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第8章 大団円はリベンジの後で
8ー17 家
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気配に目を覚ますと夫が寝室から抜けて行くところだった。
子どもたちを寝かしつけていて自分も眠ってしまったらしい。
レイチェルは日本土産の白地に花柄のシーツに手をついて身を起こし、
「行ってらっしゃい」
そっと声をかける。
「行ってきます。君はゆっくり休んで」
微笑んでマイケルは夜勤に向かった。
昼間、マイケルが新郎に話しかけている間にレイチェルも新婦と話した。
薬学の研究者という「凄い人」なので緊張したが、
「あなたも、わたしと同じところがある気がする」
と口を開く。
「いいお嫁さんもらったねってあちこちで言われているけど、夫だってとってもいいお婿さんなんだって、自慢して回りたくない?」
「はい」
アディティの顔が見る間に明るくなる。
良かった、的外れではなかった。
「ルチ……ラジヴは勇敢で、正義感が強くて、忍耐強い尊敬出来る人です。皆にもっと知ってもらいたいと思っています」
マイケルと話していた新郎本人は驚き顔で振り向く。
「自分を助けてくれたヒーローと結婚出来る女なんて滅多にいないから!」
「まるでボリウッド映画!」
妹たちが囃し立てれば、
「言い出したのはアッバースでこいつらと協力してー」
明らかに戸惑いラジヴは同級生たちを手のひらで示す。
「アディティを助けたのはお前だろ?」「お前じゃね」
ヴィノードとイジャイの声が見事に重なり、アッバースが声を立てて笑う。
(いいなあ)
素直にうらやましかった。
この国では時に酷く忌まれる女性が上方の婚姻だが、今日の新郎は新婦方に歓迎されていた。義両親も義妹たちも身寄りがない新郎に何かと心を配り、場は暖かい雰囲気に包まれていた。昔の我が家のようだ。
縁談を持ちかけたのも新婦側からだという。
少しの家事を済ませて寝室に戻る。
息子が抱えているピカ◯ュウのぬいぐるみも日本のヨコハマ土産だ。
リアル人狼ゲームを企画した連中へやり返すのに当時未成年だったサバイバーは使わない、というラクシュミの方針にレイチェルは反発を覚えた。いつまでも子ども扱いされたくない。
だがレイチェルは夫婦ゆえその一端には関わることが出来た。
『新婚旅行しない?』
先に豪華客船を偵察したロハンが、
『南アジアの男ひとりで乗るのは目を引き過ぎる。せめてカップルで』
と報告したことでラクシュミは自分たち夫婦に白羽の矢を立てた。
物の受け渡しが目的だが、それ以外は観光客らしく自然に楽しめと命じられ、引き渡し場所と同じ建物にあるポケ◯ンセンターを訪れた。店に入って呆然とする。
多種多様な製品であふれんばかりだ!
どう選べば? と青くなったレイチェルにガイドが、
『旅の記念なら、このヨコハマセンターにしかない品物がお勧めだそうです』
と札に付いたマークを教えてくれた。
今息子が抱き抱えている水兵服を着たぬいぐるみはその時のものだ。
白と青の服が黄色いピカチュ◯によく映える。
「海外に本部があるNGOはインドの実情とはどうもずれている気がして、今は国内の教育NGOで働いています」
ラジヴは自分の仕事を語った。
クリスチャンの自分たちの前では言わなかったが、ヨーロッパ系の団体ならキリスト教徒でなくなるとやり難かったのかもしれない。
「海外では台湾や日本の団体と提携しています」
(!)
リアル人狼事件の被害者で日本が好きな人間はいない、と思う。
アイデアの源、そして諸悪の根源macojinジジイの国だ。
憎悪のため日本語までマスターしたラクシュミはまた驚異的だ。
勉強が苦手な自分が理学療法士になれたのはポジティブな希望からの努力の成果だった。復讐という目標があったとはいえ、憎いものに関わる努力はそれとは異質の苦痛に満ちた道のりだったろう。想像を絶する。
日本への嫌悪が顔に出たのか、
「それぞれに持ち味が違って、しかもどちらも西洋の合理性と東洋の心を兼ね備えたいいパートナーですよ」
胸に手を当てなだめるようにラジヴは説明した。
レイチェルがリアル人狼「第三ゲーム」にぶっ込まれたのは十年生、進学に十分な成績が取れず押し潰されそうで喘いでいる頃だった。
学生時代はとうに過ぎた今でも頭のいい人には気後れがする。
ダルシカー
(最初に人狼の犠牲となったシドさん。イムラーンさん。アビマニュさんにクリスティーナさん)
ここまでの人々とは違い生き残った、
(ラクシュミさん)
同様に新婦のアディティにも怖気付いたのだが、夫のマイケルは、
『薬品の開発をしているそうですね。あなたのような方のお陰で患者さんたちが助かっています。今後もどうぞよろしくお願いします』
と素直に感謝を述べた。おそらく本心だ。
(この辺が人間の器の違いかな?)
