息子がバカになっているのはわかる。腹の奥でダレクの欲を注ぎ込まれ、なんとなく下っ腹を撫でた。
この中がダレクの魔力を含んだ欲で一杯になってる。腰は痛いけれど、そんなの気にならないくらい気持ちが良い。
「次は私の好きなので良いか?」
「ええ…、…っあ、」
ずるん、とダレクのモノが抜ける感覚で軽くイく。抜く時にちょうど良いところに当たるのだから仕方がない。
抜けた拍子に一緒にお腹に放たれた欲も引きずり出されてしまい、だらしなく垂れてしまっている。まったく、量が多いんだからと、瑛士は思いながらダレクの希望通りに体制を変えて仰向けになった。
「ん」
両腕を広げてダレクを誘うと、更に色気の増したダレクが抱き付き、挿入されていく。
何の抵抗もなく受け入れたダレクのモノは瑛士の最奥までズッポリと埋め、肉壁を押し退けて奥の壁まで押し込んだ。
チュッチュッとダレクが瑛士の首筋や肩に赤い痕を残す。ダレクは本当にキスが好きだなと瑛士が眺めていると、もう動いて良いか?と伺いを立ててくる。
以前暴走したのを反省したらしく、こうやって確認を取ってくる。
どうぞと促すと、ダレクは律動を始める。艶かしい音をさせて優しく瑛士を味わう。
別にダレクが気持ちいいのなら激しくても良いけれどと思うものの、口には出せない。どうしても羞恥が勝ってしまう。
「ぁ…」
ダレクの手が瑛士の胸を撫で、乳首を人差し指と中指で挟んで刺激を与えてくる。初めの頃は何ともなかったのに、今ではすっかり性感帯の一つになってしまっている。軽く摘まんだり弾いたりの刺激が腰にクる。まったく、女の子のように胸も大きくないのに弄るとか、何が楽しいんだか。
まぁ、最近満更でもないけれど。
次第に律動が激しくなっていき、思考力が奪われていく。泣き声に近い喘ぎ声を上げながら瑛士はダレクの与える快感をすべて受け入れた。
最後に欲を放たれ、倒れ込むようにダレクは瑛士を抱き締めて余韻を味わう。
全力疾走したように体は疲れきっているが、それ以上に満足感に満たされていた。
心地良い眠気と満足感で動く気も起きずにダレクに抱き込まれていると、不意にダレクが「エージ」と呼び掛けた。
「なんですか?」
今最高に幸せな瑛士は、ダレクの言うことを何でも聞いてあげたい気分になっていた。ダレクが望むなら、ハンバーグでもピザでもグラタンでもなんでも作ってあげよう。
「結婚、しないか」
驚いて目を見開く瑛士を、ダレクは抱き締める力を強めた。震える声で、ダレクは語り始めた。
「今回のことで、私は凄く怖かった。またお前を失ってしまうのではないかと気が気でなかったんだ」
「ダレク…」
それは瑛士も同じだった。ダレクに会いたくて会いたくて、無事でいてほしくて、信じてもいない神に必死に祈って足掻いた。
だからこそ今がある。この幸せを手放したくない。
手を翳す。
ダレクの背中側で輝くペアリングがキラリと反射した。
「俺もです。もうあんな目は懲り懲りですよ」
すんででダグパールに抱かれることを回避できたものの、本気で危なかった。
実際、あの後ダレクに会えた安心感からか抑えが聞かなくなってしまい、国境を超えた辺りで魔法陣の副作用が出てしまって仕方なく解除作業に移ったのだが、それがまた大変で、激しくダレクを求めてよがり狂ってしまった。
頭が薬で湧いていたからとはいえ、ダレクを押し倒して自ら腰を振るとか、今覚えばとんでもないことをしていたなと思い出して顔が熱くなった。
もう二度としない。
「どうした?」
「い、いえ…なんでも…」
スサが空気を読んでくれたのだけれど、正直、あるかどうかは知らないけれど次顔を会わす機会があったらどんな顔をすればいいか分からない。と、そこまで思って、いや、と、商品説明の時に会っていることを思い出した。
忘れてくれているのだろうか。だとするならばありがたい事だ。
しかし、俺もそろそろ覚悟を決めるべきなのかな。
「ダレク」
「ん?」
瑛士は真剣な顔でダレクと向き合った。
心の準備をする時間はもう十分に貰った。足りなかったのは、俺の覚悟だけだった。
一つ深呼吸して、瑛士は口を開く。
「結婚しましょう」
ダレクの目が見開かれる。
言え、今言わなければいつ言うんだ。
「俺は女じゃないから、その、子供を抱かせてあげることは出来ない…………、……」
──けれど、と言い掛けてと止める。
いやまてよ。前にシンシアが何やらとんでもない魔法陣の話をしてこなかったか?
