誰の目にも輝きを

ヨージー

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「こんなもの、かな」
弥伊子は久しぶりに自分でメイクを施した。芦屋恭子の行っていたメイクとは似ても似つかない。もはや別人といえる。少しだけ、芦屋恭子の存在を心のうちで望んでいる自分を自覚した。「今度メイク道具を真澄に聞いてみようかな」

「おはよう真澄」
一瞬の沈黙。
「あ、弥伊子か。おはよう」
真澄はばつの悪そうに笑った。
「今日はメイクしてないんだね」
どうやら真澄も弥伊子自身ではメイクしたことがないと思い込んでいるらしかった。
「してなくても私だよ」
「おーけーおーけー。その方が親しみやすいよ」
「それってどういう?」
「あ、藤田。おはよう」
「おはよう南洞さん、加藤さん」
「声をかけたのは私だぞ」
真澄は藤田飛鳥の頬をつねった。

「え、なにそれデート」
「そうかなぁ」
休み時間に真澄に週末の出来事を報告した。弥伊子は自分が微笑みを我慢できていないことを自覚していた。
「実際は、芦屋さんと他にも二人と一緒だったんだけど」
「なにそれ、よくわからん」
「なんか撮影会だったんだって」
「なおわからん」
実のところ弥伊子もまた意味をよく理解できていなかった。
「ちょっと調べてみようかな」
真澄が端末を操作しはじめた。
「仮にどこかに掲載されていたとして、探しだせるもの?」
「君ね、それは広告とは言わないよ」
真澄が端末から視線を弥伊子に細めて向けた。
「広告ってことは見てくださいってことでしょ。それを見つからないように掲示するわけ?」
「確かに、でもそれなら何で芦屋さんは今までしなかったんだろう」
「なにが?」
「えっと、芦屋さんは自分の広告となるように学内の多くの女生徒にメイクしてたんだよね?いつでもできたんじゃ」
「有料でね」
「そう、らしいね」
「あんたは?」
「え?」
「お金、とられたの?」
「ううん、一度もなかったよ」
「そうね、そしたら練習と本番って違いかも」
「練習と本番?」
「藤田に聞いたよ。芦屋恭子、弥伊子の家に泊まってたんでしょ?」
「え、うん」
「泊まり込んでまで弥伊子にメイクしたかったわけだ」
「よくわかんないけど」
「このにぶちんが」
真澄はそういうと弥伊子の頭をわしわしと片手で揺さぶった。

下校時間に真澄と弥伊子は校門に向かって歩いていた。
「あれ、須藤さんだ」
「え、あ。カメラマンの」
真澄に少し待つよう伝えて、弥伊子は須藤綾に向かって駆け足で向かい呼び止めた。
「須藤さんもこれから帰る、ところ?」
須藤綾が弥伊子の声に振り向いた。そして、何故か二度見した。
「えと、私?あなた」
そういうと須藤綾は頭に人差し指を当てて思案顔だ。弥伊子は動揺する。
「忘れ、ちゃったの?」
弥伊子のとなりに真澄が追い付いた。
「いや、ごめん」
「わたしは、あ」
弥伊子は名乗る変わりに須藤綾と田代啓司がカラオケの最後に歌った曲をアカペラで歌ってみた。
「え、うそ」
須藤綾が気づいたらしく固まった。
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