薄く笑う。
上掛けを整え、息子と娘の間に身を滑らせて目を閉じる。
レイチェルの育った家庭は、貧乏ーだったー看護師との結婚で荒れまくりばらばらになってしまった。
『何のためにお母さんは苦労してきたの! 人生、全部無駄だった……』
『お姉ちゃんがそんな貧乏人と結婚しちゃったら、あたしもういい人から縁談が来ない!』
『冷静になれよ、姉ちゃん。金も身寄りもろくにない貧乏人と結婚するなんて非現実的だよ』
レイチェルは弟に返した。
『あんたはわたしが「そんな貧乏人!」って罵られる家に嫁に行って欲しかったの?!』
弟は推し黙った。そういうことだ。
大学へ行ったら立派な人と結婚出来る。だからと父と母はそれぞれ店と行商の稼ぎを惜しげもなく子どもたちに注いでくれた。
『家にはメイドがいて掃除も洗濯もしなくていい。毎度の食事も食べたいものを言えば出てくるー』
まさにそのいいところのお嫁さん、アンビカという人を知っている。
絨毯店の跡取りの妻、女主人としての切り盛りはとても大変そうだ。
例えるなら男たちが店に出る海軍ならアンビカは中で守りを固める陸軍だ。
レイチェルは懸命に両親を説得にかかった。
『わたしはお母さんとお父さんみたいな夫婦になりたかったの。お互いに思いやって、美味しいものは皆で分け合って』
母が行商から疲れて帰ってきた時、父が足をマッサージしながらその日のことをぽつぽつ話しているのを見るのが好きだっー
『好きで苦労なんかしない! 私だって何不自由ない家に嫁に行きたかった!』
母の絶叫。
レイチェルは凍りついた。
母に惚れ込んで頼み込んでお嫁に来てもらった、と繰り返して照れる父の言葉をほのぼのとした惚気と聞いていた。だが、
(逆はどうだったの?)
年上の男から何度も何度も押され粘られた時、若い女の子だった母に抗する術はあったか?
間もなく母は家を出て行った。伯母に世話になっていると聞いている。
『夫婦のことは夫婦にしかわからない。お母さんのことは心配しなくていい。私たちには長い年月を重ねた絆があるんだ。お前が心配するのはマーダヴァン君とのことだよ』
母が戻って来ないにも関わらず父は言った。
家族の中で既に結婚している姉は何も言わず、父は最後消極的賛成に回った。
『今はいいかもしれない。だが子どもを育てていけば色々起こる。子どもの行方がわからなくなったら何を放り出してでも駆け回る』
『……』
リアル人狼ゲームで誘拐されたレイチェルを両親は仕事を放り出し連日探し回ってくれた。
1日休むだけでもどれほどの損失かレイチェルは知っている。
『年をとれば体にがたもくる。そんな時頼れる身内がいないというのはとても大変だ』
マイケルは父が病気で早世し、病院雑役婦だった母とふたり暮らしだった。
両親の出身村に親戚はいるが、マイケルは少額の仕送りをしていた。
頼るのではなく頼られる方だ。
挨拶で初めて家を訪問した時レイチェルは動揺した。
部屋が文字通り一間しかない。ヒンドゥー教徒の言葉を借りれば「かまどの神の寺院」たる台所が病気の母親が横たわる部屋から丸見えだ。
トイレを借りたのは屋内にあるか確かめたかったからだ。
幸い中にはあったが、便器のすぐ横にシャワーがついたごく小さいバスルームで、シャワーを浴びたら便器にバシャバシャと水がかかりまくり衛生的とは言えない。
だが部屋も水場も掃除が行き届いていたのに好感を抱いた。
レイチェルは自分が「普通の貧乏人」だと思っていたが、借家の自宅は商売の倉庫も兼ねていてそれなりに部屋数はある。
リアル人狼ゲームの間も一番長く礼拝室にいた彼に宗教の話題を持ち出すのを躊躇しているうちに彼は自分からキリスト教に改宗すると申し出た。
彼の母も親戚たちも、
『いいところのお嬢さんと一緒になるんだから』
仕方がないと納得顔だった。
『だから、何かあったらお父さんを頼りなさい。私だけは、君たち夫婦の味方になるから』
父は小金を握らせた。
レイチェルが命がけで勝ち取ったリアル人狼ゲームの賞金持ち出しは母が阻止した。