確かあれは、男でも子供を授かれるようになるとか、なんとか。
当時の記憶がスライドしてきて先程の自身の言葉を全否定した。いや、できるなこれ。
「できますね。俺立派にダレクの似た子供を産めます」
「ど、どうしたエージ、いきなりそんな…」
突然の瑛士の様子に困惑するダレクの頬を両手で包み込む。
「俺、ダレクの子供が欲しい。絶対に超絶イケメンに産める自信がある!」
「……へぁ…」
みるみるうちにダレクの顔が赤くなっていくのを見て、可愛いなと思う。
俺の旦那は強くて格好良くて可愛い、最高の男だ。そんな男に好かれた俺は世界一の幸せ者だ。
身を起こし、ダレクに微笑み掛ける。
「俺と結婚してください」
するとダレクも微笑んで、身を起こすと瑛士の左手を掬いあげ、口付けた。
「ああ、このダレク・アレキサンドライトがエージを生涯幸せにすると約束しよう」
まるで騎士みたいだなと思い、騎士だったと思い出して笑う。
瑛士の笑みに釣られてダレクも笑った。
「ところで、もしかしてケンジアライトから何か聞いたのか?」
そういえばダレクからはその魔法陣の事を聞いてはいない。もしかして秘密だったのだろうか。
サプライズとかだったのなら申し訳無かった。
「え、ええ。ちょっと前に」
「そうか。それなら話が早い」
よっ、とダレクがベッドから起き上がり、近くのチェストをまさぐる。
ずるんと出したのは、スクロール。
「これが、その授かりの身の魔法陣だ。性能は聞いているな?」
「……う…、一応……ざっくりとは……」
魔法陣を見せられれば、魔法士故に簡単にその効果が手に取るように分かってしまう。
禁忌スレスレの医療系肉体変化。要は直腸の前立腺手前辺りで分かれ道が形成され、その分かれ道のさらに奥の方に男性子宮が形成されるとか。
「これは双方が合意の上でじゃないと発動しない。それに成功率は二割を切る」
そんなに低いのかと、瑛士は驚いた。
しかしすぐに思い直す。体の構造を無理矢理変えるのだ。服反応は勿論、拒絶反応だって出るだろう。
「これは、エージに預けておく。どうしたってエージの負担が大きいから」
「ダレク…」
渡された魔法陣スクロールを受けとる。
これは、主導権を瑛士に託すというものだ。使うのも拒絶するのも、いつ使うのかも瑛士次第。信頼されていることを感じて嬉しくなった。
「分かりました。使うときにはきちんと伝えます。でもその前に結婚ですよ。俺はこの国のやり方は全く分からないので任せていいですか?」
「勿論だ。一生記憶に残るものにしてやる」
「ふふ、楽しみです」
ダレクのキスが瞼に落とされる。
絶対にこの人を幸せにしてやろう。まだ見ぬ子供を想像しながら、瑛士は決意したのだった。
完
ーーーーーーーーー
第二弾まで読んでいただきありがとうございました!
ようやく瑛士の覚悟が決まりましたが、残念なことに家族が増えるところまでは辿り着けませんでした!!
まぁ、次回作辺りでいこうかと思ってはいます。はい。
いつ出来るかな…?
今後も瑛士とダレクを応援してくださる方は、是非ともブックマーク、お気に入り、評価などよろしくお願いいたします!!
ではまた!
