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第6章 狼はすぐそこに(6日目)

6ー21 後始末

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「別にいいんじゃない」
 アディティがクールに投げ返した。その時、
「!」
 会議室にファンファーレが鳴り響いた。ルチアーノは肩をすくめる。ナイナが耳を押さえたのが見えた。

『始めに当方のシステムに不備があったことをお詫びします。18番の処刑は後ほど私共で責任を持って実行します。処刑がなされたとみなしまして、これにて今回のリアル人狼ゲームは終了となります』

 奥のモニターが白く明るくなった。
 上からの女声のアナウンスを聞きながらルチアーノは緊張で唇を噛む。
(あ!)
 ヴィノードがテーブルの上に這い上がった。
 すぐさま隣でアッバースが、そしてルチアーノも含めそれぞれテーブルに上がって座り込んだ。この部屋の床と椅子には仕掛けがある。危険だ。
 ラジューだけがわずかに笑みを浮かべそのまま椅子に座っている。
 会議室の様子に構わずアナウンスは続いた。

『村人と人狼の人数が同数になりましたのでー』

 ナイナが腕を上に振り上げる。が、

『ゲームは終了となりますが、象が生存していますので勝者は象陣営となります。おめでとうございます』

 奥のモニターに、

『Victory      : Elephant』

 金色の星めいた飾りと文字が現れ、青や赤と紙吹雪らしき色とりどりの効果が上から下へ流れていく。

『勝者の方々には2500万ルピーが半分ずつ授与されます。それでは栄光ある勝者の方々にご退場いただきましょう。現地、丁寧にご案内をお願いします』

(方々?) 
 複数形だ。
 扉が開きライフルを肩にかけ防弾ベストを雑に着けた男が数人入ってきた。

『13番と20番です』

 拍手の効果音と同時にモニターの「勝者:象」の下に「13 20」と大きな数字が追加された。
 2人の男に挟まれラジューは当然のように出ていった。
 スディープも同様に2人に連れられ後ろを通り過ぎる時、
「Sorry」
 と聞こえた。少ししてアッバースが、
「お前が生き残って良かったよ!」
 背に向かい明るく声をかける。間もなく7人だけが室内に残された。

 自分が見たものしか信じない。
 ルチアーノ自身が占星術師、ナラヤンが人狼。確実なのはそれだけだ。
 アディティは3日目の時点で村人。「兄弟」役というのは自己申告で変成狼の可能性がないとは限らない。イジャイも同じだ。
 ヴィノードの漂泊者はおそらく間違いない。
 自分とナラヤンを除き2人が村人、2人が変成狼を含む人狼だ。誰が何なのだろう。
 ヴィノードは数では村人扱い、今のリアクションからナイナが人狼。
 としたらイジャイとアッバース、どちらかが人狼でどちらかが村人だ。
 短い静かな時間にルチアーノは思わず想像を馳せた。
(あ!)
 トン。
 アッバースがテーブル上を小さく叩いた。目立たぬように小さく指で叩き返す。


『ゲームは終了しました。敗者に価値はありませんので処分します。ただし、熱闘を鑑賞していらした顧客の方々からご希望のあった元プレイヤーについては売却に応じています。準備が整いましたのでただ今よりオークションを開始いたします」

 モニターに出た数字にルチアーノは眉をひそめた。


 11    3
 14    0
 15    1
 16    2
 24    5
 37    2
      』


『最低価格は1000ドルから開始します。金額には輸送・保管の諸経費も含まれていますので、あまり低い金額での落札ですとインドまで回収に来ていただくことになります。定められた期間のうちに引き取りがない場合は当方で処分し、代金は経費に充当して返却はいたしません。ご注意ください。それでは11番の入札を開始します』

 三列の数字が1200、1250とそれぞれに上がっていき、4520で止まった。
『11番、4520ドルで落札です。続きまして15番は入札が1件ですので1000ドルでの落札となります』
(俺は1000ドルか)
 人間の「金額」としては馬鹿にしたほど安いし、身元不明で何の特技もない高校生の値段にしては高いとも思う。
 見目のいいナラヤンはともかく自分を金を払ってでも欲しいなどどれほどの変態野郎だろうか。この金額では国外への「輸送」は厳しい。近場への密航か。
(結局男も人身売買かよ)
 女子がその疑いを持たれる不安をささやいてたのは知っていたが、連中が連行する終着地は男女関わらずそこか。

 オークションの結果アッバースが3710ドル、ナイナが7842ドル、アディティが3530ドルとモニターに金額が並んだ。
「私の婚約者はー」
 ナイナは海運会社の名前を出して、
「私に手を出して済むと思っているの!」
 上方に向かって凄んだ。

『考え違いをしている者がいるようですね。24番。私共の顧客はお前の言う会社など指一本で捻り潰せます。それほどの力を持った大勢のお客様方に我々は支えられているのです。身の程を知りなさい!』

 ナイナがぺたりと姿勢を崩した。
 モニター近くのテーブル上に孤立して座るアディティも青い顔でショールを握り締める。
(……)

「!」
 虎、猿、象、獅子……
 再び開いたドアから薄い動物の面を被り黒いコートの人間がわらわらと入ってきた。薄く安っぽいコートの下がサンダル履きだったりスニーカーだったりするのが言われていた「人狼」の衣装との違いだろう。体格からは女も混じるようだ。
「あれはぼくじゃない……」
「当たり前だろ。お前はここにいる」
 ルチアーノを通り越してナラヤンとアッバースが言葉を交わす。
(ナラヤンは人狼だ)
 虎か猿の面を付け、ハルジートにサントーシュ、スレーシュ。カマリやニルマラと女の子までを誰かと協力して殺した。占いでわかっていても実際に本人が認めるのを聞けば衝撃は大きい。
 終わりの方で入り進み出た鳥面が指揮官らしい。くちばしの突き出た面は鳥というよりガルダだろうか。背格好から男であろう彼は腕を伸ばして何か指示を出した。

 ダッ!
 アッバースがテーブルを蹴って駆け出した。



<注>
・ガルダ 鳥面に翼を持つ神

※人狼側の動きについては少し後の回想シーンで書きます。
 「人狼たちの時間」というタイトル予定です。それまで少々お待ちください。
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