元より学校は出たから後は弟たちの学費や結婚資金に置いてくるつもりだったが、お金で結婚をコントロール出来ると思われたのも嫌だった。
『もっと乱暴なやり方でお前たちの間を引き裂くことも考えた。だがそうしたらお前はマーダヴァン君のことが忘れられずに苦しむだろう。お金と地位のことを除けば、お父さんはあれ以上の男性をお前に持ってくる自信はない』
父は彼を評価していた。
現役高校生のレイチェルが必死で勉強しても看護科への入学には成績が届かなかった。リハビリ科なら得意科目が活かせるのではと先生に言われ、理学療法士になった。
一方マイケルは自力で看護師になったー
(それにあの人は、皆のエゴがぶつかり合って、生き残るためには誰をも裏切り突き落とすリアル人狼ゲームの中でも、弱い人、女の子や具合の悪い人を守る側に立ち続けた人だもの)
あんな人間はそういない!
自分は最高の男を夫にした。叫んで歩きたいくらいだ。
今日の花嫁のアディティにもそういうところはあったのだろう。
自分は帰る場所を失った。
けれども今、ここがわたしの家だ。
夢うつつ、レイチェルの意識は何年も前に訪れたタミルの村、クリスティーナの故郷を彷徨った。
〈注〉
結婚時に改宗・改名したふたりについては回りの呼び方や自他の認識等物語上の都合により記述を変えています。
念のための整理しておきます。
・マーダヴァン(ヒンドゥー教) → マイケル(キリスト教)
・ルチアーノ(キリスト教) → ラジヴ(ヒンドゥー教)
子どもたちを寝かしつけていて自分も眠ってしまったらしい。
レイチェルは日本土産の白地に花柄のシーツに手をついて身を起こし、
「行ってらっしゃい」
そっと声をかける。
「行ってきます。君はゆっくり休んで」
微笑んでマイケルは夜勤に向かった。
昼間、マイケルが新郎に話しかけている間にレイチェルも新婦と話した。
薬学の研究者という「凄い人」なので緊張したが、
「あなたも、わたしと同じところがある気がする」
と口を開く。
「いいお嫁さんもらったねってあちこちで言われているけど、夫だってとってもいいお婿さんなんだって、自慢して回りたくない?」
「はい」
アディティの顔が見る間に明るくなる。
良かった、的外れではなかった。
「ルチ……ラジヴは勇敢で、正義感が強くて、忍耐強い尊敬出来る人です。皆にもっと知ってもらいたいと思っています」
マイケルと話していた新郎本人は驚き顔で振り向く。
「自分を助けてくれたヒーローと結婚出来る女なんて滅多にいないから!」
「まるでボリウッド映画!」
妹たちが囃し立てれば、
「言い出したのはアッバースでこいつらと協力してー」
明らかに戸惑いラジヴは同級生たちを手のひらで示す。
「アディティを助けたのはお前だろ?」「お前じゃね」
ヴィノードとイジャイの声が見事に重なり、アッバースが声を立てて笑う。
(いいなあ)
素直にうらやましかった。
この国では時に酷く忌まれる女性が上方の婚姻だが、今日の新郎は新婦方に歓迎されていた。義両親も義妹たちも身寄りがない新郎に何かと心を配り、場は暖かい雰囲気に包まれていた。昔の我が家のようだ。
縁談を持ちかけたのも新婦側からだという。
少しの家事を済ませて寝室に戻る。
息子が抱えているピカ◯ュウのぬいぐるみも日本のヨコハマ土産だ。
リアル人狼ゲームを企画した連中へやり返すのに当時未成年だったサバイバーは使わない、というラクシュミの方針にレイチェルは反発を覚えた。いつまでも子ども扱いされたくない。
だがレイチェルは夫婦ゆえその一端には関わることが出来た。
『新婚旅行しない?』
先に豪華客船を偵察したロハンが、
『南アジアの男ひとりで乗るのは目を引き過ぎる。せめてカップルで』
と報告したことでラクシュミは自分たち夫婦に白羽の矢を立てた。
物の受け渡しが目的だが、それ以外は観光客らしく自然に楽しめと命じられ、引き渡し場所と同じ建物にあるポケ◯ンセンターを訪れた。店に入って呆然とする。
多種多様な製品であふれんばかりだ!