ダグパールは約束通り、アスコアニの奴隷を解放した。それにともない、契約していた革命魔法陣の残りの魔法陣の設計図も渡した。
まずは生活面で相当楽になる電化製品、もとい魔法陣製品、略して陣製品でどれだけ楽になるかを王宮で確認して貰い、良さそうならば解放後に農業関係へと手を入れた。タニルは農業大国だ。実は奴隷の大半がこの農業奴隷だ。
七割~八割がこれだと言っても良い。それだけ農業は重労働で、何よりも人手が欲しい場所だ。そこへ簡易型トラクターを突っ込んだ。材料はアスコアニ産だが、それをタニルへと安く卸してビジネス化する。
今までアスコアニとタニルの貿易は宝石、薬草、お茶のみだったが、これによって更に貿易は拡大するだろう。いずれ共同開発とかしてくれるようになれば、そう易々と即戦争というフラグは立つまい、なにせ共同開発中にそうなってしまえば自国も大損害を被るからだ。
と、瑛士は先の先まで読んで行動していたのだが、そんな事はおそらくダグパール殿下もサルトゥーア陛下も知らないだろう。
瑛士はペンを置き、傍らのお茶を飲んで一休みする。
「ふぅ…」
そして、俺もさっさと約束を果たすべく、必死に執筆活動をしていた。
国の事を考えて自分の事を疎かにするのはあまりにもアホだから。
良かった。あの手帳以外にもプロットを書いていて。
実は瑛士はあの持ち運び用の手帳以外にも自室にメモ用の手帳を持っていた。
あの手帳に比べればもっと雑多だし、プロットどころか設計図的なまとめとしてしか活用していないけれど、物語の流れが頭の中にある瑛士には、この情報だけで十分だった。
本当は書き上げるまで手帳を返して欲しかったのだが、そこまで?と引くほどダグパールに手帳を抱え込まれて拒否されたので断念した。
気持ちはわかるので瑛士は大人しく手を引っ込めた。
わかる。ヲタクにとっての戦利品であり、貴重な薬であるソレを無理やり取り上げるほど瑛士は鬼ではなかった。
ダレクにはあんなことされたのに甘いと言われたけれど。
ソレはソレ、これはこれ、である。
お昼のパンを食べているとサルトゥーア陛下とボルツア団長がやって来た。
慌ててシンシアと共に頭を下げると「クリハラ」と名前を呼ばれる。用があるのは瑛士のようだ。
「頭をあげよ。クリハラ」
サルトゥーア陛下の許しで頭をあげる。
するとボルツアが陛下の前に出て、来い、と命令してきた。何かしらの重要な話なのだろう。名指しから瑛士のみ用がある。お昼が途中だけれど、陛下の命令なら仕方がないと、食べ掛けのパンをシンシアに預け、瑛士は大人しく二人に付いていった。
連れてこられたのはいつもの王の間ではなく、何故かサルトゥーアの執務室だった。
サルトゥーアは椅子に腰掛け、傍らのボルツアを部屋の外へと下がらせた。部屋の中は瑛士とサルトゥーア陛下の二人のみで、瑛士はたらりと背中に汗を流した。
「進捗はどうなのだ?」
そう切り出したサルトゥーア陛下の言葉に瑛士は内心首を傾けた。今手掛けている仕事はいくつもある。一体どれの事なのだろう。
「どちらの件で?」
「もちろん、タニルに提供した技術関連の件だ」
なるほど、そちらでしたかと瑛士は姿勢を正す。
正しながら、恐らく話の本題はその次だろうなと予想を立てた。
「まあまあ、ですね。あちらも魔法陣技術大国なのでタニルなりのアレンジしてきそうですが」
「そうか。それで、今回の件でのお前の処分についてだが」
ほら、これが本題だ。
国に迷惑掛けたのと、俺個人で決行した新魔法陣技術流出の件だ。きっとサルトゥーアはあの魔法陣技術はアスコアニが独占して利益を得たかったろう。
「甘んじて受けます。降格ですか?首ですか?」
そもそも捕まった時点で俺のミスだ。絶対に捕まってはいけない立場なのに、と瑛士は反省していた。もしクビだとしても、きちんと引き継ぎをしてやることやってから去るようにしよう。立つ鳥跡を濁さずだ。
だけど、サルトゥーア陛下はそんな瑛士を鼻で笑う。
「そんなもんで終わらせる気はない」
処刑なのかな。
一番最悪な予想が過るが、サルトゥーア陛下は足を優雅に組んで、人差し指を瑛士に突き出した。
「あれと同等以上の新魔法陣技術を4つアスコアニに提供せよ。それで見逃してやろう」
瑛士は思わずサルトゥーア陛下を見る。
もともと瑛士の専門は新魔法陣技術開発だ。果たしてソレが処分になるのか。
困惑しているとサルトゥーア陛下はクツクツと笑い、こう言う。
