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『凶なこと』

秦裕一

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 テストが返却された。
 1週間前に受けた中間テストの結果だ。
 今回は漢文がちょっと悪かった、というか変な点だった。

 そもそも漢文にはあまり興味がないため、普段はぼーっとしてるが、今日の漢文の授業で教師が話していた内容が何となく印象に残った。

「漫画とか小説で、" ひょんなことから~ "って言い回しを聞いたことがあると思うけど、" ひょんなこと "は漢字で書くと、" 凶なこと "って書くんだぞ」

 普段はよくわからないことを喋ってるけどたまに興味引くことを話す教師だ。

 はっきり言って漢文はよくわからない、百歩譲って古文なら日本のものであるということもあり、なんとなく意味はわかるが、漢文の学習が必須となってるのはなぜなのだろうか。

 そもそもなぜ他国の昔話を学ばなくてはならないのか。

 なんなんだ、" 天地人点 "って。上中下とか甲乙丙ならなんとなくわかるけど急に人ってどういうことだ。
 ……かっこいいじゃないか。

 と、そんなことをぼーっと考えていると、チャイムが鳴った。16時だ。
 やっと放課後だ、帰れる!!

 ウキウキしながら荷物を鞄に詰め、家に帰ったら何をしようかと考えていた。
 荷物を詰めている間に手が滑り、盛大に鞄を落としてしまった。
 中身が撒き散らされた。

「…うーわ、やったわ」

 よくもまぁこんな綺麗に、というくらいぶちまけた。

 自分でも惚れ惚れする。

 席は一番後ろだというのに、スマホが教壇まで飛んでしまっているじゃないか。

 中身を拾っている間にクラスメイト達は部活やら遊びやらで忙しいらしく、あっという間に教室から消えてしまった。

 気づいたら教室にひとりだった。

 放課後は完全なる自由だ。運動は好きじゃないから部活はやってないし、幸い頭の出来は普通だから予備校にも通ってるわけじゃない、そして友達もいないから無駄な付き合いで時間を浪費することもない。
 ましてや彼女なんているはずもない。

 仕事に追われるようなこともなければ、嫌味や愚痴を言ってくる人もいない。誰かを扶養している訳でもないから責任も生じない。
 ただ、親には感謝している。何もしてあげられてはいないが。

 あれ、こんなストレス社会と言われている昨今、こんな自由を手にしている俺は最強なのではないだろうか?

 ……ただ、胸を張って言えることではないという自覚があることだけは褒めてほしい。

 うん、めっちゃ褒めてほしい、褒められたら伸びるタイプだから。

 ポテンシャルだけは青天井だから。

 ただ、唯一にして最大の問題は、趣味もないため帰ってもすることがないということだ。

 少し前までは家でテスト勉強をしていたし、その前まではゲームをしたりしていたが、そのゲームを昨日クリアしてしまい、ちょうど手持ち無沙汰になったところなのだ。

 「ま、とりあえず帰るか」

 下駄箱で靴を履き、校門を出て直ぐに左へ曲がる。するとゆっくりとしたカーブの下り坂になっている。

 俺はこの下り坂が大好きだ。

 そこそこ急なこともあり、歩くのがすごく楽だ。

 自転車なら尚良いだろう。

 まぁ、登校時にはこの坂のことを大嫌いになるのだが。

 とりあえず帰ってから何をするか考えながら帰ることにした。

 なんと不毛な時間だろう。だがこれが良いのだ。

 10分ほど歩いた。

 そろそろ大好きな坂を下り終わる。

 こんなどうでもいいことにも関わらず、珍しく深く考えながら歩いていたせいか、坂から景色を見た記憶がない。

 まったく、眺めがいいというのに勿体ない。
 



 そこでふと気付いた。


 おかしい。


 人の気配がない。


 よく考えたら、放課後の教室から今に至るまでクラスメイトをはじめ、人というものにに会っていない。
 

 その時。


 『秦裕一さんですか?』

 見たことのない生物だった。


 その生物の存在に気付いたと同時にもう一つ気付いたことがある。

その生物の背後に、
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