どう選べば? と青くなったレイチェルにガイドが、
『旅の記念なら、このヨコハマセンターにしかない品物がお勧めだそうです』
と札に付いたマークを教えてくれた。
今息子が抱き抱えている水兵服を着たぬいぐるみはその時のものだ。
白と青の服が黄色いピカチュ◯によく映える。
「海外に本部があるNGOはインドの実情とはどうもずれている気がして、今は国内の教育NGOで働いています」
ラジヴは自分の仕事を語った。
クリスチャンの自分たちの前では言わなかったが、ヨーロッパ系の団体ならキリスト教徒でなくなるとやり難かったのかもしれない。
「海外では台湾や日本の団体と提携しています」
(!)
リアル人狼事件の被害者で日本が好きな人間はいない、と思う。
アイデアの源、そして諸悪の根源macojinジジイの国だ。
憎悪のため日本語までマスターしたラクシュミはまた驚異的だ。
勉強が苦手な自分が理学療法士になれたのはポジティブな希望からの努力の成果だった。復讐という目標があったとはいえ、憎いものに関わる努力はそれとは異質の苦痛に満ちた道のりだったろう。想像を絶する。
日本への嫌悪が顔に出たのか、
「それぞれに持ち味が違って、しかもどちらも西洋の合理性と東洋の心を兼ね備えたいいパートナーですよ」
胸に手を当てなだめるようにラジヴは説明した。
レイチェルがリアル人狼「第三ゲーム」にぶっ込まれたのは十年生、進学に十分な成績が取れず押し潰されそうで喘いでいる頃だった。
学生時代はとうに過ぎた今でも頭のいい人には気後れがする。
ダルシカー
(最初に人狼の犠牲となったシドさん。イムラーンさん。アビマニュさんにクリスティーナさん)
ここまでの人々とは違い生き残った、
(ラクシュミさん)
同様に新婦のアディティにも怖気付いたのだが、夫のマイケルは、
『薬品の開発をしているそうですね。あなたのような方のお陰で患者さんたちが助かっています。今後もどうぞよろしくお願いします』
と素直に感謝を述べた。おそらく本心だ。
(この辺が人間の器の違いかな?)
薄く笑う。
上掛けを整え、息子と娘の間に身を滑らせて目を閉じる。
レイチェルの育った家庭は、貧乏ーだったー看護師との結婚で荒れまくりばらばらになってしまった。
『何のためにお母さんは苦労してきたの! 人生、全部無駄だった……』
『お姉ちゃんがそんな貧乏人と結婚しちゃったら、あたしもういい人から縁談が来ない!』
『冷静になれよ、姉ちゃん。金も身寄りもろくにない貧乏人と結婚するなんて非現実的だよ』
レイチェルは弟に返した。
『あんたはわたしが「そんな貧乏人!」って罵られる家に嫁に行って欲しかったの?!』
弟は推し黙った。そういうことだ。
大学へ行ったら立派な人と結婚出来る。だからと父と母はそれぞれ店と行商の稼ぎを惜しげもなく子どもたちに注いでくれた。
『家にはメイドがいて掃除も洗濯もしなくていい。毎度の食事も食べたいものを言えば出てくるー』
まさにそのいいところのお嫁さん、アンビカという人を知っている。
絨毯店の跡取りの妻、女主人としての切り盛りはとても大変そうだ。
例えるなら男たちが店に出る海軍ならアンビカは中で守りを固める陸軍だ。
レイチェルは懸命に両親を説得にかかった。
『わたしはお母さんとお父さんみたいな夫婦になりたかったの。お互いに思いやって、美味しいものは皆で分け合って』
母が行商から疲れて帰ってきた時、父が足をマッサージしながらその日のことをぽつぽつ話しているのを見るのが好きだっー
『好きで苦労なんかしない! 私だって何不自由ない家に嫁に行きたかった!』
母の絶叫。
レイチェルは凍りついた。
母に惚れ込んで頼み込んでお嫁に来てもらった、と繰り返して照れる父の言葉をほのぼのとした惚気と聞いていた。だが、
(逆はどうだったの?)