「お前の故郷は、技術大国なのだろう?人を空の果てへと連れていける程の。ならば出し惜しみせずに作り続けろ。命あるかぎりな」
最終目標は飛行機か、ロケットか。
なんにせよ、元々そのつもりだ。瑛士は深く頭を下げた。
「畏まりました。サルトゥーア陛下」
□□□告白□□□
ヘリオドルが帰ってきた瑛士に頭を下げた。今回の事件で一番迷惑を掛けたらしい。
主にダレクによる館木っ端微塵を防ぐという意味で。
「お帰りなさいませ、エージ様」
「ただいま、ヘリオドルさん。ダレクは?」
「書斎に居られます」
「ありがとうございます。ああ、そうだ」
帰りがてら購入したお菓子をヘリオドルに手渡した。
「なんです?」
「それ、皆で食べてください。レンジで30加熱すると更に美味しいですよ」
「はぁ、ありがとうございます」
言い方は素っ気ないが、口許が緩んでいる。そんな嬉しそうなヘリオドルに瑛士も開発して良かったと心を和ませながら書斎に向かった。
ノックをして、中に居るであろう人物に声をかけた。
「ただいま帰りました。エージです」
「鍵は開いている」
がちゃりと扉を開けるとダレクが席ごとこちらを向いた。
机には書類の山。今回の大騒動の関連だ。
同じことが起こらないようにするために、国境警備の体制を変えるらしい。
「今日、陛下に呼び出されまして…。処分は決まりました。生きている限り新魔法陣技術開発を命じられました」
ホッとした様子のダレクが瑛士を手招きした。
招かれるままに瑛士はダレクの元へと歩めば、腕を優しく掴まれた。
「今までと変わらないじゃないか」
「いえ、遠回しに空の果てにも連れていけみたいな圧を掛けられましたよ」
「そうか。それには私も同行できるのか?」
「もちろんですよ」
これから更に忙しくなりそうだ。
軽く腕を引かれて腰を落とすと、チュッと額にキスを落とされた。
「明日は休みだろ?」
ダレクからこう切り出す時は決まっている。
顔に熱が集まってくるのを感じて、瑛士は思わずダレクから視線を外して顔を伏せた。
なんというか、前のように緊急ではそうでもなかったのに、正式に付き合いだしてからはなんでかとても恥ずかしい。それを悟っているダレクは口許に笑みを浮かべながら赤くなっている瑛士の顔を見るのだから尚更だ。
ダレクの視線に耐えられなくなって、瑛士は空いている方の腕で顔を隠して言い訳をする。
「まだプロット書き終えていません」
「どうせ書き上がるまで少し掛かるだろう。一日くらい休んでも良いんじゃないか?」
イケメンの微笑みに瑛士の心に致命傷を負う。
瑛士はダレクのこの表情に弱い。いや、というよりダレク自体に弱い。惚れた弱みかと瑛士は眉間に皺を寄せ、息を吐き出した。
どうせダレクは引かないだろうし、と、観念したように瑛士は腕を下ろして仕方ないなと頷いた。
「…少しだけですからね。動けなくのは嫌ですよ」
「まぁ、善処してみよう」
ダレクは立ち上がり、手が瑛士の指を絡め取る。剣を握るから、マメのある大きな手。その手を瑛士は見つめた。大好きな手だ。
恋人繋ぎで二人が書斎を出ると、書斎に残された鞄から新しく購入した手帳が転がり落ちてページが開いた。
そのページには、 “異世界コミケ計画” という瑛士の壮大な計画が綴られていたのであった。
◆◆◆
二人の男の吐息が交じる。
切なく啼く方の男、瑛士は枕に顔を埋めて与えられる快感に悶えていた。
「は、ぅ、ん、ん、ふぅ、はっあ、あ」
初めは四つん這いだったのだろうが、力の入ってない腕では最早自分の体重すら支えられず、ダレクによって腰だけが高く上げられており、激しく、だけど労るように快感を絶えず与えて続けられていた。
トロトロと瑛士のモノからは突かれる度に精が吐き出され、寝具を汚している。
「気持ち良いか…?」
「う…ん、きもち、です…」
「お前はこの体制好きだな…」
「楽なんですよ…腰が…」
そんなに腰が固いつもりはないけれども、瑛士はこうした背面位の方が楽で気持ちが良い。
正常位だとなんでかいつもお腹が圧迫されて苦しいから、理性のあるときは出来るだけこの体位を優先して貰っている。
ゾクゾクとした感覚が尾骨から脳天へと駆け上がっていく。
「あ、あっ、はっ、ああ、んーッ!」
全身が痙攣したように跳ねながら瑛士は達した。回数は数えていないけれど、イキ過ぎて息子がバカになっているのはわかる。腹の奥でダレクの欲を注ぎ込まれ、なんとなく下っ腹を撫でた。
この中がダレクの魔力を含んだ欲で一杯になってる。腰は痛いけれど、そんなの気にならないくらい気持ちが良い。
「次は私の好きなので良いか?」
「ええ…、…っあ、」
ずるん、とダレクのモノが抜ける感覚で軽くイく。抜く時にちょうど良いところに当たるのだから仕方がない。
抜けた拍子に一緒にお腹に放たれた欲も引きずり出されてしまい、だらしなく垂れてしまっている。まったく、量が多いんだからと、瑛士は思いながらダレクの希望通りに体制を変えて仰向けになった。
「ん」
両腕を広げてダレクを誘うと、更に色気の増したダレクが抱き付き、挿入されていく。
何の抵抗もなく受け入れたダレクのモノは瑛士の最奥までズッポリと埋め、肉壁を押し退けて奥の壁まで押し込んだ。
チュッチュッとダレクが瑛士の首筋や肩に赤い痕を残す。ダレクは本当にキスが好きだなと瑛士が眺めていると、もう動いて良いか?と伺いを立ててくる。
以前暴走したのを反省したらしく、こうやって確認を取ってくる。
どうぞと促すと、ダレクは律動を始める。艶かしい音をさせて優しく瑛士を味わう。
別にダレクが気持ちいいのなら激しくても良いけれどと思うものの、口には出せない。どうしても羞恥が勝ってしまう。
「ぁ…」
ダレクの手が瑛士の胸を撫で、乳首を人差し指と中指で挟んで刺激を与えてくる。初めの頃は何ともなかったのに、今ではすっかり性感帯の一つになってしまっている。軽く摘まんだり弾いたりの刺激が腰にクる。まったく、女の子のように胸も大きくないのに弄るとか、何が楽しいんだか。
まぁ、最近満更でもないけれど。
次第に律動が激しくなっていき、思考力が奪われていく。泣き声に近い喘ぎ声を上げながら瑛士はダレクの与える快感をすべて受け入れた。
最後に欲を放たれ、倒れ込むようにダレクは瑛士を抱き締めて余韻を味わう。
全力疾走したように体は疲れきっているが、それ以上に満足感に満たされていた。
心地良い眠気と満足感で動く気も起きずにダレクに抱き込まれていると、不意にダレクが「エージ」と呼び掛けた。
「なんですか?」
今最高に幸せな瑛士は、ダレクの言うことを何でも聞いてあげたい気分になっていた。ダレクが望むなら、ハンバーグでもピザでもグラタンでもなんでも作ってあげよう。
「結婚、しないか」
驚いて目を見開く瑛士を、ダレクは抱き締める力を強めた。震える声で、ダレクは語り始めた。
「今回のことで、私は凄く怖かった。またお前を失ってしまうのではないかと気が気でなかったんだ」
「ダレク…」
それは瑛士も同じだった。ダレクに会いたくて会いたくて、無事でいてほしくて、信じてもいない神に必死に祈って足掻いた。
だからこそ今がある。この幸せを手放したくない。
手を翳す。
ダレクの背中側で輝くペアリングがキラリと反射した。
「俺もです。もうあんな目は懲り懲りですよ」
すんででダグパールに抱かれることを回避できたものの、本気で危なかった。
実際、あの後ダレクに会えた安心感からか抑えが聞かなくなってしまい、国境を超えた辺りで魔法陣の副作用が出てしまって仕方なく解除作業に移ったのだが、それがまた大変で、激しくダレクを求めてよがり狂ってしまった。
頭が薬で湧いていたからとはいえ、ダレクを押し倒して自ら腰を振るとか、今覚えばとんでもないことをしていたなと思い出して顔が熱くなった。
もう二度としない。
「どうした?」
「い、いえ…なんでも…」
スサが空気を読んでくれたのだけれど、正直、あるかどうかは知らないけれど次顔を会わす機会があったらどんな顔をすればいいか分からない。と、そこまで思って、いや、と、商品説明の時に会っていることを思い出した。
忘れてくれているのだろうか。だとするならばありがたい事だ。
しかし、俺もそろそろ覚悟を決めるべきなのかな。
「ダレク」
「ん?」
瑛士は真剣な顔でダレクと向き合った。
心の準備をする時間はもう十分に貰った。足りなかったのは、俺の覚悟だけだった。
一つ深呼吸して、瑛士は口を開く。
「結婚しましょう」
ダレクの目が見開かれる。
言え、今言わなければいつ言うんだ。
「俺は女じゃないから、その、子供を抱かせてあげることは出来ない…………、……」
──けれど、と言い掛けてと止める。
いやまてよ。前にシンシアが何やらとんでもない魔法陣の話をしてこなかったか?