年上の男から何度も何度も押され粘られた時、若い女の子だった母に抗する術はあったか?
間もなく母は家を出て行った。伯母に世話になっていると聞いている。
『夫婦のことは夫婦にしかわからない。お母さんのことは心配しなくていい。私たちには長い年月を重ねた絆があるんだ。お前が心配するのはマーダヴァン君とのことだよ』
母が戻って来ないにも関わらず父は言った。
家族の中で既に結婚している姉は何も言わず、父は最後消極的賛成に回った。
『今はいいかもしれない。だが子どもを育てていけば色々起こる。子どもの行方がわからなくなったら何を放り出してでも駆け回る』
『……』
リアル人狼ゲームで誘拐されたレイチェルを両親は仕事を放り出し連日探し回ってくれた。
1日休むだけでもどれほどの損失かレイチェルは知っている。
『年をとれば体にがたもくる。そんな時頼れる身内がいないというのはとても大変だ』
マイケルは父が病気で早世し、病院雑役婦だった母とふたり暮らしだった。
両親の出身村に親戚はいるが、マイケルは少額の仕送りをしていた。
頼るのではなく頼られる方だ。
挨拶で初めて家を訪問した時レイチェルは動揺した。
部屋が文字通り一間しかない。ヒンドゥー教徒の言葉を借りれば「かまどの神の寺院」たる台所が病気の母親が横たわる部屋から丸見えだ。
トイレを借りたのは屋内にあるか確かめたかったからだ。
幸い中にはあったが、便器のすぐ横にシャワーがついたごく小さいバスルームで、シャワーを浴びたら便器にバシャバシャと水がかかりまくり衛生的とは言えない。
だが部屋も水場も掃除が行き届いていたのに好感を抱いた。
レイチェルは自分が「普通の貧乏人」だと思っていたが、借家の自宅は商売の倉庫も兼ねていてそれなりに部屋数はある。
リアル人狼ゲームの間も一番長く礼拝室にいた彼に宗教の話題を持ち出すのを躊躇しているうちに彼は自分からキリスト教に改宗すると申し出た。
彼の母も親戚たちも、
『いいところのお嬢さんと一緒になるんだから』
仕方がないと納得顔だった。
『だから、何かあったらお父さんを頼りなさい。私だけは、君たち夫婦の味方になるから』
父は小金を握らせた。
レイチェルが命がけで勝ち取ったリアル人狼ゲームの賞金持ち出しは母が阻止した。
元より学校は出たから後は弟たちの学費や結婚資金に置いてくるつもりだったが、お金で結婚をコントロール出来ると思われたのも嫌だった。
『もっと乱暴なやり方でお前たちの間を引き裂くことも考えた。だがそうしたらお前はマーダヴァン君のことが忘れられずに苦しむだろう。お金と地位のことを除けば、お父さんはあれ以上の男性をお前に持ってくる自信はない』
父は彼を評価していた。
現役高校生のレイチェルが必死で勉強しても看護科への入学には成績が届かなかった。リハビリ科なら得意科目が活かせるのではと先生に言われ、理学療法士になった。
一方マイケルは自力で看護師になったー
(それにあの人は、皆のエゴがぶつかり合って、生き残るためには誰をも裏切り突き落とすリアル人狼ゲームの中でも、弱い人、女の子や具合の悪い人を守る側に立ち続けた人だもの)
あんな人間はそういない!
自分は最高の男を夫にした。叫んで歩きたいくらいだ。
今日の花嫁のアディティにもそういうところはあったのだろう。
自分は帰る場所を失った。
けれども今、ここがわたしの家だ。
夢うつつ、レイチェルの意識は何年も前に訪れたタミルの村、クリスティーナの故郷を彷徨った。
〈注〉
結婚時に改宗・改名したふたりについては回りの呼び方や自他の認識等物語上の都合により記述を変えています。
念のための整理しておきます。
・マーダヴァン(ヒンドゥー教) → マイケル(キリスト教)
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