確かあれは、男でも子供を授かれるようになるとか、なんとか。
当時の記憶がスライドしてきて先程の自身の言葉を全否定した。いや、できるなこれ。
「できますね。俺立派にダレクの似た子供を産めます」
「ど、どうしたエージ、いきなりそんな…」
突然の瑛士の様子に困惑するダレクの頬を両手で包み込む。
「俺、ダレクの子供が欲しい。絶対に超絶イケメンに産める自信がある!」
「……へぁ…」
みるみるうちにダレクの顔が赤くなっていくのを見て、可愛いなと思う。
俺の旦那は強くて格好良くて可愛い、最高の男だ。そんな男に好かれた俺は世界一の幸せ者だ。
身を起こし、ダレクに微笑み掛ける。
「俺と結婚してください」
するとダレクも微笑んで、身を起こすと瑛士の左手を掬いあげ、口付けた。
「ああ、このダレク・アレキサンドライトがエージを生涯幸せにすると約束しよう」
まるで騎士みたいだなと思い、騎士だったと思い出して笑う。
瑛士の笑みに釣られてダレクも笑った。
「ところで、もしかしてケンジアライトから何か聞いたのか?」
そういえばダレクからはその魔法陣の事を聞いてはいない。もしかして秘密だったのだろうか。
サプライズとかだったのなら申し訳無かった。
「え、ええ。ちょっと前に」
「そうか。それなら話が早い」
よっ、とダレクがベッドから起き上がり、近くのチェストをまさぐる。
ずるんと出したのは、スクロール。
「これが、その授かりの身の魔法陣だ。性能は聞いているな?」
「……う…、一応……ざっくりとは……」
魔法陣を見せられれば、魔法士故に簡単にその効果が手に取るように分かってしまう。
禁忌スレスレの医療系肉体変化。要は直腸の前立腺手前辺りで分かれ道が形成され、その分かれ道のさらに奥の方に男性子宮が形成されるとか。
「これは双方が合意の上でじゃないと発動しない。それに成功率は二割を切る」
そんなに低いのかと、瑛士は驚いた。
しかしすぐに思い直す。体の構造を無理矢理変えるのだ。服反応は勿論、拒絶反応だって出るだろう。
「これは、エージに預けておく。どうしたってエージの負担が大きいから」
「ダレク…」
渡された魔法陣スクロールを受けとる。
これは、主導権を瑛士に託すというものだ。使うのも拒絶するのも、いつ使うのかも瑛士次第。信頼されていることを感じて嬉しくなった。
「分かりました。使うときにはきちんと伝えます。でもその前に結婚ですよ。俺はこの国のやり方は全く分からないので任せていいですか?」
「勿論だ。一生記憶に残るものにしてやる」
「ふふ、楽しみです」
ダレクのキスが瞼に落とされる。
絶対にこの人を幸せにしてやろう。まだ見ぬ子供を想像しながら、瑛士は決意したのだった。
完
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第二弾まで読んでいただきありがとうございました!
ようやく瑛士の覚悟が決まりましたが、残念なことに家族が増えるところまでは辿り着けませんでした!!
まぁ、次回作辺りでいこうかと思ってはいます。はい。
いつ出来るかな…?
今後も瑛士とダレクを応援してくださる方は、是非ともブックマーク、お気に入り、評価などよろしくお願いいたします!!
ではまた!
応援ありがとうございます!
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